デコヒーレンス
こちらは先日実装されたマヒルのイベント引力の帰す場所にてお迎えした寂路の思念育成で読むことができる伝説ストになりますが、デイリーミッション零時追跡を長らくサボっていたために開放までに過去一時間が掛かってしまいました。あまりに先が見えなかったんで辛抱堪らず最後はいつの間にあふれ返っていた「突破の結晶BOX」を消費してショートカットしてみたんやが、おおよそ一年かけて貯め込んできたアイテムを短時間で大量に失ってしまったことでわたしは今若干の不安感と焦燥感に襲われているよ(しらん
人型兵器という苦手分野にだいぶ身構えてしまったが、いざ読んでみたらめちゃくちゃシンプルな判読性の高い分かりやすい物語で驚いた。と言うか、個人的には今回のストは北インドにおける周期神話をそのまま惑星科学に落とし込んだような宇宙戦記になっていて、これまでのように局所的に「この辺の神話がモチーフなんじゃないか」と思われる箇所がまま見られるなんてそんなレベルじゃなしに「これがそのままヒンドゥー教の聖典になってもいい」ってくらい複雑難解な教義や終末論がひとつも取り溢されることなくすべて正確にこちらの世界設定に割り当てられていると感じたよ。
いよいよ制作陣に比較神話学者が紛れ込んでないか? ぶっちゃけ神話は専攻じゃないんで語れることだいぶ少ないが、作品全体で言えばいわゆるローラシア型神話群におけるメジャーなものからマイナーなものまで宇宙と世界の起源のパターン・秘儀宗教・神秘主義・秘教伝統、ときに聖典の歴史も絡んでいるし、相当研究してなきゃ真新しい現代SFでその煩雑な概念をここまで正しく精密に描き出すって不可能だと思うのだけど、仮に一切関係ない参考にもしていないがオリジナルの宇宙論を展開していたら偶然一致していたって話ならまじで奇跡だと思う。
とにかくすごく面白かった。乙女ゲームのいちサイドストーリーとしてある悲恋の物語に収めてしまうのは本当にもったいない。世界中の人たちに読んで欲しいです(何様
フィロス文明衰亡史
物語の舞台となる今回のフィロス星はたとえばひとりで無限に生死を繰り返すことができる彼女を利用することで星や人々の永続が叶う指間の流星のフィロス星や、彼女の持つ「純真無垢な心」が星と人類に不滅をもたらす金砂の海のそれとは少しニュアンスが異なって、「人間の欲望」が生み出した「永遠の命」が繁栄させた文明、つまり先端医療や科技の力で「不老不死」を実現させてしまった世界なんじゃないかなって思ったりなんかする。
全体的に「故郷」と呼ばれるある場所を「再現」しているのがこの星であるかのような言い振りなので、本編地球における「天行計画」のようなものがさらに飛躍して人類が本当に恒星に匹敵する科学エネルギーを開発し「天行市衛星群」と同じ原理で惑星や衛星をも人工的に生成し定住する、という宇宙文明に至っているのかなと。
ワンダラーやコアが存在するんでもしかしたら「人間の生命エネルギーが星核エネルギーに転換される」ということも起こっているのかも分からんが、このフィロス星に限って言えばそれはコアテクノロジーが産む利益の代償であるまだ見ぬ黎明「病変体」に近いものなんじゃないかって気もするよ。
永遠の命はフィロス文明に長き繁栄をもたらしたが「欲望が極限まで膨張したことによる停滞を解消することはできなかった」とは実に端的に述べたもので、社会を発展させたい、便利な暮らしがしたい、労働は機械に任せ楽をしたい、生態系を操作して害虫や害獣を絶滅させたい、遺伝子を組み替えて欠陥のない完璧な存在になりたい…、そんな際限ない人間の欲望を叶えるのがテクノロジーであり極限まで膨張したそれが永遠の命なのだけど、これが叶ってしまったら最後人類は新たな知を得る動機を失ってしまいますからね。今日できることは明日もできること、100年後でも200年後でもできることとなれば当然「停滞」は訪れて、一方で破壊的イノベーションが人間の限界を踏み越えているのだから文明の覇権を握っているのは人ではなくテクノロジー、自治能力を失った社会には「戦乱」が起こるのだろうと思います。
フィロス星という「帝国」の政治体制は恐らくハイテク産業を牽引する少数者が独裁的に築いてきたものであり、現在は中心地域に住む上流階級にこそ厳重な監視による支配が及んでいるがそこから少し離れれば至るところで反動化に伴う政争が勃発し、かつて栄華を極めた未来都市は見る影もなく絶え間ない戦火に焼かれ荒野と化しているような状態。
終末を前にした政権は「強力な秘密兵器」に頼り各地反乱を鎮圧することで辛うじて権威を保っていると言うが、その秘密兵器というのが実験室で人体改造を施されメカスーツなるものに身を包む戦闘人形A-01、今ストにおける主人公という設定です。
X-02
事毎に戦場へと派遣され地下施設に戻れば実験カプセルの中スリープ状態で修復やメンテナンスを受け必要に応じ意識も操作されているというA-01は、ある夜実験施設が反乱軍に攻め入られセキュリティシステムが攻撃されたことで制御下から離脱した同じく戦闘人形の「X-02」によって目覚めさせられ、出し抜けに「お前の兄ちゃんだ」と名乗るその少年に「一緒に逃げよう」と手を差し伸べられた。
A-01は幼い彼が「自分と同じくらいの年齢に見える」と言うが、こちらのふたりも本編と同じように7歳とか9歳の頃にはすっかり実験所の管理下に置かれ人体改造はそこから数年の間に完了しているようなイメージなのかな? 幼い子どもが敵軍を一掃する最強の武器だとはすでにあるべき倫理性や社会道徳がまるで機能していない世界であることも伺える。
彼女は誰もが恐れる自分に「誰かが手を差し伸べている」その状況に疑問を抱きながらも直感的にその手を取って導かれるまま地下通路を辿り「生まれて初めてはっきりとした意識のもと実験室を出た」と言うんやが、戦闘人形は拘束を解かれ「目覚める」ということが起これば一応「本来の自分の意識」というものに従って動くことができるのだな。
ようやく地上に出たふたりは果てが見えないほど広大な荒野を一晩中歩き続けることになるが、実験室の外は「戦場しか知らない」うえ戻されるたび「記憶を剥離されている」という彼女が外気に触れ夏の夜の蒸し暑さやふくらはぎを撫でる長い草の葉の感触に新鮮さを覚えている一方で、勝手知ったる調子でそれらについて解説してくれるX-02は同じ戦闘人形でも「記憶を剥離される」という工程なく管理されてきたのだろう。
そうして歩きながら間もなく夜が明けるという頃、X-02は「自分も派遣されたことがある」というある砂漠の戦場を思い起こしながら、多くの兵士が栄養補給のため戦地で収穫し口にしていたという「銀輝樹の果実」なるものが淡く銀色に光る珍しい果物であるということを彼女に語り聞かせ、「記念に一粒持ち帰って来た」というその果実の種を取り出して見せてくれたりする。
細やかな模様の隙間から光が放たれるその不思議な種を見て「果実はどんな味がするのか」と尋ねる彼女に「知りたいなら探しに行こう」「お前にも行きたい場所ができた」と返答する少年。
その表情はホログラムゴーグルに覆われていて読み取ることができないが、「お前の行きたい場所がオレの行きたい場所になる」「行きたい場所へ連れて行ってやるのが兄ちゃんだ」と続ける声は確信に満ち澄んでいて、その瞬間地平線から淡いオレンジ色に染まり始めた白んだ空はまるで少年の明るく優しい語りべがもたらした現象のようであり、朝露が一斉に輝く「いつもと違う朝」に思わず足を止め太陽を見上げた彼女はその景色を「マヒル」と表現し彼を指差してみる。
彼女を戦闘人形たらしめる記憶剥離のプログラムとは実は既知のワードにしか作用しないものであるといい、「マヒル」という造語はこれまで彼女を支配してきた何ものの手にも及ばない初めての「自分だけの記憶」であるとも言え、これを喜ばしく思うX-02はその「マヒル」を自分の名前にしたいと申し出て、これから毎日マヒルは傍で彼女が誰のものでもない自分だけの体験を重ねていくのを見守る存在になると約束、その証にする「指切り」についても実演を交えつつレクチャーしてくれる。
しかし、結局ふたりは荒野を抜ける前に追っ手の襲撃に遭い負傷して捕らえられ実験施設へと連れ戻されることに。彼女をかばい致命傷を負ったマヒルが引きずられていく様子を目の当たりにしながら彼女もまた血だまりの中に倒れ意識を遠のかせていくのだが、どういうわけか手を伸ばせば届く位置に先ほどの「銀輝樹の果実の種」が現れて、彼女は最後の力を振り絞りこれを握り締めながら気を失っていった。
なんだか花浦区の爆発でマヒルのネックレスを拾い上げた彼女を思い起こさせるようなワンシーンである。種もネックレスもマヒルが瀕死の状態でEvolを使い彼女に託す「忘れないで」や「傍にいる」あるいは「また会いに来る」のメッセージのように見えるけど、もしかしてこの種もネックレスと同じように元は「彼女から贈ってもらったもの」であることを示唆しているのかな?
