恋と深空のんびり考察プレイ録

恋と深空のんびり考察プレイ録 - 空に堕ちる

恋と深空を宗教思想史オタクがのんびり考察しています。

ネタバレを多分に含むうえ、新しく開放されたストを読むたびに考えが変わるため我ながらお門違いなこともたくさん綴ってあるのですが、プレイ記録も兼ねているため敢えてそういうものも全て残したまま書き進めております(土下座

神に祝われし新章

気が付けば随分とお久し振りになってしまいました。大事なイベントもまるっとすっ飛ばしログインさえサボりまくっていたこの1ヶ月、死んだも同然だったわたしを決して見限ることなく繋がったままでいてくださった心優しいフレンドの皆様には本当に感謝と謝罪の想いでいっぱいでございます。涙

大量の未読ストも全て未消化のまま、過去ストもほとんど忘れ去った状態でぬるっと読み終えての取り急ぎの覚え書きとなるためだいぶと粗削りな感想にはなってしまっていそうですが、個人的には今回のストはいつも複雑難解なレイ伝説の中では比較的判読性が高く分かりやすかったように思います。「金糸」や「エングル」のような抽象的概念についてもすでに「本」や「図書館」で説明を受けているため全話通して体系的に理解がしやすい描出だったんじゃないかな。これまでのレイがどんな手段を用い何を行ってきたのか、そして何が起こり何が変わって今どこからやって来たレイが本編で何を成そうとしてるのか、かなり細かく具体的に解説してもらったなといった印象。

滅びの神たるレイが「ウルタマ川の源流でしていたこと」は医者であるレイが「長恒山の奥懐でしていること」と恐らくは同質なのでしょう。本編レイが元いたはずの世界と極地や臨空のあるこちらの世界とを隔てるための法陣はすでに「巨大な怪物」と化してしまっているって話なのだと思います。

医者であるレイが「吹雪がやってくる前にもう少し進んでおきたいこの険しい道」として専心する医療倫理や自然摂理に背くことなく結晶感染を治療するための医術研究や医療活動の歩みも一見すると彼の「人間としての自由意志による選択」のようで、実は神が人間の耕した都市や社会という「土壌」が崩れることなく豊かになる分量で文明や技術という「種」を蒔き、芽吹き、実り、枯れればまた新しい種と鍬を与え、蘇り、これを「永遠」に繰り返すことができるようになるための施しになっているのだろうと思う。

そうして彼女という「幼木」が息吹いて差し支えない「土壌」を持つ永遠の世界がついに目覚めるとき、彼女とレイが「決して出会ってはならない」のは恐らく彼の本来の世界たる「黒い円」がその「金色の円」と僅かに重なってしまうから、なんじゃないかな。ふたりが出会い「離れない」ことを選べば「土壌」は崩壊してしまうけど、彼が繋がりを断てば「若木」は「大樹」となりその天寿を全うすることができる。きっと人知れぬ沫雪九黎の司令に促され深い眠りに就いた彼女が再び目覚めたとき「レイがそこに居なかった」のは彼が後者を選んだためだったのだろう。

すると雪まみれの階段「雪崩のように押し寄せる私欲」に立ち向かう彼がいつか選び取ってしまうかも知れない「最後の選択肢」とは、あるいはこれまで同様ふたつの世界の繋がりを断ち彼ひとりがこの世界を離れ「図書館での職務に戻ること」を指しているのかも分からない。

ただ、わたしは今ストを読んで彼の模索する「変えることのできない終局を変えることができるかも知れない世界」とは「彼女だけが生き延びられる世界」では決してなく「ふたりが共に生きることのできる世界」なのだと確信することができました(安堵

これが「見渡す限り果てのないほどに広がるジャスミンの蕾」を作り上げてしまうほど反復されてなお彼はまだ諦めていないのだ。ここまで来たならもうとことんやってやろうじゃないか。

ネアの守護神

今ストの舞台となる「ネア」とは恐らく紀元前4千年紀中頃に現在のイラク南部で栄えていたシュメール人の都市国家「ウルク」がモチーフだったりするのではないかな? スト冒頭「足の悪い詩人」が「ウルタマ川」と「イガル川」ふたつの川を「美しい髪」に見立てたネアの地形そのものがまるでその地の「守護神」たる主人公の象徴であるかのような詩を詠い竪琴を奏でているけども、同じく「チグリス川」「ユーフラテス川」ふたつの川の下流域に位置するメソポタミアの聖地ウルクにも自然を神格化した愛と戦の女神「イナンナ」という守護神がいたのよね。

ネアに暮らす人は誰もがみな純粋な心で守護神である彼女を賛美して信仰し、彼女もまたそれに応え彼らを惜しみなく愛し慈しみ、時には「金色の矢」と化して身を挺し数多の危険から彼らの安寧と秩序を守ってる。普段は守護神然として「神恩の塔」なる神域に座しているようであるが、何やら「神に最も近しい使者」を名乗り普通の人間としてネアに下っては楽師の賛歌に耳を傾けたり商人と交流してみたり、祭祀で塔を訪れることもあるらしい領主「セミアナ」とはうっかり恋バナを打ち明けるような関係にまで至っているようなところを見ると、ひょっとしたらかつてのウルクにも人間に扮した女神イナンナがこっそりと紛れてはこんな風に賑やかに過ごしていたのかも、なんて思えてくるもんである。

彼女の神像にあしらわれているらしい「ラピスラズリ」とは当時メソポタミアで加工技術がもっとも発達していたウルクに輸入され神殿のシンボルとして用いられていた貴石だし、今ストたびたび描写のある「粘土板」や「羊の牧畜」なんかもウルクの記録媒体や都市構造の特徴のひとつだったりするものだから、なんだろう本当に古代シュメール人と女神イナンナのちょっとした日常を垣間見ているかのようで心躍ってしまったな。

冥き帰らざる地

こちらは本来ネアとは繋がりのない別世界のような位置付けで描かれる「死者すら足を踏み入れることのできない禁域」であり、権能と神器を用いてのみ行き来することができる神の領域である。

冷気と幽寂と荒廃が骨のように連なる山の尾根の間には「七重の巨大な門」が天に向かってそびえ立ち、果てしなき混沌が波のように揺れ激流のごとく襲い来るさらにその先に立ち入れば、深淵には日も月も差さず生死の理も及ばない、最奥には命を創り死者を蘇らせることができるという「蘇生の石」なるものが安置されている。

これもイナンナ信仰におけるクル(冥界)の概念に限りなく近い世界観じゃないかと思ったよ。
そもそもイナンナ信仰とは数の災厄に見舞われて混沌と回復を繰り返すウルクの衰退と復興の歴史がそのまま神話化されたような土着宗教であり、混沌とは守護神イナンナが「七つの門」を通過するごとに所持品や衣服や最後は「神性」をも剥奪されながら「光も届かず生死の理も及ばない領域」とされるクルへ下ることによってもたらされ、さらにクルの深層では身包み剝された女神が「愛する夫」というもっとも重い代償を差し出し「蘇生」と共に「苦しみと嘆きの上に積み重ねられた本物の力」を得て再び地上へ戻ることで秩序が回復される、これがウルクの盛衰を、豊穣のサイクルを、生命の循環を生じさせている、みたいな思想観だったりする。

大前提古代メソポタミアの神とはたとえば手の届かない遥かな高みから下界を見下ろしているような存在では決してなく、その都市の守護者として神殿に住まうものであり、人間は尊崇や供物を捧げることでそれこそ治水や干拓や農耕の暦のような「神の智(メー)」を賜り生活を築いている、という感覚が深く根付いていたため、都市が衰え滅びに瀕すれば人は「神が去った」のだと感じ、復興すれば「神が戻った」のだとごく当たり前に考え至るのである。
神と都市とは「一心同体」であるため都市の衰弱は神の衰弱、だからこそ神話の中では神もまた都市と同じように「七つの門」という剥奪の試練を経て苦しみ、さらに復興は神の人間への愛ゆえの犠牲と秘儀による賜物だと解釈され「蘇生の物語」が紡がれるわけだけど、要約すれば今スト「ネアの文明史」にもこれと同じようなテーマが盛り込まれていると感じたよ。

