空に堕ちる
空に堕ちる

恋と深空を宗教思想史オタクがのんびり考察しています。

ネタバレを多分に含むうえ、新しく開放されたストを読むたびに考えが変わるため我ながらお門違いなこともたくさん綴ってあるのですが、プレイ記録も兼ねているため敢えてそういうものも全て残したまま書き進めております(土下座

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金砂の海

ねぇパラレルワールドってそゆこと?

物語としてあまりにも整合性が図られ過ぎてるせいで全てのストがどうしてもぴったり時系列順に1本に繋がってしまうからたとえば深空をRPGではなく乙女ゲーとしてプレイしたときに平たく言うと主人公がまるで3股かけてるみたいに見えてモヤってしまうそんな一途な読み手の子たちが願望としてそう解釈してるってこと?

だとしたら今回ちょっとその気持ち分かっちゃったかも知んない←

だってこれ恐らく指間の流星からロールバック隊が帰還できなくてついにフィロスの星核エネルギーとして無限に生死を繰り返すだけの存在になってしまったその後の主人公のお話、なんだよね…?
そうか結局彼らが戻って来れるのは「出発地点」ではなくあくまで「最新点」なんだ。それこそタイムパラドックスで、仮に地球で300年過ごしてたら300年後のフィロス星にしか戻って来れないってことなんだな? いやちょっともう自分でも何言ってるか分かんないんだけど(殴

じゃあ「セイヤはいつも私を騙してた」んだと思い込んでいた孤独な女王陛下はいざ自分が星の餌にされるまさにその時「何ひとつ嘘じゃなかったんだ」「彼が救いたがってた彼女って実は私のことだったんだ」ってもう何もかも手遅れな状態で全てを理解してしまったはずなのまじで耐えられないし、かと言って「そうなる前に戻って来て欲しかった」って願うのはこのストが「なかったものになってもいい」と願うことと同義だし、そもそもこれはホムラとのストなのに冒頭そうしてセイヤのことばかり考えてしまうこと自体めちゃくちゃ申し訳ない気持ちになっちゃったよね…

ただ、てっきりわたしはもしそうなったら彼女はあの「時間も空間も存在しない闇」の中から出て来れないもんだとばかり思ってたから、ある期間はこうやって地上で「フィロスに永遠をもたらす姫」として少なくとも人生1度分くらいは全うできたんだなって思ったらちょっと安堵しました。

そして、やっぱり深空は「神と人間の物語」だったんだなぁと。神学に基づいているかはさて置き、少なくともギリシア神話のオリュンポス十二神はかかってるよね?

もちろんそうなると海神はポセイドンだけど、彼らを束ねる主神ゼウスが人間のお姫様に恋をして間に生まれてきた子が半神半人ヘラクレスだったりするんで、いわゆる世界宗教の「全知全能の唯一神」とかそういう大それたもんじゃなく、たとえば「遥か古来からその地に住まう土着神」くらいの距離感で根付いてる「海神信仰」みたいな民族宗教の神様に、「人間と恋をする」っていう神話的エッセンスを加えたものがホムラくんとの物語なんだろうと理解しました。

そう言えばこれって元中国とか韓国のアプリだもんね? 海神信仰は紀元前に東シナ海沿岸地域から広まって古事記の時代に朝鮮半島から日本に伝わって来た「綿津見(わたつみ)」って海神を祭祀する土着宗教なんですが、これそれこそ宗教学とか思想史詳しい方むっちゃうんうん言ってくれるはず←

わたしは漢字が苦手だったせいで民族宗教はもっぱらイスラエル系のユダヤとかゾロアスターとかアジアでもきちんと語れるくらい学んだのは最南部バラモンの方なので知識と呼べる知識はないんですけど、同期の子が卒論で東アジア海域系を究めていたので過去に偶然拝借した僅かばかりの記憶を頼りに見解しています。
要は人間にとって海は生活インフラであると同時に「聖域」でもあり「他界」とも言える場所、そんな海と漁村を行き来できる神様が綿津見神、深空で言うホムラくんの本来なんだろうと。
秘話に出てきた「海月の儀式」とかまさにだもんな。やっぱいろんなとこにいろんなヒントが散りばめられているんだわ…

