空に堕ちる
空に堕ちる

恋と深空を宗教思想史オタクがのんびり考察しています。

ネタバレを多分に含むうえ、新しく開放されたストを読むたびに考えが変わるため我ながらお門違いなこともたくさん綴ってあるのですが、プレイ記録も兼ねているため敢えてそういうものも全て残したまま書き進めております(土下座

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帰らぬ夜

いやめちゃくちゃに良かった…(号泣

彼らの夢がなぜ「空と地上」だったのか、彼のEvolがなぜ「引力制御」なのか、詩のように美しいふたりの言葉によってあまねく解説してもらったような気がするよ。最後のやり取りは以前彼女があくまで「意識だけが覚醒した夢の中で起こしたこと」だと結論したあの3日間の明晰夢が「互いに清明な意識のもと望んで起こした現実」であることを「本当は分かっている」のだと暗に伝えたし伝わったと解釈してもいいのかな(苦悩

こちらは当日「艦隊基地へ彼を迎えに行きドレスアップしてレストランへ向かう」ところから描かれているのだが、個ストにおいては本編あれだけ殺伐とした遠空艦隊がまるでハンター協会霊空行動部データ分析隊のように親しみやすいアットホームな職場で驚いた。
退勤後に来訪者と落ち合える大ホールの窓際で座って待っているらしいマヒルはまるで仕事終わりに会社PCで月影ハンターファンサイトをチェックするシアン先輩のごとくそこが自宅であるかのようにくつろぎながらホログラムスクリーンでブロックを積んで遊んでいると言うし、スマートアシスタントは安眠サプリを強要してくる先遣隊執務室OTTOのように健診データを勝手に読み上げパンプアップした胸筋を褒め称えてくれる。誕生日には「艦隊からの記念品」なんぞ贈呈されるらしいのが、下手したら協会より充実の福利厚生じゃないか?←

一刻も早く彼女と過ごしたいマヒルを引き留めて業務報告を長と並べ立てるリアムがようやく話を切り上げて席を立てば「刑務所の服役でさえ減刑があり得るのに艦隊の仮釈放にはこうやって面倒事が加重されていく」のだと早速げんなりする彼に「でも仕事の話をする前にお誕生日おめでとうございますと前置きしてくれていた」とフォローに回る彼女、「オレの誕生日にオレ以外のヤツを庇うと拗ねちまう」と子どものようなことを口にするマヒルが浮かれ逸る気持ちをまるで隠せていないようでなんだかとても微笑ましい(ニヤニヤ

緊急任務のため唯一彼女と一緒に過ごすことのできなかった誕生日に行く予定だったレストランとは大学生時代彼が気に入ってよく通っていた店だったようで、すっかり顔馴染みであるらしい店のマネージャーがマヒルの来店に気が付き「2年前彼が参加できなかったバースデーパーティー」を仲間たちがどのように計画していたのか「最後は店の設備を使って君の等身大ホログラムを映し出し君のために動画を撮っていた」と当時の様子を振り返りながら教えてくれたりするのだが、マヒルは「今年はあの賑やかなヤツらがいなくてお前が用意してくれたケーキを独り占めできると思ったら特に嬉しい」とは言いながらも「2年前のケーキ」を彼女が一体どんな心積もりでどんな風に準備してくれていたのか何度も聞き出そうとしてみたりして、一方彼女は「自分から提案したわけじゃない」というその「2年前のケーキ」よりも「完成度が高い」と自負している「ホログラムライトでカイドウの花の枝がピンク色の雲のようにあしらわれる」今年のケーキの方を彼に「いちばん気に入った」と言わせたいらしい。
この辺のちぐはぐ感もきっと「これまで通り」彼女が一心に太陽のような自分を必要とする疑いなく「オレだけのもの」だった過去から安心を得ようとするマヒルに「一歩枠を外に出ても変わらず安心」であることを伝えたい彼女を敢えて突き合わせ際立たせるための対比なのかなと思ったよ。