ちなみに女神イナンナがウルクの人に授けた「神の智(メー)」とは実はもともと彼女のものではなく、父神「エンキ」にホイホイお酌をしてすっかりいい気分にさせ「この地に文明を築くためのすべてのメーを授けよう」なんて言わせてちゃっかり与ったもので、意気揚とこれを振り撒きに行こうとするイナンナを酒の酔いから覚めたエンキが慌てて止めに来る、なんて押し問答もあるんやが、この辺もなんとなく題材のひとつとして随所に散りばめられているような気がする。

シュメール神話体系に基づいた「冥界を通過して戻る女神」を土着神とするイナンナ信仰の神秘主義的解釈「七つの門の先の深淵に蘇生の秘儀が隠されている」というモチーフそのものは後世バビロニア時代には「イシュタル」というお名前で継承されてたりするんやが、いっそシュメールとかバビロニアとか区分せず「メソポタミア神話」と捉えた方がいいのかな? するともしかしたらレイの「滅びと断罪の化身」に該当しそうな神もどこかしらに存在するのかも知れません。

あるいは今回ビジュアル的にはエジプト神話の方がルーツなのかも分からんが、するとそもそもレイの物語において何やら肝でありそうな「全てを見通すことができる目」なんかもプロビデンスじゃなくホルスのニュアンスだったのかな? いやはや前に九黎の司令についても「ひょっとしたら中国の古文辞には本当に司令なる神が存在するのかも知れんが神も仙人も宦官も皇帝もごちゃ混ぜにわんさか出てくるので調べるのは嫌だ」と怠惰をさらしたことがあるけども、古代文明の多神教体系も同じ理由で腰が重いのである(殴

無限の域

こちらは「冥き帰らざる地」とは異なりネアと同じ世界に並存する領域であるが、同じく「禁域」とされ恐らく人間は踏み入ることができない。ただし冒頭モブ青年が「無限の域の方角からまた怪物どもが来る」などと発言することから位置を認識することはでき、さらにたびたび「黒い霧」なるものがそちらからやって来てはネアを襲い、守護神たる彼女はその都度「金色の矢」の姿と化してこれに応戦、時にはその禁域に侵入して鎮めるも、どういうわけか繰り返すほどに力は衰え身体も脆くなっていると感じてる。

後から明かされるがこの「無限の域」からやって来る「怪物」や「黒い霧」や「イバラ」のような脅威はそれこそ終わらない冬長恒山の北部に位置する崖の谷間に検知された「磁場の核」から排出される「ワンダラー」や「特異エネルギー」に限りなく近いもので、ネアの住人たる人間たちがこれらを解明する術を「まだ持っていない」状態でありながらこうして彼女が人知を超えた「神の力」で対処してしまうことは実は「順序と法則に反する行為」であり結果ネアという土壌には耐えられ得ない強大な種を蒔いてしまうことと同義なのだけど、愛するネアが侵されるのを黙って見過ごせない彼女はあるいは神としてまだ未熟なためかそうとは知らず常に全力で戦に身を投じ続けてきたもよう。

それは「ヘト砂漠に最初の砂粒が現れウルタマの川底に最初の雨粒が落ちるより遥か昔」から築かれてきた彼女とネアのまるで親子のような伴侶のような庇護と敬愛の営みであり、人間たちのためにあらゆる怪物の首をはねること、そして彼らに最も尊い言葉「神」と呼ばれることを彼女はとても誇らしく思ってる(かわいい

無情にもそれによって身体がみるみる弱っていくのは彼女自身が定められた理に反し力を酷使するためなのか、もしくはその行為により実は破滅へ加速しているネアと彼女とが連動しているためなのかその辺りは不分明である。

滅びと断罪の神

そうして弱ってしまった彼女の身体を唯一治癒することができるのは同じく「神恩の塔」に住まう滅びと断罪の神、今ストにおけるレイである。

レイはあるとき彼女が無限の域で黒い霧に巻かれ苦戦しているところへ突として現れ飛び込んで加勢して彼女を救い出すと、ネアの守護神をも凌ぐ「神の力」によって彼女の傷を癒し、また初めてその強大な力を目の当たりにした彼女はその日から彼に自分の庇護下たるネアに留まり自分のものになって欲しい、共にネアを守る守護神としてこれからも傍に居て欲しいと熱心に訴えた。

彼女はレイが実は「この世界に属さない太陽のような存在」であることを早に感じ取っており、またこの世界「ネアに属していないもの」とは「権命の石」なるものに名を刻まないとそのうち「砂のように消えてしまう」らしく、レイには「あなたの名前と運命」を「私に託して欲しい」のだと再三懇願する。

その理屈で言うと2048年臨空市にはハンターたる彼女や深空男子ら全員が「属していないもの」に違いないはずであるが、ネアとは在留資格管理制度が随分と行き届いているようである。まるで就労ビザであるかのようなこの権命の石は、あるいは国籍取得のための「婚姻届」のようなものなのかも知れん(ちがう

始めこそ冷たい表情を浮かべまるで応じる素振りを見せなかったらしいレイ、彼女によればふたりは「出会ってから計り知れない時を誰よりも近く誰よりも触れ合い身を寄せ合って過ごしてきた」のだと言い、そうしてアプローチを続けるうちついに心を動かされたレイに「もし私達の終わりに別れや滅びが待っているとしても受け入れられるか」問われた彼女は「どうして始まる前に終わりを考えるのか」不思議に思いながらも心に留めていた「人間が愛を告げる時によく使う誓いの言葉」をここぞとばかりに述べ告げる。

わたしはここなんとなく今ストの主人公ちゃんはこっちなんじゃないかって気がして「あなたを一生大事にする!」の方を選んでみたのだけど、レイは少し溜めたあと何かめちゃくちゃ込み上がるものを感じさせるような声で「私はこの約束を永遠に忘れないだろう」とぽつり呟くのだよね。早速泣けてしまった。涙

レイが彼女の手を取りゆっくりと指を絡めればふたりはまばゆい「金色の光」に包まれて、互いに誓いの言葉を囁き合えば権命の石にはふたつの名前が寄り添うように刻まれる。彼女は彼の「これから先お前の願いは全て私が叶えよう」という約束を「きっと彼は自分と共にネアの脅威たる無限の域に立ち向かってくれる」ものだと長らく信じて疑わなかった。

ところがその黒い霧の出現をただ静観するばかりで彼女の築いた大切なネアの一部をまんまと「無限の域」に呑み込ませてしまうレイは、命ある者の踏み入る場所ではない運命の禁域たる無限の域には「決して手を伸ばすな」「そのイバラの垣根をこれ以上越えようとすればもう戻ることはできない」と彼女が挑むことさえも禁じようとする。もちろん彼はそれが「順序と法則に反する行為」であることを理解しているためなのだけど、彼女の方は「滅びを司る神であるレイがネアに慈しみを抱くはずなんてなかった」「私のネアを滅びへと導くつもりだ」と不信感を募らせ、両者の間にはいつからか「対立と疎隔」が生じてしまう。

彼女はひとり戦い続ける中でますます衰弱し、身体中の傷口には黒い霧が絡み付き、意識さえ蝕まれ、痛み以外の感覚がなくなるほどに消耗し、ボロボロになった剣を杖の代わりにして必死に体を支えながら、このままではやがて自分も消滅してしまうのだろうことを悟り、不本意ながらも唯一それができるレイに再度その重傷を負った身体を癒してもらうことを決断する。

どうやらレイの治癒とは彼が彼女の身体に「途切れることなく力を注ぎ」、さらに彼女がその与えられたものを「感じる」「刻み付ける」という「儀式」によって施されるもののようなのだが、なんと言えばいいかこれが物凄く肉感的な描写なのだよな…(ゴクリ