種を手に入れたその砂漠は「戦場」だったと言うのでワンチャン彼女も兵器として一緒に派遣されていたんじゃないかと思うんやが、言われてみれば道なき地パイロットのマヒルもトンネルの中で夢に見た「淡い銀色の光を帯びた一粒の種」を「初めての小さな贈り物」であると直感していたような気がする。
いずれにしろマヒルの物語もまた「彼女が忘れ去ってしまっているふたりの間に交わされたたくさんのやり取り」を彼だけが思い出として抱えてるって話なのだろうな。
こうして地下施設に連れ戻されたふたりはこの脱走を境に完全に隔離され以前より厳重に管理されることとなり、「破壊」のエネルギーシンボルを持つというA-01には全面的な修復とさらなる強化改造が施され、また「新生」のエネルギーシンボルを持つX-02はそもそも「A-01の修復や改造」のために消費される機体として存在しているかのような雰囲気。
彼女はそれから10年もの間ひたすら戦場と実験室とを行き来して記憶は再び断片的な殺戮の景色で埋め尽くされていくことになるのだが、「真夏」という季節と太陽の象徴たる「昼」という既成語を組み合わせた「マヒル」の名は記憶剥離のシステムに検知されないまま、これに付随する明るく優しい少年のイメージや夏の荒野の匂い、草の葉の感触、銀色の種、昇り始めた太陽、小指を絡めた感覚もすべて「霧のよう」であるとは言え漠然と彼女の中に留まり続けた。
それは無限に回想される凄惨な状景に苛まれる彼女が混沌とした記憶の中で唯一「息をつくことができる」場所のようでもあり、彼女は恐怖や混乱に襲われるたび縋るように「マヒル」の名を唱えこれに耐えていた。
同じ源
地下施設がもう一度反乱軍の奇襲攻撃に遭いマヒルが再び制御下を離脱したとき、A-01はカプセルの中で意識混濁状態にありながらも視覚と聴覚は清明に機能し閉鎖された実験室が崩れ騒然となる様子を認識していた。
マヒルは彼女に歩み寄り「お前を目覚めさせる」と宣すると彼女の喉元にあるという「結晶スイッチ」なるものに触れ飛び出したホログラムパネルを数回タップすれば彼女の身体には一瞬で霧が晴れたように「意識」が戻ったと言うが、すると戦闘人形とは本編ルイのチップや人体外付けデバイスみたいな器機に「結晶感染」に似た症状が掛け合わされたような技術によって改造されているのかな? 意識に侵入する何かが「結晶」と連携しているように見える。
今回の謀反は前回よりも規模が大きく中心地全域が混戦状態に陥っているといい、反乱軍勢もいよいよ秘密兵器A-01を劫略するつもりで侵攻していることからどうやらこれが成功するか死ぬか「連れ戻される」という選択肢を持たない「最後の脱出」になるであろうことを覚悟している様子の彼は取り急ぎ自分が「兄ちゃん」でありふたりにとって今回が「初めての脱出ではない」ことだけ理解していればいいと手短に状況を説明するが、見知らぬ人のようでどこか懐かしいものを纏っているその男性が「マヒル」であることを感じ取った彼女は「覚えている」「一緒に逃げないと」という思考に至り彼と共に実験室を後にする。
ふたりは恐らくマヒルがひそかに用意していたであろう隠し地下倉庫の飛空艇に乗り込み雲の中へと飛び立つが、反乱軍も政府軍も共に狙いはA-01であり機体はこれを包囲する200機を超える敵機に集中砲火を浴びる展開に。
操縦を彼に任せてひとりでこれに応戦しようとする彼女を制し、マヒルは自分のEvolが引力の制御により機体を操り身体を浮かせることができるものであることを示しながら「オレがお前を手伝う」と提案、彼女と共にコックピットを飛び出しふたりは身ひとつで飛行編隊を迎え撃つのだが、ははーんなるほどな? ルイ教授の想定する「一振りの扱いやすい武器」とやらはそもそもこういう艦対空戦のための対空兵器みたいなイメージだったのか。だから艦隊なんか編制してるし航空戦術大会優勝だとかそういう経歴に血沸き肉躍るのだな。
彼女はマヒルに背中を預けながら「浮遊ブレード」と呼ばれる黒い大剣のような対空砲を解放し空を覆う大軍勢を一機残らず撃ち落としていくのだが、まるで光の網のように放たれるミサイルやレーザー砲をすべて避け切ることはできず、被弾して損傷した身体はかつてない程の疲労感に襲われる。
マヒルは脱力する彼女を抱き留め飛空艇に戻り操縦を自動モードに切り替えると、深刻な損傷が見られるという彼女の身体を「修復する」と言い、互いの手の平の位置に設けられた転送用の差し込み口なるものを接続し「新生」のエネルギーを送り込み始める。本編ふたりの手の平が重なり合うような描写はすべてここに結わえられるというわけだな。
以前から「お前が戦場から戻るたびにこうして修復していた」記憶があるマヒルとは異なり「意識を剥離されていない状態で修復を受けるのは初めて」だという彼女はその冷たいエネルギーが身体中に流れ込んでくるような感覚やそれに伴い全身の傷が熱を帯び激しく痛むことに不安や恐怖を覚えているようだけど、これも「新生」と名が付いているとは言え恐らく「結晶」を本体とした本来であれば人体に介入させてはならないエネルギーなのだろうと思う。
身体を強張らせ震わせる彼女をなだめるように抱き締めてくれる彼に身を委ねると痛みや恐怖は徐々に和らいでいき、それはまるで「自分は独りではない」と思わせてくれるような平穏が心の中に広がっていくようで彼女は安堵するが、マヒルの方はこれまで同じ手段で完全に修復できていたはずの彼女の身体が今は全力を尽くしても修復し切れていないことに気が付き息の抜けない想いでいた。
ふたりのエネルギーシンボル「破壊」と「新生」は「一方が弱まればもう一方が強くなる」という調和の関係を持つ元は「同じ源」から生まれた力であると言い、どうやらこの星の戦火が激しくなるにつれ「破壊のエネルギー」は膨張しているらしいこと、そしてこれが最初に破壊するのはその器たる彼女であるだろうことをひとり悟ってしまうマヒル。
「同じ源」とはもしかしたら彼らの特別な権能やEvolの根源に当たるものを指しているのかも知れないが、個人的にはまるで「生死を司る神の力」みたいな二極性のある超自然的エネルギーをそれこそ科学技術イノベーションによる人為的な手法で結晶化もしくは類似品を生成し適合性の高い人間の身体それぞれに配分し埋め込んでしまった、というようなニュアンスなんじゃないかって気がしちゃったなぁ。つまりこのふたりも神にさえ成り代わろうとする人間の「欲望」の「犠牲者」なのではないかっていう。
思い返せば悪ふざけアキラとカゲトの「一卵性双生児対照実験」も読了当時は「他の条件はすべて同じにしてどちらか一方にのみコアを移植することで本当にそれがコアの作用によるものなのかどうかを検証する実験なんじゃないか」とか言ってたが実は「陰陽のエネルギーを併せ持つコア」を破壊と新生のような表裏一体の相反するふたつの改造コアに分けたそれぞれに接触させられていたって話なのかも知れないし、雪まみれの階段生命維持カプセル赤と青のチューブが担う役割も強引ではあるがそれぞれ死の「破壊」と命の「新生」と言い換えることができるんじゃなかろうか。
銀輝樹の果実
どれくらい飛行していたのか中心地からは随分と離れ地上の景色がすっかり荒れ果てて広大な砂漠地帯へと差し掛かった頃、何度も加工を重ねたような味がするという「エナジーバー」なるものを「せっかく実験室を出たのだからもう二度と口にしたくない」と嫌悪するマヒルは身体を休めるのにちょうど良い洞窟群の入り口に船を乗り付けると周辺の植物からいくつかの果実を取って集め焚いた火で表面をあぶったりしながらひとつずつ彼女に食べさせてやったりする。
中にはふたりが初めて脱走を試みたあの夜「どんな味がするのか」と彼女が尋ねた「銀輝樹の果実」も含まれていて、マヒルは「やっとお前を果実のある場所へ連れて来られた」と満足げに笑いこれが「昔した約束のひとつ」であることも教えてくれるのだが、なんだかこの辺とても強調して描かれている割にだいぶ端折られているような印象を受ける。もしかして星4思念の方に収録されている秘密の時間なんかで深掘りされているのかな?
