羅鏡の儚き声
こちらは先週実装されたホムラくんの限定願う「海が海に沈む時」でゲットした日位思念に収録の伝説ストとなりますが、毎度恒例「ペアで揃えて育成がんばる」というスパルタ仕様は今回から取り払われることになったのかな? 片方お迎えしたらすぐに全話読める親切設計になっていてとてもありがたかったのだけど、わたしのスマホがリモリアの映像美を出力するにはあまりにロースペらしく最初のムービーシーンで落ちる落ちる、海神が一言発するたびスマホが熱落ちして先へ進めず止む無く保冷剤で冷却しながらアプリをプレイするという暴挙に及ぶがそれでも恐らく本来のスムーズな映像では楽しめませんでした。無念…
リモリアの伝説についてはこれまで金砂の海では「一方が何を手放して相手に与えてもどちらかが失うという概念が生まれないむしろ総量が増えるという性質を持つ融合の愛をテーマにした土着神と人間の恋の物語」だなんて妄想を書き連ね、はたまた忘却の海では「自然を慈しむ心や畏怖の念を捨て自然現象の法則さえ捻じ曲げようとする人間の傲慢さや愚かさに悲憤する自然神の嘆きの物語」だと駄文を綴ってきてしまったが、今ストを読んでようやくこれらが本編地球にかつて本当に存在したとある失われた古代都市のごくシンプルに「海洋文明史」であり「リモリア神話」と呼ばれるべき物語だったのだと理解しました(今更
厳密に言えばこちらの地球においてもかつて地中海を舞台に繰り広げられてきたさまざまな文明の興亡はあくまで「古代西洋文明史」であって「ギリシャ神話」や「ローマ神話」とは区別されるべきものなのだけど、たとえばインダス文明の古代陵墓や宮殿跡はシュメール人やアーリア人が実際この物語におけるリモリア人と同じ距離感で彼らの神と対話をしその予言に手引きされながら生きていた証なのだとわたしは思っているし、まるで海底に沈むことが始めから約束されていたかのような羸弱な地盤に築かれた古代エジプト文明における聖地は幾度となく訪れる気候や地形の変動から本当に彼らの信仰する太陽神によって守られ400年栄えたのだと思ってる。
古代文明の滅亡の多くは最終的には地震、津波、地表沈下のような自然災害によって起こってしまったものだけど、今スト「伝説によれば海神にできないことはない」「全部救えるはず」だなんて懇願されたホムラが「伝説は伝説でしかない」「この世界には定められた運命がある」と答えたように、あるいは「滅びこそが定められた結末」である文明というものも存在し、その終焉は必ずしも古代神の手に負えるような危機ばかりではなかったのかも知れないなって思ったよ。
ましてリモリアはきっとまだまだ地殻の変動が活発なのだろう「数千万年前」なんぞ途方もない時代区分ですからね。海や山は本当に割れたり裂けたりしてたのかも知れないし、まあこれに関してはマーマンやマーメイドのような水陸両生類が本当に存在していたとするなら哺乳類が進化の途中であるこのくらいだろうで設定されているのかも分からんが…
もちろん自然現象に限らず環境汚染、内紛、資源枯渇など明らかに人の手による問題に直面し滅びてきた文明も少なくないが、これも神からすればまさに「人間の信仰とは私欲に過ぎない」「求める時だけ拝み叶わなければ罵る」って話だよね。洪水からも飢饉からも今まで散々守ってきてあげたのに勝手に責任転嫁して勝手に行動して勝手に自滅するんかいっていう。
それでも神が最後の最後まで民の祈りに応えその身を投げ打っても聖地を守ろうとするのは彼らを救わずにはいられない神のさがなのか、あるいは鯨落都のような栄華を極めた美しい故郷に神自身が戻りたくて恋しくてたまらないそんな理由だっていいのだろうと思いました。
そして、古代神は多くの神話においてしばしば「人間」に恋をする。神の「心」は本来不滅でその役目を終えればいつかは「星座」になったり「月」になったり気が遠くなるほどの永遠をまるで「海底の石像」のごとく暗く孤独な場所で過ごすことになるけれど、彼らはみな人間の死と魂に憧れ同時に愛の永続を夢見ていたのかも知れない。
もしかしたらある定められた運命に背き「夜空で永遠に星座となり眠ること」を選ばず何らかの手段で人間の死と魂を手に入れたったひとりの愛する人を追い「時間という檻の中で輪廻すること」を選んだ古代神話の神とは今こちらの世界にだってひとりくらい存在してるのかも知れん(いいえ
すると「ホムラが最後の海神になる」という「先代の海神による予言」とは、ひょっとしたらリモリア文明の勃興と引き換えに彼らが担うこととなったあらゆる掟や儀式の束縛から逃れ「人間のように愛に自由に生きて死にたい」歴代の海神すべての願いが彼に託されているんじゃないか、なんて解釈したくもなってしまいますなぁ。
羅鏡都
物語の舞台となる「羅鏡都」は恐らく地盤や気候の変動により「黒い海が間もなく世界を呑み込む」とさえ思われる過酷な生存環境のもと「孤島の上に残された人類最後の箱舟」とも言える崩壊の危機にさらされた都市文明であり、その文化や歴史は長らく「海神信仰」と深く結び付き「海神像」の祀られた神殿には信仰を実践する祭壇や蔵書が保管され「海神の書」による導きや「海神の名のもとに」領主が治権を有する形で存続されてきたらしい。
今ストの主人公はこの都に誕生してほどなくあらゆる世の変遷を予言した「海神の書」によってこれをただひとり解読することができる「海神の花嫁」たる召命が与えられ、希望の象徴として充分な教養と知識を与り15歳になれば信仰の礎たる「神殿の修繕の指揮」を任されたりと誰からも慕われる存在として順調に成長していくが、ある月蝕の夜「三度の月の夜の果てに羅鏡都は広大な海の下に消える」という「沈没の予言」が「書」に現れたことでもっとも忠実だった大臣「ホーケン」が突として背信者に変貌、「海神は我々を見捨て死地へ追いやろうとしている」のだと人々を絶望で支配してその伝統や風習を一転させる。
海神像は打ち捨てられ、祭壇は破壊され、新たな領主として擁立されたホーケンは「羅鏡都を滅亡に導く海神を決して信じてはならない」という強制改宗により治権を乱用、海神の花嫁は間もなく成人の儀を迎えるという頃「処刑」のために捕らえられるが「海神の書と対話ができる唯一の人間」であることから死なせるのは不芳と判断され、崩落した神殿跡地から程近い「搭」の中に幽閉され非人道的待遇を受けることとなる。それから「数百年」という長い年月をかけ人々は少しずつ花嫁の何たるか信仰の何たるかを忘れ去っていったと書かれているが、すると彼らは「少なくとも数百年は生きられる」ものと理解していいのかな?
