白き心
これは熱心な臨床実習医学生「シュウ」が、ある鬼才な医師に学んだ経験と成長の物語。
病院実習でシュウが配属されることになったのは業界でもトップクラスの手術スキルを持つ有名な心臓外科医「レイ」の所属する診療チームだった。
彼に医術を学べることは医学生たちの夢であり、とても喜ばしい一方で、実習生であろうと一切のミスも許さない冷血漢そのものだと噂されるレイの一挙手一投足に、どうにも身がすくんでしまうシュウ。
レイの執刀を間近で見学し直接指導を受けたいとは思うものの、うまくやれずに厳しく叱責される場面を想像するだけで恐ろしく、初日のオペでは助手に立候補することをためらい、手術室で和やかに雑談する医師や看護師を制するように放たれたレイの笑えないブラックジョークにただ肝を冷やし背筋を凍らせるばかり。
回診では暴力的な振る舞いでたびたび看護師たちを困らせているという偏屈な高齢の患者「ハリマ」が突然暴れ出し、数人がかりでこれを取り押さえようとするも翻弄されていると、レイの一声で嘘のように騒ぎがおさまる、という場面にも遭遇。
手が付けられないほど暴れていたハリマがレイを前にぴたりと大人しくなり委縮するその様子に、シュウはますますレイを恐れるようになるも、同時に興味深いと感じるようにもなっていく。
そんなある日、病院の庭園で日の当たるベンチに人影を見付け目をやると、入院着のハリマと私服姿のレイが談笑しつつ向かい合って将棋を指していた。
この日は月に1日あるか分からないレイの非番の日。そんな貴重な時間を使ってこうして患者と交流し、心のケアに取り組むレイの知られざる一面を垣間見たシュウは、彼に対して抱いていた恐怖心や近寄りがたさが溶けていくのを感じる。
それからシュウは積極的にレイから多くを学び、また最後はレイの計らいによってとても難易度の高いオペに第二助手として参加、執刀医の熟練した医術にやっぱり衝撃を受けたシュウがこの心臓外科での実習を終える頃には、彼のことを「怖い人」だと噂する同期に対し、「怖い人なんかじゃない」「僕の知る限りもっとも素晴らしい医者だ」と反論せずにはいられなくなっていました。
レイ先生の魅力
こんな風にひっそりと乙女ゲームのサイドストーリーにしておくことが実にもったいないと感じるほど、短編小説としてめちゃくちゃ読み応えのあるとっても面白い一話でした。
一歩間違えば大量出血で取り返しのつかないことになるかも知れない超高難易度オペの執刀シーンなんかもうめっちゃハラハラして手に汗握ったし、シュウの目から見たレイの纏う雰囲気がえげつないピリピリしたものから徐々に柔和なものに変化していくその描写も本当に見事で、あまりに没入し過ぎてレイが執務室で寝てるの見付けちゃった時なんか「天上人が下界に降りて来てくださったのか」ってくらい彼を身近に感じられたことがわたしも同じ医学生になった気で嬉しくてたまらなかったわ←
レイは寡黙で毅然とした姿勢を決して自分から崩したりしない、誰にも媚びたりしない、一分の隙もなくひたすら完璧ないわゆる孤高の天才として磨き上げられた人物像であるがゆえ、そこからどう転んでも最終的にはもう彼が何をしててもかっこいい、何を言われても嬉しい、スーパートランスモードに入っちゃうんだよなw
レイにはどうかそのままで、敢えて自分から弱みを見せたり変にデレたりすることなく絶対になびかない男を一生貫いて欲しいと思う反面、もし彼がそうしたいと思えるような相手がいるならたとえ彼自身にそれができなくてもたくさん甘えさせてあげて欲しい、とも思ってしまうんだ(複雑
これがわたしがレイ先生をどうしても主人公ちゃんとカプ推し目線でしか見られない所以なのかも知れないな…