今にして思えばレイが「私とお前の間にあるのはもはや尽きぬ欲の応酬」だと形容したように、かつて心から感謝して純粋に享受したはずのそれが今は不服ながらも利を得るために「心は伴わないが何か満たされるものがある」というようなニュアンスでこういう表現になっていたのだろうと合点がいくのだけど、そういう背景は後から語られるものでいきなりこのシーンから始まるもんだから最初は何事かとうろたえてしまったわw

エングルと金蝕鳥

こちらも物語中盤くらいまでまるで絵が浮かんでいなかったのだけど、エングルとはレイだけが操ることのできる「金色の神器」であり、彼がその手を掲げることでどこからともなく呼び出され、光を放ちながらゆるやかに回る金の「光輪」が手の平サイズで出現することもあれば、人がひとり通り抜けられる大きさの「尖塔」となって現れることも、時に離れた場所からでも視認できる「巨塔」ほどの高さになることもある、聞く限り「どこでもドア」のようなアイテムである。

きっと最終話のムービーシーンにてちらり描かれるこの法陣がそれなのだよな? 恐らく図書館の方に通ずる5部3章「氷の腕輪」の姿をした「通行証」なるものを掲げることで宙に現れる「幾何学的な模様が展開され無数に折り重なった次元が織りなしているような扉」もこれと似たようなもんなのだろう。

エングルの周りには甲高い声でさえずる「金蝕鳥」という金色の翼を持つ小鳥が数羽旋回していることがあり、こちらは何やらエングルの中と外とを常に行き来している生き物のようであるが、エングル同様この鳥たちも「レイの意思のままに動く」神の御使いのようなものらしい。

すると「エングル」たる名称は本当に「神の御使い」の意なのかも知れんな。語学力不足につき日本語でしかプレイできないんで正直なんとも言えないが、少なくともユダヤ神秘主義思想における神聖幾何学的解釈の宇宙とはその始まりが「至高神」の領域「点と線」だけで形をなす唯一無二の図形「円」に象徴され、ここに角度(Angle)が加わり「面」となった図形「正三角形」が神の御使い(Angel)の象徴になっていたりする。この「アングル」もしくは「エンジェル」に由来する名前なのかな? となんとなく(てきとう

ストーリー序盤、レイがエングルを用いてとある「終末の世界」へと立ち入り弓につがえた「溶金の矢」をその「死すら消え去った天地」に射ると、大気が鋭い叫びを上げ、最後の灯のように揺らいでいた残り火は燃え尽き、すると彼の手の中には一羽の金蝕鳥が「金色の粉」となって息絶えて、遥かなる宇宙の深淵へと消え去り、未知なるどこかでまた新たな翼を広げる、なんて描写が入ったりするけれど、恐らく命運の尽きた世界に「終焉」たる最後の決定を下すこれが彼の「滅びと断罪」の職務なのだろうと思われる。

見たところこの金蝕鳥の命は今まさに終焉を迎えたある世界の命そのもののようであり、さらに「金色の粉となって消滅し宇宙を漂い未知なるどこかでまた新たに息吹く」とは5部2章「深空エネルギー衝突カプセル」の中で彼女の身に起こった出来事とまるで同じであるかのようにも思えるが、これがレイを主軸とした物語における「エーテルコア」のあるべき姿なんだろうか。

彼女はある一羽の金蝕鳥に手の平を強くついばまれ滲み出た血がその嘴に触れたことでどうやら塔の奥に展開されたままだったらしいエングルの中へその鳥に導かれるようにして一度引き込まれてしまうのだが、非現実的な空虚に「金色の光だけが川のように流れ複雑な紋様を描いている」というその空間で、なぜか突然虚空の高みから真っ逆さまに落下する金蝕鳥が烈火に焼かれ灰となるのを目の当たりにし、すると心臓には激しい痛みが走り、さらにはついばまれた傷が乾き手の平にはどこか胸騒ぎを覚えるような「亀裂のような掌紋」が浮かび上がってくる。

無論ネアに間もなく訪れるであろう脅威や災厄がこれらの現象を引き起こしているのだろうとは思うんやが、なんとなく本編彼女の役割もまたこの金蝕鳥に近いものであるかのように見えなくもないよな。

コアの内部

エングルの中で垣間見た「不吉な予感」は程なくして現実のものとなり、ネアの繁栄の源たるふたつの川のうちのひとつ「ウルタマ川」はある日突然その流れを止めてしまった。農耕牧畜文化圏において河川の渇水とは絶望的な脅威であるが、人はその不安を払拭するかのごとく新たな賛歌を歌い縋るように守護神を讃える。

川の異常には何らかの力が干渉しているはずだと考え至った彼女は鏡のように静まり返ったその川面からそっと水をすくい上げ息を吹きかけてできた「水で織られた空飛ぶ絨毯」でウルタマの源流へと赴いて、何やら山のような巨体で全ての水の流れを堰き止めるようにしてうずくまっているらしい「全身を結晶で覆われた怪物」なるものに遭遇するのだけど、これは醜悪な上に「無限の域のものとは少し異なる」とも言うんで恐らく本編「ワンダラー」よりもどちらかと言えば「異化者」に近いようなものなのだろうと思われる。

その傍らで水煙をまといながら長弓を構えているというレイは気炎を揚げ始めた怪物を捉えつつ始めは彼女を危険から遠ざけようと語気を強めるも、治癒の儀式で彼に修復してもらったばかりの「この剣の切れ味を試してみる」のだと言って聞かない彼女を止むを得ず受け入れて共闘、見事な連携で討ち果たしたかのように思われたその怪物は瀕死状態に陥ると川と大地を崩壊させるほどの凄まじいエネルギーを放出し、これに呑まれたふたりは共に意識を遠のかせ、再び目を覚ました彼女は自分が「四方を果てのない白い砂の波に囲まれた空間」に張られた「淡い金色の結界」の中でレイの腕に抱かれていることに気が付いた。

ここはどこかと尋ねられたレイが「奴の心臓のようなものであるコアの内部」だと即答するのには驚いた。もしかして本編ワンダラーの展開する星の磁場も彼らの持つコアの内部だったりするのかな? その不思議な空間には昼も夜も存在せず空の色も淀み遠くの雲の向こうには「欠けた月のような白い光」が見え転がる石ころの中には「ネアのものとは全然違う文字のような記号が刻まれている」なんて言うんだけど、確かに異在郷の旅人イン教授の科学調査日誌に記されていた「月のような未知の天体」や「見知らぬ文明の遺跡」が思い起こされるような話ではある。1012号星の磁場についてはワンダラーが消滅した後も裂け目によって強制的に送還されることはなくインは1ヶ月間中でキャンプ生活を送っていたがこれも同じような現象?

コアの内部では無傷な彼女に対し「決して傷付かない全知全能のレイ」の方がむしろ血まみれ傷だらけであることが強調されている辺り、恐らくこのコアの持ち主たる結晶の怪物は本来はレイの属する世界における脅威であり、あるいはレイがこれをどうこうすることもまた「順序と法則に反する行為」に近しいのではなかろうか。

ここから脱するにはレイの神器エングルを用いるしか手立てがないようであるが、何やらエングルとは持ち主の気力や体力の消耗によりその力を弱めてしまうため彼は「少しの間力を回復する必要がある」のだと言い、彼女はレイが川の上流で怪物と対峙しながらも「わざわざ結界を張って川岸の村を守ってくれていた」ことから「ネアを助けてくれたお返しに私もあなたを助ける」と申し出て、初めて出会った日に彼が自分にしてくれたように、神恩の塔の泉から常に持ち運んでいるらしい聖水で砂塵や血で汚れた彼の身体を清めしばし介添えをすることに。

それから数日レイは多くの時間を静かに座して治癒に専念して過ごし、手持無沙汰な彼女は彼の周りをあれこれ散策してみたり拾ってきた石板に絵を彫ってみたり砂いじりなんかして遊んでいたりするんやが、ふと彼女がレイのために飲水を差し出すと彼は一言「手が痛い」と言って彼女に飲ませて欲しそうにするの、何それ聞いてないこんな甘えたなレイ見たことないかわい過ぎて声にならない声を上げながらじたばたと悶えてしまったわ(変人