となると、プロフにあるホムラの年齢「24歳」ってのも果たして人間で言うところの何歳に当たるのか疑わしくなってくる。
夜遊びの章では完全に彼のセンスだと解釈していた「800年君を待つ間に魚は進化し肺を得た」なる発言もワンチャン海神としての寿命を人間に換算したらそれくらい君を待ってたぞ、その間にあんなことがあって陸に上がって来ちゃったぞって主張だったのかも知れん。

土着神は蛇だろうが狐だろうが短命でも500年は生きるいわゆる「長寿種」であり基本的には古神道の神と同じように「系図」的なものがありますが、うーん今ストを読む限りこちらのホムラくんは恐らく息子や孫というよりはやはり「生まれ変わり」のニュアンスなのかなぁとは思いました。
と再誕する神様ももちろんいますからねぇ。

どうやらフィロスの無限星核エネルギーとなってしまったらしい主人公は、ある時ある深い峡谷で「生命体」として目覚め、今世では「姫」の称号を与えられ宝のように守られながら高貴な人間として王室で暮らしてる。

彼女は神に「純真無垢な心」を授けられており、この「心」こそがフィロス星の不滅と人類に不老不死をもたらしているということで、全ての民が姫の永遠の平安と健康を祈っているという。
恐らくもう他の人間を星の餌にする必要がなくこの時代にはワンダラーもコアも生まれないため「心」って名称なんだろうけど、その役割から察するにこれが「エーテルコア」なのだろうとは思います。

ただし、それゆえ彼女は生まれてこの方宮殿を出たことがなく、古い書物を読むことでしか知ることのできない外の世界を一度でいいからその目で見てみたいと願うあまり何度も王宮を抜け出そうと試みては衛兵に連れ戻されており、また星中の人の愛慕や敬愛の眼差しが常に自分自身ではなく「心に向けられているもの」だということに言いようのない孤独感や疎外感のようなものを感じてる。

もちろんセイヤの本意ではないがこうして彼女ひとりが望む生き方を犠牲にすることで星の平和が永続するのであればやっぱりやむを得ない選択だったのかも知れないと思う反面、実はこの時代フィロス星は陸地のほとんどが砂漠化し、海がすっかり干上がってからは3万年という月日が経過しているらしい。

人間はキャッサバ粉やスナネズミの肉を焼いて食べラクダのミルクなんぞ飲んで生きてるようだけど、このままでは結局この星もそのうち寿命を迎えてしまいそうよな?
太陽系の惑星の中で地球は唯一水素と酸素が液体として存在できる環境、つまり「海があるから」生命が誕生し生存できているって小学校で習った気がするもん←

そして流星雨の頃には砂埃が舞うくらいで地球とほとんど変わらない環境だったらしいフィロス星、追光騎士団の時代にも森があったくらいなんでギリ海はあったって考えると、星核エネルギーが完璧だろうが空洞だろうが無関係に干上がってしまうそれは本当に「別世界」として描かれているのだなぁとも感じます。

王都と王侯貴族

王宮のある都にはこの星で唯一の「水源」があり、湖程度の大きさではあるが一応自然に湧いた水を溜め複雑に枝分かれした「水路」に流して各地に届ける仕組みにはなっているものの、世界の上層たちが利益や恩恵の多くを享受するという定則はやっぱりあまり変わらないようで、たとえばこの時代の王侯貴族たちはリモリア人を「玩具」として所有していることが富や地位の象徴であると考え、競い合うように彼らを捕縛しては社交上の慣例として進物のように贈り合ったりする。

主人公が幼い頃に読んだ「リモリア文明」に関する文献の中には、長きに渡り海神の加護を受けてきた海の一族はみな容姿端麗で、涙はきらめく宝石に変わり、歌声は人を惑わす夢となり、血は人間に不老不死の力を与え死者をも蘇らせる、さらにその逆鱗を抜き取れば持ち主を主としてその命令に従い命すら捧げる忠実で強力な「しもべ」にもなる、などと記されているらしい。

王宮で読める書物はおおよそフィロス星人が書き残したものなんだと思うんやが、人間にとってリモリア人がすっかりこんな認識になってしまってるのは本当に胸が痛むな…
とは言え潮汐の章で主人公がおふざけの延長で放った「ご主人様と呼びなさい」なんて冗談に突然声色を変え「そう呼ばれたい?」「ご主人様」と迫るホムラからは何やらただならぬ気配を感じたし、これらは全て事実に基づく記録であり下手したら地球時代からそういう彼らの生態を利用して手懐けようと目論む人間は一定数いたのかも知れませんね。

