空に堕ちる
空に堕ちる

恋と深空を宗教思想史オタクがのんびり考察しています。

ネタバレを多分に含むうえ、新しく開放されたストを読むたびに考えが変わるため我ながらお門違いなこともたくさん綴ってあるのですが、プレイ記録も兼ねているため敢えてそういうものも全て残したまま書き進めております(土下座

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ザビエルとラファエル

最近「深空試練」が全体的にだいぶ詰んでおり、さらに「カオスウェブ」なんぞ追い打ちを掛けてくるもんで「攻略Wiki」のお世話になることが度あるのですけども、先日何の気なしにキャラ詳細ページなど読みふけっていたら、アプリ海外版には英語・中国語・韓国語バージョンがあるらしいことや、各攻略キャラにそれぞれの言語で名が付けられていることなどを知ってしまいまして(いまさら

特に深い意味はないのかも知れないが、せっかく宗教思想史オタクを名乗っているのだから、たまにはちゃんとこれに基いた文章も綴っておきたいなぁなんて思い至り、これまた自己満足のためだけにつまらん記事を書き残してみることにしました。

セイヤはなぜザビエル?

セイヤの英語名は「Xavier」なんだそうです。
わたしはどうしてもあのてっぺんはげのキリスト教宣教師「聖フランシスコ・ザビエル(Saint Francis Xavier)」が思い浮かんじゃうんだけど、宗教史の視点で彼の活動を振り返るとそう言えばセイヤとは少し類似点もあるよなぁと思って。
と言うのも、ザビエルらの創設した「ジェズイット教団(イエズス会)」は聖書を「科学知識」としても世界に広めようと試みた団体、「神と宇宙科学が結び付いていること」を改めて説いて回った人たちの代表だったりするのですよね。

原初キリスト教における宇宙

占い嫌いの神様を持つキリスト教は本来惑星や宇宙の話とはとにかく折り合いが悪く、特に旧約聖書を神秘主義的に解釈して「数秘術」や「占星術」をするユダヤ秘教とはそれなりに緊張関係にありました。

そんなキリスト教、12世紀に入るとすっかり西欧世界の中心になっていて、さてそろそろイスラム圏にも遠征しようかって話になったとき、当時のイスラム圏にはハンムラビ法典はもちろん、バビロニア(今のイラク近郊)に捕虜として連れて来られたユダヤ人たちの秘教的学びや文学がさまざまな学理の確立に取り入れられてきた後だったんで、たとえばピタゴラス学派の数のシンボリズム、アリストテレスの元素の宇宙観、プラトンの惑星の神性、そういうものが織り交ざり体系化されたような「宗教的コスモロジー」を相手に、キリスト教教会は「自分たちの教義も負けてない」ことを証明しなくちゃならんくなったわけです。

天文学とキリスト教の融合

こうした問題に直面したとき、アリストテレス哲学とキリスト教教義を対立させるのではなく「両立」させようと試みた結果誕生したのが「スコラ哲学」です。

「西欧世界ではなぜ地動説を唱えた人が叩かれたんだろうね」「聖書に書いてあるからなんだろうね」みたいな誤認がたまにありますが、聖書には天動説の話なんて実は一切存在してなくて、ただかつてこうして天動説的宇宙観に「キリスト教は矛盾してないですよ」って主張した神学者たちがいた、このスコラ哲学がイコールでキリスト教的教義の中心であり聖書解釈の本体なんだろうっていう勘違いがそれを引き起こしてるんじゃないかな。

その流れで使命を帯びたように海を渡ったザビエルは、たとえばその地に古来より住まう神に慣習・伝統・信仰を捧げる人たちに「天文学」や「宇宙科学」の知識と一緒に「三位一体の唯一神」の存在を説き、これを世界(地球)に広めた人とも言える。
彼の宣教活動によってキリシタンに転身した日本人たちの中には、それこそ彼がまるで「未来からやって来た人」のように見えていた人も居たかも知れないな。

ホムラはなぜラファエル?

一方ホムラくんの英語名は「Rafayel」だそうです。
これもびっくり鳥肌立ってしまったんだけど、わたしにとってラファエルとは当然「神の御使い」なので、深空の攻略キャラたちはやっぱりそれぞれ上位界の立ち位置で、主人公(神の母)に力を与えることで「堕天」あるいは「人間になっている」ようなイメージなんじゃないかって思ってしまったな。

とは言えラファエルってめちゃくちゃいろんなところに出てくる超有名人なので、もし本当に天使のラファエルからも着想を得てるなら彼は一体どのラファエルにいちばん近いんだろうと考えてみた。
とても楽しかったw