ようやくエングルに力強い光が戻る頃、砂漠には「遠くから来た星の塵」のような「無数の青白い雨粒」が降り始め、錆びをもたらし土を泥に変え時に川の氾濫を招くネアの雨が本来あまり好きではないと言う彼女はなぜか「ここの雨は綺麗」だと感慨を抱くのだけれど、それはここの雨がそういう「暮らしの危機」みたいなものと無縁であるためなのか、あるいは雨のようで雨でない本当に遠くからやって来た「星の塵」だったりするのかな。

この空間は現実の存在ではないどこからか投影されている影であり「過去のものかも知れないし遠い未来にあるものかも知れない」と教えられた彼女が「ではこの雨も過去や未来から来たものなのか」尋ねるとレイは「これらは時間そのものだ」と返答するのだが、仮に深空が常に原子や素粒子レベルの極めてミクロなスケールで「起こり得るすべての可能性が重なり合い揺らいでいる状態」である量子力学的な多世界解釈の宇宙なら、コアの内部たる元は人間であったはずの誰かの心臓部に現れる「時間そのもの」である星塵とは、たとえばその人という小宇宙に存在するフラクタル構造をした「無限に並存する可能性」のニュアンスなのかも知れないと思うなど。

いざここを出てネアに帰る時が来れば彼女はかつてまだ「彼が自分と共にネアの脅威たる無限の域に立ち向かってくれるはず」だと信じ心から慕い抱きついていたあの頃の気持ちをもう一度思い出すことができたかのように思われたこの数日間が名残惜しいように思われて、再びしこりのある関係に戻ってしまう前にと「あなたは本当はネアを滅ぼすつもりなんてないんじゃないか」核心に迫るような問いで彼に詰め寄ってみるのだけど、これに対しレイは「お前はどんな返答が欲しいのか」と聞き返してくる。

ここは「私の考えは合ってる」方の返答を求めると、彼女はもちろんネアは大切だが「あなたのことも憎んだり嫌ったりしたくないからそうだと答えて欲しい」のだとその胸の内を打ち明けて、レイもまた「彼をネアに留まらせた彼女の選択」が正しかったことを証明しよう、なんて答えてくれたりする。

やがて星屑の雨は止み、ふたりがエングルの法陣へと足を踏み入れる直前、「滅びの時が近いと察した砂の海」には今度は雪が降り始めるのだけど、恐らくこのコアの主である結晶の怪物やレイが元いた世界、あるいはレイを主軸とした物語における「終焉を迎えた世界」というのは決まって雪に埋もれていくのだろう。彼が「溶金の矢」を放ち金蝕鳥が「金色の粉」となった「とある終末の世界」にも最後は雪が降っていたし、雪の降らないネアの神たる彼女が思わず背後を振り返り再度降る雪を見上げるとレイは「その雪に未練を抱く価値はない」なんてどこか無情さを感じさせる口ぶりできっぱりと言い切っていたのがとても印象に残ってる。

贈り物

ウルタマ川が再び流れ出しネアに平穏が戻るとふたりのわだかまりも少しずつ解消されていき、もちろん彼女は滅びの神としてネアの終焉をも予見できるはずのレイがいまだ無限の域に踏み入るのを差し止めてくることに心のどこかで釈然としないものを覚えながらも一方で「朝起きると彼の姿が傍に見えること」を何より嬉しく思ってる。これ彼女の寝相や寝言を概ね把握しているレイは多くの場合「彼女と一緒に寝てる」ってこと、なんだよな(鼻息

ある朝「言いようのない不安とざわめき」を感じさせるような悪夢にうなされて目を覚まし気分転換にとひとり塔を出ようとする彼女を「贈り物があるから」と引き止め街へと連れ出したレイは、活気溢れる大通りや裏道を勝手知ったる様子であちこち歩いて回り、多くの人から親し気に声を掛けられ時に閑談を楽しみながら、すっかり顔見知りなのだろう商人や牧人のもとを順に訪ね、何やら予め取り置きを頼んでいたらしい甘い蜂蜜やデーツ、野草、雌羊なんかを買い取ると、川辺で少し休憩をと木陰に腰を据えた。

彼女はそのどれもが「贈り物には見えない」と首を傾げつつ、こうしてネア中から訪問を歓迎され慕われているらしいレイは実はネアを「滅ぼすつもり」どころかむしろ「好き」なのではないかとさえ思えてくるのだけど、聞かれればごく当たり前だというような調子で「嫌いなどと言った覚えはない」なんて返答するレイ、それならそうと始めから説明してくれればこうして長らく誤解をすることもなかったのにと彼女は小言を漏らし、さらに「この口は食事をするためだけじゃなく言葉を伝えるためのものであり私にキスをするためのものなのだから」と愛のこもった言葉で窘められたレイは「そうか」とか「そうだな」じゃなく「分かった」「悪かった」ときまりが悪そうに答えてる(かわいい

レイは傍にあった若い木の幹を彼女のネアに見立て、ある一本の木が育つには種が蒔かれやがて大樹となるまでに水をやる時期、肥料を撒く時期、支柱を立てる時期、それぞれに合った順序と法則があるということを、さらにその若木がほんの僅かな「金色の光」を注ぐだけでたちまち折れてしまうのを実演して見せながら、無限の域に手を出すべきでないのはこうして順序と法則を逸脱しネアが滅びてしまうのを防ぐためであり決して「人の暮らす家が呑まれていくのを黙って見ていなければならない」という意味ではないのだと教え説いてくれる。逸る彼女は適した状態になればいつかは無限の域を「滅ぼす時」も来るのかと尋ねるが、レイは「少なくとも今ではない」のだと声を落とした。

それからふたりはとある麦農家でどうやら胸に重い皮膚腫瘍を患い床に臥せているらしい少年とその母親の元を訪れて、レイは少年の体調が比較的良好であることを確認すると彼女に「これから私がすることを全て覚えていて欲しい」と前置きし、持ってきた野草に含まれる「毒」は効能を正しく引き出せば一時的に感覚を麻痺させ強い痛みを感じさせないようにすることができるものだからとすり潰して汁を飲ませ、患部には蜂蜜を塗り、灯火で熱した薄い刃で胸の腫れ物と周囲の壊死した肉をきれいに取り除き保護すると、最後に雌羊の乳を飲ませて解毒、そうして長らく病に蝕まれていた少年の顔から苦悶の表情が薄れ浅い呼吸が安定するまでレイの声は終始穏やかで、全ての動作が落ち着いたものだった。

感謝の言葉を繰り返す母親に「あとは傷口が治癒するまでどのように体を養生すればいいか」レイが手ほどきをするその傍らで彼女は「心の奥深くに大地の下から何かが破り出ようとする微かな震えのようなものを覚えた」なんて言うが、恐らく彼女は「全知全能」というわけではなくそれこそ「愛と戦の女神」のように限られた権能を持つ神であり人間に「治癒」を施すことはできないのだろう。神とは違い「病」にかかる人間はそれにより「死」に至ることを決して避けられないものだと思っていたし、彼らがそれを「邪気」と呼び司祭たちに疫病除けの護符やお札を与り「快癒を乞う祈りの声」を捧げるのを聞きながらも成す術のなさに苛まれていたという彼女、神の力たる「治癒」を一切用いることなく少年の身体から「病」が取り除かれるその一部始終を見届けてまるで何かが覆るのを感じてる。

レイは改めて「病」とは一粒の砂や一陣の風、一滴の水や一口の食料、この世界のあらゆるものが原因となって生まれるものであり、するとこれを治す術もまたこの世界から答えを探さなければならないのだと諭し、さらに「お前の民はきっと上手くやれる知恵を持っている」からと、エングルから静かに引き出された細く長い金糸を「お前への贈り物だ」と言って彼女の手に握らせた。