もちろん「高貴な姫」である主人公の元にも「貴重な贈り物」として過去リモリアの少年が献上されてきたことがあるのだけど、彼を気の毒に思った彼女は夜中にこっそり枷を外して湖に彼を解放してあげました。

「一緒に行こう」と提案されるも王宮を捨てて逃げてしまうわけにはいかない彼女は「泳げないから」とこれを断り、すると「また会いに来る」という約束の証として手の平に1匹の青い小魚を残して少年は去ってしまうのだけど、主人公はこの魚を水槽で大切に飼育しており、いつか彼がもう一度会いに来てくれる日を密かに心待ちにしていたりする。
彼いわくこの魚は「海神の使者」なんだそうです。

潜行者ホムラ

この時代のホムラは「潜行者」であり、海のない星で人間への贈り物として不当な扱いを受け続ける一族を「僕たちは陸の従順なヒツジじゃない」と悲憤し復讐に手を染めている。
姫の侍女である「サナ」が「近頃王都に出没している潜行者は全員リモリア人らしい」と口にすることからそれをしているのは彼だけでなく恐らくは一族の総意なんだろうが、スト内で彼は「本当は復讐なんて意味がないと分かってる」「自分たちはただ故郷に帰りたいだけ」なのだとも発言している。

ある夜王宮の湖に潜伏していたホムラは宮殿を抜け出そうとして誤って水の中に落ちてしまった主人公と出会い、彼女に頼み込まれてほんの少しだけ外の夜市を案内してやるのだけど、露店に並ぶ雑貨や食べ物目につくものすべてが物珍しく興奮が止まらない様子の彼女とそんな反応ひとつひとつが新鮮できっと庇護欲のようなものが芽生え始めてるホムラはさながら「ジャスミン」と「アラジン」である。

帰り際にこのホムラこそが過去「また会いに来る」と小魚をくれたあのリモリアの少年であったことを打ち明けられた主人公は、彼が本当にかつての約束を果たすべくこうして会いに来てくれたのだと嬉しく思い「どうかまた会いに来て欲しい」と一心に訴えた。

潜行者ホムラにも芸術家ホムラにも同様に幼少期があるためふたりは確実に別人ではあるが、こうして同じ顔同じ名前同じ炎のEvolverなのでやはり「転生後」の設定なのだとは思う。
ただ、芸術家ホムラには血の繋がった叔母や秘話では母親についても回想していたことから主人公のように「生命体」として生死を繰り返しているわけではなさそう。

ちなみに潜行者ホムラのEvolは「黒い炎」なのだけど、これは終わらない冬に出てくる死神レイの氷柱が黒いことと何か関係してるんだろうか。
レイの方は手の中で自分の「血が混じって」黒く見えたような描写もあったんで「誰かを手に掛けること」が影響してるのかと思ったりもしたが、このホムラくんを見てるとなんとなく「海が消滅しかけている」ことに起因してるようにも見えますなぁ。

尾びれ矢

次にホムラと会うことになるのは主人公の成人式典当日の黄昏時、この日時に彼が迎えに来るだろうことは3日前に魚の尾ひれのような形をした矢がそう書かれた紙を括られた状態でバルコニーの手すりに刺さっていたことで知らされてはいたのだけど、朝から晩まで戴冠式やら舞踏会やらに参加しなければならない主人公は恐らく入れ違いになってしまう彼に同じ方法で置き手紙を残しておくべきか考えあぐねている間についに約束の時間を迎えてしまう。

全てを承知していたかのような様子のホムラはバルコニーから彼女の部屋を訪ねるとまずは「尾びれ矢の正しい使い方」を教えてくれるのだけど、これはメモを結び付けて飛ばすものではなく「握り締めて相手を感じる」ことができるリモリア特有の連絡アイテムなんだそうです。

本編7章珊瑚との共鳴をホムラくんがサポートしてくれたあのシーンを連想させますよね。
ホムラにとってEvolとは決してロジカルな思考ではなく感触やセンスで操るものなんだろうなんて見解しましたが、あれは尾びれ矢の感覚だったのだな。

今から出掛ければ夜の舞踏会には間に合わないけど「行く?」と問われて迷わずホムラの手を取る主人公。彼の操る巨大な海獣の背に乗ってふたりは窓から飛び立つのだけど、これがバトル中に潜行者ホムラが見せてくれる「幻海ザメ」なのかな? まるで「魔法のじゅうたん」のようなとってもロマンチックな出発。