ぶっちゃけわたしはこの「銀輝樹の果実」こそが今ストにおけるマルムであり知恵の木の実でありマヒルの罪の象徴として描出されるのではないかと踏んでいたためその内の何に掛かっているでもない数ある約束の中のひとつだったことがとっても意外だったんやが、A-01が「嫌いじゃない」と言ってくれた「酸味と甘みが舌の上で混ざり微かに苦みも感じられる」その味わいを「覚えておく」と決意したそれも本編マヒルの「潜在意識」の中に存在しているからこそ彼は今「兄ちゃんの役目」としてああしてリンゴのような果物を紙袋いっぱいに抱えて帰って来るって話なんだろうか。
彼女の方はそんなマヒルと「他にはどんな約束をしたのか」思い出したいような衝動に駆られたり、初めてゴーグルを外したマヒルの瞳の色を見て記憶の中にある「ずっと昔に見た夏の太陽が昇る直前の空の色」を連想させてみたり、あるいは自分を強風から守るような位置に座り直してくれたりするこの「マヒル」とは自分にとってどのような存在であるかを少しずつ模索し始めているように見える。
実は地下施設ではふたりの実験室は「マジックミラー」によって間仕切られ「A-01にX-02の存在を断続的に認識させ感情や自我意識の動きを算定する」目的で彼女の部屋は実験カプセルから常に「ひとり閉じ込められた少年」の様子が強制的に視認させられるような作りになっていて、少年が毎夜「妹」に呼び掛け「おやすみ」と口にするのもある日「意識境界システム」なるものを用いて検索した「フィロスでいちばん幻想的な空に浮かぶ遊園地」へ「連れて行ってあげたい」なんて独り言つのもすべて聞こえていたと言うが、当時は彼が何者でそれらが誰に向けられた言葉だったのか分からなかったとも言い、マヒルはようやくこれらが改めて自分が彼女に向け発した言葉であったことを打ち明けられたことでにわかに表情を輝かせ、これからは名前を呼んで直接語り掛けられるよう彼女にも名前を付けようと持ち掛ける。
彼女はすんなり自分の名を口にしてマヒルはそれを大切そうに心の中で何度も繰り返すのだけど、これも「マヒル」同様その場で思いついた既成語を組み合わせて即席されたような造語のイメージなのかな。それとも彼女の「潜在意識」の中にも別世の記憶のようなものが存在してるんだろうか。
そうして互いを名前で呼び合い「おやすみ」を交わした夜、彼女は生まれて初めて目を覚ますことも夢を見ることもなく深く穏やかな眠りに就いた。
青い惑星
中心地からさらに離れた土地へと逃れ着く頃、脱出の際に迎撃を受けた飛空艇は度重なる故障に見舞われふたりは止む無く機体の部品調達に「リングヒル」なる都市の外れに降り立つこととなる。
以前は「中心地にも負けない賑やかさ」で栄えていたというその都市は近代的な建物の多くが劣化して倒壊し雑草が生い茂り旧市街地は空き家だらけで荒廃しているというなんとなくまだ見ぬ黎明「2034年から数えて数百年後のかつて臨空市と呼ばれた街」を思い起こさせるような場所である。
そんな過疎化した廃街で「闇商売人」をしているという年配の女性からメカスーツの二人組が飛空艇の部品をあれこれ買い取る様子は周囲の人たちからも怪しまれ警戒されてしまうのだが、「どこから来たのか」と尋ねられ口ごもる彼女に割り入り唐突に「深空の果てにあるフィロス人の起点たる星がオレたちの故郷」だと返答するマヒル。
そこには砂漠はほとんどなく住む人はあらゆる場所を旅してさまざまな景色を楽しんでいる、とまるで実際に体験してきたかのように確信に満ちた顔でそれを語るマヒルに興味深そうに聞き入っていたある少年が「そこにはこんなものはあるか」とフィロスでは滅多に見ないという「紙」でできた置物のようなものを見せてくれるのだが、マヒルはこれにも言い淀むことなく「紙はその星の生活必需品」でありそこに住む子どもたちの多くが「折り紙」でそれらを作ることができるだなんて話し聞かせ、夢のような物語をたくさん教えてくれたお礼に少年は「まだ折られていない紙」を数枚手渡してくれる。
調達した部品で飛空艇の修理を手伝いながらも彼が持ち帰った「折り紙」が気になって仕方がない様子の彼女は「深空の果てにあるフィロス人の起点たる星」について語るマヒルが実験室にいた頃「フィロスでいちばん幻想的な空に浮かぶ遊園地」について話していたその時と同じくらい「楽しそう」に見えていたようで、一方自分には「楽しい」という経験がなくそれがどんなものなのか知りたいと感じてる。
マヒルが語った「故郷の星」とは実は彼が実験室で繰り返し見ていた「夢」の話であると言い、それは果てしない「時空のトンネル」を抜けると宇宙の反対側で静かに回っている「青い惑星」で、その星の生命体はフィロス人に非常によく似ているがすべてに生気が満ちており、星そのものの持つエネルギーは常にマヒルに親しみと懐かしさをもたらす「新生の力」特有の周波数で、衰退しつつあるこのフィロス星とはまるで真逆の世界なのだそう。
この辺に関しては最終話「フィロス文明衰亡史・終章」まで読んでしまうとやっぱりわたしは周期神話に理解が寄ってしまうかな。ここだけ読むと「新生」で満たされている青い惑星が「いいもの」で「破壊」が膨張するフィロス星が「悪いもの」のように一見思えたりするけれど、青い惑星は「生」と同じ数だけ「死」が訪れる「新生」と「破壊」とが「調和」した世界なのだろうという。詳しくはこちらの記事にてしつこいほど語ってしまってるので割愛させていただくが、要は破壊が新生に敗北し「完成」する宇宙論ではなく燃焼と循環の中で両者が均衡する状態を一定の周期で「繰り返す」世界観なんじゃないかと。ふたりのメカスーツの「結晶スイッチ」はそうして調和したある「惑星のエネルギー」から生成されているのかな?