聴海の儀式
二度目の「月の夜」が訪れると人々はついに恐慌状態に陥り領主ホーケンは懐柔策として塔の周りに民衆を集め見せかけの「聴海の儀式」を行い「海神の花嫁」たる彼女にあたかも「海神の書に新たな予言が現れた」かのように振る舞わせ「羅鏡都は現領主の導きのもと新しく生まれ変わる」なんぞでっち上げた予言を宣告をさせる計略を謀る。衛兵たちに腕を引かれ地面に叩きつけられた彼女は逆らう術もなく頬には血を流し放心してると言うんで無論暴行や脅迫は当然の侮辱的な扱いを受けてきたのだろう。
そうしているとふと「一筋の風」が頬の血の痕を拭うように吹き「どうして海神の花嫁が人間にこんなに虐げられているのか」と何者かの問う声が響いてくるのだが、彼女はここに閉じ込められるようになって以来こうしてたびたび「海神」を名乗る若い青年の声が聴こえてくるようになり、始めは独り居房に収容されていることによる「幻聴」かと推断するもあるとき一羽のカモメが「奇妙な模様の貝殻」を運んできたことで海神は本当にどこかに存在するし自分に語り掛けているのだと確信したのだそう。なんか、姿は見えずともこうして傷付いた彼女の頬を彼はきっと数百年間幾度となく海風で撫でてやってきたんだろうなって思ったら早速泣けてしまう。涙
まるで際限のない苦痛を和らげてくれるかのような彼の出現をいつからか待ち望むようになり、絶望一色だったその心には次第に「自由への渇望」が芽生え始めていたと言う彼女、ここを出たければ今夜「空で月蝕が起こり潮汐が逆流するとき」が唯一の機であり「海神の杖」と「海祭の歌」による呼び掛けがあれば「それに応える」ことができるのだと海神は述べ告げるが、彼女はまるで唐突な話だとは思いながらもその提案に「賭けてみよう」と意を決し聴海の儀式へ臨むことに。
美しく緻密な模様のあしらわれた荘厳な衣装をまとったホーケンは塔の頂上から民衆を瞰視し「自分の統治する羅鏡都が数百年の時をかけ不吉な予言を塗り替えた」のだと声高に宣すると「あとは命じた通りにやれ」と言わんばかりに粗雑に彼女を引きずって壇上に突き出すのだけれど、ここは「海神の杖がなければ予言は再現できない」との申し出を一蹴された彼女がそれでも臆せず「このままでは災異の兆しが現れるかも知れない」なんて食い下がった瞬間雷光が雲を突き破り海が荒れ始めるの、彼がどこかで見聞きしながら力を貸してくれているのだろう感じがなんと心強いことかと思ったよ。涙
渋々と杖を手渡された彼女はそれを強く握りながら「海祭の歌」を歌い始めるがここもめちゃくちゃに良くて、詞を紡ぐたびに潮風に乗って響く不思議な歌声が「彼女の声と呼応する」って言うんだよね。海祭の歌が海神信仰における祭祀なのか祈祷なのか分からんが「静寂に帰した天地は黄昏と暁の狭間で蘇り若く清らかな神は最初に逆巻く波に降り立つ」なんて歌詞を読む限り「花嫁が」海神を賛美する聖歌なんじゃないかなと。
最後まで歌い上げれば重い雷鳴が海面を叩き豪雨と大波が羅鏡都を呑み込んで周囲は騒然となる。彼女は構わず杖から放たれた一筋の光が指し示す「荒れ狂う波の下」へ身を投じ巨大な渦を巻く漆黒の海水に連れられるまま「崩れかけた壮麗な遺跡」が沈む海底に到達、ついに相対する「これまで見てきた美しいもの全てが色褪せてしまうほどまばゆい魚の尾びれ」を持つその青年がどうやら「強力な呪文により封印されている目を覚ました海神」であるらしいことを理解するも「伝説によれば海神の身体には印があるはず」だと訝しみ、恐らく画面をタップしたりスクロールしたりしてあちこち探らねばならんのだが、ここから端末が悲鳴を上げ始めどうしても上手くいかなくてねぇ。涙
たぶん、彼は胸元から引き抜かれた短剣を指してそれこそが「印」だって言ってたと思う。彼女の手によって鎖が解かれたあとは「与えよ」「消えることなき復讐の炎を」なんてことも呟いてました。後から語られるが彼は数千万年間ここにひとり封印されていたことに憤りそれをした相手を許しがたいと思っているのだよね。忘却ホムラは幼少期から長老に「海神は没後も海底で眠り続ける」なんて聞かされ「僕はそんな暗くて寒いところにずっとひとりでいるのは嫌だ」と嘆いてたんで、なんしか暗くて冷たい場所にひとりでいることがよっぽど大嫌いなのだろうと思われる。かと言って「復讐の炎」とはそういう意味合いなのか、もしくはリモリアの歴史とはいつも迫害と「復讐」の反復であるような気もするし文明史そのものを象徴する言葉なのか、あるいはそもそも「火種」とはそういう概念だったりするのかも分かりませんな。
蘇った海神が彼女を抱いて海面に上がるここだけがめちゃくちゃ音ズレながらもアチアチのスマホが唯一スクショを許してくれた貴重なワンシーンでした。見返してみて改めて、なんて美人さんなの…



そうして泳ぎ着き尾びれを「人の足」に変え羅鏡都に上陸した海神は彼女に「贈り物」だと言ってこれまで数百年に渡り「海神の花嫁」を虐げてきた者たちをひっ捕らえ水責めにしたりするのだが、これを受けた彼女はもちろん積年の恨みや群衆が自分に差し向ける嫌悪や冷然の眼差しにすっかり何かが吹っ切れてしまっているのだろうが迷うことなく「そのままひと思いにしてしまえばいい」心積もりなのにはやや驚いた。水責めは海神が「彼女の手を握って」いないと引き起こせない現象のようにも見えたんで余程の遺恨がそれをさせているのか、あるいは逆に彼女の方が彼の「復讐の炎」と共鳴していたのかな。
ホーケンはなぶられながらも「お前はリモリアや鯨落都を破壊しさらには羅鏡都も破壊するつもりか」と海神に怨言を吐き、これを耳にした彼女はそれらが「伝説にある海神の住む国」であるらしいことを辛うじて聞いたことがある程度の認識なんで、恐らくこれは忘却のラストほんの数十行で片付けられていたあの「リモリア・後日談」の真相を描いた物語なのだろう。
朝と夜の変わり目の炎の中で生まれた最後の海神ホムラが「亡くなって長い歳月が過ぎたあと」輝かしき国は海底に沈み静寂に包まれたリモリアには「かつて海神が愛する人のために海を欺いた」という伝説が広まった、なんてあちらでは語られていたけれど、実際には「亡くなった」のではなく「封印されていた」というあらましなのだな? そしてそれさえもただの伝承となるほど後の世に彼女が再誕し彼の封印を解くに至るまでに経過した時間が「数千万年」であると。
となると、ふたりが今こうして容赦なく「復讐の炎」を滾らせるのはかつて「輝かしき国」で成就しなかった愛のため「運命」への復讐か、あるいは「魂」に残された「嘆き」や「無念」のようなものの表れだったりもするんだろうか。
このまま水刑に処されるものと思われたホーケンは「滝の下の水牢」に拘禁され生かされることになるがこれも「情けをかけられた」ようなニュアンスでは決してなく、海神の花嫁を籠絡するためにホーケンが彼女に施した「呪い」とやらが、もちろん海神の力には及ばずあっさりと祓われてしまうものではあるが「人間が操れるようなものではない」ことから「どこで手に入れたのか」不審に感じた彼がこれを探るために下した決断であるかのように見えました。
月蝕の嵐
二度目の月の夜の「月蝕」が継続するさなか荒れ狂う海はまるで咆哮を上げる巨獣のように膨れ上がり黒い潮は絶えず押し寄せ港の堤防を破壊するといよいよ街を呑み込まんと迫り来ると言うが、こうして「三度の月の夜の果て」を待たずして「沈没」が訪れようとしているのは彼女が海神の封印を解き「海の運命が書き換えられた」ことにより「些細な誤差」が起こってるって話なのかな?
