夜遊びの章
散らかったアトリエのバスルームでうっかり絵筆を踏んで足を捻ってしまったらしいホムラ。誰かに気に掛けて欲しかったのかまるで骨折でもしてしまったかのような大袈裟なギプスに入院までして「お見舞いに来て欲しい」と連絡をしてくる。
仕事を終えた主人公が彼の病室を訪ねると、「なぜ直ぐに来てくれなかったのか」「もう少し遅ければ退院していた」と大層ご立腹のご様子。
朝一で連絡したのに来たのが夜だったので日中は何度も何度も電話を掛け今か今かと待っていたみたいですね。これを「800年君を待つ間に魚は進化し肺を得た」って表現できちゃうセンスが「まさにホムラ」で声出して笑ってしまったよw

どうやら元気そうだということで早々に帰ろうとする主人公を「もう少し一緒に居たい」と引き留め「夜の散歩」に連れ出すホムラ。
ふたりはたまたま通りかかった公園の噴水で排水口に挟まり動けなくなってしまっている小さな魚を発見するのだけど、主人公がためらいなく手を貸して助けてやるのを傍で見ていたホムラは不意に眉をしかめ、その何気ない善意が他者にとってどんな意味を持つのか「ある人の物語」を引き合いに出し「教えてあげる」と言って、腰を据え語り始めました。
それは「退屈で魚も醜い深海」に暮らしていたある少年の物語。彼は「陸の世界を見てみたくなって」浜に上がってくるのだけど、やっぱり「陸もつまらない」と感じ、帰ろうとするも浅瀬で動けなくなくなり「死を待つ」ことしかできなくなってしまう。
するとそこへ少年に「惹き付けられるように」ある「少女」がやって来て彼を助けてくれるのだけど、これは少年にとって「災いの始まり」。
なぜなら少女の記憶から少年は「泡のように消えてしまった」から。だそうです。
冒頭で「これは僕の、」「いや僕の友達の話で」って言いかけちゃってるし、主人公も「これってあなたの話?」なんて尋ねたりしてるので、恐らくこれはホムラ自身の過去の体験談であり、「そうやって誰彼構わず優しくするのは良くないことだ」「そうされて嬉しかったのにする方は忘れちゃうんだから傷付いた」ってことを伝えたいんだとは思うのだけど、なんだろう、これこそ以前どこかで綴った「無垢で無邪気な印象」と「得体の知れないぞわっと感」を混ぜて煮詰めたようなテイストになってません…?
浅瀬で座礁していたところをせっかく救われたのになぜそれが「災いの始まり」なのかと尋ねたら、「少女に忘れ去られたこと」で「深海が彼の牢獄となったから」だって言うんですけど、これもなかなかおどろおどろしい言い回し。
だって「牢獄」って罰として監禁される場所よ?
少女に会いたくて、でもきっと来てくれなくて、だから怖くて深海を出られなくなってしまった、みたいな意味合いなら、たとえば「彼の時は止まってしまった」とか「殻に籠ってしまった」とか、そういう表現でも良さそうなもんなのに。
だいぶ恨み節というか、少女に対して「誰よりも愛しいはずなのに憎らしい」というような、甚く屈折した感情を抱いているように聞こえちゃうよね。これを語るホムラの表情もまるで冷笑って感じだし…

かと思えば、「ずっとずっと待っていた」「でもやっぱり来てくれなかった」って感情がたかぶったときのホムラの声色や表情は今にも泣き出してしまいそうなくらいピュアだったりする。

こうして「なぜホムラが待たされることを嫌うのか」なんとなく悟った主人公は彼の勢いに押されて最後「もう2度とホムラを待たせない」という「誓いの儀式」をすることになるのだけど、これがまたなんかちょっと怖くて、ふたりが手を合わせて誓いの言葉を唱えるとそこに青い魚の「幻影」が現れるんですよね。
たぶん2章で「赤い珊瑚」と「血」によって生まれた「焔尾魚」の幻影なんだと思うのだけど…

ホムラはこれを見て満足そうに「誓いが海の祝福を受けた」「これは人間のやり方ではなく自分の故郷における誓いの儀式だ」とか言ってるんだけど、まじ…? (混乱
ワンチャンホムラってリモリア人なの?
ぶっちゃけ他にもいろんなところで自分を海の生き物に見立てたようなそれっぽいことはよく言ってたけど、全部芸術家としてリモリア文明を愛し過ぎているが故なのかと思ってた←
深海に住んでいた少年の物語は彼の芸術的感性に基いた比喩表現になっているとかでなく、本当に深海に暮らしていたし、本当に浅瀬で座礁したの?
解読困難な先進科学技術によって繁栄した古代海洋文明だって言うからめっちゃ最新の乗り物とか通路を使って海底にある入り口から海の水の下に潜るとなんかすごい先進技術によって人間が暮らせるような街が広がってる、みたいなものを想像してたんだけど、本当に魚みたいに海中をすいすい泳いで暮らしてたってこと?
「人間のやり方ではなく」ってことは、リモリア人って人間じゃないんだな。人間の中のユダヤ人とかサマリア人とかその並びにリモリア人もいるのかと思ってた…
2034年に「遺跡」で見付かってるからよっぽど昔に滅んでしまった文明なのかと思ってたけど、たまたまワンダラー騒動で亀裂が生まれて露見しちゃったところが遺跡だったってだけで、下手したら今もどこか別の海の底にはリモリア人って暮らしてる…?
となると、ホムラの言う「少女」って主人公ちゃんのことなのかなぁ。いや最初は「少女」ってのも何かの比喩なのかと思ったんだけどね。
実はホムラ、今章序盤、お見舞いに来てくれた主人公に対し、最初「どちら様?」とか言って、「忘れてしまったフリ」をするんですよ。しかも結構しつこく続ける←
ホムラの想いが屈折してるらしいことは充分に伝わったので(ぉぃ、これは自分がされたことをそっくりその人に仕返ししたいとか、同じ想いを味わわせてやりたいとか、ほらこんなに寂しいんだぞって、そういう心理からなのかなぁと。
主人公を待つことに対する彼の感情も「あの怒りと心配は2度と感じたくない」と、言われてみればいじけかまちょの域を超えたまるで「トラウマ」のようでもある。自分が安心できる手法で誓いまで立てさせているし。
ただひとつ解せない点もあって、じゃぁ2章中盤ホムラの描いた赤い海の絵で見た夢はきっと主人公とホムラが出会った日のイメージなんだろうけど、もし自分が岸辺の岩に座って歌ってる映像を見ていたんなら、「あ、これ私だ」とかって、主人公は直ぐに気付かないもんかね?
これに限らず全体的に主人公には「おばあちゃんに引き取られる以前の記憶」がまるでないようにも見えるんだよなぁ。不思議。