わたし「これの名は医学だ」とレイが告げた瞬間わっと鳥肌が立って、どういう感情なのかちょっと説明できないんだけどこのシーンなぜかめちゃくちゃに泣けてしまった。
「医学」を受け取った彼女は目の前が光で真っ白になり、するとレイはとても優しげな声で「何が見える?」「何が聞こえる?」って導くように問い掛けて、何やら不気味なうなりを上げながらまとわりつく黒雲に苦しみもがくネアの人が燃え盛る炎でこれを焼き払うも今度はその炎が脅威となるようなイメージに彼女は怯みたじろいでしまうのだけど、力強い腕で彼女の背後を支えながら「怖がらなくていい」「足元を見てみろ」と静かに促すレイ、すると彼女は地面から無数の緑の植物が荒れ狂う炎を覆うようにして絡み合い生い茂り人が「まるでレイが今日したように」それらを摘み取って、清らかな水をくみ、火種を灯し、鋭い刃を熱し始めるのが見えたと言うのだよね。それを聞いたレイは「その全てを薬と呼ぶといい」って。

ここ最近読んだものの中でいちばん好きかも知れないこの筆致。言語表現として物凄く巧みじゃないか? 涙が出たのはその比喩があまりに美し過ぎたからなのかも知れないし、まるで全てを知り養い守るかのようなレイの声が本当にご神託であるかのように聞こえてしまったからなのかも知れん。あるいは大きなコンサートホールでオーケストラと聖歌隊の讃美歌を生で聴いたときの感覚にも近いような(ちょっと何言ってるか分かんない

近日ネアには未知の疫病が蔓延するも彼女はこの「贈り物」を民に授け、立ち込めていた「病」という黒雲は「医学」と「薬」の力により瞬く間に晴れ渡った。やがて人は未知種の植物の効果効能や人体の構造にも興味を抱くようになり、彼女もまたレイからさらに鋳鉄や治金、治水や干拓、暦や計算など多くの「贈り物」を賜って都市はますます発展していくが、これはたとえば病気に始まり過放牧だとか水害だとか「ネアという世界」がもたらしてしまうかも知れない脅威や災厄に関しては人の知恵や文明によって対処できるようになり彼女が順序と法則に反することなくネアを「永久の世界」へと導く術をおおむね心得た、くらいの理解でいいのかな? 彼女のネアはそうして輝かしい栄光へと歩み出したかのように思われた。

蘇生の石

栄えあるネアとその守護神を讃え神恩の塔の前の広場には巨大な神像が建てられた。晴れやかな太陽の下に人が集い歓声と賛嘆の声を上げる中、満たされた心持ちでこれを眺めていた彼女は突然手の平から全身へと駆け抜けるような鋭い痛みを覚え、不吉な予感に駆られながらも震える手を広げ見てみると、それまですっかり薄れかけていたはずの「亀裂のような掌紋」がついに「本物の傷口」になっていることに気付く。

ネアの地形はふたつの川が彼女の「髪」に見立てられ、ウルタマ川に怪物が現れたときには彼女は束ねていた髪が不意に砕けた珠によって一房切り落とされたことに良くないジンクスを感じていたけれど、同じようにこの「手の平」にも該当する場所があるのかな? 「ネアという世界」がもたらしてしまうかも知れない脅威に「贈り物」で対処できるようになった今、さらにネアに迫る災厄があるとすればそれは恐らくは「本来ネアという世界には属していないもの」によるのだろうと思う。

同じ時刻レイが神恩の塔の奥で「怪物の体から剥がれ落ちた砕けたコア」を握りながら「エングルの示しに従いウルタマ川の源流へ赴き自ら敷いた法陣を破壊した」ときのことを思い出し「ふたつの世界を隔てるための法陣が長年に渡り蓄積されてきた膨大なエネルギーによって巨大な怪物へと化していた」ことについて「早急に残りの法陣を壊さなければ彼女もネアも大きな災いに見舞われる」と独り言つような場面がカットインするけども、素直に読むならレイが本来属している方の世界には確実に本編「結晶感染」に近いものが存在し、そちらの世界とネアとはレイの権能によって断絶されていたけれど、何やらそちらの世界にはその権能を怪物に変えてしまうほどの異常が起きており、これが解消されなければネアの地形のちょうど「手の平」に当たる場所からそれこそ裂空災変のような「大きな災い」がもたらされる、みたいな理解で良さそうな。

それを解消することは同時に別れの時が早まることを意味していると言い、レイは「全てが生まれる前から結末は定められていた」のだとひとり覚悟を決めたかのような様子で粘土板に葦の茎で彼女の顔を彫り「彼女の真の姿を見たことがないネアの民の代わりに自分が真の彼女を覚えておく者になる」だなんて悲しいことを言い出すが、その法陣とやらはネアに留まりネアの側からどうこうすることはできないものなのか。怪物が現れるたびにレイがなんとかしてくれればそれでいいじゃないかと思いたくもなるが、そうかコアやら何やらがやって来て良からぬ人間が生まれちゃったら結局レイひとりの力ではどうにもならずまた同じ結末を繰り返すことになるもんな。

一方彼女はその不吉な手の平の傷が「エングルに入ったこと」によって生じたものであることから「もう一度中に入れば原因と解決策が分かるかも知れない」と思い立ち、どうやら中に入るための「鍵」であるらしいレイが常に身に付けている「符文の刻まれたペンダント」をなんとかバレずに持ち出せないかと画策し始める。
わたしは「女神イナンナと言えばお酌して拝借でしょう」と迷わず「彼を酔わせる」選択をしたんやが、酔わせるには少し弱いかも知れないという甘いワインを「果樹園のご主人にいただいた葡萄ジュース」だと偽って杯に注ぎ「たくさん飲ませなきゃ」と意気込んだ瞬間に彼はもう眠ってしまったが? えっレイってこんなお酒弱い? 1杯どころか口を付けた途端に効いてたように見えたけどw

持ち出したペンダントで再びエングルの閾を越えた彼女は「無数の宇宙」たる金糸の中から直感的に選んだ「冥き帰らざる地」へと足を踏み入れるも「七重の門」をくぐることは「門番」によって制止され、ただしその門番から彼女はこの先の深淵が「蘇生の石」なるものを守る秘められた禁域になっていたこと、かつて禁断の門を押し開いた最初の神であるレイが奇跡によりその石を「目覚めさせ」持ち去ったこと、さらに彼女には死者が眠る「永遠の郷」なる世界において味わった「死の瞬間の寒さと闇」に確かに憶えがあるはずだということ、そしてレイが「何のために」石を持ち去り「何をしたのか」を物語るように彼女の身体からは「蘇生の石の気配」が感じられるということを聞かされる。

即座には信を置けないながらも事実なら「自分を蘇らせるためにレイは一体どんな代償を払い何を失ってしまったのか知らないままでは帰れない」と言う彼女に「全ての石門の視線を受け止め闇の侵蝕に耐え抜く覚悟があるなら」埋もれて久しいその過去を「私が見せましょう」と門番は提案するのだが、どうやらそのときレイには「お前は私と共にここへ来るべきではなかった」「お前はここに呑み込まれる前に立ち去れ」と何度促されても頑なに彼の傍を離れなかった一羽の金蝕鳥が同行していたようで、彼女はこの鳥の「鋭い羽根に両目を貫かれ死よりも耐えがたい痛みを堪えながら」目をつむることなくその視点を借りて全てを見届けることになるの、怖すぎる痛すぎるそこはすっと見せてくれよ(震

かつてのレイはついに暗い霧を抜け、力を奪われた肉体に縦横無尽の血の痕を刻む「イバラ」に蝕まれながら幾重にも連なる巨大な石門を静かに越えていき、彼女はそのあまりの痛ましさに思わず「これ以上進まないで」と声を上げるもそれは甲高い鳥の鳴き声となって彼の耳には届かない。レイは黄金の天の一端に「冷たく輝く瑠璃色の宝石」がもう一方の皿を空にしたままの天秤にまるで「何かを待ち侘びている」かのごとく安置されているその場所へ歩み寄ると、震える指先でそれを大事そうに撫でた。

