空に堕ちる
空に堕ちる

恋と深空を宗教思想史オタクがのんびり考察しています。

ネタバレを多分に含むうえ、新しく開放されたストを読むたびに考えが変わるため我ながらお門違いなこともたくさん綴ってあるのですが、プレイ記録も兼ねているため敢えてそういうものも全て残したまま書き進めております(土下座

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異在郷の旅人

こちらは考古学教授であり「身体能力強化」のEvolを持つ「イン」という女性が2034年深空学会に所属してより2年間「ワンダラーが展開する異空間」を学術的概念として「星の磁場」と用語化しこれを巡る研究成果を書き残した「科学調査日誌」なるレポートを恐らく事務局アシスタントがデータ保存の目的で抜けを補完しながらひとつにまとめた資料の一部がただ抜粋され紹介されていくというシンプルなサイドストーリーです。

今章のタイトル「異在郷」がフーコーの「ヘテロトピア」と同義なら「ワンダラーがどこから生まれた何者なのか」ひとつ核心に迫るようなストになっているのではと感じたし、すると秘密の塔預言者レイが「フィロス星・花木集」を介して行き来できるあの「文字をもとに築かれた」精神世界が限りなくそれに近いもののようにも思えてしまうのだが、まずは今回新たに分かったこと分からないことを順に覚え書き。

異空間

一報目の調査日誌はインが「チーターに似た動物型のワンダラー」に遭遇し最後の一撃を加えようとしたそのとき突然前触れもなく現れたという「不思議な異空間」の特徴について速記文字を用い素早く書き残したと思われる簡易報告書となっており、インは「巨大な空間の裂け目」の中に「得体の知れない引力」によって吸い込まれた直後「強烈なめまい」を感じ一瞬意識が遠のくもすぐにそこが「見知らぬ文明の遺跡」が確認できる荒野のような場所で近くの空に「月のような未知の天体」が浮かぶ「元いた世界とは異なる空間であること」を悟り、驚きや戸惑いが感じられるような走り書きでこれを記録している。
日付欄は水濡れにより破損し「2034年」ということしか分からないと言うが異空間で「ワンダラーが粒子状になって消滅した」ことが「重大な発見」だと断言されている辺りどうやら世間はまだそれを「完全に討伐することはできない」と判断していそうであり、「もし自分に万が一のことがあればこの記録を見付けた人がこれを参考資料としてEvol特殊部隊に渡して欲しい」とも書かれてるんで、恐らく災変時前線に立っていた特殊部隊ではまだ対処法が未解明でありワンダラー掃討は月影ハンター任せだった「トンネルが出現して間もなくの頃」なのだと思われる。

二報目の調査日誌も同じく「2034年」のものであるが報告内容からインはすでに何度かこの異空間に到達し探索を試みているようで、それが倒される寸前のワンダラーが逃げ込む場所であること、ワンダラーが完全に消滅するのと同時に再度裂け目が出現し現実世界へ連れ戻されてしまうこと、危険係数の高い人型ワンダラーの展開するそれが動物型のものよりも遥かに広いことから異空間の大きさはワンダラーの能力の高さと正の相関関係にあるであろうことや、異空間の中でもEvolは効力を失わず空腹感や満腹感も感じられること、そして異空間に存在するものにはすべて実体があり泉の水や木の実も口にできることまで実証済みである。

イン教授はこの異空間を「星の磁場」と名付け、これまでの研究成果に基づき「ワンダラーに襲われた人は殺されたのではなく未発見の星の磁場の中に隠れているのかも知れない」との仮説を立て「できるだけ早く新たな科学調査任務を開始する」決意を綴っている。

1012号星の磁場

三報目の調査日誌はどうやらインが砂漠地帯で知能型ワンダラーを発見した際に到達したらしい「1012号星の磁場」における探索記録になっているのだが、正直これがめちゃ怖い。1012号ってことは少なくとも1012回以上インは星の磁場を探索しているのだよな? 恐らく彼女は災変で失った家族が「どこかで生きているかも知れない」という希望的観測に駆られこうして星の磁場を調査しまくることに躍起になっており、体調が優れず服薬もしているようだがそれはなんとなく星の磁場に長期間滞在していることによる精神障害のようにも見えていて、報告書にはページがちぎられたような箇所があったり解読できないほど文字が乱れ書き殴られたような部分があったり、かと思えば突然正常な意識で綴られた日記のような文章に変わったりと支離滅裂である。

アシスタントは「極度の混乱状態で書かれたような筆跡」からそれが「誤り」だと補足するが調査日は「裂空災変が発生した日付」となっており、1012号星の磁場はこれまでのものとは比較にならないほど広く、実際に存在する町のような作りと「誰かがここに住んでいたのか」と思わせるような生活の痕跡や豊富な資源、暮らしやすい気候なんかも特徴的で、ワンダラーが消滅した後も裂け目によって強制的に送還されることはなく、イン教授は持ち込んだ物資とポータブルテントを用い星の磁場の中で1ヶ月間キャンプ生活を送っていたと言うが、この実験の「目的」が書かれたページはどうやら彼女の手によって破り捨てられているらしい。