その夢はマヒルにとって「青い惑星」に住む人々の生活や景色の流れまで分かるほど鮮明で生き生きとした光景で、行った覚えはないが「夢ではなく遠い昔の記憶なのかも知れない」と思えるほどリアルなのもなのだと言うが、たとえばこちらのマヒルが定義する「兄ちゃん」とはその夢の中の人たちの文化や暮らしを垣間見ることによって確立されたイメージだったりするのだろうか? レイ先生のように「もうひとりの自分の人生を追体験」しているわけではなさそうだが、誰に教わるでなしに「同じ源から生まれたもの」が「兄妹」であり「兄」が「妹を守り導くもの」であるらしいことは彼の中で自分を自分たらしめるもっとも重要な「彼なりの人生観」になっているように見える。
すると「青い惑星」とは本当にこのフィロス星の「故郷」とされる星なのか、それは本編「地球」でもあるのか、逆に本編マヒルが幼少期自由研究の課題で再現していたあの「2千3百光年離れた超巨星」の「超新星爆発」がこのフィロス星の最期だったのか、みたいなところにもいろんな解釈が生まれていいと思うのだけど、大前提わたしは作品の中でさまざまな伝説の舞台となる「さまざまなフィロス星」はこの「誕生して崩壊へ至るすべての星が無数の選択肢によって迎える無数の結末」って書いた位置に「観測者によっては過去でも現在でも未来でもある世界」として本当は全部同時に存在しているよって話なのだと思ってる↓

過去記事の繰り返しになってしまうのであんまりくどくど言うのもあれだけど、セイヤが言うには過去・現在・未来というのは実は単なる「座標」でしかなくてこれを一方向へ移動しているわたしたちには「時間」があるがそうでない場所から見ればそんなものは存在しないだなんて話があるらしい。個人的には読み手がそれを「全部同時並行の異世界に見える」と感じればその通りになるし、いえいえもちろん宇宙には無数の世界が存在するのでしょうが分岐してしまった別の世界は光の波が目に到達することで認識できる「解像度を持った世界」しか把握できないわたしたちの世界には実在しておらず一方向にしか進まない「時間」という概念に縛られている少なくともある一人を主軸とした物語には一本の時間軸や時系列が存在するのだ、と感じればそうなるのではないかと思う。
わたしは「人間はやっぱり神にはなれないこと」「だから時間という檻の中でたくさん繰り返すこと」に作品としてのメッセージ性や意義を感じているため敢えて後者で解釈することにしており、本編地球に観測者を置けばKlc9831007は「過去」の星、今ストのフィロス星は「未来」のひとつに見えることになるのだけれど、一方で肉体が死滅した後宇宙に蓄積されるという「意識エネルギー」が近代神智学思想における「世界記憶(アカシックレコード)」やユングの「普遍的無意識」に近いものなのだろうことから「過去世」であろうが「未来世」であろうが同じエネルギーを持つ生命なら「潜在意識(アカシャ)」の領域で繋がることができる次元に恐らく霊性進化論に近い思想に基づき「秘儀」もしくは「転生(霊性進化)の回数」によって到達できるのではないかなって気がしているところだよ。
うーん物理苦手なんで全体的に上手く説明できないが、未来から過去に戻ってもそこで史実を変え別の結末を迎える世界が生まれても「その人の歩んだ歴史」には必ず「時系列」があると思うんよ。ミクロな宇宙から見れば同時並行的に無数の世界が存在してるのかも分からんが「人間は」きっと時間という檻からは抜け出せない、タイムスリップができても瞬間移動ができてもこの次元に生きている限りは「過去に戻る」「未来へ進む」という表現しかできないんとちゃうかな、という所感です。仮に古代ローマ人であり中世ヨーロッパ人であり現代日本人である誰かが全員同じ意識を持って同時に生活していたらそれは「人」ではなく「三位一体の神」なのでね。わたしの中ではね。
最後のアダム
夢の中の惑星へ連れて行くことは難しいがフィロスの遊園地であれば「ここからはそう遠くない」「お前が行きたい場所ならどこでも連れて行く」とマヒル。彼女はそこへ行けば自分にも「楽しい」が解るかも知れないと期待に胸を膨らませるが、目的地に到着すると「幻想的な遊園地」は見当たらず地面には散乱した壊れた空中列車と朽ち果てた娯楽設備の残骸だけが散らばっていた。
意識境界システムなる検索ツールが実験室に閉じ込められながらもフィロス中のあらゆるエリアを映像で確認し座標を特定できるリアルタイムマップ、みたいな理解でいいのなら少なくともそこは彼らが子どもの頃にはまだ遊園地として機能していた場所ってことになるのかな?
この辺マヒルがマヒル過ぎて思わず涙してしまったんやが、彼は彼女が意気消沈する前に「ここをオレたちだけの遊園地に変える手品」を始めると言い出し貰った折り紙でちゃちゃっと「折り鶴」を折るとEvolを使って空へ飛ばして恐らく遊覧列車がそうするように一帯をぐるっと周遊させて見せるのですよね。そして今度は自分たちふたりを浮かせてまるで折り鶴に導かれ空中散歩をするみたいに同じルートを辿るように運んでくれたりする。
マヒルに手を引かれながら空を歩く彼女はもう動かなくなった観覧車、ジェットコースター、メリーゴーランド上空を巡りながら「上から見ると遊園地は廃墟に見えない」ことに気が付き「これまでに感じたことのない気持ち」を湧かせ思わず笑みを零すのだけど、そんな彼女の「笑顔を初めて見た」というマヒルはきっとそれが「楽しい」という気持ちであるだろうことを嬉しそうに教え説いてくれる。
彼女はそう言うマヒルも同じように笑っていることを指摘して「あなたの楽しいは何か」と尋ねるが、彼は自分の楽しいは「お前」であり今ふたりは「互いに互いの楽しいを見ている」だなんて返答。こんなに幸せそうなのにやはり心が痛んでしまうのがやるせないよな。彼にとって彼女はもちろん生への活力であり原動力であり判断の基準であり行動の依拠でありそもそも存在理由を裏付ける根拠であって、彼女が笑えば彼のすべてが報われる、そうでなければすべてが無意味になる、と断言されているかのような。愛と言うより彼女という存在がもはやマヒルの「世界」なんだな。それを概して「妹」だと呼ぶのだな。そして彼女もこの世界には「互いに互いしか存在していない」その相手が「兄ちゃん」だと理解したのだろう。

そうして今日まで過ごした彼とのさまざまな記憶や想いを巡らせていると彼女はなぜか突として意識が朦朧とし始め「いつも記憶が剥離される前に感じていた」という漠然とした不安感に襲われる。その瞬間メカスーツの「結晶」が淡い「血色」に光ると言うが、これは結晶が「記憶剥離のプログラム」の実行を開始していると同時に彼女の中の「破壊エネルギーがまたひとつ膨張している」ようなニュアンスだったりするのかな?
それに反応してなのか、恐らく政府軍の「偵察ドローン」なるものが彼女を検知したように「無数の金色の目」のようになって方々から集まって来てしまうのだが、これが本編彼女の放つエーテルコアエネルギーと同じ「金色」なのもめちゃくちゃ気になってる。こちらのエーテルコアに該当するようなものはすでに「帝国」側が手中に収めてるっていう描出なんだろうか?
彼女はまるで赤い目玉に捕捉されていた裂空災変でのそれを思わせるかのようなシチュエーションで「金色の目玉」から放たれた光線に「背後から胸を貫かれ」五感を失い身体を支えることもままならない状態になってしまうのだが、マヒルは彼女を抱き留め壊れた空中列車の中へ避難すると「死をも覚悟している」かのような毅然とした表情で向き直り「今はここにひとり隠れ落ち着けばリングヒルへ向かい空き家を見付けて身を潜めていて欲しい」と揺るぎない冷静な声で諭しながら、強引に手と手を合わせ転送用の差し込み口からエネルギーを注入し始める。
以前のそれとは異なる「元あったエネルギーを吸い取られ身体が空洞化し代わりに未知のエネルギーによって満たされる」ような違和感を覚えた彼女はマヒルがふたりの「新生」と「破壊」のエネルギーを「入れ替えている」ことに気が付き慌ててこれを拒もうとするのだけど、強い力で抱き込まれているため抵抗することができない。
遊園地へ向かうことを決めたとき「僅かに固い表情を見せた」マヒルは恐らくそこで自分が彼女の運命たる「膨張した破壊エネルギーの最初の犠牲となるその器」に代わることを決意していたのだろう。
「あなたは私のエネルギーに耐えられない」と彼女は見解するが、これは「私の痛覚は改造されている」が「あなたは違う」ためなのか、それとも彼女は「完璧な器」であり彼は「完璧でこそないが匹敵するほどの器」だという本編ふたりと彼らも同じ能力値をそもそも生まれ持っているって話なのかな?