蘇生の石は「比類なき重み」を持ち、ここまで七重の門に全ての栄光と権能を剥奪されているレイにはもはやその天秤の空の皿に「相応の重みを持つ代償」として差し出せるものが何も残されていないかのように見えるのだが、彼は自分の胸に苦しげに手を当て絞り出すようにして顕現させた「果てなき深淵を照らす輝く光」なるものを「その身の内で最も重いもの」として石と引き換えにすると言うのよね。

両者を秤にかけるとその「光」はまるで「天が激しく傾いた」と感じられるほどに重く、蘇生の石は彼の手の上に落ち、すると今度は何やら「鮮血が凝縮した結晶」のようなものを取り出すレイ、これが溶けて「温かな神の血」となり「瑠璃色の宝石」の上に滴り落ちると程なくしてそこから「最初の鼓動」が生まれた、なんて書いてある。直前に「彼女に新たな命と安らぎの地を与えよう」なんぞ宣しているところを見ると恐らくその鼓動とは蘇った彼女のものなのだろうけど、どの部分が鼓動し始めたのかは明言されておらず上手い具合に「血の鼓動」とも「石の鼓動」とも「新たに生まれた別の何かの鼓動」とも読める叙述になっている。

始めはこの鮮血の結晶が「きっと血に包まれ持ち込まれた彼女の魂もといエーテルコアなのだろう」想定で読み進めていたため動き出すのはこちらなのだとばかり思っていたのだが、それよりもよほど石の描写が懇切丁寧である辺り恐らく秘密の塔「蘇生のコア」が「青紫色」をしているのはこうして「瑠璃色」をした蘇生の石に「神の血の色」が加わったものがそれであることを強調したいのだよな? たぶん。

めちゃくちゃ感覚なんだがわたしはここは暫定的に「石の力」により彼女が蘇ると同時に「血の力」によって石もまた何かに「目覚めた」のだとひとまずは理解しておこうかなって。たとえばネアの彼女の心臓のコアは元は完璧な水晶であるが蘇ったこのタイミングで本編彼女のように「欠片」の状態になっていて、その片割を吸収し脈動し始めた元は冥界の秘儀の石が時を経て「蘇生のコア」となり、最後には永久の預言者の所持品でありながら彼を監視して縛り付けようと働くものに変質した的な。もちろん全部妄想だけれども(お約束

いずれにせよ「ネア」でも「永遠の郷」でも何なら人知れぬ沫雪「南山」においても常にとある世界の「神」であったはずのレイはこの冥き帰らざる地で「輝く光」たる代償を払ってしまったことで神格を失い「神の道具」や「神言者」にその位格を落としているのでしょう。蘇生の石と共鳴できるのは充分な重さのある神の魂を持つ者だけだと門番は言っていたけども、それこそ「神を神たらしめるような何か」を差し出してしまったのではないかな。

ただし「この代償により至高の神はやがて滅びの終局を迎えることになった」とは一旦「神から人へ堕ちる」とかって話の前にあくまで今スト彼女がかつて死を迎えた世界「永遠の郷」なる場所に戻ればレイが長くはないことを意味しているのではないかと。ウルタマ川でのあの負傷っぷりも法陣が破壊されその世界の境界に触れてしまったことが原因だったのかな?

小さな世界

かつて禁域を侵犯し持てるもの全てを差し出して彼女が生きられる術を手に入れ彼女のために「ネア」という世界まで創造してくれたレイの深い愛を知った彼女は、その手の平の「亀裂のような掌紋」によるネアの暗澹たる未来にも「きっと彼はまた私を救うために何か凄惨な代償を払うに違いない」と感じ、それをさせたくないあまり「いっそ最初からあなたが私のことを好きじゃなければ良かったのに」と傷心に沈んだりもするが、何をするつもりなのか一切を語ろうとしないまま突然「無限の域」へ向かうと言い出し付き添いを求めるレイに、彼女はたとえ何が起こっても「今度こそ私があなたを止める」のだと意を決する。

ふたりは無限の域で次に怪物を倒し、レイはそのうちの一体から「コア」を拾い上げ彼女に手渡すと改めてそれが災いを呼ぶ怪物の心臓でありながら実は別のものをもたらすこともできるもので「ただし今のネアにはその本来の力を引き出すことができない」のだと「順序と法則」の何たるかを訓示、さらにこれまでは斬っても消滅しなかった怪物がこうして灰のようになるのは「コアが最後のエネルギーを使い果たしたため」だと教えてくれたりするんやが、もしかして彼女はこれまで「ワンダラーの倒し方を知らなかったから」無限の域であれだけボロボロになっていたってこと、なのか…?

最後の怪物が消滅すると周囲を覆っていたイバラや黒い霧も無限の域もろとも消え去って、すると中心には「最初に現れた裂け目」なるものがまるで「腫れ物を取り除いた後の傷口」のように残されているというが、ここがネアの地形における彼女の「手の平」に当たる場所なのかな? レイは「裂け目」を前に一度立ち止まり彼女を振り返るもためらうことなくその中へと歩を進め、するとその奥には「今は砂に覆われ荒野になってしまっているはず」なのだと言う「ふたりが初めて出会った谷」があの頃の姿のままで現れる。夜風が木の葉を揺らし川が山の起伏を縫うように流れ水に触れれば確かに冷たいと言うけれど、もしかしてこれこそが1012号星の磁場に近いもの? あるいはふたりの「想い」や「時間」が閉じ込められている異空間であるかのような…(ないてる

ふたりは手を繋ぎ散歩をするように星明かりが揺れる谷を歩きながら「初めて出会った日」のことを振り返り、彼女は山の壁を一本の矢で貫いたレイの姿に「こんなに強くて綺麗な人は初めて」だと目を見張り「絶対に手放せない」と心を固めたかつての胸の内を明かし、レイは「天から舞い降りた美しい女神を忘れられなかった?」などと冗談交じりに尋ねられ「確かに美しい女神が小川で足を滑らせた光景は今でも忘れられない」なんて茶化していたけれど、きっと彼の目に映る彼女はいつだってむしろ他を忘れさせるほど美しいのだろうね。まるで山から舞い降りた精霊のように舞う彼女を「これほどまでに鮮やかで美しいとは」と息を飲んで見つめていた人知れぬ沫雪でのあなたをわたしは一生忘れない←

そうして「無限の域の最深部」なる地点へ歩き着くとレイはこの先に何があるか「知りたいか」と問うが、足を止め手を強く引きながら「知りたくない」「ここに居たい」「どこにも行きたくない」と訴える彼女、そうしてごねる彼女をなだめすかせるのがレイなのだとばかり思っていたが、ここは彼もまた「ならばここにいよう」「私もどこにも行きたくない」なんて言うんだよ。うわぁぁん。涙

ふたりはまるで名もなき創造主がレイと彼女のためだけに生み出した「小さな世界」であるかのように思われるその異空間で、互いに神ではなく愛に動かされる普通の人となり幾日を過ごした。朝も昼も夜もあるようだし家もあるらしいがここは本当にどういう空間なんだろうね? 恐らく終わらない冬長恒山の崖の谷間の「磁場の核」のようなところに「ワンダラーをすべて倒すこと」によって生じる「強制的に送還されることのない裂け目」によって行き来できるらしい1012号星の磁場に近いものなんじゃないか、とは思うのだけど、深層部のさらにその先とやらはきっと「永遠の郷」に通じているのよな?

