空に堕ちる
空に堕ちる

恋と深空を宗教思想史オタクがのんびり考察しています。

ネタバレを多分に含むうえ、新しく開放されたストを読むたびに考えが変わるため我ながらお門違いなこともたくさん綴ってあるのですが、プレイ記録も兼ねているため敢えてそういうものも全て残したまま書き進めております(土下座

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花束と挽歌

こちらのストーリーは本編8章直後のホムラくんが「テイラー」という友人の所有する個人庭園を訪れ「気に入った花を選び花束にしてもらう」なんてやり取りを主軸に展開していきます。
テイラーはジュエリーデザイナーとして活躍する傍ら絶滅の危機に瀕した動植物を救うための慈善活動も行っているらしい男性で、プライベートなその庭には一般的なフラワーショップではあまり見かけないような珍しい花もたくさん咲いているもよう。

誰かのために花を選ぶのはその人を分析する過程でもある、なんてロマンチックな持論を掲げるテイラーにホムラは「僕はなんとなく雰囲気で選んでいるだけ」「そんなに奥深くない」なんて言ったりもするのだけど、このストだけじゃなく深空は全体的に「花言葉」にめちゃくちゃしっかりと意味を持たせますよねぇ。

読み終えた後にそう言えばと思い立ち花言葉をググってみてそこに込められた想いや秘めた願いみたいなものを知りさらに心が動かされる、というのはすでに何度も体験している気がしますが、もちろんそこまでがワンセットになって初めて「読了」って想定なのでしょう。

ヒスイカズラ

秘話に登場したホムラの叔母タンレイはどうやら人間の男性と婚約してるらしく、テイラーの庭園を借りてささやかなガーデンウェディングを準備しているホムラはどうやらこれをサプライズで進めておきたいようで、「結婚式には参加しない」なんて彼女に伝えていたみたい。

「どうして祝福をケチるのか」と不服げに電話をかけてくるタンレイに「昔あなたが契約を交わしたとき祝福したじゃないですか」「何度もするのは無意味です」と反抗期の男子高生のような返答をするホムラ。
「何度もとは何よ」「誰もがあなたのように幸運に恵まれてるわけじゃないのよ」ってタンレイは言い返すのだけど、これはたとえば以前の結婚相手はリモリア人であの事件で死別してしまってるとかそういう…?

それともリモリア人は海神とか関係なく全員あの0065号石板残篇にあった「人類から捧げられる心」を求めるのかなぁ。「契約を交わす」ってのが結婚を指してるのかあの逆鱗の約束のようなものを指してるのか最終的に心臓えぐってしまうのかいろいろと不分明ではあるが、いずれにしても相手は必ず「人間」と相場は決まってるんだろうか。

なんやかんやでサプライズは途中でバレてしまうがウェディング当日は装花やブーケまで鮮やかな青緑色をした「ヒスイカズラ」でコーディネートされ、こだわり屋ホムラがプロデュースを担ったその会場にとっても心弾ませてくれるタンレイ。

式にはホムラのよく知る人もあまり知らない人もリモリア人の生存者のほとんどが出席しており、それは「スーツで来なくて良かった」と感じられるほどカジュアルな雰囲気で、「あの災い」以来会っていなかった楽師が古いリモリアの楽器を演奏し、タンレイはくるりと回るたび裾が開いて軽やかに泳ぐ魚のようになる「パートナーがデザインしてくれた」らしいドレスを着て裸足で踊っている。
テイラーが準備してくれたジュエリーもヒスイカズラとマッチしてるって言ってたけど、ドレスも翡翠色なのかな? 庭も南の島の海の中みたいな配色になっているのだろうな。

とした音楽に美しい歌声、そうして過ごすひとときの幸せな時間でさえ、一族の笑顔にはどれも灰色のベールがかかっている。
円卓で新郎を眺めながら「とても普通な人ね。池に投げ込んだら見付からなくなっちゃいそう。ましてや海なんて」「タンレイは海でいちばん輝く真珠なのよ。彼女を見付ければ一緒に彼も見つかるわ」なんて女子たちがトークしてるんやが、これも「今だけはあの惨劇も全部なかったことにしてふたりがこれから奪われてしまったはずの故郷の海で幸せに暮らすテイでお喋りしよう」っていう傷の癒し方、なのかな。

そうして宴もたけなわという頃、ホムラはついに「レーウィンが死んだ」ことをタンレイに報告し、またこれを受けたタンレイは努めて笑顔で「しばらくは安心して眠れるね」って答えるのだけど、ホムラは安心が決して長くは続かないものであることを強調するかのように「ええ、しばらくは」と反芻する。

タンレイはホムラがようやく「心が飲み込まれそうになったときに引き留めることができるもの」を見付けたはずなのに「それを持つことが大事だと理解していない」ことを案じてる。
自分がこうして結婚を決めたのは過去を忘れてしまいたいからではなく「過去に生きていたくない」ためであり、パートナーは「自分が立ち続けるための支え」である、そして「ここにいるリモリア人たちもみんな支えを探している」と言葉を紡ぐのだけど、「リモリアのことの方がもっと大事だ」と首を横に振るホムラ。