彼女は長らく自分を虐げてきた羅鏡都の街や人を「守るべき故郷」だとは感じられないながらも「かと言って滅びていくのをただ見ているわけにいかない」からと「伝説によれば海を転覆させ山を動かす力さえある」はずの海神に「あなたになら食い止められるのではないか」と訴えてみるのだけど、彼は海神の石像を砕き罵りの言葉を吐き捨ててきた人々のために「どうして自分が滅びる危険を冒して海神の書の予言に逆らいここを救わなければならないのか」疑問を口にして、そもそも自分は目覚めたばかりで「まだ力が完全ではない」のだと話してくれたりもするのだが、羅鏡都という都市国家があわや滅亡してしまうことに関しては「あまり心を動かされていない」様子がとても強調されていると感じたよ。
完全な力を取り戻すにはどうすればいいのかと尋ねられた彼はぞんざいに放置された「海神の書」が「微かな光を放っている」というその位置にふたりの鮮血を数滴溢し、新たに浮かび上がった隠された予言「リモリア人が真の力を得る方法」を彼女に読ませてやるのだが、とは言えそこに記された「海上で荒れ狂う大波と闘う」だの「深い海峡の隙間に潜り真珠を探す」だのは今のところすぐに満たせる条件ではないと言い、すると最後の一行「運命の相手の魂を見つけ愛し合う」とはどういう意味か「海神の花嫁」なら「答えは分かっているんじゃないか」と意味ありげに問うてくる。
彼女は彼がこうして「自由の身」や「少しばかりの汚れ掃除」なんて「贈り物」をしてまるで自分に好意を示しているかのように見えたのはどうやら彼の本来の目的なのだろう「海神の力」を取り戻すために「花嫁」の存在や「愛し合う」ことが必要だったからなのだと解釈し、であれば尚更「一瞬でできることではない」ため自分の命をできるだけ長らえさせて欲しい、そのためにもこの陸地を沈ませないで欲しいと願い出て、これに説得された海神は「一時的に僕の力を目覚めさせることができる方法」とやらで一先ず嵐を鎮めると言うのだが、ここもなんだかとてもグッときてしまったな。
彼は「彼女の手の掌紋に沿って」その手の平に一文字ずつ指で自分の名を書きながら「心の中でもっとも敬虔な声でこの名前を唱えて」って言うのだよね。彼女が思わず「ホムラ」って口に出すと、杖を渡して「僕のためにもう一度歌って」って。忘却の海リモリアの海神祭でふたりが火種を前に向かい合い彼女が「魂に彼の印を刻み彼のために歌い祈ろう」と誓うとホムラの炎が細い糸のようになって「手の平の掌紋の一部になる」あの場面が蘇ってなんだか泣けてしまった。今更ながら彼の印は彼女の手の平に刻まれていたのだね。だから彼の胸の印に手の平を当てるのね。涙
再び人魚の姿となって嵐の中へ飛び込むと稜線に沿って荒波の上を滑るように泳いでいくというホムラ、その手に握られた「断潮戟」の先端から放たれた電光が厚い積乱雲を突き破り金色の光の流れが海面で沸き立つと荒れていた潮が「透明な魚群」となって深海へと引いていき、彼女は岸辺からまるで「目が離せない」という様子でその始めから終わりまで彼を見つめながら彼の名を唱え彼のために歌ってるって、想像したらなんと壮大で幻想的で言葉にならないほど美しい。強いて言葉にするならまるでトライデントを携えたポセイドンとセイレーンのようなのだけど、ちょっと既知の名称で表現できる範囲には到底収まらないな。
エンティナ山の森
月蝕の嵐を鎮めたことで彼女はホーケンの後継として羅鏡都の新たな領主となるも民衆に数百年と刷り込まれてきた忌避感のようなものは拭えず「海神の花嫁は海神の力を私欲のままに妄用するつもり」だとか「ホーケンは水牢で毎日海蛇に血を吸われているらしい」なんぞあらぬ噂を立てられたりもするが気に留めず、それよりもこれからいかにして「ホムラと愛し合う」ことができるのかと思案に暮れていた。
一方彼は「僕の心の一部」だという自分のウロコを「青い貝殻」に変え銀の細いチェーンを通し彼女の首に掛け「それがあれば君がどこで何をしているか僕はいつでも分かる」のだと言うんやが、その貝殻とは忘却ホムラが「これでこの先どんな危険に遭遇しても恐れることはない」と言って渡してくれたあの「海神の使者」と同じもの? 海神の使者は「ウロコに変わるもの」と決めつけていたが、言われてみれば確かにあれは見た目「貝殻」だったかも知れない(節穴
いろんな場面いろんな呼び名でいろんな形状をしているもんでいろいろと履き違えていたけども、改めて彼の「ウロコ」とは「海神の使者」たる「青い小魚」にも「青い貝殻」にも姿を変えられるものであり「心の一部」や「心のすべて」を込め好きな相手に贈ることができるアイテムのようである。そしてこれにより相手を常に身近に感じることができるようになると。
わたしはそれが彼らの「契約」なのだとばかり思っていたがどうやらそうではなく、ふたりが交わした契約とは恐らくただ一度火種の前で「互いが互いの魂に印を刻み合い」愛と信仰を誓い合うあの「結婚式」のような海神祭でのセレモニーを指していて、これが時に「海神との契約」とも「リモリアの契約」とも「永遠の契約」とも呼ばれているらしい。すると「契約により彼が彼女の意に背けなくなる」ということもこのタイミングで起こるわけだな? 彼女が「信者」から「花嫁」に変わるのもこの地点なんじゃないかと。
ホムラの物語における「魂」が何を指すのかは判然としないが少なくとも刻まれた印とは彼は胸に彼女は手の平にそれぞれ確認できるそれなのだろう。言わずもがな「魂」が同じである限り何度転生してもその印が消えることはないもよう。
ホムラは長らく打ち捨てられていた神殿の中央部に位置する破損した12体の像に囲まれた「深海に繋がる白い波が渦巻く幽玄な池」を自ら修繕し、そこを「寝室」にして海と神殿とを行き来して過ごしているらしい。彼女が覗き込めば時に手首をつかんで水の中へと引き入れて、驚きと肌寒さに「タコのようにしがみつく」のをからかって笑いながらも「小さな炎の玉」で身体を温めてやったり、またある時は人々が自分たちを忌み嫌いながらも媚びへつらうまるで偽りの信仰の象徴であるかのような献上品も「それで楽しそうに遊ぶ君を見たら腹も立たない」なんて溢したり、しまいには本来自分のものであるはずの「海神の杖」にどういうわけかリモリア語で彼女の名が刻まれていることから海神にとっては「眠り」に就く前、人間たる彼女にとっては「死」を迎える前、お互い記憶にはないが恐らく自分はその貴重な杖さえ捧げてしまうほど「君のことが好きだったのかも知れない」とまで話してくれたりもするのだが、一方で「愛なんていう形なき感情に意味があると信じたことは一度もない」とも言い、今はただ「力を取り戻すために海神の書の示す通りにしている」ものの「僕が本気で君を愛することはない」だなんてきっぱりと断言してしまうホムラ。
彼女はこの時点ホムラが本気で人間を愛する姿をまるで「想像できない」と感じているみたいやが、忘却ホムラを思い返すとこれまた涙出そうになるよ。出会いしなに「唇に噛み付かれた」ことをあんなにどぎまぎと赤面しながら語り「僕を好きになって」「潮が満ちても引いてもずっと僕のことだけを考えて」と会ったその日から心のまま熱心に訴え少しでも姿が見えなければそわそわし「君の望みは陸に戻ることなのか」と身体を横に向け小石を蹴ったりするあの「愛なしではいられない」ような彼が今はそれを「信じる」ことさえできなくなっているのだもんな。もちろん心ではよっぽど彼女に惹かれているのだろうが何か本能的感覚的なものがそれを許していないかのように見える。一体どんな悲劇によってこうしてすっかり心を閉ざしてしまっているのか考えると本当に胸が痛むな。涙
とは言え自分たちがもし本当にかつて愛し合っていたふたりなら「もう一度愛し合うのは難しいことじゃないはず」だと思い至った彼女は手始めに「自分が愛すべき神とは何が好きで何が嫌いでどこが良くてどこが悪いのか教えて欲しい」と申し出て、これを受けたホムラは「卑劣さや欠点を知って愛そうとする」その行為を「盲目的で愚か」だと感じながらも「僕がどんな神か知りたいのなら簡単だ」と思い立ち、誰も由来を知らないというこの地でもっとも古い遺跡を囲う「エンティナ山の森」へと彼女を招き入れるのだが、彼が言うにはそこは「歌島」の一部であり「リモリアと歴代の海神の重要な記録が保存されている」場所らしい。
なんか、かつて鯨落都の真上に隆起していた孤島「歌島」はもちろん「偽りの信仰」であるかのような媚びへつらいではあるものの海神を崇拝する「神使」たちが修道僧のように暮らし本当に「海神の伝説の始まり」からああして「生贄」を海に投じ彼女がホムラにそうされたようにある海神に命を拾われ海底へと連れ帰られて、やがて愛し合い「花嫁として」「火種として」の役割を長らく全うしてきたのかも知れないなって思ったよ。そして両者が時を経て海にあったり陸にあったり近くにあったり遠くにあったりするのも「地球がフィロス星になったから」「星そのものが大きくなったから」と言うより「地殻変動が活発な古代に築かれた都市だったから」ってのが正解だったのかもなと。
秘炎の滾る地海底の石板はまじどちゃくそデカいのに金砂の海歌島遺跡の石板はA4サイズくらいなニュアンスだったのも不思議だなって思っていたが、忘却の海当時鯨落都のリモリア人たちが「潮が満ちたとき」に貝殻や真珠と一緒に「瓶に詰め陸地に贈っていた」らしい「伝説」というのがそのサイズ感だったって話で本来海底に「現れる」海神の書というのはどれもあれくらいでっかいものなのかも知れん。海神とその花嫁にしか「対話できない」という書があらゆる人に読まれているのもそういうわけなのかも?