実験室にいた頃、マヒルは夜中に何の前触れもなく突然目を覚まし「深い絆で結ばれた誰かが耐えているのだろう痛みや苦しみ」だと本能的に感じられる苦痛が形なき血脈によって自分に伝わってくるのを感じ取り、それが「妹」の味わう度重なる戦闘による深傷、精神の剥離、人体改造に伴う激痛なのだろうことを直感が告げていたと言う。この辺も「一卵性双生児対照実験」の副作用「痛覚の一致」に近いものを感じるが一旦置いといて、つまり彼の中で内側に向かって「棘」のように伸びる「代われるものなら代わってやりたい」その想いが「愛」なんですよね。文字通り「身を引き裂く愛」です。

マヒルは彼女に自分の運命を託す代わりに彼女の運命を自分のものにしたい、それは自分が「兄ちゃんだから」であり「兄ちゃんは妹のためなら命を捨てられる」ためだと「別れを告げるかのような笑顔」で述べ告げると、標的を変えた金色のドローンが今度はマヒルを取り囲むようにして押し寄せてくるその中へ、先ほどまで彼女のものだった「浮遊ブレード」を繰り出しながら飛び去ってしまった。
動かない身体と混濁した意識が清明さを取り戻す頃、気が付くとひとり廃遊園地に取り残されていた彼女はまるで「同じ母体から生まれたもの」であるかのように馴染む「兄さんのエネルギー」が「夏の太陽の下で輝く湖のように温かく穏やかな生と希望の象徴」のように思われて虚脱感に襲われるが、「兄さんは私のために全ての痛みと罪を背負った」「もっとも純粋な希望だけを私に残した」と言われてやっと腑に落ちた、これ本編のマヒルが「最初の人アダム」で今ストのマヒルが「最後のアダム」になってるんだわ(震

ああ個人的には思わず立ち上がって泣きながら拍手しちゃうくらい感動したのでどうにか上手く簡潔にここにまとめたいのだけど、要約するのが物凄く難しいな…
なるべくシンプルに、まず新約聖書とは旧約創世記を初めの創造と終わりの創造という救済史の枠組みで解説した書物でもあって、神の子たる「キリスト」は創世記のアダムが初めの創造において人そのものであったように終わりの創造において人そのものである、という意味で「最後のアダム」なんて書かれていたりするのだけど、これは命と霊についてプシュケーとプニューマという概念が…、っていや全部語りたいけどさすがに長くなり過ぎる(倒
めちゃくちゃ平たく言うと、最初の人間であるアダムが「原罪」によってもたらした「死」という恐ろしいものは彼の子孫であるわたしたち人類全員に及んでいて、だけど「代われるものなら代わってやりたい」という「愛」によって神様が「キリスト」という人の姿でこれを終わらせるため人間を「目覚めさせる」ためにやって来た、キリストは人間のために人間の「全ての痛みと罪を背負って」鞭に打たれ十字架に掛けられて死して復活し「もっとも純粋な希望だけを人間たちに残した」のでこれ以降これを「信仰(=愛に応えること)」する人間は霊によって「永遠に生きられる」ことになる、この永遠に生きられる世界の始まりの人がキリスト=最後のアダム、聖書には「神はその独り子をお与えになったほどに世を愛された」つまりわたしたちが与ったのは「身を引き裂く愛」だと福音が綴られてキリスト教の宇宙は「完成」するが、フィロス文明衰亡史はこの一連の出来事が壮大な周期神話の中に「ひとつの周期」として組み込まれているので最後のアダムが完成させた世界は完成と同時に燃焼し次の周期が訪れる仕組みになってるよ、みたいな。駄目だ、平たくし過ぎて大事なところがひとつも伝わらん(なんとかなれ
たぶん彼らのコードネームA-01とX-02も新約聖書原典(ギリシャ語)のアダム(Αδαμ)とキリスト(Χριστοσ)の頭文字なんじゃないかなぁ。つまりひとつ前の周期におけるふたりの破壊と新生は始めから逆だったのではないかと。もしかしたらある一個体が全人類に及ぶような破壊と新生とを併せ持ちスイッチヒッターのようにこれを入れ替える何か宇宙物理現象に該当するA=X的な数式がモチーフとして別にあるのかも分からんが、いやだとしたらダブルミーニングになるな? ますます驚異なんだが。
海神伝説の弥勒信仰も大枠は同じですよね。古周期においては海という生命の源を保持するための「大いなる犠牲」は「生贄の少女(元娘)」であり、新周期では人間と星の不老不死を保持するための「大いなる犠牲」が「リモリア(海の巨人)」であるはずなのに、ホムラくんと彼女の愛によって実際に犠牲になるのはそれぞれ逆になっているっていう。
罰
彼女は彼の言葉に従い無人の家に隠れて待つ、なんてことはせず遊園地の廃墟に沿って徐々に捜索範囲を広げながら幾日も休まず「兄さん」を探し昼夜を問わず道なき道を歩き続けた。
マヒルが「形なき血脈によって」感じられるという「繋がり」を彼女は「心臓」で感じ取ることができるのだな。エーテルコア化したそれのように「同じ波形」や「波動」を感じているわけではなさそうなんで単純に「共鳴」Evolの働きなのか、あるいはその特別な心臓で「同じ源」たるエネルギーを感知しているのかは分からんが…
そうしてマヒルの気配を辿りようやくリングヒル郊外へ到着する頃、彼女はついにある廃屋で大破した飛空艇にもたれ数本の修復用ケーブルを身体に挿しぐったりと目を閉じるマヒルの姿を発見し、実験室で彼が彼女にそうしたように喉元の「結晶スイッチ」に触れ飛び出たホログラムパネルをタップして彼を目覚めさせる、ということをするんやが、これも「同じ源」から生まれた「破壊」と「新生」どちらか一方のエネルギー結晶なのかと思うとパネルは「ヘキサグラム」をイメージしているのかな? なんて勘ぐってしまうよな。こういう逆三角形と正三角形を組み合わせたいわゆる「六芒星」というやつ。


イスラエル国旗ではダビデの星、その他ヨーロッパや中東などあらゆる地域で魔除けのシンボルみたいなものになってるが元は神秘主義思想における「相反する要素の調和」を意味する図形だったりするのですよね。上向きの三角が「陽」「男性」「能動」、下向きの三角が「陰」「女性」「受動」とか、確かそんなような感じで。いやホントごめんなさい全部が曖昧です正しくはタロットなんかに詳しい方へお問い合わせください(謝

目覚めたマヒルは虚ろな眼差しで彼女を補捉し「A-01抹消指示を実行する」なんぞ呟いて襲い掛かろうとしてきたり、かと思えば我に返って「実行を拒否する」と首を振りただならぬ様相で自分が彼女を「傷付けていないか」と慌て迫ったりだいぶ思考を侵されているような様子だが、これは意識剥離のプログラムが増強されていることに加えてやっぱり彼という器が「破壊のエネルギーには耐えられないこと」も要因のひとつだったりするのだろうか。
彼女はひどく損傷したマヒルを一刻も早く修復しようとそれを拒む彼を強引に取り押さえ手の平のエネルギー転送を試みるが、疲れ切ったマヒルが完全に回復されないまま彼女のエネルギーは底を尽き、一方が弱まればもう一方が強くなる「破壊」と「新生」のバランスはとうに崩れているらしいこと、どうやらマヒルはそれを承知の上でふたりのエネルギー交換を強行してしまったであろうことを彼女は理解してしまう。
驚き混乱した様子で彼を責め立てる彼女に「オレはお前を騙した」「どうやって罰したいか」と力無く聞き返すマヒル。彼女は「罰」としてもう二度と私を置き去りにしないことを約束して欲しいと切に訴えるが、マヒルはもしできなければどうするかと要領を得ない返答。しかし彼女が「それなら人質になってもらう」「人質として深空の果てにあるあの星へ連れて行く」なんて答えると、彼はまるで思いも寄らない申し出だとでも言うように少しぽかんとして身体を起こし向き直る。