そうして夜まで過ごし、この日ホムラは彼女にスナネズミをプレゼントしたり、日暮れ頃には王都が一望できるスポットから夕日を反射させた宮殿の金の屋根がまるで真珠のように眩しく光る絶景を見せてあげたり、都に帰ってからは彼女の手を引いて湖の水面を歩かせてあげたりもする。

無邪気にはしゃぐ彼女にとっても満たされたような表情で「楽しい?」って尋ねるホムラの声があまりにも庇護するもののそれで、ここ心臓がイタタタてなるくらいキュンとしてしまったわ(異常

生まれて初めて「姫」ではなく「自分自身」の誕生日を過ごすことができたと感じた主人公はこれから先もずっとこんな風に彼と王宮を抜け出しては本来の自分に戻れる貴重な時間を共有していきたいと強く望むのだけど、一方で彼がこうして自分に良くしてたくさんの夢を叶えてくれようとするのは結局自分が「姫」であり「心」があるためだろうと思えば苦しくて、「心なんて要らない」「もし神様がいるなら早く現れてこの心を回収して欲しい」と願わずにはいられないのだった。

アモン

先祖代リモリアの長老をしてきたらしい白髭をたくわえた体格のいい老人。潜行者ホムラを「海神」と呼び、彼がリモリアの「伝説」や「予言」に従い過去人間に奪われたという「海神の心」なるものを取り返し故郷である海を蘇らせてくれることを信じてる。

伝説によればこうして海が干上がるのは心を奪われたかつての海神が眠ってしまったためであり、再びその力を目覚めさせるには海神の心を「完璧な状態」に戻す必要がある、ただし残された時間は僅かであり「火種は消えかけている」ため、これはリモリアにとって「最後のチャンス」ってことらしい。

スト冒頭からアモンはたびたびホムラと主人公が接触するのを暗がりから監視しており、また誕生日の夜は彼女を見送った後のホムラに「ついに伝説の始まりの場所が見付かった」ことを告げ、いよいよ決行の時だというように「彼女心をえぐり出すための短剣」を投げ渡している。

つまりエーテルコアは本来なら海神であるホムラが持つべきものであり、またこれがあるから主人公は生命体として永遠にひとりで生死を繰り返す人間となったうえ、ホムラの方は長らく「海神として不完全な状態」だった、ってことなんだ…?

序盤はもちろんアモンと目的を同じくしていた潜行者ホムラは、とは言え「彼女の力はまだ完璧じゃない」ということであの手この手で主人公の中に眠る古い記憶を呼び起こそうと試みていたのだけど、彼女と過ごすうち徐に当初の決心は鈍り、「だけどもし伝説の方が間違っているとしたら」などと迷いや躊躇さえ生じ始めている様子。

海神の書

リモリア人が「伝説」や「予言」と呼ぶのは全て「海神の書」なるものに記されている事柄であり、それは歴代の海神が特別な方法で自らの予言を書き残したらしい「石板」として伝承されている。

リモリア遺跡0065号石板残篇という海神の書には、「リモリア人が真の力を得る方法」として、「運命の相手の魂を見付け愛し合う」ことや、「もっとも純粋な口づけが捧げられるときにその心臓をえぐり出す」ことなどが綴られているもよう。

リモリア人たちはこれを読んで念願の心を取り返すにしてもまずは彼女が海神と「愛し合う」状態にならなければ「完璧じゃない」って解釈してるのかな?

歌島

誕生日の夜アモンが「場所を突き止めた」と話していた「海神の伝説の始まりの地」であり、今世の主人公が幼い頃から「何度も夢に見ていた」らしい、恐らくかつては海に浮かぶ孤島だったであろう今は砂に埋もれた旧跡。

ホムラは一族の目的を果たさんとしてついにここへ主人公を連れて来るのだけど、砂から露出した遺跡内部を歩くうち「確かにここには見覚えがある」と確信した主人公が一心不乱に砂を掘り何かを探し始める様子をそっと見守りつつ時に取り静めるような素振りを見せたりもするホムラ。