風化した森の遺跡には「満月」と彼の力でかつての栄華がおぼろげに投影され、彼女は「海神がリモリアを創った伝説」なんかを聞かせてもらえたりもするのだが、これは今世ホムラくんもちらりどこかで話してくれていた鯨落都の名前のいわれ「初代海神の従えていた海獣が没しクジラの骨となって海底に沈んだ」というあれのことかな? こちらの言葉ではどうやら没した海獣の「その血は大海原となり鱗は星となる」「その骨は日輪を背負う巨大な鯨となり時を測る月の二枚貝となり冥府へ続く珊瑚の橋となる」だなんてだいぶと厳かな雰囲気になるらしい。
「君の知りたい海神はここにいる」と言われて来てみたものの「これらは確かに海神の物語ではあるがホムラの物話ではない」と口にする彼女、ホムラはいずれ自分も「海神」となり「ホムラ」という名を忘れるのだから「何も違わない」と言い返し「君も僕が力を取り戻し真の海神になることを望んでいるじゃないか」と問い掛けるが、もちろんそうに違いないはずの彼女はかと言ってそれがとても「いいことのようには聞こえない」とも感じ始めてる。
海神の墓地
自分は「青い貝殻」を用いてこちらの行動を一方的に把握しているくせにいつも黙っていなくなりあわや「そのまま海へ帰ってしまうのではないか」と思わせるような要領を得ない彼の態度に「これではあなたを愛するのは難しい」「せめて何をしてるのかどこに行くのかくらい教えて欲しい」と不満をぼやく彼女、どうやら月の満ち欠けと潮合いを計らい行先地を決めているらしいホムラはある夜その「時が来た」からと「今度は一緒に行こう」と言い出して海の底から「二枚のヒレを持つ魚の骨格」のような蒼白く巨大な生き物「骨獣」を呼び出し彼女をその背に乗せ沖へと向かった。
何やら骨だけの姿であるらしいそれは一体どこから現れたのか「かつてリモリアと共に滅びた」はずの「幻海ザメ」たる種族なのだと言い、つい先日「僕を見るなり飛びかかってきて食べようとしてきた」そうだがこうして今まるで彼に懐いて健気に後を追っているかのようにも見えることから彼女は「もしかして眠りにつく以前のあなたの友達だったんじゃないか」と見解する。これも今更ながら忘却の海神祭でホムラがまたがっていたあの「クジラのようでありながら鳥のような大きな翼を持った美しく神聖な海獣」とは改めて「幻海ザメ」だったのだな。骨となり眠っていたが主人の封印が解かれたのを感じ取りようやく会いに来られてはしゃいでしまったのか。
ホムラは「そうだったのかも知れない」なんて呟いて、ただし「もう忘れてしまった」のだと言うかつてのリモリアに想い馳せ「海神の力が蘇らなければ鯨落都は再びこの世に現れることもなく眠りについたリモリア人たちも目を覚まさない」などと独り言つのだけど、そうして心から恋しく懐かしく思えるような「故郷」を持っていることが羨ましくも心惹かれるように感じられた彼女は「久し振りにやるから上手くいくか分からない」と前置きし、その骨獣と「共鳴」し恐らく幻海ザメの記憶の中の光景なのだろうあの輝かしい鯨落都の姿をぼんやりとした輪郭ではありながらもホムラに共有して見せる。
しばらく言葉を失ったような彼は噛み締めるように「鯨落都を見せてくれたこと」に「ありがとう」なんて口にするが、秘炎のホムラ然り金砂のホムラ然りとにかく彼が「海神の力」を手にしたいのはいつだって「みんなで一緒に故郷に帰りたい」その一心なのだなと思ったよ。
ふたりは恐らく海洋プレートが大陸プレートに沈み込む「海が深い舟状になっているようなある場所」にまで泳ぎ着き、海面が荒れ狂い「山が崩れんばかりの勢いで海水が呑み込まれている」というその巨大な海溝に飛び込んでさらに深い深い海底にある「海神の墓地」なる遺跡に足を踏み入れることになるのだが、ここへ来たのは隠された予言「リモリア人が真の力を得る方法」に記された「海上で荒れ狂う大波と闘う」の部分に該当するある「試練」のためなのだと言い、本来であれば魂に刻まれた「契約の印」が「不完全」であるためこれを受けられないと言われているホムラは「契約を結んだ相手」である彼女を連れてきたことで「今回は特別に認めてもらえるのではないか」と踏んでいるもよう。
何やらとても厳粛で重々しい雰囲気に包まれ一瞬構えてしまったが、鎖で何重にも封じられているというその厳格な石門から「立ち入る資格がない」と告げられたホムラが「彼女も一緒だからいいでしょ?」みたくめちゃくちゃ気軽に言葉を返すとその物々しい声がちゃんとお笑いの間を利かせてから「…確かに」とか言い出すんだよねw
その試練とは「三十三層」から成る墓地のそれぞれ一層に一体安置されている「歴代の海神を象徴する石像」と闘い順番にすべてを倒して「祭壇」に到達すれば「断潮戟」を鍛え直し「力」を与えてもらえるって話らしいんだが、アモン長老が言ってた「海神は没後も海底で眠り続ける」とはこうして自分の石像に魂を宿し「いつか呼び出しがあるまでここで待機してる」ようなニュアンスだったのか。しかも、33人も居たんだな。てっきり羅鏡都の神殿の池を囲む12体の像とやらが全員分なのだとばかり…
ホムラは本来闘わなければならないすべての石像を「姿を現す前に打ち戻しながら」すぐに祭壇のある最終地点へと辿り着いてしまうのだけど、歴代の海神たちは「なんと型破りな」「若い神らしくていいじゃないか」「しかしもう終わりか?」「私の出番は?」とかってむっちゃみんなで盛り上がって騒いでいたりする。なんか、資格がなくともこうして特別に通してもらえたりルールを無視しても笑って許してもらえたり「愛する人の心臓をえぐり出す」なんぞ惨たらしい鉄の掟を厳守するリモリアの海神たちとは蓋を開けてみればまるでホムラくんの集まりのような寛大な集団なのだな。と言うか、どうやら三十三層どの階に居てもみんなでお喋りできるみたいだし「暗くて寒いところにずっとひとり」と言うほど湿った雰囲気でもなさそうな(殴
何やらいちばん登場するこの「長い髭の海神」が忘却ホムラが「危うく面会してしまうところだった」とか言ってた「先代の海神」なのかな? すると出番がなかったらしい「鯨に乗る海神」が「初代」なのかしら。なるほどホムラも海神として「完全」となりその役目を全うすれば「ホムラ」の名を忘れここで「断潮戟を携えた海神」となってしまうわけだな。


祭壇の前に立つと名もなき詠唱と共にあの「リモリアの契約」の場面が蘇り「懐かしいような見覚えのないような」今よりもっと若く自由で無邪気で澄んだ海そのもののように明るく朗らかに笑うかつてのホムラを目の前に「確かに本心からそう思っていた」と感じられるような心持ちで「すべての信仰を彼に捧げ魂に彼の印を刻む」ことを誓う「自分の声を聞いた」と言う彼女、それまで自分はどうして「海神の花嫁」なのか勝手にそう告げて花婿も教えてくれない「海神の書」とはなんと粗だらけで適当だなんて文句を言ったこともあったと言うが、改めて彼を愛し自分の意思で「花嫁」となった過去を知り気持ちの在り方が少しだけ変わったようにも見える。
一方鍛え直された断潮戟を手に振り返るホムラの尾びれにはいっそう鮮やかで鋭い光が宿っていて、どうやらこれにて「海神の力の一部」がひとつ彼の中に目覚めたってことみたい。
笛の調べ
正直これがなんなのか明確に理解できてないんやが、墓地での試練を終えると彼女の背中には「赤い模様」のようにも見える不思議な傷痕が表れて、彼女自身「怪我をしている」とホムラに指摘されても痛みや違和感さえなく確認しても服に血が滲んでいるわけでもなしに「それらしいものは見当たらない」と言うのだが、ずいぶん慌てた様子の彼が「今すぐに手当をする」と言って手をかざし「温かい力」を注いだ途端彼女は「骨にまで響くような鋭い痛み」に襲われ呼吸さえ苦しくなってくるのだよね。
ホムラは徐々に弱っていく彼女に「急いで羅鏡都に戻るから少しの間我慢して欲しい」と声を掛け、何やら周囲に充満しているらしい「この霧が晴れれば多少は楽になるはず」だとも言うんだけど、実は「海神の墓地」がある「海溝」に到着する直前彼女は突然立ち込め始めた霧になんだか意識が朦朧とし眠ったままここへ来ていたりする。その霧が一体何なのか分からんがなんとなく生と死の境界のような描出ではあるし、そこへ彼の「不完全な契約の印の相手として」踏み入ってしまったことが何か影響しているのかな?
