悪ふざけ
こちらは2046年初春アキラとカゲトがどのようにしてN109区へやって来てシンと接触し今こうして身を寄せるまでに至ったのかを描いたサイドストーリーになっています。
いやぁまさかこの双子にさえこんなに気持ち持ってかれて泣かされてしまうとはな。お笑いポジのサブキャラだと決めつけて完全に油断してました(殴
本編2部2章にも登場する賭博酒場「Elysium」では今ストすでに居丈高に出入りする「コウジ」の様子がちらり語られており、2048年夏頃にはもうすっかり「シンってどっかで死んでるんじゃないか」と噂が広まっていたのを踏まえると、恐らく1部7章あの怪しいクラウドサービスでファイルを閲覧した2年前の「コア研究員殺人事件」直後にはシンは何か事情があって一旦N109区を離れているもんなんだとは思うんやが、ひょっとしたらそれはタイミング的に「この双子に出会ったこと」が後押しとなって「彼らになら留守を預けてもいい」と思えたからだったりしたのかな? なんてな。
単純にアキラもカゲトもわたしが想像してた500倍くらい体術に長けてたし、それ抜きにしてもあの工房の店主がまた彼らと同じ境遇のひとりだったりするものだから、まるで何か思惑があるかのように全員を目の届くところに置いているシンの「Evol改造」や「コア改造」はいよいよアーテーの泉やX-Heartプロジェクトによる「人為的なコア介入症患者」延いては「変異的なワンダラー」のワンチャン救済目的なんじゃないかって気がしてきちゃったよね。
一卵性双生児対照実験
これはEVERが「もの」として管理する一卵性双生児たちを対象に行う恐らく「他の条件はすべて同じにしてどちらか一方にのみコアを移植することで本当にそれがコアの作用によるものなのかどうかを検証する実験」って意味での「対照実験」なんじゃないかと。
どういう人たちが選ばれ被験体として使い捨てられているのかまでは不分明だが、これまでのあれこれからたとえば雪まみれの階段買収以前の杉徳なんかと同じように何か国や法が介入できない秘密裏な手段で日常的に人身取引を行っているのだと思われる。
16歳の被験体アキラとカゲトはサンプルナンバー808としてすでに実験による「コア接触」で身体に「拒絶反応」が認められており、3ヶ月以内に「変異」するであろう危険係数が通常値を大きく上回っていることからついに「処分」が決定し、N109区から程近い「回収施設」へと移送されることになっていた。
この辺は輸送車の運転手である男の目線で描かれているのだが、隠し持っていた刃物で自分たちの拘束を解き同乗していた数名の研究員たちを音もなく刺殺した後は目的地周辺まで荷室で息を潜めていたらしい双子、頃合いになると突然背後から「じゃれつくように」運転手に飛びつき彼の喉に刃物を押し当てながら「まるで動物園の動物をからかう子どものような口調」で「5分やるから逃げてみろ」なんぞ挑発してくる。
慌てて車を降り路地裏の掃き溜めに身を隠した運転手は、突然牙を剥いたその「輸送物」が実は「痩せこけた少年」であり、手にした刃物と服の血痕がなければ「友達とかくれんぼをして遊んでいるようにしか見えない」様子であることに気が付く。
そうか2人はとにかくまだ「幼い子ども」なのだな。確かに16歳とはうちの甘ったれ長男坊とそれほど歳も変わらない(しらん
架空の最新武器XT-7にまんまと乗せられてしまうのも麻酔銃がLOVEの煙爆弾だったりするのも間の抜けたおちゃらけ者というよりただ無邪気のかたまりだったってわけか。
副作用
そうして5分間路地裏で身を強張らせ息を殺し続けた運転手は、その無邪気な少年が歩き去るのを確認しほっと胸を撫で下ろした瞬間なぜか背後を取られていることに驚きようやく彼らが双子であることを悟る。
アキラとカゲトの強みはもちろんその同じ顔、同じ背格好、同じ動き、それらを駆使して「1人しかいない」と相手に錯覚させること、ではあるのだが、加えて実験の副作用として2人の聴覚は相互に影響し合い、視野を共有でき、痛覚が一致するようになったことをも利用できる点にある。
これって恐ろしい副作用よな。少なくとも聴覚と視覚については仮にアサシンなら誰もがバディと共有したい感覚なのかも分からんが、思春期の男の子には死活問題ではないか? 好きな子ができても会話の内容互いに筒抜けだし、どこ見てるのかも分かっちゃうし、どこ見てんのよってビンタされたらその痛みまで全部一緒に味わうことになるんじゃろ…?←
ただし「痛覚の一致」に限っては2人にとっても能力を得る代わりに背負う代償のような位置付けなのだろう。と言うのも、どうやら過去研究施設を脱走しようと試みたことがあるらしいカゲトはこの運転手の密告によって警備員から吐血するほどの体罰を受け懲罰房に拘留されることになるのだが、彼が一声も上げず然るべき治療も受けずただ黙って痛みを耐え抜いてのち自作の手投げ矢でついに報復するまでの間、アキラは自分が受けた暴行ではないその吐血するほどの痛みに堪え兼ねて声を荒げ氷を数粒口に含むことで気を紛らわせていた、なんてエピソードが語られているのだ。要はどちらかを打てばどちらも痛手を負うことになるのだね。
と言うか、改めてアキラとカゲトの声の印象ってそのまんまなのだなぁ。よっちんっぽい声の子の方がアキラでしょ? アキラの方が声もわんぱくだよね。大声で主張する氷大好きがアキラで黙々と忍ぶダーツの使い手がカゲトね。よし覚えた。
しかし、彼らの「副作用」から見て取るに「一卵性双生児対照実験」の目的とはまるで手首を「チェーン回路」で繋がれてしまう彼と彼女の「共鳴」を再現しようとしているかのような。ちょっとニュアンス違うかな?