なんとなくだけど秘話でタンレイが言いかけて飲み込んだ言葉も似たような内容だったのだと思うし、ホムラが主人公を「支え」にして過去ではなく現在を生きることができるようになることをタンレイは望んでいるのだろうなって感じるんやが、じゃあこの時代のリモリア人たちはもちろん故郷が恋しいけど前を向いて陸で生きていく道もあるよねってスタンスなのかなぁ。
それどころじゃない惨劇に見舞われてしまった世代だからなのかも知れないが、誰も「海神」や「心」のことを気に掛けているようには見えないな。

ちなみにヒスイカズラの花言葉は「私を忘れないで」だそうです。リモリア人はホムラに限らずみんな記憶力がいいのかな? 忘れられてしまうことがトラウマなのは彼だけでなく一族の性だったりするのだろうか。

プルメリア

素敵なガーデンウェディングを提供してくれたテイラーの庭を再び訪れたホムラは今度は「親戚の娘さんに贈る花を探しに来た」と言い山吹色をしたプルメリアの花を気に入った様子で眺めてる。

プルメリアの花言葉は「自由、幸福、そして再生」であり「入学式や誕生日パーティーには最適」だとテイラーはアドバイスするのだけど、「じゃあぴったりだ」「これの花束を作って」って嬉しそうにお願いするホムラが続けざまに「彼女の葬儀に持って行く」「彼女の父親はもう自分で彼女に花を渡せる機会がないんだ」なんて言うのでぎょっとして「葬儀に持っていくにはちょっと…」なんて困惑してしまうテイラー。

しかしホムラはとにかくそれが「ぴったりだ」と言い張りプルメリアの花束を持ってある葬儀場へと足を運ぶのだけど、これが臨空市郊外の邸宅の大広間で行われたレーウィンの葬儀、なんですよね。
そして彼を弔うフリをして大広間にある人魚の骸骨が飾られた水槽にちょうど花が向くよう花束を献花したホムラはその花と同じ方向を向きながら心の中で哀悼の言葉を唱えるのだけど、いや、なんかもうむっちゃ涙止まらなくなってスト読み中断してしまったじゃないか…

2章でも7章でもまさかこれは本物の骨格標本ってわけじゃないよな? とかのたまってたわたしはただそうじゃないと言って欲しいその一心だったのよ。涙

恐らく秘話で「K」がされていたように人魚の姿を強要され血を抜かれウロコを毟り取られ、しまいには皮を剥がされ内臓を取り除かれ肉を削ぎ落されこんな姿になって「アート作品」だなんて呼ばれていたのかこの子は、って思ったらあまりにも惨たらしくて痛ましくて目を覆わずにはいられないっていうか、何よりこうやって凛然と弔問して花を手向けられるホムラくんはやっぱり一族を背負って立つ人であり本当に立派だなって思うし、わたしが彼ならこの水槽を直視することもできないだろうし、ああこうやって思い出して感想書いてるだけでまた泣けてくる…

このプルメリアは長い不自由と不幸からようやく解放されてまた生まれておいでっていうホムラからこの子へのメッセージなのかな。涙

グロリオサ

タンレイは恐らくファッションデザイナーであるご主人とビロノで新婚生活を送っており、ホムラは白砂湾に拠点を置きつつも時折ふらっと彼らを訪れたりしてるみたいですね。
ビロノの路上でさまざまなパフォーマンスを披露している大道芸人たちにふと目をやると、音楽、色彩、舞い上がるシャボン玉に包まれた彼らの中に見知った顔を見付け、先日結婚式でタンレイが弦楽のような声で放った「ここにいるリモリア人たちもみんな自分が立ち続けるための支えを探してる」という言葉を思い返しながら彼らに手を振り、また彼らの願いが叶うよう祈りつつ帰路に就くホムラ。

そうして臨空市に帰って来ると彼は思い立ったようにもう一度テイラーの庭を訪れ、「ある人にあげたいんだ」と言ってグロリオサの花束を依頼する。
ある時ホムラのスマホに主人公ちゃんの写真を発見し「好きな人に花を贈るのは両想いになることを求めてる時だ」「いつかそんな花を贈りたくなったらぜひこの庭を訪ねて欲しい」なんて伝えていたテイラーは、ついにホムラが心の中にひた隠している「誰にも言いたくない人」に花を贈る決心をしたのだと推断し、とは言え「この花はむしろ君自身のようだ」「自分をその人に捧げたいということか」なんて情緒たっぷりに解釈してる。

一方ホムラは「ほとんど重さを感じない」というその花束を持ち帰り、これを「心が飲み込まれそうになったときに引き留めることができるもの」として持っておくべきか、いっそ彼女に贈ってしまうべきか、延と自問自答を繰り返していました。
ホムラくんの葛藤もまた「孤独な戦い」ってことなんでしょうな…

ちなみにグロリオサの花言葉はめっちゃいっぱいあって「燃える情熱」「勇敢」「華麗」「栄光」とかって出てきました。写真も見てきたけど色もシルエットもめっちゃ「焔」って感じだった。
金砂の海でもめちゃくちゃ語ったがやはり「捧げたい」が根底にあるのだろうな。
テイラーに全面同意です。