羅鏡都に戻るまでの道中彼女は苦しさのあまり「伝説によれば海神の歌声には人の心を惑わせ幻に溺れさせる力があると聞くがそれでこの痛みを紛らわせることができるか試してみたい」なんぞ訴えて、ホムラは一度断るも「リモリアの契約」の何たるかを呼び起こされている彼女に「契約に基づいて命じる」なんてことをされ止む無く巻き貝の笛を吹いてやるのだが、その知らない旋律を奏でる「笛の調べ」がきらきらと輝く波を伝い耳に届くと彼女は本当に一時傷の痛みを忘れ「美しい夢の中」へと導かれていった。
街に戻ってからも恐らく数日以上同じような症状は続き、ホムラは「傷が癒えるまで一歩も神殿の外へ出ず安静に過ごしていれば回復する」のだと言って「リモリアでいちばん効く」とされる「金羽藻」で作られた治療薬を傷に塗り毎日付きっ切りで介抱してくれたりするのだが、彼女の方は何度も霧に襲われるように意識を失い骨の奥からは「魚の群れがサンゴをついばむような音」がしたり「新しく生えたウロコを海水になでられているような感覚」を覚えたり、意識は清明なのにどうしても目を開けることができない日もあれば、高熱を出し口の中の乾きとめまいを癒すのにひんやりとした彼の尾びれに一日頭を乗せ過ごすような日もあった。なんだか潮汐逆流の日を迎えたホムラくんを思い起こさせるが…
彼女は次第に普段なら気にも留めないような些細な雑音が大きく聴こえるようになり、指が擦れる音、鼓動の音、海から離れた神殿に居ながら波間で泡が弾ける音や潮が満ちて引く音さえ全て聴こえてくることもあるのだと彼に打ち明けるが、実はその「赤い模様」とは彼女をどんどん「リモリア人に近付けていくもの」であり、すると感覚が鋭くなって「いちばん遠い海の呼び声が聴こえ異常なまでにさまざまな色が見えるようにもなる」なんて言うのだけど、リモリア人ってそうなの?←
ただし彼女は「人間」なのでそうなればいずれ海以外の音が聴こえなくなり海以外の色は見えなくなって、足で地面を歩くこともままならずついには口と鼻から入り込んだ海水が喉を満たし「陸地で溺れ死ぬようにでたらめな最期を迎える」のだとも言うが、こちらは本編「レーウィン」の最期が連想されるような話だな。彼が「一年経っても死ななかった」理由が本当にリモリア人の不死化細胞LCMECsによる治療のためだったのかは不分明であるが、確かに幻覚を見たり意識障害を発症しながらそのまま溺れて死んでいったような。
もしかして故郷を失い陸で暮らすリモリア人たちも同じように「人間に近付くこと」でおかしくなってしまったりするんだろうか? 思い返せば金砂のホムラは「多少呼吸がしやすくなるから」と常に顔半分をマスクで覆っていたし、今世ホムラも潮汐逆流の日に限らず光に堕つでは突然両目が見えなくなったり本人「よくあること」だし「安静にしてれば治る」ような認識ではいたけども、仮に「リモリアの生存者全員がいずれそうなる」って話なら彼が海神の力を取り戻したいのは「故郷に帰ること」よりも「彼らをでたらめな死から救うこと」の方が動機として大きそう?
いずれにせよそうした死を差し迫って身に感じても「怖くないのか」と尋ねられた彼女はこの数日彼が奏でてくれていた「笛の調べ」や彼自身が自分にとって「苦しみを和らげてくれるもの」だと感じたため「あなたが生かしてくれるから怖くない」のだと答え、彼の方はどうやら彼女が海ではなく陸で暮らす人間であることを再確認する一方で「でたらめな最期を迎えさせたくない」想いからかまたいっそう「好き」を募らせていたかのように見えました。
余談なんだが「人間の身体とはなんて脆いんだ」なんて言いながらも薬を塗る指先は優しく「あなたは面倒を見るのが上手だし私はあなたに面倒を見てもらうのが好き」だと告白されたホムラは表情こそ変えないが褒められた嬉しさで「首元の小さなウロコがひとつ立っている」なんて描写が入ったりするの、彼の「逆鱗」とは彼の心の一部を込めて彼女に渡したあの貝殻ではなくまだそこにあったのね? と言うか、金砂の海フィロスの書物に記された「リモリア人は逆鱗を抜き取れば持ち主の命令に従い命すら捧げる」なんて話と「契約により彼が彼女の意に背けなくなる」ということをわたしが勝手に混同していただけで、彼が彼女に贈るウロコは全身どこのものでも同じ働きをしてくれるものだったんじゃないか。となると、逆鱗でしもべにできるとはまるで彼らの感情のバロメーターでもあるかのようなそれを手中に収め「感情を失った人形のようにしてしまう」ようなニュアンスだったのかな(怯
謝海祭
背中の「赤い模様」がもう間もなく消えてなくなるという頃、月蝕の嵐を鎮めてからもなかなか拭い去られなかった海神やその花嫁への忌避感は時間の経過とともに徐々に薄れているのか街では「海神の加護と祝福を祈る」という「かつて羅鏡都でもっとも盛大な催し」だった「謝海祭」の準備が進められていた。
彼女は領主として祭典の開催の儀式における始めの挨拶を頼まれ「数百年に渡り海神信仰をないがしろにしてきたこの地に祭祀の方法をまだ覚えているのが私しかいないから」という理由でこれを引き受けることにするのだが、自分を封じ込めていたあの「塔」から脱すれば当然手に入るものだと思っていた「自由」が再び奪われていくような感覚にも襲われて、滅入る気持ちを晴らそうと「全ての痛みが消える気がする」という彼の笛の調べを自分で奏でてみようと試みるもそれは「笛が恥ずかしさを覚えるのではないか」と思われるほどひどい演奏であるらしく、結局彼の肩にもたれ彼の吹く貝笛の音が夜風と月明かりをまとい遠くへ流れていくのを聴いていた。
どこか心が伴わないまま祭りは華やかに始まって、役割を終えた彼女は早々に重い宝冠を外し身軽な服に着替えてホムラの元へと駆け戻るが、彼女にはまるで無意味であるかのように思われる謝海祭を意外にも楽しんでいる様子の彼は「もちろん僕にはこういう信仰は脆いものに感じられる」とは言いながらも一方で「祭りの持つ意味」とは羅鏡都においてもかつての鯨落都においてもきっと同じように大切であり海神たる自分が今日だけでも人々を嬉しくさせるのは「難しいことじゃない」のだとその胸の内を語る。
彼女は「きっと眠りにつく前の彼は誰からも好かれる立派な海神だったのだろう」と思わせるようなその発言や、記憶を失ってもこうして力を手に入れ目覚めさせたリモリアの人たちを故郷へ連れて帰ろうと奮闘する彼の姿がとても偉大に感じられ、一方で結局都合よく利用され都合が悪くなれば捨てられて今もまた表面的に祭祀を取り仕切っているだけの自分が同じように誰からも好かれる立派な領主となるには「あまりに何も成し遂げられていない」なんて本音を溢したりもする。
すると不意に歩み寄ってきた小さな女の子が謝海祭の慣習のひとつとして道行く人々と交換して回るために全員が持ち歩くという「祝福を象徴する貝殻」を詰めた花籠から「ピンク色の貝殻」を彼女に差し出し、また彼女の花籠からもひとつ貝殻を摘まみ上げぎこちないながらも笑顔を向けてくれたりするのだけれど、それを目にしたホムラは羅鏡都の人たちも「すでに君のことを好きになっている」のだと諭すように声を落とし、それは彼女が何を成したかではなく「君が君だから」であり「この世の好きを表す言葉はどれも君にぴったりだ」と手を握ってくれたりもして、これはもちろん言葉通りの想いと彼自身が彼女の一部として羅鏡都にも愛着を湧かせ始めていることの表れだったりもするのかな。
神殿に戻った彼女は「さっきまではみんなと一緒の儀式だったけど今度は私達だけの儀式」だと言って彼と「恋人同士の祝福の交換」を象徴するらしい「花の露の杯」を軽く合わせるのだけど、今世のふたりも改めてもう一度あの海神祭前夜と同じみんなのためではない互いのためだけの祝福「もっとも敬虔で唯一無二の信仰」と「心」の交換をするのだね。涙
これも改めて「信仰を捧げる」「心をあげる」の言葉が指す意味の範囲にめちゃくちゃ幅があるためもう本当に感覚的な話になってくるが、少なくともこのやり取りにおいて彼が贈る「心」とは「海神の力」だとかあるいは何か自分の命やエネルギーをこの一度きりウロコやら貝殻やらに詰めて渡してしまっているんじゃなしに、互いを身近に感じることができるような大切な贈り物をした相手にひとつ惹かれるたび惹かれた分だけ今までもこれからも無限に注がれ続けるような「愛」そのものを指していて、そのお返しに彼が彼女から欲しいのもまた同じ「愛」の理解で良かったのだろうと思う。
これに対し金砂ホムラが「海神は自らの手で最愛の人を殺し失った心を取り戻さなければならない」なんて言うあの場面における「心」がいわゆる「あなたの印が刻まれた魂」だったり「心臓」だったりなんしかリモリア文明の繁栄と引き換えに彼女が犠牲にしなければならないものの総称なのだろうね。
つまりわたしは「心を返す」の意味するところが「それがあれば君がどこで何をしているか僕はいつでも分かるそんな愛の象徴をあげる」に対する「返す」なのか、「僕の印が刻まれたその魂を僕の力と文明の存続のために取り戻す」に対する「返す」なのか、これを場面ごとに区別できていなかったから死ぬほど散らかっていたんじゃないかと(しろめ
彼女は彼に貰った「貝殻のネックレス」に見合うものが見当たらず「小さい頃からずっと身に付けていた」という「真珠の指輪」を外し彼への特別な祝福を込めてお返しに贈ることにするのだが、指輪は「愛の証として贈られる」なんて人間の風習を聞いたことがあると言うホムラは「僕のことを愛してると受け取っていいのか」なんて尋ねてきたりして、彼女が少し考えたあと唇に軽く触れるようなキスで応えると「もっと深い証が欲しい」と言って「もっと深いキス」をする。この辺からも「愛」を象徴する何かに該当するものがキスであろうがハグであろうがウロコであろうが指輪であろうが、あるいは信仰という言葉であろうが心という言葉であろうが指してるものはみな同じなのだろうと感じたよ。
セイレーンの歌
