空に堕ちる
空に堕ちる

恋と深空を宗教思想史オタクがのんびり考察しています。

ネタバレを多分に含むうえ、新しく開放されたストを読むたびに考えが変わるため我ながらお門違いなこともたくさん綴ってあるのですが、プレイ記録も兼ねているため敢えてそういうものも全て残したまま書き進めております(土下座

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唯一無二の赤

これはかつてプライドの高い凡庸な画家だった「トウ」の蹉跌と挫折、嫉妬と羨望、転機と友情の物語。

トウがまだ画家として情熱を燃やしていた頃、あるチャリティー絵画展で願ってもないチャンスが舞い降りた。自分の傑作が兼ねてから一方的によく知る天才画家「ホムラ」の作品の真隣に展示されることになったのだ。

トウは以前から自分の才能もホムラには引け劣らないとの自負があり、ともすれば彼よりも自分の絵画に高値が付いて一夜にして有名になれるかも知れないと期待したが、結局望むような値は付かず、一方ホムラの作品には桁違いの値が付いた。

色調がよく似たふたつの作品を見比べてみたとき、確かにホムラの絵にはどこか特別な点があると確信したが、どうしても負けを認めたくなかったトウ。
傷付いた自尊心をひた隠し、同業者であり同じ優秀な画家としてホムラを訪ね「あの絵に使われていた朱色はどこのメーカーの顔料を用いて生成したのか」探りを入れてみることにした。

しかしホムラはそれには答えず、何故そんなことを尋ねるのか分からないとでも言いたげな様子。
彼は量産されたメーカーの顔料には一切関心がないばかりか、あの絵画展で自分の作品が桁外れに高額で取引されていたことにさえまるで無関心だった。

トウはついに見栄を捨て、自分にもっとも衝撃を与えたこの天才画家に夢を託すことを決意、その日からアーティストマネジメントを学び始め、彼の右腕となった。

ホムラは自分の表現したいものに足りない色を探し求めるあまり何日も掛けて原材料を採取、さらに何日もかけて色粉を抽出、そうして僅か1gの顔料を得る間に展覧会の開催日がやって来て、出展予定の作品の完成が間に合わないこともしばしば。
このため、トウはスポンサー上層部からの催促にも怯まない臨機応変な対応力や、最悪の事態には「適当な額縁を飾り変なタイトルを付けて出す」という危うい小技まで身に着けて来なければならなかったが、一方でホムラのいちばんの理解者でありファンである自分を今はとても誇らしく思ってる。

かつて知りたかったあの朱色の価値は、こうして彼が彼だけのやり方で彼の手によって生み出す替えのきかないものであるというところにこそ生まれるものだと理解し、またこの世には「唯一無二のもの」それ以上に貴重なものはないということを知ったからである。

ティリアンパープル

深空は文系脳のわたしがもっとも苦手とする科学や物理や医学に纏わる話がホントに多いので、これは個人的に今まででいちばん身近に感じられたサイドストーリーだったかも知れません。

今回展覧会の開催に結局間に合わなかった絵画にどうしてもホムラが足したかったのは、顔料を1g抽出するのに何千という貝を採集しなければならないらしい「ティリアンパープル」という色だったのだけれど、これ本当に実在する色なのか気になってググってみたら、「貝紫色」「ロイヤルパープル」って別名が出てきました。
ロイヤルパープルは西洋だと紀元前の時代からローマ帝国やたぶん古代ギリシャのアレクサンドロス大王とかも身に着けていたもので、ただしあまりにも希少価値が高いため後世ではロイヤル「ブルー」になった、って史実だったと思います(あいまい

絵心がないので芸術については詳しく学んできませんでしたが、大きく「文化」という括りでは確かに「紫」はどの国のどの歴史にも必ずどこかで「王者の色」として登場していて、日本でも大化の改新以前もっとも位の高い冠に就いた人が身に着ける色が紫だったんじゃないかな。
いろんな文化を持ついろんな種の人たちがいろんな時代に同じ色に同じ感覚を抱いてたって思うと本当に不思議だよねぇ。

すいません脱線しました←

ホムラとトウを見てると、たとえば小説家とその編集者みたく、二人三脚で芸術活動してるような世の人たちにはみんなこういう自叙伝になるようなドラマが隠されているんだろうなって思う。

企画の構成、進行管理、経理管理、スポンサー取引、取材、制作物チェック、売り上げや締め切りに追われることも誰かに頭を下げることも全部自分の仕事なのに、常に「作家先生」や「画家先生」のような「先生」と呼ばれる人たちが浴びる脚光の陰に隠れている彼らの中には、実際にトウのように挫折を経験し「その道を諦めた人」というのも少なからず存在するのでしょう。

0から1を生み出せる人はもちろん、その1を100にできる人も同じく「唯一無二」だよなって改めて感じました。
みんなかっこいい。