同時刻「この日を悲しいものにしたくないから」とかつての仲間たちがまた別の場所で「本人不在のお祝い」を銘打って集まり食事をしているらしいことを「カイト」が報告してくれたりもするのだが、こちらはたとえ太陽が不在でもそのエネルギーは強大で「もたらされた影響」や「与った恵み」は決して消えることがないという描写かな?
にしても、事件の後マヒルが身分を変え「隠れて生きていること」を知っているのは今もこのカイトだけなのだろうか。今回店のマネージャーにはあっさり身バレしているが、いいのかそんなもんで…

食事の後は当然のように彼女のために服や果物を買って帰るかお気に入りの模型「メカ怪獣」の失くしたパーツを探しにプラモデルショップに寄ってもいいなんて言い出すマヒルを「それは全部兄さんと過ごす誕生日」であり「今年はマヒルと過ごす誕生日」なのだと窘める彼女、実は中学時代校内新聞のある企画で「誕生日に叶えたいこと」をテーマにインタビューを受けたことがあるマヒルが「天空に映画を映したい」なんて語っていたのを思い出し天行市で最初に建設されたという観光型浮遊島にある「空の映画館」に彼の好きな映画「パイロット・タタンの一日」の「特別上映」を手配していると言い、夕暮れ時から夜の帳が降りる頃ふたりはマヒルのプライベート艇で「ヌート浮遊島」なる場所へ向かうことになるのだが、これは「鑑賞スポット」なる着陸場所が空に点在し飛行機に乗ったまま雲に投影される映画を観れるイメージなのかな?

彼女は彼が何度も繰り返し観ていたそれが一体どんなストーリーだったのか「知りたくなった」のだと言うが、パイロットシリーズものであるらしいその映画はなぜが一作だけ主人公タタンが唯一「飛行機に乗らず冒険に出ない」物語だそうで、故郷で過ごす穏やかで平凡なある一日を描いた心温まる作品ではあるものの観る人を退屈にさせるような起伏のない単調な映像でもあった。

マヒル自身「どうしてこんなのが好きなのか」自分に問い掛けてみたことがあったのだと言うが、幼い頃から夢に見ていた「どこへでも自由に飛んで行けるパイロット」とは実際には捉え切れないほど広く途方もない宇宙を前に「留まることなく飛び続けなければならない長い飛行は計器の通知音以外に何も聞こえない」孤独な苦行のようでもあり、そんなときに「こういうありふれた退屈な日常がすごく懐かしく感じられる」からなのかも知れないと見解する。

彼女は図らずもかつて自由で万能で頼もしい一方であまりに遠く自分には「手の届かない存在」であったはずの「太陽」が人知れず抱いてきた心細さ寄る辺のなさを知り、改めて「手を伸ばし近くに感じてみたい」ような想いにも駆られたりして、この映画は「ひとり飛び続けなければならない者」が「立ち止まり休息を得る」物語であると帰結、無言の約束を交わすように彼と小指を絡め目を閉じてその肩にもたれながら「立ち止まる時は特別だと言える人と一緒に映画を観たりするのかも」なんて告げてみる。

肩に乗せた頭に彼もそっと頭をもたげてくるような気配を感じて彼女は自分と一緒ならこの「誕生日に叶えたかったこと」をもっと好きになれたかと尋ねてみるも答えはなく、代わりに彼の鼓動が他の全ての音を掻き消すように響くのを聞いていたなんて言うんだけど、そうして胸を波打たせたマヒルが今どんな想いで黙っているのか想像するとこちらまでそわそわしてきてしまうよ。彼女が「彼を近くに感じようと伸ばしてくれた手」を取るのが怖いのは「もう自分は自由で万能で頼もしい太陽じゃないかも知れない」からなの? それとも「心の同調」が「破滅」だった記憶が魂に刻まれているから? でも返答したら抑えられなくなってしまうのだろう「本当は欲しくてたまらない気持ち」の膨張がとても繊細に伝わってくる。きっと彼女がすっかり寝息を立ててからひとりあれこれ語り掛けていたに違いない(殴