謝海祭最終日の朝、神殿の水牢から脱走し今日までしばらくどこかに身を隠していたらしいホーケンの罠によって彼女はひとり海辺へと誘き出され、身体に「痺れ毒」を打たれて意識を遠のかせている間にふと気が付けば再びあの「搭」の居房に拘束されていた。
ぶっちゃけなんとなくそういうことなんじゃないかと思いながら読み進めていたようなところではあるが、ホーケンはかつて栄華を極めたリモリア鯨落都の時代から「蠱毒」のような呪術を用い「海の怪物」と呼ばれる謎生物を身体に寄生させ腐敗臭の漂う触手まみれの肉体となり数千万年を生きてきた古代人なのだそう。諸々踏まえたうえで恐らく生まれはリモリア人なのだろうとは思うんやが「あなたはリモリア人なのか」なんて問いには答えず一方で敢えて「人間の脆過ぎる身体」を捨てているなんぞ証言するあたりもしかしたらかつて「歌島」で海神の恩恵に与って生きていた神使のひとりだったのかも知れない程度に正確な出自はぼかされている。
呪詛のようなオカルティズムに権威のある世界観は「魔女」たる神秘主義を手に入れ人間となった「人魚姫」のそれなのかな? にしても、分不相応な野望のためにこうして自らが怪物と化しても「数千万年生きられる強靭な肉体が必要」だなんて古代人の中にもすでにEVERみたいなやつって居たんだな(引
ホーケンはリモリアが「この世界を主導するにふさわしいもっとも輝かしい文明」であると妄信し、これを「破滅」に導いた最後の海神ホムラとその花嫁には強い憎悪の念を抱いていて、強大な力を持つ海神を唯一「海の契約に基づく命令」によって殺すことができる彼女にそれをさせ自分こそが新たな主導者となって鯨落都を復活させようと画策してるらしい。
以前ホムラと見た隠された予言「リモリア人が真の力を得る方法」の何やら「そこから剥がれ落ちた欠片の一部」であるかのようにも見える砕けた石板を嘲るような視線を向けながらこちらに放り投げてくるホーケン、そこに一体何が記されているのか自分の目で確かめろと促され「運命の相手の魂を見つけ愛し合う」の後に「自らの手で相手の心臓をえぐり出す」なんて続きがあったことをついに彼女は知ってしまうわけだが、この時点「飢えた者が自然に食料を求めるようにお前の心臓をえぐり取ることが海神の本能であり正体である」なんぞ焚き付けられても彼女は「それがどうした」てなもんである。
ふたりの「愛」と「信仰」にとってたとえそれが真の予言であっても当然彼女には彼が「海神の書に言われるがまま」それをするようには到底見えないということだよね。言わずもがな彼は本当に「それをしたくないばかりに海神の書に火をつける」なんて無法に及ぶことができるほどの海神ではあるが、まずは彼女が疑いなく彼の愛の何たるかを信じ理解してくれているようで安堵した。ホーケンがこの石板の欠片をどこで見付けてきたのかは分からんが、ところどころ文字が欠けて読めないほどボロボロなのはきっとかつてのホムラが剥がして捨ててしまったんじゃないかってくらいには論を俟たないよな。

とは言えホムラが「数千万年前のある出来事」を思い出せば躊躇いなく彼女をその手に掛けるだろうことを確信しているらしいホーケンは何も覚えていない様子の彼女にこれを思い出させるべくこれまた何か怪しい呪物なのだろう「青錆に覆われた瓶」から吹き出す謎の煙を彼女に吸わせその身体に魂の記憶を呼び戻すのだけれど、ここは忘却の海「リモリア後日談」読了当時わたしが想定していた事の顛末とはまるで真反対である真相が語られて頭壊れたんかってくらい泣いてしまったわ。涙
ふたりがあの海神祭で「契約」を交わし互いの魂に印を刻み合った直後、若いホムラの「明るく朗らかな瞳」には突如「冷酷で無慈悲な青い炎」が宿り、まるで別人に豹変した彼は冷え切った表情で早速その心臓をえぐり出そうと彼女にナイフを突きつけていたと。墓地で告げられた「海神の印が不完全」であるという言葉の意味は、海神たるもの契約相手を自らの手で葬ることでこれを終わらせ枷となるもの弱点となるものすべての束縛から解かれたときに初めて印が「完成」し完全な力を手にできるってことみたい。
秘炎の滾る地ホムラが同じように豹変する直前「この力は従順じゃなくて、」なんて溢していたが、海神の力とはどうやら彼の意思とは無関係に憑依するかのごとく働くものらしい。力と引き換えに失ってしまうのは「名前」というより「アイデンティティ」なのかも知れないね。
海神祭前夜に夢に見たある未来「あそこが鯨落都だよ」と砂丘を指差す潜行者ホムラに駆け寄った彼女がついにナイフで胸を切り開かれ心臓が取り出されてしまったあのシーンも「本当にこの心臓をえぐり出してくれるならして欲しい」と望んでいた彼女が「海の契約に基づき」命じてしまったものだとばかり思っていたが、となるとこうして目を青く染めた彼が力を制御できずにしてしまったってのが真相だったのかも。
ただしホムラは「抵抗は意味をなさない」とさえ思われるその強大な力を必死に抑え込みついに刃先が肌に食い込んで彼女の胸から僅かに血が流れ出てくるのと同時になんとか身体を離して壁龕にもたれ苦しげな表情を浮かべながら「火種に信者の心が必要だなんて間違っている」と果敢に抗う。
明言されてるわけではないが今スト隠された予言として語られる「リモリア人が真の力を得る方法」とは「心臓をえぐり出す」の部分含め改めて「この瞬間に初めて知らされるもの」だったんだろうなって雰囲気。
すると「最終的に彼女を自由にしてやるつもりだったのだろう」なんて見解していたあの海の全てを彼女に捧げた「海神にとってもっとも幸せな日」ってのは彼がこの先「一生離さない」心積もりでああしてカモメと戯れキラキラ光るみなもを歩く彼女を眺めてた、ただ無邪気に愛を信じていた海神の本当に文字通り「もっとも幸せな日」だったのかって思ったら余計に涙止まらないんだが…
そしてこれは「逃げて」と声を絞り出し訴えても離れようとしない彼女にこのままでは自分はまたこの力によってナイフを振るってしまうかも知れないからと咄嗟に口をついて出てしまった話なのかも分からんが、ホムラは実は全ての海流が集まる海の果てに「火種の芯」なるものがあると語り出すのだよね。それが見付かればきっとリモリアは永遠に光を得て永遠に存続し続けることができると。
忘却の海では彼女の手の平に彼の印が刻まれたことが「僕から君への約束」であるかのような言い振りであり「壁龕の炎」は彼が吹き消したかのように見えたけど、実際には彼が火種を「無数の糸のような光」に変え彼女の心臓に注ぎ込んで託し「君が芯を持って戻って来るその日まで鯨落都をこの姿のままにしておく」ことが「僕から君への約束」であり「リモリアの永遠の契約」でもあると告げていたのだね。
彼女は神殿を離れ長らくそれを探し回るも見付けることができず鯨落都は滅びの危機に見舞われて、これは恐らく後日談ホムラが手にしていた「赤子の鼓動のように小さく脈打つ炎」とは彼のEvolなのだろうことからそれを火種の代わりにしていたリモリアは「ホムラの寿命が尽きるとともに尽きる」ものであるかのように思われるのだが、どうも「海の水に轟く崩壊の音と絶望と血の臭いが広がる」なんてことが起こっている辺りもしかすると「リモリア文明の滅亡」とは必ずや「迫害」によって訪れることが定められているのか…? 人々の非難の声と「弁明できなかった」という彼女の無念から「海神が愛する人のために海を欺いた」なんて話が歴史に刻まれたのがこの地点なのだろう。リモリアとは海神の力たる火種の消失とともに「眠る」なんて言われたが、逆にリモリアが「滅び」れば海神には二度と目を覚ますことのない「死」が訪れるといった具合らしい。
彼女はホムラを死なせまいとして強制的に「眠らせる」手段なのだろう海神の杖と何やら契約者然とした力で「リモリアの文明が新たに誕生し世界があなたの目覚めを許すその時まで」彼を鋭い幻影で貫きもっとも深い海溝に「封印」するのだが、かつて海よりも澄んでいた瞳を漆黒に染めたホムラは驚きとも悲しみとも怒りとも取れるような凍りついた表情で彼女を見据え「君は本当に僕を裏切ったのか」なんて言い残してる。涙
セイレーンの歌第三幕「私は最も鋭いナイフであなたの心臓を切り開き愛という名の信仰を刻みましょう」とは「銀の短剣」による「封印」を意味していたのだね。そして「あなたの心はあなたが自らの手で取り戻すまで大切に保管しておきましょう」には「そのときが来たらあなたの印が刻まれたこの魂を捧げるね」「それ以外に方法がないと分かったから」っていう愛による決意と愁嘆が込められていると感じるよ。これが笑顔とも泣き顔とも見て取れる表情で歌う賛美のような嘆きのような歌…(嗚咽

錆びた瓶から噴出していた煙が消失し視界が晴れるとそこにはホムラが立っていて、彼は「リモリアの栄光を汚した」ホーケンを討ち取り始末すると彼女の拘束を解いて身体中の血の痕や飛び散った液体を拭ってくれたりもするのだが、実は「誰が自分を封印したのか」探る目的でわざとホーケンを水牢から逃がし泳がせていたというホムラ、どうやら始めからこの場に居合わせ同じように呼び戻された彼女の魂の記憶を見ていたのだろうことを理解した彼女は言葉に詰まってしまい、彼にはこれが「僕を怖がっている」かのように見えてしまう。
彼女はホムラが「あなたを封印した人間でありあなたが力を取り戻すための鍵」である自分を「殺さない理由はない」のではないかと尋ねるが、彼は自分が求めれば黙って差し出すのか「君の本心が知りたい」と訴える。もちろん「そう約束したのだからあなたに返す」と彼女は返答するのだけど、今は僅かばかりの死への恐怖と何より彼への申し訳の立たなさから「本心」であれば零れないはずの涙が溢れてくる。
ホムラは唇が重なってしまいそうなほど彼女に顔を近付けて「僕が欲しいのは魂の奥深くで僕を愛してくれる心だ」と何かを見極めるかのようにゆっくりと告げ「君はこれがそうだと思う?」と消え入るように問い掛けるが、そうか、彼が数千万年前からただひとつ何度も彼女に欲しいと訴え続ける「心」とは始めからずっとそういう意味だったのだな?