ただし留まれる時間にはやはり限りがあるようで、レイはついに決断したように実はこの世界の遥か遠くに彼がその手で排除しなければならない「エラー」が存在するのだと語り出し、さらにそのエラーさえ解消できればまるで成熟した「種」であるかのようなネアが芽を伸ばし成長し「永久」とも呼べる時間を彼女が幸せに過ごすことのできる「土壌」が完成する、と言うのだけど、するとこの時点レイは「法陣を破壊してエラーの発生している世界とネアとを隔絶する」か「エラーを解消する」かの二択を持っているというわけだよな? 前者に全振りであるこれまでの行いから後者は限りなく不可能に近いのだろうが。

「私にはあなたが必要」なのだという彼女の必死の説得も虚しく彼は「これから先この世界は私を必要としなくなる」ものと裁し、さらには「それをすれば二度とネアには戻れなくなる」と慌てて止めに入る彼女を振り切り「権命の石から自分の名前を抹消する」ということを強行し、彼女の顔をまるで記憶に刻みつけるようにじっと見つめながらついに消え去ってしまうレイ。

神恩の塔にひとり帰ってきた彼女は雪の降らないネアに突如舞い落ちてきた粉雪に「レイがネアを保護しようとしている」「私とネアを完全に保護したらひとりで危険に立ち向かうつもりでいる」と確信するのだけど、そうかレイの雪とは必ずしも二度と蘇らない終焉を迎えた世界を覆うためだけのものではないのだな。これは彼女と彼女の世界が種と土壌として芽吹くまでの「冬眠」のような具象なのか、思い返せば人知れぬ沫雪もレイは降雪と共に去り目覚めれば彼の居ない山は雪解けの季節を迎えていたかのような描出だった気がする。

永遠の郷

こうして行き先を告げず黙って去ってしまうレイを追跡しなければならないときが来るのだろうことを何となく予見していたらしい彼女は、実は冥き帰らざる地で視点をお借りしたあの金蝕鳥をそのまま塔へと連れ帰り祭壇の床下でこっそり飼育していたのだと言い、初めてエングルの中へ迷い込んでしまったその時のように自分の血を数滴その嘴に滴らせると、必ずエングルのある方角へ向かうだろうその鳥の飛ぶ方へと走り「神恩の塔の最奥」へと導かれた。

ここもはちゃめちゃに泣いてしまったが、彼女はそうしてエングルの中へと足を踏み入れた瞬間突然浮遊感を覚えたかと思えば急速に落下、周りを見渡しても以前見た「金糸の川」のようなものは見当たらず、代わりに交差する金色の塵が「順序も因果関係もない情景」を次に見せてくるというのよね。
それは黒い氷晶に囚われたレイ、古木の傍で傘をさすレイ、白い花畑の中のレイ、イバラの中のレイ、緑のオーロラの下のレイ、墓碑の前に佇むレイ、あらゆる姿をしたあらゆる声色で語り掛けてくるレイの姿であり、もちろん彼女にはそれらの情景が過去のものなのか未来のものなのかあるいはどんな軌跡を辿りどんな結末を迎えるのかさえ分からないのだけど、このエングルの中に無数に存在するどの世界においても自分は必ず彼と出会い必ず彼と惹かれ合うのだと理解する。

そして無限の域の深層部で「たとえ独りよがりでも私は何度でも同じ選択をする」と告げネアを去ってしまったレイの決意のまるで対比であるかのように、彼女は「たとえ満たされない結末しか迎えられなくとも私は永遠にレイのもとへ向かう」のだと心に誓う。実にわがままで制御が利かなくて浅はかで未熟な「人間の愛」のなんと美しいことだろう。これが「神」の羨んで止まない「有限を永遠化する人間の愛」なのだ。涙

彼女の言い立てに応えるかのごとく手に触れた一本の金糸が彼女を彼のいる世界へといざないふたりは恐らくかつて彼女が死を迎えた「永遠の郷」と呼ばれるその場所で再会するが、彼女の姿を見るなり言葉より先に思わず強く抱き締めてしまうレイにもまた泣かされてしまったな。

永遠の郷は見たところ「戦闘人形A-01」のいたフィロスかそれ以上に文明が発展した世界であり、レイが言うにはここの人間はみな効率を至上とし、その歴史の中で人類社会の科技進展を妨げるものをことごとく切り捨ててきた結果、人には名前はなく番号が振られ、もっとも完全に近い「真理」を知るものが「神」と呼ばれ信奉されていたと。
そして神が「真理」を用いて世界に長寿と幸福をもたらすとやがて人はこの神こそが全てを叶えられる全知全能の存在であると考えるようになり、ついに「永遠の命」さえ求めてくるようになるもそれは「この世界にはまだ耐えられ得ないもの」に違いなく、とは言えその「警告」を無視した人は自分たちで世界の限界を越え「美しい結晶に歓声を上げていた」と書かれてる。

これにより世界は引き返せない滅びの道を加速して突き進み、数多の天災や人災が繰り返され、止むことのない終末の吹雪が吹き荒れる中、もう神の庇護は受けられないのだと悟った人はかつて真理をもたらしたその神を「滅びの神」と呼ぶのだが、なるほどこれがレイが「治癒」を権能に持つ神でありながら「滅びと断罪の化身」たる所以だったのか。彼女が結論したように「守護」や「滅び」とは人が勝手に神に課した意味で実は神とは「秩序と法則の中ですべきことをしているだけ」なのだと。

これらはすべてどこか実験施設のようにも見えるとある建物の中でスクリーンに映し出されている映像のようであるが、最後に一瞬死線をさまよう彼女の姿が映り込んでいる辺り総じて「レイが見てきたもの」のニュアンスなのだろうと思われる。この建物はレイにとっての「神恩の塔」だと言われたが、ネアのそれが超自然的な不思議な術や神器であるのに対し、こちらはそれらにさらにデジタルな要素を加えたものであるような。

レイのエングルもこちらの世界では金の法陣や糸ではなく彼女にとっては「見たことのない材質でできた十数枚の粘土板」つまりデジタル操作パネルのようなものなのだろう。ここに来たとき彼はひとりこのデジタルなエングルを用いて「ルートR-0905」なる世界のあらゆる可能性を測定しその「成功の道」とやらをシミュレートしていたが、やはり「こことネアとを隔絶する」前に「エラーを解消する」方の可能性を最後まで諦めていなかったのではないかな? ルートは恐らく人に名前がなく番号が振られているくらいなので世界そのものにも「ネア」や「フィロス」のような固有名称がなく「R-0905」と呼ばれてるってことなのだろうとは思うんやが、あるいはここでの彼の番号が「R-0905」であり演算は彼自身の成功の可能性の模索であるとも取れる。

エングルからは非情にも「271828回目の演算が終了し全てのシミュレーションが同じ結果に収束」したことを告げ知らせる電子音声が流れ、この世界は「人が秩序を越えた真理に手を伸ばすことを選んだ時から結末は定められていた」のだと改めて知らされたレイは、「だから私はこの世界に哀れみなど抱かない」と断じ「間違った秩序を正す必要はなく壊滅こそが真の救済だ」と結論、ただしすべてがあらかじめ定められた定数に基づき演算通りの終局に至るのではなく彼の世界にはただひとつの「変数」が存在するのだと言い、それは滅びの運命にあるこの世界からすでに「離脱」したはずのネアがまるで一部が重なり合った「黒い円」と「金色の円」のように「同じ宇宙に存在している」その状態を最後の繋がりであるらしい法陣を破壊し完全に断絶すること、これによりネアだけは「滅びの運命から逃れられる」のだと主張する。

ふたりはまるで黒い結晶に覆われた「巨大な金蝕鳥」のようにも見えるその最後の繋がりたる法陣を無事に破壊することができるも、終焉の粉雪が舞い始めたこの世界と同じようにすでに気息奄であるレイは、もうほとんど残されていない力でどういうわけか彼女をひとりネアへ送り帰すための金色の光輪を展開し急いで入るよう促して、彼女は「かつては美しかった」らしいこの場所で「最後の夕日」を共に見納められたことにすべての心残りが解消されたかのような満たされた様子である彼が、きっとこれまで同様始めからこうして「私を救うために凄惨な代償を払う」つもりだったのだろうことを悟る。