持参した研究機器により星の磁場のエネルギーカ場を調べたところ地球のものとは全く異なる「ワンダラーのエネルギーカ場に極めて似た構造」をしていたことから「ワンダラーの磁場が支障をきたし彼らを見付けられないのでは」なんて見解を綴るが彼女はそのうち「幻覚が見え始めている」だなんて言い出し「これ以降の文字はほとんど判別することができない」「文字同士が絡み合い絵のようにも文字化けのようにも見える」なんて注釈が入ったりするの、想像したらまじで怖くて夜中にひとりで読んだことを後悔しました←
現時点で唯一確認できるその中の一文は「科学によって人は生き返る」なんて書かれているようだがこの部分は筆跡鑑定の専門家に依頼して確認中なのだそう(怯

その後再び文字はまた徐にはっきりとしたものになり、どうやら意識が正常に戻った様子のインは日誌の最後に夫である「タツミ」と娘「キキ」への想いを語る。
裂空災変が発生したその日、放課後キキを迎えに行くはずだったものの急な残業が入ってしまったというインは交通網が完全に麻痺した臨空市でできる限り急いで帰宅するがそこに二人の姿は見当たらず、隣人は彼らが「ワンダラーと共に消えてしまった」と証言したそうだ。
以来彼女は長い間二人を探し続けたが見付けることはできず、とは言え星の磁場の発見とこれを巡る探索調査はインにとってはようやく掴むことのできた手掛かりのようであり、文末は「今になって希望が見えた」「諦めない」と締め括られている。

アシスタントによればこの先破損した次のページには見たところさらに続きがありそうで、しかしながら「学会からの情報」によれば結局インは直後発生した裂け目によって現実の世界に引き戻されてきたのだそう。
深空学会幹部が潜水艇の調査報告をなんとなく隠蔽しているようにも見えた砂に沈む遺跡を思い返してみると、もしかしたらインの調査日誌も学会によって改ざんされてたりするのではなんて思えてくるもんである。

ちなみに1012号星の磁場の中でインが「久し振りに夢に見た」という昔の姿のままのタツミは自宅キッチンで料理をしていてキキはリビングで数学の宿題をしていたらしいけど、これってたぶん残業していたインの代わりにキキを迎えに行ってくれたタツミが家で娘の宿題を見ながらインの帰りを待っている災変当日失踪直前の二人の様子を垣間見ているのだよな?
いずれにせよ三報目の調査日誌はインが自分ではない何者かの視点や意識の共有もしくは憑依が起こっているかのようにも見え、あるいは彼女自身が星の磁場を介し時空を行き来しているかのようにも見えたりする。

しかしこれだけ強調されてるなら本当に星の磁場の中に生きている人って一定数存在するのかも知れないな。言われてみれば星の来処キノアもワンダラーの襲来に慌ててSweetiesへ駆け付けたとき確認したのは倒壊した建物と粉に砕かれた店の看板そして瓦礫の下敷きになった一輪のキンセンカだけで、ベッキーの姿って見ていない…?

小さな裂け目

四報目の調査日誌は2036年1月頃忽然と姿を消し今もその行方が分かっていないというインが最後に書き残した遺書のような遺言のような文面の手記である。

インは前回の科学探索が終わった後からとにかく体調が悪く、薬を常用していることを知った学会からは休養の名目で調査の退任を促され、自宅療養中はさらに状態が悪化し薬を飲んでも不眠が続き日中は意識がはっきりしている時間も少なくなったと言い、朦朧としながらこの調査日誌を日記代わりに使い「学会に見切りをつけられ知識にも見捨てられ今の私にはもう何も残っていないがまだ自分の信じるものを信じたい」と思いの丈を綴ったり、ある時には書いた覚えのない「科学も私を見放したのか」という問いが何度も繰り返し記されたページを後から見付けて不思議に思うこともあったと語られる。

ただし今日は「これまでのどんな時よりも頭が冴えている」ため昨夜臨空市内のある通りをひとり歩いていた際に起こった一見酔っ払いの戯言のように思われるかも知れない出来事を詳細に書き残しておきたいと切り出し「失踪の真相」とも思われるそれを綴り始める。