相手のために自分を犠牲にしたり命を投げ打ったりできる心じゃなくて、たとえそれをして証明して見せろと言われても嫌だと言い返せるような心、絶対に離れないと約束して決して裏切らない心、一緒に生きて、一緒に笑って泣いて、きっと一緒に幸せな最期を迎えられるような心。だから「あなたに返さなきゃならない」し「謝らなければならない」今の彼女の心は「そうじゃない」し「必要ない」んじゃないのか。
ふたりはこの日以降いつも通り共に過ごしたがこれまでのように朝焼けを一緒に眺めたり寒い夜にロウソクを囲ったりすることはなくなってしまったと言い、ほどなくして彼は海神の書に記された「海峡の隙間の真珠」を探しに向かうと海へ潜ったきり戻って来なかったとも書かれているが、わたしには彼女の言うように彼が「彼女に封印された過去」を知り「魂の奥深くで愛してくれる心」に「傷が付いた」と感じてよそよそしくなっているようには見えなかったかな。それよりもそこに至る前に「いつかきっとこの心を返す」決心をしてしまっていたことが「永遠」の契約に対する「裏切り」だと感じられたのではないの?
真珠を探しに行ったのも彼女があらゆる迷いや自責や自己犠牲から解放されもう一度「魂の奥深くで愛してくれる心」を取り戻してくれるまでに再び月蝕の嵐のような気候変動が訪れてはまずいからまたあの墓地の試練のように「海神の力の一部」を目覚めさせておこうと奔走しているように見えちゃったけどなぁ。
最上の信仰
夏の最後の夜、羅鏡都は何の前触れもなく「かつてない豪雨」に襲われ多くの人や建物が海に呑み込まれていった。彼女はホムラと交わした「彼を愛する代わりに羅鏡都を水没から守ってもらう」という約束はすでに意味をなさなくなったものと結論し、自分の力で街を守り生き抜くことを決意するも自然の力とは強大で、ついに地上の最後の光とも思われる月が漆黒の雲によって覆われ三度目の月蝕が訪れたかのように思われたとき、よく見ればその雲は「海面からせり上がる巨大な波」だと気が付き水の幕の向こうにに目を凝らせば、そこには「海神の力」を目覚めさせた「青い目」をしたホムラが断潮戟を高く掲げ金色の稲妻を操り荒れ狂う潮を一気に逆流させているその姿が見えた。
思わず波間へ飛び込んで彼にしがみつき固く指を絡めて「共鳴」を試みると、彼女は羅鏡都で過ごした短い夏の間に彼が「長く押し殺していた」はずの純粋な愛や歓びを少しずつ取り戻していったその心模様やここを離れている間の「起伏する想い」を感じ取ったと言うのだけれど、うーんやっぱりホムラは彼女に対する想いにおいて何かに葛藤していたけど危機を目前に戻って来てくれたようなニュアンスなのかなぁ。
恐らく「共鳴」の働きによって彼は「青い目」をしたまま本来のホムラに戻り背後から彼女の腰を抱いて「この力をよく感じて支配して」なんて優し気な声で語り掛け、すると彼女の瞳にも「ホムラと同じ色」が宿り身体には全てを燃やすような熱を帯びた力が駆け巡ってふたりは「天地を巻き込む力」で押し寄せる波をせき止めるに至るのだが、こうして彼が青い目のまま「ホムラ」を保てていた場面って他にもあったっけ? 冒頭封印を解かれたときにはもちろん海神然としていたし1部7章はちょっと言葉を発していなかったんであれだけど、もしかしてこれは「共鳴」さえあれば彼は彼のまま海神の力を操ることができるようになるかも知れないという示唆?
民衆から湧き上がる安堵の歓声を背に聞きながら繋いだ手を「どちらも先に放しては駄目だ」と言い笑い掛けるホムラ、どうやら一日でも一月でも一年でもないその何千倍何万倍もの時間「ひとりぼっち」だったことに対して「そう簡単には許せない」ながらも「愛」が強いほど強固なものになるという「契約の力」が自分をそれほど長く封じられるものだったことから「それだけの愛があればたいていのことには説明がつく」と納得もしているようで、それでこうして再び「手を繋ぎに」戻って来てくれたってことなら本当に彼は彼女からの仕打ちにいじけて仕返しのつもりでここを暫く離れてたってこと? そんなまさかな。いや待てよ、思い返せば夜遊びの章「長らく僕を忘れ去ってしまっていた少女」には「記憶喪失を演じる」という常に「いじけて仕返しをしたくなる」のがそもそもホムラなのかも知れん←
彼がいない間「やっぱり心から好きにはなれない」とは言えこれまでの過去を断ち切り謝海祭では祝福の交換をした羅鏡都を守る決断をしてやり抜いた彼女には「自分の故郷が滅んでいく心をえぐられるほどの痛みを背負わずに済んで良かった」とホムラ、これは封印直前に起こっていたらしい「海の水に轟く崩壊の音と絶望と血の臭いが広がる」出来事を思い起こしているのかな。仮にそうなら今回海神として「印が不完全」な状態でそれをするのが恐らく彼自身危険だと分かっていてもこうして嵐と津波を鎮めに戻ったのは「彼女と彼女の故郷を守ってやりたかったから」ってことなのだろうな。
ホムラはこの日から徐々に身体を弱らせ長らく神殿で休んで過ごすも池の水は黒く濁って干上がり一時は瀕死の状態で、もう一度「海神の墓地」を訪れ彼女の「愛で満たされた純真無垢な心」の一部を捧げたことによって一度は回復するのだけど、そのうち眠る時間は長くなりついには尾びれの輝きをも失われてしまう。ただ、これって逆を言えばあんな断潮戟の稲妻をいかんなく発揮した天地を揺るがすほどの力さえ発動しなければ「印が不完全」な海神でも命の危機に瀕するようなことはないって話なんじゃないのか? と考えるなどした。
そもそもどうして海神は印を完全にしなきゃいけないのかって、それをしないと火種が消滅してリモリアが何百世紀もの眠りについてしまうからだと聞いたよな。忘却のアソが「私たちの代の海神は火を使う能力を持ってる」だなんて言ってたあたり歴代の海神たちにはきっとその「火を使う能力」が備わってなかったからそれをせにゃならんかったけど、実際ホムラは封印前もちろん印は不完全な状態で彼女に火種を託しひとりでリモリアを守っていたのでしょ? 彼のEvolこそが「リモリアの光」となり得るのではないの? わたしはこれが彼を最後の海神たらしめる所以なのだと思っていたんだが。
海神の墓地では「ホムラを純真無垢に愛する心」を持つ彼女の心臓から金色の光が掻き出され彼に注がれたように見えたけど、つまるところこれって「共鳴」なんだよな? するとリモリア人が真の力を得る方法の最後の一行「愛で満たされた純真無垢な心は人類からリモリア人へ捧げる最上の信仰である」とは「心臓をえぐり出す」とはまた別の話のようにも思えてくるし、本来なら「印が不完全な状態でもEvolで火種を維持できるホムラ」と「共鳴で最上の信仰を常に捧げ続けられる彼女」が離れることなく愛し合ってればリモリアって維持できるんでないの? あ、いやもちろん彼らが転生するたびにリモリアも眠って、再誕したら目覚めて、眠って、目覚めてってなことにはなってしまうと思うけど(忙しい