そうして彼女が掘り当てたボロボロになった石板はとある「海神の書」の一部であり、ホムラが言うには「海神と契約を結んだ者だけがこれと会話をすることができる」らしいのだけど、それには恐らく海神であるホムラと契約者である主人公の「血」が必要になるようで、ホムラは主人公の手に尾びれ矢を握らせ、また自分も一緒にこれを握ることで手の平を切ってふたりの血が混じり合うようにして石板に注がれるのを、そこに刻まれた文字が血に反応して光り出すまでじっと続けてる(痛そう

海神の書は人間には解読できない記号のような古代文字で綴られていて主人公はこれを読むことができないのだけど、その中のある記号が恐らく自分を指し示す単語であることだけはなんとなく感じることができ、「ここには何が記されているのか」「自分に関係のあることなのではないか」とホムラを問い詰める。

ホムラは言いにくそうに言葉を詰まらせながら、「海神は自らの手で最愛の人を殺し失ったものを取り戻さなければならない」「でなければこのまま海は枯渇する」と告げ、自分の血とEvolを用いかつての海神が人間の少女とある契約を交わしたまさにその瞬間の様子をまるで記憶の断片のような映像にして見せてくれる。

ここはシンプル文字だけの描写になってますが、恐らく心を失うことになる海神と、たぶん転生を繰り返すようになる以前の主人公の間には、「もっとも敬虔で唯一無二の信仰が欲しいならそれ以上に特別なものと交換しなきゃ」「じゃあ海神の心をあげる。受け取ってくれる?」だなんて、「結婚の契り」以外の何物でもないようなやり取りが繰り広げられているのですよね。
リモリア人たちが「奪い取られた」と思い込んでいる心は恐らくこうして恋に落ちたある時代の海神が「愛してるよ」「君も愛してる?」「どれくらい?」「あなたと同じくらい」みたいな感覚で自分から人間に捧げたものだった、ってことなんだろう。
てことは、実は誰よりも最初に出会い主人公と恋をしたのがホムラくんだったってことなんやな?

これに全てを思い出したかのような様子の主人公は、目の前のホムラに向かい「あなたは本当に神の心を私にくれていたんだ」と驚き語り掛け、意を決したように彼の短剣を自分の胸にあてがうと、「あなたは私のもっとも敬虔な信仰を持っている海神だ」「この心はそのためにある」「あなたに返す」と訴える。

一方ホムラは「僕はそれを望まない」「結末が変えられないのならいっそなかったことにする」と主張し、石板に記された主人公を示す単語をすべて黒い炎で焼き尽くしてしまった。

すると主人公の中から「ホムラ」に関する記憶がみるみると抜け落ちていき、今正面に立ち自分に向かって「さようなら」「海神の花嫁」と囁き掛けるこの男性が一体どこの誰なのかさえ一瞬にして分からなくなり、次第に意識が遠のいて、気が付くと主人公は宮殿の自室で眠りから目覚め翌日の朝を迎えていました。

鯨落都

「彼女の心臓をえぐりたくないばかりに自分の命に火をつけたのか」「海神の書を強引に書き換えた海神は初めてだ」などとアモンに窘められたホムラは、「たとえ海神が存在しなくとも一族が故郷に戻れればそれでいい」だなんて答え、王都を離れ果てのない砂の海からリモリアの故郷である「鯨落都」を探し当てる旅に出ることを決意する。

完璧な状態になった海神の心が海の命そのものなのだとすればこれでもう2度と海は蘇らないし海神が再誕することもないのだろうが、きっとそれでも花嫁にしたいほど愛した人の心臓を何度も転生した自分の手で取り出すことなんかよりよっぽどいい、って想いなんだろうか。

スト内でホムラくんは「記憶力の良さが僕たち海洋生物のいちばんの長所だ」なんて言ってたりもするのだけど、もしかしたら海神が本当に心から彼女を大好きだったその感情や感覚みたいなものは幾度生まれ変わっても彼の中にだけはずっと残り続けてるのかも知れないですね。

思い返せばスナネズミをプレゼントしたあの日も主人公が危うく自分に触れそうになる瞬間何かを想うような目でじっと見つめてきたり、かと思えば突然泣き出しそうな表情で目を伏せてしまったり、心臓の鼓動を確かめようと不用意に触れる彼女を「むやみに触らないで」と制したり、「一定の距離を保っていないと彼女への想いが再燃してしまうからなのでは」と思わせるような描写はたくさんありました。
それで言うと臨空市の芸術家ホムラくんにはこういうのもっと見覚えがあるかも知れん。