彼女が部屋のソファで目を覚ますとマヒルは正面のプロジェクタースクリーンに「2年前のバースデーパーティー」で撮影されたビデオレターを流してて、微笑ましく眺めながら「毎年こうしてお前がケーキやプレゼントを準備して祝日が来たみたいにワクワクして嬉しそうにしてくれるから誕生日はずっと好きだ」なんて話してくれたりもするのだが、そうして映像で振り返ることでより明確に「これまでとは気持ちのあり方が違うこと」を強く感じた彼女はスクリーンの中で2年前の自分が言う「お誕生日おめでとう兄さん」に被せるように「マヒル」に祝福を告げ、さらに今日の祝福は2年前のパーティーの埋め合わせでも過去「誕生日に叶えたかったこと」を思い出して欲しかったからでも決してない、今の自分が今のマヒルに贈りたかったものなのだと溢れ出る想いを取り留めのない言葉でぽつりぽつりと告白し始める。

マヒルは「太陽」がそこにあるのと同じくらい自然に存在し「光」を放っているのが当然のことのようで改めて目を向けることもなく、あんなに高い場所でひとり寂しい想いをしているかも知れないだなんて考えたこともなかったが、今ようやく自分がこれまで引き付けられていたのは「太陽」でも「光」でもないただ「マヒル」そのものだったのだと気が付いたと言う彼女、「あなたが暗い白色矮星でも崩れ落ちる暗闇や廃墟でも構わない」から「今あなたを抱き締めたい」のだと訴えそっとその腰に手を回してみるのだが、いやわたしはふたりの物語に「こんなに完璧なアンサーが存在したなんて」と思わず深く感じ入ってしまったよ。
太陽が燃え尽き白色矮星となりやがて黒い核だけになったとてマヒルはマヒル、かつて太陽であったマヒルもそうでなくなったマヒルも「同じ人」だと「信じている」ことを伝えるうえでこれ以上の表現ってないし、それが「崩れ落ちる暗闇」や「廃墟」でも構わないとはまさに「崩れ落ちる暗闇」に身を投じたA-01の踏襲のようであり「廃墟」とは4部2章彼自身が自分をそう定義していたじゃないの。
きっと彼女が今回こだわっていた「妹の枠から出た今の自分」だからこそ与えられる「兄の枠から出たマヒル」の望むものの最たるものじゃないかと思ったよ。それは長らく「妹」として「太陽」である彼のことも見てきた彼女だからこその言葉なのだとも。

始めは何の気なしに聞いてたが何やら彼女がとても一生懸命大切な気持ちを伝えようと言葉を紡いでくれているらしいことに気が付き腰をかがめ膝をついて「いちばん美しい宇宙のよう」な瞳で顔を覗き込み聞き入っていたマヒルは最後の言葉に「百世紀を超える長い時を経たように」身を寄せ「お前はいつもオレがどんどん欲張りになっていくことを許してくれる」のだと溜め息のような声で囁いて「灼熱の腕の中」に彼女を抱き締め返すと言うが、こちらも「今のマヒルの精一杯」という感じがしてとても胸に来るものがある。

ふたりはそれぞれの部屋に戻り互いに「兄妹の枠を出た新しい関係」で迎えられた特別な誕生日を振り返るも彼女は「太陽から地球までの1億5000万キロの距離」をゼロにして彼を「自分のもの」だと感じるには「たった一度の抱擁」ではまだ足りないように思われて、今日が終わる前にもう一度「プレゼントのフルーツキャンディーを渡しそびれた」口実でどうやら同じ想いでまだリビングに居るらしい彼のところへ戻ってみることにするのだが、今更ながら彼が「太陽」なら彼女は「地球」という諷喩だったのね? 「お前は地上でオレは空」なんて言われてまるで視点を宇宙にまで持っていけてなかったが、すると恒星たる太陽のエネルギーに生かされ太陽の進む方へ連れられ決められた距離を保つことで守られる地球がうっかり近付いた太陽と衝突して「破滅」みたいなニュアンスも本能的にそれが「怖い」という感覚もなんだかとても腑に落ちる。星のエネルギーたる彼女の「引力」に引き寄せられてしまうのもそれを「制御」するなんてEvolも全部そういう概念の象徴だったのか。