彼女はマヒルが語るあの「青い惑星」に住む人々には「家」と呼ばれる「帰る場所」があり「家に帰ること」はごく当たり前のことでありながら「とても大事なこと」だなんてエピソードが強く印象に残っていたようで、「兄さん」であるマヒルと共にいつかそれをしてみたい、なんて長らく願っていたらしい。
時折葛藤するような様子を見せながらも大事そうに彼女を抱き締め最後は「指切り」をしてこれに応えるマヒルは「一緒にフィロスを出て深空の果ての星へ行こう」ともう一度念を押す彼女に躊躇なく「ああ」と答えるが、明晰夢彼女に「本当に私が必要だよね」と何度も念押され力強く頷きながらも結局黙って彼女を「強制避難」させてしまったあのマヒルがどうしても思い起こされて、なんだろう分かり切った結末に物語が加速していくようでわたしはこの辺から最後までずっとじんわり泣いていたような気がするよ。涙
家
ふたりは以前飛空艇の交換部品を売ってくれた商人の女性に古い住宅の一室を間借りして暫く住まわせてもらえることとなり、かつて「航空宇宙工業で栄えた街」だというリングヒルのさまざまな廃施設から飛空艇の代わりとなる小さな宇宙船やこれを改修するためのパーツなんかを拾い集め、郊外の荒廃地ではワンダラーを退治して燃料となるコアを収集した。
そうしてついにフィロスを発つ準備が整うという頃、ある晩ふたりは郊外の名もない小さな湖を訪れ静かな湖面に真っ白な月明かりが反射するその景色に思わず目を奪われているのだけど、マヒルは以前システムを用いて取得した「フィロス星の人は故郷の月明かりが恋しくて故郷を作る際に併せて衛星を生成したらしい」なんて情報を思い出し「故郷に戻って月明かりを見たら今夜のことを思い出すかも知れない」と口にする。
彼女はたとえ故郷たる星へ辿り着けなくとも「離れることさえなければそれでいい」と言うが、彼は「それでも今夜の景色はいつか振り返る日が来るかも知れないから」と手を開き引力を操って湖の水を吸い上げ湖上に「水しぶきをまとった巨大な透明の球体」を作り月明かりを閉じ込めると、「あの星にはスノードームというある風景を模して閉じ込めたような贈り物がある」だなんて言って彼女の手を取り自分たちもその球体の中へと浮かせて運ぶ。
水の球の中でマヒルが彼女の肩を抱くと表面にポコポコと泡が上がり銀色の月光と交差するように煌めいて、彼はこういう自分の「手品」が本来の「人の目を欺くもの」ではなく「お前の欲しいものをすべて本物にする」ためのものだと語るのだけれど、えーん「欲しいものはもう手に入ってる」って言ってるのに、まるでもうふたりでは見られないだろう月明かりを閉じ込めた「オレたちだけのスノードーム」を餞別に贈るみたいなことはやめておくれよ(ないてる
湖から旧市街地へ戻ると静まり返った深夜の廃街に響くふたりだけの足音に耳を傾けながら並んで歩く彼の足取りに見入っている彼女はそんな自分たちがまるで「家に帰るみたい」だと声を弾ませて、するとマヒルは歩幅を合わせて「これが家に帰るときの速度」なのだと「覚えておく」だなんて言ってくれるのだが、彼女にとってはきっとこれからもずっとそうしてくれるつもりなのだと思わせるそんな彼の言葉こそが「手品」のようだった。
彼女は深空の果てに存在する「故郷」という目的地が「精神的な拠り所」となっていたと言うけれど、本当はそれが故郷でなくてもどこであってもとにかく「家」と呼んで彼と「一緒に帰れる」ことが何より「欲しいもの」だったのだよね。ふたりが拠点にしていたその商人に借りた部屋は古くはあるものの清潔で壁の大部分を占める古風な大きな窓からたっぷりと光が差し込んでいたと言うけれど、思い返せば4部1章彼も彼女も社宅の「いちばん日当たりのいい部屋」を選んで「ふたりの家」にしてたっけ。
どうやらマヒルは彼女が「家」そのものを楽しみにしているのだと推断し「早く帰れる方がいいから」と途中から彼女をおぶって足早に家路を辿るのだが、彼女が「あなたが家に帰ろうと言ってくれるのを聞くのが好き」なのだと打ち明けると心得たように「これからは毎日言ってやる」と返答、そうしてふたりの胸と背中の高鳴った鼓動がぴたり重なるのも彼女が安心して眠ってしまうのも、何やらますます頻繁に赤く光っているらしい彼の喉元の結晶のせいで「きっと間もなく終わってしまうものだ」と思えて本当に悲しい。涙
今ストに限らずマヒルと彼女の幸せな時間にはなぜいつもあらかじめ定められているかのようなタイムアップが存在するのだろうな…
量子干渉装置
正直ここだけ著しく理解が及んでないんやが(アホ、これまで毎話冒頭にてチラ見せしてもらってきた「オータン研究管理局記録」なるものに記されたA-01とX-02に関する実験内容とこれについてのマヒルの見解をなんとなく要約してみると、恐らく破壊と新生のエネルギーは「結合」すると星に潜在的脅威をもたらしてしまうことが予測され、実験者はこれを阻止するための「予防措置」を研究していたと。やっぱり両エネルギーの「同じ源」とは「星」なのかな? 本来は燃焼と再生を繰り返すものなのに不自然に再生だけで永続を維持してるからこれを元に戻し循環が始まることが脅威、みたいな。
そして、A-01とX-02ふたりのエネルギー波動が長時間「同調状態」にあると起動する「量子干渉装置」なるものを開発しそれぞれの身体に設置、これが起動すると「破壊エネルギーを持つ機体」が「意識を失い再活性化を待つしかない」状態になると言うのだが、たびたび「A-01抹消指示」を実行しようとするマヒルや「浮遊ブレードはもうすぐ制御できなくなる」だなんて彼の発言から「意識を失う」とはどうやら「完全に人格を失い命令通りにプログラムを実行する本物の兵器になってしまう」ようなニュアンスなのだろう。
マヒルは彼女と心を寄せ合うたびに意識剥離が働くことから量子干渉装置の存在やその起動条件に気が付いて、もちろん自分が「戦闘人形X-02」ではなく「マヒル」であることを強く念じながらこれに逆らうのだれど、彼女に惹かれ同調してしまうその感情を偽ることはできず徐々にプログラム実行命令に逆らえなくなりつつあることも自覚して、その意識が完全に干渉を受けついに本物の兵器となってしまう前に宇宙船でフィロスを発ち追跡隊の奇襲にひとり身を投げて彼女を解放し救済することを心に決めていたらしい。
中心地から星全域へと侵略を広げる軍の襲撃がいよいよふたりの拠点であるリングヒルへと迫り来て多くの住人が「大型宇宙船」で非難することになるのだが、同乗を促されたふたりは軍の狙いが自分たち戦闘人形であり一緒に逃げれば同乗者を危険にさらしてしまうだなんて事情を明かすわけにはいかず、自分たちは改修した別の船で「故郷の星へ帰る」つもりだと説明、どうやらふたりが「長距離の星間飛行には無理がある」という小型宇宙船でそこを目指すらしいことを知った少年が「どうしてもそこへ行かなければならないのか」「何をしに行くのか」と尋ねると、マヒルは執艦官の彼が「なぜそれを捨てることができるのか」なんて問われていた四季の移り変わりや万物の生長、夏の日の出や本物の月明かりを見に行くためだなんて答えてる。涙
そしてもし見られなければ「オレたちはまた次の世界へ行く」とも付け加えるのだが、これもなんかとっても大切な描書っぽいよな? 明晰夢でも彼は彼女に同じようなことを言っていた気がする。
そうして避難船の出発を見送りふたりも船へ乗り込むが、どうにも様子がおかしい彼を目の当たりにした彼女はついにマヒルがそうして度々意識を剥離され苦しんでいたであろうことを察してしまい、一方マヒルは船が戦火に呑まれたリングヒルを遠く離れる頃ようやく意を決したように「量子干渉装置」について打ち明け始める。