深空伝説

石板から名前を消されてしまったことで恐らく今世彼女の生きる活力のようなものになっていたはずの「幼い頃リモリアの少年と交わした約束」や「一度も見たことがないはずなのに何度も夢に出てくる海を見てみたい」「そうすれば自分が一体何者なのか知ることができるかも」なんて想いもすっかり失せてしまった主人公は、ついに「王宮を抜け出したい」なんて衝動に駆られるようなこともなくなり、「抜け殻のようになって」数日間を過ごしていました。

が、今ストのエピローグは枕の下に尾びれ矢を発見した主人公があらゆる痕跡から消されたはずの全ての記憶を奇跡的に取り戻し、ついに自分の足で王宮を抜け出して、尾びれ矢からその気配を感じ取り出発をためらっていたホムラに追い付くと、「もう王宮には戻らない」「あなたについて行く」と宣するシーンで締め括られます。

ホムラは心底驚いて、「よく考えたのか」「いつか僕は君の心臓をえぐり取るかも知れない」と忠告するのだけど、「もし本当にこの心臓をえぐり出してくれる神様ならなお連れて行って欲しい」と懇願する主人公に、「一緒に鯨落都を探しに行こう」「海が見たいと言っていたでしょ」と彼は応えてくれました。

彼女にとって海は古い書物の中で描かれる青く澄んだ水の中で魚たちが戯れ合い色彩豊かな貝や珊瑚が溢れる宝箱のような場所であり、またこうして時海への空想を語り「見てみたい」と漏らす彼女をホムラは決して「もう見れないんだよ」「干上がってしまったんだよ」って哀傷ではなく「そんなイメージで海を語る人には長らく会っていなかったなぁ」なんてポジティブな想いで眺めていたりしたんですよね。

その瞬間、彼が少年時代に彼女に送った約束の証である青い小魚は息絶え、恐らく「抜き取れば命令を聞くようになる」だなんて言い伝えのあった「逆鱗」にひっそりと姿を変えているのだけど、これも本来はリモリア人の方から捧げられるものだったってことなんだよな? 本当に庇護欲のかたまりと言うか、神様なのに逆に捧げることが大好きな一族なんやな…

ちなみにそこへ突然「こうして姫と海神はついに出会いました」「深空伝説金砂の海第1巻」とかいう謎アナウンスが入ってまじで一瞬なんのことやらだったんやが、なんか聞き覚えがあった気がして恐らく本編プロローグ部分に当たる1章0話見返してみたら14年前に深空トンネルの向こうから受信されたパルス信号なるものを文字に起こし小説にしたものが「深空伝説」だったんですねぇ(いまさら

金砂の海第1巻はいったんここまでだけど、少なくとも今世の主人公がその寿命を終えるまではホムラとふたり旅をしながら第2巻、第3巻と物語は紡がれていたであろうことを祈ります。

予言の信憑性

このストを読んでどうしても腑に落ちないのが「なぜ海神はそんな大切な心を簡単に人に渡してしまったのか」ってところです。

予言をしてるくらいなんだから「いつか返してもらえないと海が枯渇しちゃう」って始めから分かっていたはずだし、とは言え海神の書から名前を消されたことで記憶を失ってしまった主人公が見た夢の中では、海神は少女の手を引いて果てしなく広がる海の上を歩き、口づけを交わし、そうして海の全てを彼女に捧げ、これが彼の長い人生において「もっとも幸せな1日だった」って言うんで、「たとえこの先一族の繁栄を犠牲にすることになろうともたったひとりの少女に愛を捧げたかった」ってことならそれはそれで情緒的なストーリーなのかな、とも思うんやが、海神信仰を土着宗教に持つ中国や韓国発祥の物語だって考えるとやっぱり少し違和感を覚えるのですよね。
日本人で言うなら天照大御神がひとりのイケメンにおてんとさんあげちゃってあとは全員凍死するだろうけどいろいろヨロシクな、って書き置きしてるくらいヘンです(そのたとえがヘンです

愛という現象を「学術」として論理的に捉えたとき、もちろん様な学問において様なロジックが存在するので決して一概には言えないのだけど、たとえば古代ギリシャでは神の愛と人間の愛は別の性質を持っていたし、キリスト教的見地であれば愛って3種類あるし、1900年代ドイツのある哲学者はさらに4種類あるとも説いている。