リビングでひとりネックレスを弄り眺めているマヒルはどこか落ち着かない様子でクッションをトントン叩いている手元のカットがとても印象付けられていたように感じたが思い返せば冒頭待ち合わせからレストランからやたら彼が落ち着きなく指先を動かしているような行動描写が至るところに入っていたような気もする。実は朝からずっと気が気でなかったのかも知れん。

彼女を引き留めるのは「昔からいつもオレがプレゼントを開けるとこを見たがってたはず」だなんて言葉なのに「昔からいつもそればかりくれる」らしいレモン味のキャンディーを口に運ばれれば「今日が過ぎたらオレは違うものを期待し始めそう」だと言い、口に含んだものを「返して」と言われれば「曲解」していいんだなと断りを入れる、彼は本当に恐る恐る少しずつ彼女に引き寄せられていくその「引力」の「制御」を解いていくのだね。

しかし、とても情熱的なキスシーンと共に「体温、呼吸、鼓動、全てを共有し最後は同じ引力の渦の中で千に裂かれる」とは、そして呼吸が離れても覆い被さる「彼の胸を軽く押すと笑いながら上半身を起こすもすぐに腕に抱いて再び横になる」とは、さらに手を伸ばして窓に映るふたりの輪郭をなぞれば「指先が水蒸気でしっとりと濡れる」とは、極めつけにこうして紅潮が引かない彼の頬、少しかすれたとろけた声、もしかするとわたしはあらゆる意味でふたりにとって初めてのとても大切な瞬間に立ち会ってしまったのかも知れない(ゴクリ

「なんだか夢みたい」だと独り言つ彼女に彼は「オレを夢で見たことがあるか」と尋ねるが、彼女の返答「マヒルが自分をバカだと言って一生私の尻尾になる夢」とは多少大ごとになっているものの少し聞き覚えもあるような。今夜「バカじゃない」マヒルは「彼女の言葉を曲解して捕まえる」なんてことをしてのけたが以前同じように「やってみて」と煽られ唇で耳たぶに触れるに留めたマヒルは「深空ハンターの尻尾」だったと思うんだが、言われて彼が沈黙するのはあれらが夢でなかったことを「本当はふたりとも分かっている」からなのだとわたしは読むからな?←

そしてもうひとつ「あなたがトンネルの中で信号を見失い見渡す限り暗闇が広がる夢」については道なき地マヒルも「記憶解離」の症状で同じ夢を見ているはずだがこれは卒業飛行試験で「敢えて信号を切り元の航路に戻ることを諦めた」彼が真逆の方向へ進み天行の浮遊島に命からがら着陸するまでの間に起こっていたことってわけでなしに、手の平の差し込み口を潰しコックピットを後に宇宙へ身を投げてしまったあのX-02の記憶の断片だったりしたのかな。彼の方には恐らく彼女が「銀輝樹の果実の種」を手渡しに来てくれるけど、彼女の方は「あなたのことを見付けられなかった」夢になっているのだね。

マヒルは信号を見失っても航路図は「手の中」にあり自分の辿り着きたい場所はひとつだけだと言い、ロウソクの火を吹き消す前にしなかった願い事は「オレたちが永遠に同じ空を飛び同じところで暮らせること」に決めたそう。結局「長い物語」についても「万有引力で説明できない違う理由を覚えてる」話も聞かせてはもらえなかったが、今は「意識や肉体が消えてしまってもオレの魂は必ずお前と同調する」という約束を「オレたちが生まれ付いた瞬間に交わした」からなのだろうと理解しておくことにしよう。何はともあれマヒルがこれからどんな暗闇も抜け毎年こうして「たったひとつの座標」に帰って来られますように。

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