事実を知った彼女は今度は自分が彼に成り代わろうともう一度「エネルギー交換」をしようと試みるが彼の手の平は彼によって血まみれになるほど深く傷付けられ転送用の差し込み口はとうに潰されており、マヒルは「もう交換はできなくなってしまった」のだと「優しい笑顔」を見せながらこれが「お前の運命」を自分のものとした「オレが最後にお前にしてやれること」だと諭すように語り聞かせると「離れないで」「行かないで」という彼女の言葉を遮るように立ち上がりコックピットを後にしてしまった。そうかマヒルにとって「彼女と手の平を重ね合わせること」と凧の糸たる「彼女の手を放すこと」は共に彼女を守るためにすることであり元より同義だったのだな。
彼女は彼の引力によって操縦席に釘付けにされ動けないながらも後方から迫る多数の艦隊が放つ轟音や「25秒後に接触」「ただちに回避」と流れる操縦パネルの警告音に掻き消されそうなガラス窓の向こうで話すマヒルの声に耳を凝らしていて、彼は「一緒に深空の果てに行く約束をこれから破るオレはいい兄ちゃんじゃなかった」が「オレたちが生まれ付いた瞬間に交わしたあの約束はこれまで破ったことがない」と言い、その約束とは「意識や肉体が消えてしまってもオレの魂は必ずお前と同調する」というもの、最後の言葉は唇の動きだけだったと言うが直後のモノローグから恐らく「それは愛しているから」だと告げたのだろうと思う。
マヒルが飛び去ってしまった後、ひとり残された宇宙船で「どうして彼は私をひとり生かした方が有意義だと思ったのか」「私は彼のいない世界でなど一瞬でも存在していたくない」と自分が端から「ひとつの選択肢」しか持っていないことを再確認した彼女はずっと持ち歩いていた「銀色の種」を撫でると避難ハッチから宇宙へと投身し決死の思いで彼を追い彼目掛けて落下する。
必死に伸ばした手がついにマヒルを捉えた時、彼の身体には「結晶化」が見られ彼女が手をかざすとこれが収まるような描写が入ったりもするんやが、すると「あなたは私のエネルギーに耐えられない」とはいずれこうして破壊エネルギーの「感染」が起こるだろうことを意味していたのかな? もちろん破壊エネルギーが膨張を極めれば最終的に最初に破壊されてしまうのはその器たる彼女に違いなかったのだろうが、とは言え彼女はやっぱり「コアに呑み込まれずコアの力を使いこなせる唯一の人」ってことになるんだろうか。

彼女はたとえそれが破滅であっても彼と「同じ世界にいたい」ことを改めて言い立てふたりは「二度と離れない」ことを誓い合いキスをして強く抱きしめ合うのだけれど、恐らくこれが星に「潜在的脅威」をもたらす破壊と新生「両エネルギーの結合」を引き起こしているのだろう。フィロス星系は燃やし尽くされ崩壊した古い核は「ブラックホール」になったって書いてある。
ふたりの感情の「同調」が起動条件であるはずの量子干渉装置が働くことなくこれが起こったのは彼がその理由を「愛しているから」だと語ったためだったりするのかなぁ。
本編マヒルのチューリングチップは彼が「愛しているから」をひた隠し「兄ちゃんだから」と言い続けることで残り7%の領域を死守しているのだと理解していたが、もしかしたら逆に「愛を口にすること」でこういうチップみたいなもんの機械的な干渉には不具合が起こるのだという示唆? 愛の力とは科学の理論の決して及ばないところにある、的な?

このあと彼女はまるで「長い夢を見ている」かのような感覚で混沌を漂い爆発の中から新たな恒星が誕生する気配を感じながら「別の世界の物語を囁いている」ように思われる誰かの声が「家に帰ろう」「一緒に家に帰るんだ」って語り掛けてくるのを聞いている、と言うが、これはマヒルの言う「魂」が「次の世界」へ辿り着くまでのイメージなのかな? 「生きてても死んでても離れない」と約束した通りマヒルは死してなおそうして彼女の傍にいて彼女が「毎日聞きたい」と言ったその言葉を声なき声で囁き続けているよっていう描写なのかも知れない。
「家に帰ろう」とは本当に手品のような言葉だな。ごめんごめん、兄ちゃんが悪かったよ、一緒に来たかったよな、分かった分かった、いい子だな、兄ちゃんとこにおいで、大好きだよ、愛してるよ、一緒に家に帰ろうな、ずっと一緒にいような…、って書かれてないけど全部勝手に脳内再生されてきて、きっとそんなのもつぶさに全て含まれての「家に帰ろう」なんだろうなって思ったら咽び泣いてしまったよ。
ふたりはどこへ「帰った」か
ここからは完全なる個人的見解になってしまうのだが、わたしはこの物語のふたりが本編におけるマヒルと彼女の「前世」なのだと思ってる。そしてこのフィロス星の「故郷」である青い惑星もまた彼らのいた「地球」なのだと解釈している。まるで突拍子もないことを言っている自覚はあるがその根拠となる宗教思想があるため良ければ語らせて欲しい←
この物語の主要テーマである「周期的に新生され破壊される宇宙論」というのは神話学では「循環的時間観」と呼ばれ、古今東西挙げればきりがないくらいたくさんの神話に見られる世界観ではあるが現在も「宗教」という形で「信仰」されているのが北インドの周期神話を起源に持つ民族宗教「ヒンドゥー教」である。
ヒンドゥー教は紀元前1200年頃から成立した「ヴェーダ」を始めとするさまざまな聖典を持つ「バラモン教」が発展したもので、同じくバラモンから派生した宗教には「仏教」が挙げられるが仏教には「輪廻信仰」こそ受け継がれているが宇宙観はこちらにも語った通りフラクタル構造をしていて多世界解釈的である。
一方ヒンドゥー教の教義にはヴェーダ時代に編纂されたウパニシャッド哲学における普遍的存在ブラフマン(宇宙)を「同源」とした「新生の神」と「破壊の神」という二神が存在し、これがそもそも今ストにおけるマヒルと彼女に限りなく近い概念だったりするのだ。
ヒンドゥー教の最高神は「三位一体」の神である。三位一体とは「一体」の神に「三の位格」が存在するという意味合いで、超簡単に言ってしまえば三人の神が合体して一人になるのではなく三人が三人ともみな同一人物、みたいなイメージ。
一人目の位格ブラフマン神は「万物がそこから生まれ最後にそこに帰る」という「世界の根源」であり「宇宙そのもの」であり観念的抽象的なものなので信仰の対象ではない。
二人目はヴィシュヌ神といういわゆる「新生の神」、三人目はシヴァ神という「破壊の神」になるのだが、ヴィシュヌ神とシヴァ神は共にブラフマンを「同源」とするインド大衆の尊崇を二分する「二大神」であり、宇宙の一日(サンスクリット語で極めて長い時間を意味するカルパ)の「始まり」と「終わり」に顕在化する。
かなりざっくりとした説明なのでわけ分からないかもだけど語り過ぎると余計に意味不明になると思うのでとにかくざっくりとw
今ストの「マヒル」に当たるヴィシュヌ神は宇宙のすべてを生気で満たし維持する役割を担う神で「太陽」のような慈しみを持ちガルーダと呼ばれる「光り輝く鳥」に乗っている。この辺とてもマヒルぽいと思ってる。
一方シヴァ神は宇宙の一日カルパの「終わり」の時が来るとヴィシュヌ神の「もうひとつの姿」として顕現し宇宙のすべてを焼き付くす役割を担う神、なのだけど、破壊のすべてが終わると新生の神ヴィシュヌの方が破壊神シヴァや宇宙ブラフマンもろとも「ブラックホール」の如く呑み込んで無に帰して、何もかもが「宇宙が始まる以前の状態」に戻る。
その状態で「世界の根源」たるブラフマンからもう一度宇宙の創造が始まり新生と破壊の周期が繰り返される宇宙論なのだけど、この「宇宙が始まる以前の状態」から「もう一度宇宙の創造が始まる瞬間」までが新生の神ヴィシュヌの「夢の中」として描出されるような神話もあったりなんかして、これもどことなく夢を見させられがちなマヒルに通ずるものがあるのではと感じてる。