「あなたの言う変数とは私のことか」と問われたレイは「正確に言えば私の私情だ」と答え、神に私情があるならそれは「愛する人が生きることを願う」気持ちなのだろうと語るのだけれど、今回こそは「私があなたを救うためにどんな犠牲も払う」ことを心に決めている彼女はその提案を受け入れず、これは例のごとく「共鳴」になるのかな? 持てる力すべてを「これまでたくさんのものを私にくれた彼」に注ぎ尽くし、恐らく秘密の塔「氷裂症」と同じ症状によって最後は「死よりも長い静寂へ沈んでいった」とある。
すると「蘇生の石」はこの時点すでに「蘇生のコア」に変じているのだな。ここからジャスミンの蕾の数だけ彼女は必ずレイの目の前でこの「氷裂症」の影響により非業の死を迎え続けるのだろう。てか今更ながら月下の黒き棘レイの夢の中で氷に侵食されていた彼女も同じ現象の徴候だったのか(おそい

世界が目覚めるとき「私と出会うな」と断じていたレイは実は世界が芽吹きの時を待つ雪の降る時の中で「お前との再会を待っている」と本来は告げてくれていたのだ、と知ることができる最後のセリフもそうなんやが、個人的にはラストの風景描写は本当に見事だなと感じ入ってしまったよ。

ネアでは「最後の日の光」がとうとう凍りついてしまったらしいふたつの川を照らしてて、砕けた粘土板や「深い青色の釉薬」はこれはラピスラズリを模した色材なのかな? それらがかつてこの地に満ちていた「栄光」や「賛美」や「愛」と共に時と砂の中に流れ、降り続ける純粋の白があらゆる音を覆い、そして神恩の塔は崩壊しすべてはエングルの中の一縷の「金糸」になったと。

レイは孤独に「永遠」へと旅立ち「静寂なる守り人」になる前に雪に埋もれゆく世界を今一度振り向いて、一羽の金蝕鳥の広げた「輝かしい金色の翼」が風雪の中で「氷のように透き通っている」のを眺めてる。これも恐らくは秘密の塔「銀白色の氷雪のように透き通った羽」を持つ「氷鳥」が本来は彼の神器であり「レイが神の権能を失っていること」の具象化のひとつなんじゃないかな。

一冊の本

そうして感傷に浸っていると突然「フラクタル図書館」が現れてどういうわけか知らぬ間に本棚から抜け落ちていた一冊の本を管理人がやれやれと拾い上げ棚に戻すシーンで締め括られるのも粋でしたねぇ。と言うか、図書館は「少年のCV」は本編に既出であるが「管理人のCV」は初出しじゃないか? もう少し嫌味な感じを想像していたが思いの外かわいい声で驚いた←

静かな図書館に差し込む朝日が整然と並んだ書架の背表紙に薄く積もった「雪を静かに溶かしている」と言うんでこれはまた雪解けと共に新たに芽吹く世界におけるレイと彼女の「次の出会い」を示唆しているのか、あるいは本編幼いレイがEvol暴走を制御したことによって生じたそれこそ0.000…1%程度の誤差範囲が今「終焉の雪を溶かし始めている」と言ってくれているのかも(希望

余談なんやが世界の深層フラクタル図書館Q&Aにて管理人が「特に印象深く心に残り続けている本」として一冊目に挙げていた「調和の世界」の物語がきっと今回レイが元いた「永遠の郷」と呼ばれる効率主義の世界の話だったんだよな?

本はとある富豪がゲノム編集で作り出した「欠陥のない人間」が一切の規則を超越し「秩序を軽視したこと」で完璧な均衡が崩れ去ってしまう物語になっていたけれど、意味合いとしては「自分たちで世界の限界を越え美しい結晶に歓声を上げていた人」に矛盾しないような気がする。
さらにその「欠陥のない人間」こそが「制度のほころび」であると異を唱えた者が裏切りの烙印を背負い「歴史の絞首台に永遠に釘付けにされる」というこの本の結末も、それがまだ「この世界には耐えられ得ないもの」であることを「警告」し批難され「滅びの神」と呼ばれたレイそのものであるような気がするよ。

アスタの罰とレイの贖罪

ちょっとここからは超個人的な見解を自分のためだけに書き残すメモのようなものになるので閲覧注意なのだけど、わたしは今回このストを読んで率直に「アスタのしようとしてること」はとても「筋が通ったこと」であると感じてしまったのだよね。

神であるレイが「私情」により「蘇生」の秘儀に手を出すことは本来神が従うべき「順序と法則」なるものに反する行為なのだろうとわたしは思う。神がしなければならないのはあくまで人間の耕した都市や社会という「土壌」が崩れることなく豊かになる分量で文明や技術という「種」を蒔き、芽吹き、実り、枯れればまた新しい種と鍬を与え、蘇り、これを「永遠」に繰り返すことができるようになるための施しであって、有限たる人間の実現できる「永遠」とは決して世界を超越した存在たる「神の永遠」ではなく「紡がれることによって実現する永遠」であるべきだと。

神が禁域を侵し「蘇生」という「理に反したもの」を目覚めさせてしまったならそれは当然「贖罪」に値するのではないかな。神格を失い「神の道具」として「蘇生させた命」たる「理に反したもの」を排除する使命を課せられるのは「罰」として道理にかなっているような気がする。

ただしこれはあくまで世界にはいくつかの「位」を持った神がさまざま存在し宇宙の根源たる「最高神」のもとに個別の権能や役割を持つ従属神が複数それぞれの領域を司っているという多神的世界観が前提で、さらにそのうちの一柱がレイであることが大前提である。

アスタが多神的世界におけるそもそも「最高神」であることに疑わしい点があるとするならば、秘密の塔「永久の預言者」にアスタが与えた己の片目「時空を超えて世界の運命を知ることができる」という権能は今ストを読む限りもともと「レイのもの」なのだよね。
あるいは「エングル」と「金蝕鳥」を用い「終末の世界」へと立ち入って鳥が「金色の粉」となり息絶え遥かなる宇宙の深淵へと消え去り未知なるどこかでまた新たな翼を広げるのを見届ける、これも元来レイがしていたことで、しかしながら本編では彼女が恐らく別の何者かによって遣わされこの「金蝕鳥」と同じ役割を担わされているかのように見える。

彼女が「死」を経て宇宙で漂っているとき本編5部2章においては例の「赤い目玉」が彼女を呑み込んでいたけども、レイが同じことをする今ストにおいては彼女を見守っているのは「赤」ではなく「金色」の何か、だったりもする。

もちろんオタクらしくごちゃごちゃといろんなものにこじつければこの「目」のような形をした星雲がたとえば教会美術なんかに見られる「神の創造の中に現れた神の眼」のようなもので「観測される宇宙が被造物としての意識そのものであること」つまり「彼女自身が宇宙そのものとなり彼女を見つめている」状態であっておかしくないんやが、何がどうであれシンプルに「レイのときは金色」だったものが少なくとも本編「赤に変わっている」ことは間違いなさそうである。

これって「帰らざる地」でレイが脱ぎ捨てたかも知れない神性あれこれを誰かが借用しるからなんじゃないのか…? 仮にそれがアスタなのであれば、確かに秘密の塔「ジャスミンによる記憶改ざん」を「運命の金色の糸を手繰り寄せる」ことで見抜いてしまった預言者の方が互いに「片目」同士である土俵でより格上たる最高神からさらに「我が物のように使いこなせている」かのように見えなくもない(強引

結論「蘇生の石」には本来「所有者」たる冥界の主みたいな「イバラ使い」がいて、今回レイの「神を神たらしめるような何か」と「等価交換」によって石を譲り渡し、代わりに彼の手放した権能を頂戴し神の座に就いているって話ならそいつが「アスタ」でいいんだけどなって思った(ぇ

半分冗談半分適当なんだけど、今スト「イバラ」は蘇生の石に辿り着くまでの道中レイの身体にまとわりついていたものとネアの「無限の域」からやって来たものがあり、前者は言わずもがな後者の方は恐らくすでに蘇生の石もしくは蘇生のコアのほぼ影響下にあるだろうレイが破滅の運命にある「永遠の郷」から入り込んできたものになるので、なんとなく冥界や冥界の秘儀とイバラは結びついているものとして描かれていたような気もしたよ。

読み終えて即出しの感想なのでこれから熟考し見解が変わる部分もあるかも分からんが取り急ぎの覚え書きでした(謝

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