キリスト教のラファエル

個人的にいちばん馴染み深い旧約聖書第二正典の聖ラファエルは、なんやかんやして盲人トビトの目を「魚のウロコ」を用いて治癒させる天使です。
強いて言うなら「ウロコ」の部分にちょっぴり類似点は感じるも、聖ラファエルの癒しは「神の薬(神を治療する薬という意味じゃなく神のような力を持った治療薬の意味)」、そこから派生して「薬剤師」や「医者」ってキャラの元ネタになることが本当に多いんで、どちらかと言えば本編時間軸レイ先生に近いものを感じてしまったりする。

カトリックでは「大天使の祝日」にダニエル書や黙示録なんかを朗読し、新約聖書「受胎告知」の聖ガブリエルと、天の戦いでドラゴン姿のサタンを地に投げ落とす聖ミカエルと、そしてこの聖ラファエルとを「三位の天使」としてみんなで祝ったりもするが、時折見かける「キリスト教=四大天使」という勘違いはどこから生まれたのだろうなぁ。
少なくともわたしはどこの教会でも四大天使なんて聞いたことがなかったのだけど、どこかに何かあるのかな?

イスラム教のラファエル

クアルーン(コーラン)のラファエルはへブルではなくアラビア語で「イスラーフィール」というお名前なので「ラファエル」から連想するにはだいぶ無理やり感があるのだけど、わたしはこれがいちばんホムラくんぽいと感じてる。
イスラーフィールは音楽(芸術)を司る天使、慈愛の天使、嘆きの「涙」が雨となり神(アッラー)がどうにかしないとそのまま「洪水」が起こってしまったりもするってやつ。

と言うか、イスラムにこそ四大天使(マラーイカ)の存在が認められており、イスラーフィールだけじゃなくジブリール(ガブリエル)はめちゃくちゃ「永久の預言者」っぽいし、ミーカイール(ミカエル)はめちゃくちゃ「筆頭聖剣騎士」っぽかったりもするのだけど…

最後の天使アズラーイール(アズリエル)は「人の肉体と魂を分ける術を心得た死の天使」ってことで「実は原初の人間アダムを土から創ったのがアズラーイール」なんてイスラム伝承もあるらしいが、なんとなくシンの「Evol改造」や「コア改造」に通じるものがあるような、ないような。

これってユダヤ教のアズリエルも同じく「死の天使」だったりするのかな?
神が命じない限りいかなる御使いも生や死を操れないキリスト教には有り得ない概念なので、ひとつの教典からさまざま枝分かれしていく釈義の面白さを改めて感じてしまったな。

ユダヤ教のラファエル

ユダヤ教の正典からは「魚のウロコ」に当たる部分がまるっとカットされており、ヤコブやアブラハムのくだりで「傷を癒す」「治療の天使」がさらに強調されているラファエルさん、より医者であるレイ先生に寄ってる感じする。

ちなみに「ユダヤ神秘思想文学」という括りで言えばラファエルは「神の御前に立つ四天使」のうちのひとりとして描かれており、ガブリエル、ミカエル、イスラム四大天使アズリエルの位置には代わりにウリエルという天使が入って四天使だったりもするのだけど、「キリスト教=四大天使」の勘違いはひょっとしたらここから生まれてるのかも?
四天使よりも七の大天使や十の守護天使の方が重要だったりするけどな。
数が少ない方が親しまれやすいのかな?

西洋魔術のラファエル

専門じゃないんで語れることあまりないが、ルネサンスから近現代の西洋魔術にはそれこそユダヤ文化とアリストテレスとピタゴラスが融合したようなこういう神秘思想に↓

恋と深空-プラトン空間理論-地動説-コア考察

恋と深空を改めて考察

さらに古代バビロニア「呪いの儀式」とかグノーシス「儀式魔術」とかも加わって「生命の樹」とか「五芒星」とかいろんな魔法円でいろんな儀礼を実践するいろんな団体があり、たとえばラファエルはカバラ十字の「正面」に現れ方角は「東」元素の位置は「風」、みたいに、四方向、四元素、四事象、四天使、その他もろもろいろんなものが儀式上「関連性」を持っていたりする。

魔術師による呪殺や天使・悪魔の召喚など厨二臭が程よいため恐らくこれがいちばんいろんな作品におけるラファエルの元になってるんじゃないかな。
聖書の天使は方角や元素を司ったりはしないので、アニメやゲームによくいる「風の天使ラファエル」は西洋魔術の魔法円から着想を得ているのだと思われる。

ゼインとサイラス

おまけのような扱いになってしまい申し訳ないが、レイ先生の英語名は「Zayne」、シンは「Sylus」なんだってな。
正直どちらもピンと来ず、ぼんやり思い浮かんだのは旧約聖書詩篇に振ってある段落番号「ザイン(zayin)」とダ・ヴィンチ・コードの「シラス(クリスチャン・ネーム)」なんだが、なんの関係もないのでとびきりとんちんかんなとこ突いてるんだろう←

と言うか、ぶっちゃけこうしてゆるく趣味の話書いてる時間がいちばん楽しいな。とんちんかんであればあるほど書いてる方は楽しいものだw