人間的な愛の代表的な特徴としては、それは対等な関係から生じるものであり、「あなたと私はひとつではない」し、愛は「私の意志によるもの」であって、あなたの幸せを願うのも「この私」だというように、独立性や自律性を持っている。深空で言えばセイヤの果たそうとしてる愛が至極人間的なものってことになるんだろう。

一方で「あなたと私」という2生命が結合し「私たち」という新しい人格になることでたとえば喜び、糧、財、心、一方が何を手放して相手に与えてもどちらかが損をするという概念が生まれないどころかむしろ「総量が増える」という性質を持つ「融合の愛」というものも存在する。海神の愛はこっちなんじゃないかなって。

つまり「海神の心」はホムラと主人公どちらが持っていたとしても本来であればこれは「私たち」のものであり全うできれば海が枯渇するような事態にはならなかったんじゃなかろうか、問題は「心を捧げた」ところにあるのではなく融合したはずの愛が「決別してしまった」ところにあったんじゃないか、という解釈です。

このストで度描写される今世の主人公が過去何度も夢に見ていた「歌島」のイメージは、「暗い空の下灰色の海が荒れ狂い高波が打ち付けられる孤島の湿った部屋で孤独と戦いながら何かを繰り返している」「いつか誰かが海からやって来てこの檻から救い出してくれるはずだとぼんやり感じそれを待っているようでもある」と語られます。
何やら第三者によって恐らくふたりは引き離されていませんか…?

また、石板を改編する直前潜行者ホムラは「予言なんて人が見た夢でありでたらめだ」「信じるべきじゃない」なんて口にしてますが、仮にも前世や前世の自分の予言を本能的に「疑わしい」と感じるのもちょっと不思議ですよね。
と言うか、そもそもあんなに少女を愛していた海神が後世にそんな予言を残しているということ自体なんだか妙です。

ぶっちゃけ「リモリア遺跡0065号石板残篇」にある「リモリア人が真の力を得る方法」は「心臓をえぐり出す」下りさえ削除すればまるで愛する者と「私たち」という新しい人格になって「融合の愛」を貫いてくださいね、とでも言わんばかりのメッセージに様変わりするんで、ワンチャン海神の書は誰かの手によってすでに改ざんされているし、仮にそれが「海神の心」なしにはできないことなのであれば主人公が歌島で繰り返していた「何か」とは第三者が「予言の書き換え」を行えるようにするための作業をさせられていたってことなんじゃないか、とまで個人的には感じてしまいました。

ま、全部妄想ですけどねぇ(お約束

赤い珊瑚

となると芸術家ホムラが本編の主人公に思い出して欲しいのはもちろんあの指切りの約束でもありそれ以上にこうして互いに何度も生まれ変わる前確かに愛し合っていた頃の記憶の方なのでしょう。恐らく彼もこのスト冒頭潜行者ホムラが試みていたように予言や伝説に従って「彼女の心を完璧な状態にする」ということをしたいはずです。

本編7章「ワンダラーのコアを絵の具の顔料にする」だなんて適当言って「赤い珊瑚」との共鳴を促したのも当然それが目的だし、今スト読んだらもしかしてこれかつてのホムラと原初の主人公の「混じり合った血液が結晶化したもの」なんじゃないかって気もしてきたな…
ただ2章読む限り珊瑚からは微弱な特異エネルギーが感知されてたらしいし、指間の流星セイヤによれば特異エネルギーは人間のエネルギーが星核エネルギーに変換されるときに生まれる粒子らしいので、じゃあフィロス星由来のものなん? って気にもなるんやが。

そう言えば本編2章初めて珊瑚から幻影が出てくる瞬間を見たときホムラくんは「だからあのナイフで怪我をしたときに変な音がしたのか」なんて言ってましたが、これは今回アモンがホムラに投げ渡した「彼女の心臓をえぐり取るための短剣」と同じものだったのかな?

いずれにしてもこのストが成立してるってことは芸術家のホムラくんはハンターの主人公ちゃんには「結局何もできなかった」ってことなんだよね。
秘話でも語ってしまったが、芸術家ホムラは潜行者ホムラと比べてもやっぱり根は怖がりでおぼこいなぁと感じるよ。

なんだろう、確かにどこか畏怖を感じさせるものがあるし7章では「王者の風格がある」だなんて感想も綴りましたがいざ「本当に海神だよ」って言われるとそれにしては駄っ子だしやんちゃだしピュアでかわいいなって思いますw