もちろん宗派によっては神話の内容や各神の役割も入れ替わったりすることがあるので一概には言えないのだが、現在「ヒンドゥー教」として主流な宇宙論においては前述の通り全体的に今ストふたりの「エネルギー交換」や「超新星爆発」「ブラックホール」「新たに生まれる恒星」なんかがまるでそのものであるかのように思われる。
こうした宇宙論の中に輪廻(サンスクリット語で彷徨い流れることを意味するサンサーラ)の思想が含まれていると何が起こるのか、結論から言うと「過去に転生する」ということが「あり得る」宗教観が生まれます。
人間が輪廻転生する宇宙(ブラフマン)もまた新生に始まり破壊に終わるカルパを繰り返しているために、うーん例えるなら宇宙の一日において仮に「昼」くらいに当たるのが「地球という惑星が誕生し2034年を迎える頃」ならば「深夜」には「地球を故郷とした人工星系フィロス暦3万年頃」が当てはまるかも知れない、となるとフィロス暦3万年に死滅した「魂」がサンサーラ(彷徨い漂っている)間にブラフマンはシヴァとなりヴィシュヌに呑まれ宇宙の一日は再び「地球という惑星が2034年を迎える頃」を迎えている可能性が否定できないのだ。
今回のストがあまりにもインド思想そのものなのは、もしかしたら作品全体として彼らが「過去に転生する可能性」を示唆する目的があったのではないか、なんて思っちゃったりしてな。
深空の世界設定として大前提セイヤが「死滅して宇宙でもっとも取るに足らない原子エネルギーになる」と見解する「肉体」と公式アカウント深空時代が「消えることなく宇宙に蓄積され続ける」と理解する「意識」が登場するけども、今回改めて登場したマヒルの言う「魂」は「肉体や意識が消えてしまってもマヒルそのもの」だと定義付けられていて、これも輪廻の中でアートマン(魂)が永遠不滅たる自我そのものでありシャーリーラ(肉体)という器をマナス(意識)の作用によって繋ぎ止めて転生するヒンドゥー教の輪廻信仰に矛盾しておらず、とは言え多世界解釈的かつ人間は時間という檻の中で輪廻する深空の宇宙にこれらをブレンドするには「深空トンネル」によって「魂が時空を超える」ニュアンスが必要だったんじゃないかなと。
つまるところ、青い惑星「地球」時代に神(キリスト)たる彼女の意に背き完全にEVERの手に落ちて殺戮の兵器となることが「最初の人アダム」である彼の「原罪」であり死して地球という「楽園」を追放され、遠い未来EVERの後継たる帝国政府が牽引する破壊的イノベーションにより地球を模して人工的に生み出された永遠の命あるフィロス星に転生した彼は今度は神(キリスト)たる彼女と入れ替わり「最後のアダム」として「絶対的無罪」でありながら「贖罪」のために死んでしまった、そして再び「魂」となり彷徨って「時空のトンネル」を越え過去である本編の「地球」に今もう一度転生している、しかしながら深空とは多世界解釈の宇宙であり彼の転生した「地球」は「分岐してしまった別の世界」になっているため始めの青い惑星「地球」とは似て非なるもの、というのがマヒルを主軸とした物語の「北インド周期神話的解釈」になりますね。
今ストマヒルが「これまで破ったことがない」と断言する「意識や肉体が消えてしまってもオレの魂は必ずお前と同調する」という約束を「オレたちが生まれ付いた瞬間に交わした」ものだと感じているのは実は青い惑星「地球」で迎えた死もふたりが「同じ世界にいたい」と強く念じたまま「魂」になり「家に帰ろう」と囁き合いながらさまざまな存在領域で意識や肉体を再構築する過程で次に生まれ付く瞬間まで交わされ続けた約束だからであり、さらに言えば「分岐した別の世界」の地球をまだ知らないはずのフィロス星のマヒルがすでに「次の世界へ行けること」をどこか確信しているような言葉を口にするのは一度や二度ではなく相当数これを繰り返していることを匂わせているのではないかとも感じ始めてる。要は地球からフィロス星に再誕し分岐してしまった別の世界の地球に転生し、またフィロス星に再誕しさらに分岐した別の世界の地球に転生し…、という終わりのない無限ループに彼らは今陥っているのかも? なんて勝手に妄想して勝手にめちゃくちゃ怖くなるという(倒
ヒンドゥー教におけるサンサーラは「現世」には「プラーラブタカルマ」という前世からの「業因」が「あらかじめ定められた宿命」のようなものとして受け継がれるもので「業が巡る」ことは「苦行」のニュアンスだったりもするのだけれど、これは転生を繰り返すことで霊的次元に至る神智学の霊性進化論のそれとは少し概念が異なって、アートマン(魂)がブラフマン(宇宙)と合一し「カルマから解脱すること(モークシャ)」がイコール「神に至る」のではなくあくまで人間としてひとつ「救われる」ような概念だったりする。
今この世界における本編地球2048年に転生した彼女の使命もひょっとしたら「神に至り宇宙秩序を正すこと」ではなくマヒルを始め各いけめんたちの業因をあくまで「人間として」ひとつ断ち切ることだったりするのかも知れませんな。
って、とにかく記事が長いよ←
でも久し振りにヒンドゥー教について熱く語れてとても楽しかった。実はわたし学生時代「バラモン」でゼミ論書いてるんですよねぇ(しらん
なんかホラ、「バラナシに行くと死生観がひっくり返る」なんてよく言われるじゃないですか? ガンジス川で毎日行われるプージャという礼拝儀式があるんですが、昔から人生で一度は行ってみたいと思ってて。
結局お金もないし行けないし研究もいろんな分野に目移りする落ち着きのない学生だったので最終的には全然関係ない日本の新興宗教について書きましたけどね…
当時卒論は3年次前期にテーマを絞り後期には書き始めているのが原則だったんで4年次になって突然それまでのゼミ全部なかったことにして別の分野を考究し始め最後の最後まで指導教員を周章狼狽させたわたしは歴史に名を残す問題児だったなと今になって思う。でもそれでいいんです。大学生の皆さん、限られた数年間どうか規則に縛られず自由に学問してくださいね(だまれよ
デコヒーレンスとは
めちゃくちゃ余談なんですが、こうして読み終えて結局この物語のタイトル「デコヒーレンス」ってまじで一体なんだったんだろうと思い立ちなんの気なしにググってみたんですよね。

な、なにを言ってるの…?
読めば読むほど理解できない…
分からない… 怖い… (ガタガタガタ
でもまぁなんとなしに、ふたりに取り付けられた「量子干渉装置」なるものが「量子情報技術」というものを用いて作られていた伝送システムでふたりは互いに互いの名前とこれに付随する記憶という「ノイズ」や愛という「熱振動」に該当する「環境」を作用させていたために「デコヒーレンス」という現象が起こり装置の技術性能が低下して最後はそれが機能しなかったよ、っていう、話、だったのかもな…? (たぶんちがう
粒子が同時に複数の状態に存在できる「重ね合わせ」という状態、というものにたとえば以前臨空Onlineの記事で語ってしまった「見てるときは粒になるが見てないと波になる光の最小単位」というものも含まれているならば、これって「祈る人」によって「位格」が確定する「三位一体神」にも似てるよね。ブラフマンは宇宙そのものでありながらヴィシュヌでありシヴァでもあり三位は独立した存在でありながら本質的には一体、だけどヴィシュヌに祈る信徒がいればそれはヴィシュヌ神になるし、シヴァに祈ればシヴァ神になる。これも「重ね合わせ」の状態が本来である神に「祈り」という環境の作用が働いて起こるデコヒーレンス現象のひとつ、だったりして。三位一体の教義とは実は量子力学の観点で説明されるべきなのかも知れんな(怒られろ