インは不意に腕の辺りにかゆみを感じ目をやると「特に危険性はなさそうな人差し指くらいの大きさの何か」がそこにいたため虫を払うような感覚で手を振り動かしてみるのだけど、改めて確認するとそれは「果実の種のようなワンダラー」であり、展開された星の磁場は「拳くらいの大きさ」で、その小さな裂け目の中に手を入れてみるとまるで一滴の雫から広い海を覗き見たように「この世のすべて」「果てしない宇宙」とも思えるような空間へ瞬く間に引き込まれ唖然としていた。
すると今度は手の甲に優しい感触が伝わり、振り向くと昔とちっとも変わらない様子のタツミが「行こう」「キキは今日学校が早く終わったから家で僕達を待ってる」なんて笑いながら語り掛けてくる。
インはどういうわけか「問題点」の欄に「やっと私達は一緒に宇宙に戻れる」「長い間待たせてごめんね」とこれに対する返答を書き残し調査日誌を完結させた(ないてる

アシスタントの補完によればこの四報目の日誌には不可解な点が多く、そもそも日誌やインの所持品は彼女が証言する「臨空市内のある通り」ではなくそこから遠く離れた「郊外の山」で見付かっており、仮に彼女がその謎の星の磁場に留まっているならこの日記がいつどこでどのようにして書き残されたものなのかも説明が付かないと。
めちゃくちゃ単純化すると彼女も荷物も臨空で星の磁場に吸い込まれ彼女が磁場の中で日記を書いた後今度は郊外の山に現れた裂け目から荷物だけがこちらへやって来たようなニュアンスで理解してしまいたくもなるが…
磁場の大きさはワンダラーの能力の高さに比例すると言うなら芋虫サイズのそれが人型よりも知能型よりも広大な宇宙のような磁場を展開できるのも不思議な話であるが、となるとこの「果実の種のようなワンダラー」は何か人知を超えた超自然的存在だったのかも分からんな。

彼女の功績を讃え深空学会はイン教授に生涯貢献賞を授与し星空の中で家族と再会できるよう願っていると言うが、これも学会に疑念があるとだいぶしらこく聞こえてしまうものだ(殴

異在郷とは

なんとなく気になるのは今ストのタイトルが「異在郷の旅人」であること。異在郷(ヘテロトピア)は理想郷(ユートピア)と暗黒郷(ディストピア)が揃い初めて顕在化する概念で、「社会的な現実の内部に存在する異議申し立ての場」「曖昧なユートピア」だなんて意義付けられていたりする。
めちゃくちゃ平たく言うと理想郷は現実社会に不満を持つ人が理想として思い描く非在郷、これを起源としてむしろ理想とはかけ離れた抑圧的で悲惨な社会を意味する対照語としての暗黒郷、一方は有り得ないと思えるほど理想的なものを、もう一方はその真逆のものを、それぞれ強調して描写することでどちらも管理監視社会の欺瞞や虚偽性を批判する本質的に見れば同じ目的によって生まれた概念と言えます。

これに対し異在郷は「混在郷」とも表現され、権威主義や抑圧から解放される手段として構成される「境界」を持った「実在する世界」のニュアンスです。実在する場所として「監獄」や「植民地」などがよく引き合いに出されますが、個人的に分かりやすいと感じるのはたとえば軍事政権下では民主派勢力は武力によって弾圧されたりしますよね? 特に中南米地域では何万人という人が強制失踪をさせられたり幼くして出自を奪われ記憶を改ざんされたりと制度的な暴力にさらされることがありますが、社会の支配的論理とは別の論理に従って失われた自分を奪還するすべとして「文学」つまり言葉を用いればその世界は言語化されますし、「絵画」によって表現されれば視覚芸術として可視化します。
アスタの「支配」によって「改ざんされた記憶」に異議を申し立てるレイ自身が「文字をもとに築いた」あの精神世界には「境界」がありそこにある花の蕾には触れることができることから「現実の内部に存在する」あれがまさに異在郷ですね。このため「図書館」や「美術館」もしばしば異在郷の例に挙がります。

そしてワンダラーの展開する星の磁場を探索するイン教授が「異在郷の旅人」であるならば、星の磁場は「抑圧から解放される手段として構成された空間」の意、もしかしたら生命エネルギーを星核エネルギーに転換され誕生したワンダラーたちはみな抑圧社会により記憶をすげ替えられ一切の痕跡を留めず「消滅」「失踪」させられた社会的死者で、彼らの「異他なる反場所」が「星の磁場」なのかも知れない、だなんて考えてみるなどした。

イン教授は日誌の中に判別することができない文字で「科学によって人は生き返る」と書き残したり朦朧とした意識の中で身に覚えのない「科学も私を見放したのか」なんて文言も綴っていたりするが実はこれらはワンダラーが異在郷を築く際に用いた言葉たちで、無理やり結び付けるなら「科学によって人は生き返る」という社会の支配的論理により異議を申し立てる手段を持たなかったそれが異化により「科学に見放され」場所なき場所を求めたことで星の磁場は「実在」しているのかも知れない、なんてな←

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