いずれにせよ今回はきっと完全でない海神の力を自分の生命力みたいなもので補って使ってしまったから共鳴では回復が追い付かないほど手遅れってニュアンスなんだろうね。「僕の心の一部」だと言って渡された「青い貝殻」はそりゃ元はウロコであり海神の使者なのだから当然と言えば当然なのだけど彼が彼女を感じられるだけでなく彼女の方も「ホムラの命そのものを感じられる」もののようであり、彼女はこれが少しずつひび割れくすんでいくのを見て見ぬ振りをしながら、ホムラ自身も自分の身体の衰弱から目を背けながら、互いに繋いだ手を「どちらも先に放せない」まま羅鏡都の街や山野を巡り膝枕をしたりして過ごしてる。
ただし「時間は残酷なもので私に迷う余地を与えてくれない」らしい。涙
忘却のリモリア再び
これはもう思い出しながら泣いてしまうレベルなのだけど、ホムラは「どちらも先に放しては駄目だ」と結論したその手を最後は自分から放すことを決断するのだよね。
しかも、鎖の揺れるかすかな音だけが響く深く静かな海の底で忘れ去られた鯨落都の姿を思い描きながらただ孤独に耐えるだけの長い長い時間、初めて彼女の声が聴こえてきた瞬間が「海に日が差した」かのように感じられたこと、本当はその時からこうして彼女のために命さえ懸けられるそんな結末は決まっていたのかも知れない、始めから彼女を愛していたのかも知れないだなんて思い至っての決意だったりする。
彼は「真珠探し」を口実に一年か二年か百年掛かるか分からないがまたしばらく「羅鏡都を離れる」つもりであることを告げ、見送りに海の上までやって来て貝笛を奏で始める彼女には「最後の手ほどき」をしてやって、潮の流れが変われば「海水は来た場所へ帰り陸地とは異なる世界に切り離される」だなんて独り言ち、それは誰が見てもきっと揺るがない覚悟を秘めているかのようなのに、「でも海と陸地は常に接してる」「だから私達もまた会える」なんて返されればまるで洪水でも起こったかのごとく、「やっぱり嫌だ」「離れたくない」と声に出さずとも言葉が溢れ出てくるように全身で彼女を求め、押し潰さんばかりにぎゅーっと抱き締める。ふたりの身体の間には「一滴の海さえ一粒の砂さえ入れたくない」って言っているみたいに。涙

ああなんてスクショが下手くそなんだ。
そしてなんて画質が荒いんだよ(舌打ち
なんか、彼の物語におけるもっとも美しい描出とは「いつも彼が潔く別れを決断できない」ところにあるんじゃないかと思うよね。金砂の海でも海神の書を書き換えてまで彼女の元を発ったのに追い付いた彼女が「あなたについて行く」と言えば「一緒に行こう」と言っちゃうし。誰よりも「裏切り」を恐れる彼にとって本当にいちばん怖いのはもしかしたら「自分がそれを決断しなければならない瞬間」なのかも知れないなって思ったよ。
そして、彼の決意を察した彼女もまたひとり「かつて交わした約束を果たす」ことを心に決めている。これは「永遠の契約を終わらせる」ことを「海神の契約に基づいて」命じてはいるものの実際には「海神自らの手でえぐり出す」印の完成の方ではなく彼女が自分で命を絶って「愛で満たされた純真無垢な心を捧げる」の究極を達成してるって理解でいいのかな? 返したものも呼び名は同じ「心」でも「あなたの印が刻まれた魂」もとい「心臓」の方ではなく愛の象徴たる「青い貝殻」の方であるかのように見えました。そうして愛する人の喪失に海神が落涙するそれが探し続けてきた「海峡の隙間の真珠」になるようです。涙
やがて羅鏡都には天地を呑み込む巨大な波が押し寄せ街も人も大地も山もすべて海に沈んでしまったのだと言うが、人々は「数千万年前の記憶」を囁かれたかのように海の中の空気を吸い、懐かしくも見知らぬ故郷に足を踏み入れて、潮の間からはクジラの幻影が躍り出し、海の底と化したそのすべてが「リモリア」という名の記憶を目覚めさせ、そこは「鯨落都」として「蘇った」と書かれてる。
なるほど羅鏡都とはかつての鯨落都だったのか。いやなんかな、ぶっちゃけ似てると思ってたんだよ街並みとか背景スチルがさ。すると彼らの寿命が「数百年」と言うのはリモリア人だったからって話なのかな? もはや彼女が水中で呼吸ができ長寿であることに関しては端から「海神の花嫁だから」と決めつけ何ら疑問を抱くことなく最後まで読み終えてしまったが…
なんか、ここだけ読むとかつての鯨落都は「海が干上がって陸地に露見した」とかでなくもはや全部が「天変地異」みたいに聞こえなくもない。
水没の予言は蘇りの予言でもあったのだね。だから海神の封印が解かれた途端気候変動が襲い彼が瀕死の期間だけ晴れ渡っていたのか。と言うか、リモリアが「眠りから目覚める」とは「記憶」を眠らせていた街と人が「忘却」から目覚めるという意味合いだったのだな。
ホムラは彼女が「金色の光」となってやがて泡のように消えた後も長い間そこに佇み自分の手の平を見つめながら、彼女から贈られた真珠の指輪がまるで彼を抱き締めて放さないかのように、そして彼をこの海に永遠に留めようとしているかのように指を締め付けるのを感じていると言うんやが、恐らく彼はそれから寿命を全うするまで不完全な海神として海の役目を果たしたってことだよね。彼女は「海の水となってずっとあなたのそばにいる」と言い残したけれど、それは「これがあれば君がどこで何をしているか僕はいつでも分かる」海神の使者と共に「火種の芯」を探しに離れていた彼女を待っていたかつてとは比べ物にならないほどの「孤独」だったってことなのかも知れない。
ホムラに関してはどうやら魂が時空を超えているらしい他のいけめんたちとは異なりこの海神が「海神として不完全なため転生」してるのか「一度は深海で眠りにつくも彼が自ら何らかの手段で転生」してるのかいずれにせよ時間軸が歪まない時系列を辿って本編に到達してるんじゃないかって気がしちゃったな。するとどうやら物語だけがパルス信号となってやって来てるぽい金砂の海は「分岐してしまった別の世界のある未来」の認識でいいのかな? 思えば現世ふたりは海神の記憶こそ燻れど潜行者の記憶って一切匂わされてない気がする。
現世ホムラの故郷リモリアは「退屈で魚も醜い深海」だなんて言うんで無論彼の恋しがるかつての鯨落都とは程遠いものなのだろう。もしかしたらそれを再び蘇らせるべく再誕したのに肝心の彼女が見当たらず800年探してみたけどいよいよ帰ってこないから陸に上がって来ちゃったってのが深海が彼の牢獄であり800年待つ間に肺を得た真相だったのか…? (たぶんちがう
最後にこれまた賛否両論ありそうな過激な感想綴ってしまうんだが(やめて、個人的には「恋と深空」が実はいちばん描きたいのってこのリモリアの物語なんじゃないかって思っちゃったなぁ。要はこちらの世界の「古代神話」と「古代文明」が持つ宇宙論や超自然にロマンを感じ、もっともリアリティのある、それでいて幻想的な、唯一無二でオリジナリティ溢れる古代文明史とその神話を生み出して真新しい宇宙論を形にしたい、という創作動機がこの作品の「始まり」なのではないかと。それくらい独創的なもの情熱的なものを感じてしまいましたねぇ。あとはこの伝説が解釈を完全に読み手に委ねるスタイルで完結してしまったものと思い込んでいたのでこうしてすべての伏線を回収しすっきりさせてもらえたことがとても嬉しかったw
いつか機種変してムービーシーンがひとつもカクカクしなくなったらもう一度、次こそは全話一気に読んでまた号泣したい←