Mr.R
アキラとカゲトはその名の通り、一方は明るい場所で注意を引き、一方は影に身を潜めて背後から獲物を仕留める。そうして運転手の命がとうとう夜に呑み込まれ、晴れて自由の身となった2人は、手始めに自分たちの「実験記録表」に目を通し、「変異」までの期間が「3ヶ月以内」と推測される身であることを知ると、「どうせ死ぬなら最後にドデカいことをしよう」などと考え至り、裏社会では誰もがその命を狙っているらしい冷徹非道な暗点のボス「シン」を狩りに行くことにする。
もちろん返り討ちに遭い自分たちが殺されるのは目に見えているのだが、「変異」したサンプルを目の当たりにしたことがある彼らは「あんなものになるくらいならその前に殺される方がずっといい」とむしろ期待に満ち満ちた調子で、N109区内の廃小屋を拠点に新生活をスタート。
強盗、強奪、暴力、詐欺、あらゆる場面で双子の戦術は負け知らずであり、ここへ来てわずか数週間であっさりシンを嗅ぎつけると、繁華街の巨大なコンサートホールで開催される盛大な演奏会が「シンひとりのためだけの空間」になることを見越し楽屋へ潜伏、ついに初対面を果たすこととなる。
ひとつ気になったのはこの演奏会、ワールドツアーを終えたばかりのある楽団が「Mr.R」なる人物の招待に応じこのホールへ駆け付けたと言い、きっとその人物が「音楽のために大金をはたこうとする他の人々」の入場を拒めるほどの恐らく巨額の会場貸し切り料を支払い耳の肥えたシンに生演奏をプレゼントしてるってことなんだろうとは思うんやが、敬称「Mr.」にイニシャル「R」ってまるで心当たりがないのだよな。誰なんだ? Mr.Rって。
いずれにしろいつも通り抜かりなく完璧な戦法でシンを取り囲んだ双子は彼の後ろ首をコアを仕込んだダーツでいざ射抜かんというところで2人まとめて「赤黒い霧」に絡め取られ外へ放り投げられたことに唖然としていた。
カゲトはアキラの視野を借りて注意深く相手を観察していたはずなのに背後に潜む自分の存在に一体いつ気が付かれたのかさえ分からなかったことに、アキラはアキラで「最後に言い残す言葉」を考えるエネルギーさえ投じた渾身のパフォーマンスを「つまらない」と言われたことにそれぞれ衝撃を受け、何より自分たちが「殺されていない」ことに拍子抜けし、なお嬉々としてリベンジを決意するのであった。
喧嘩
近日「暗点が頻繁に出入りしている」と噂されるボクシング場に屈強なボクサー数名をお釈迦にして転がり込んだ双子、案の定そこはある夜「2つの勢力」が権力闘争を繰り広げる戦場と化した。
四方の壁から中央に配置された猛獣の巣穴のようなリングを覗き込むまるで裏闘技場のような造りをした会場のもっとも眺めのいい席でシンがこれを見物しているところを見ると、暗点の対抗勢力はEVER関係あるいはEVERの息のかかったどこぞの裏組織のひとつ、みたいなことでいいのかな?
誤った戦略は変更し新たな策で相手をかく乱すべし、という奇襲の心得に則りシンに「オレたちを雇って欲しい」なんぞ申し出た双子は、「実力を証明しろ」と渡されたナイフで30分もしないうちに会場を丸ごと一網打尽にしてしまうのだけど、まじで正攻法でもその辺の構成員誰ひとり歯が立たないくらい強いのだな? この2人。腰抜けるほど驚いた←
どういう意図があるのか「次は互いの命で証明してみせろ」とシン、とは言え双子にとってそれは願ってもない展開であり、彼らは研究施設に居た頃幾度となく「喧嘩」を装い互いを痛めつけ合うことで数々の難を逃れこれを極めてきたと言うのである。
激しくやり合えば痛み止めや鎮静剤がもらえたり、さらに激しくやり合えば翌日の「サンプルテスト」を免除されたとのことであるが、いやそんな恐ろしい自傷行為に頼っても免れたいサンプルテストってどれほど恐ろしいことされるんだ。そりゃ痛覚の一致を検証するテストなんて恐ろしいものに決まってるが、想像したくないな…
観客席のシンは始めこそ愉快そうな表情でナイフを奪い合う双子の抗争を眺めているも、どうやら殺し合うフリをしながら頃合いを見計らいナイフは自分目掛けて飛んで来るであろうことを悟り興醒めした様子で頬杖をつく。
それはシンにとって飽きるほどありがちな手口であったが、かと言って彼らの「執念」のようなものに引き留められまだ席を立つ気にはならないらしい。
すると間も無く双子は突如「変異」に襲われた。結晶が皮膚を突き破るとともに「ナイフを手にした少年」が悲鳴を上げ倒れ込み、無傷のもうひとりも同じ痛みによって膝を折る。
ここは客席から双子を眺めるシンの視点で描写されるため2人は「少年」と「もうひとり」どちらがどちらに当たるのか明記されてはいないのだが、恐らく手投げ矢の使い手であるカゲトの方がもう間もなく終幕というこのタイミングで「ナイフを手に」しているのだよな? 個人的にはそう読めてしまった。
結晶は絶え間なく生えてきてはカゲトの「目」に覆い被さり、いよいよ苦痛に堪え兼ねた彼がナイフを自身の心臓へとあてがい力の限り奥へ押し込もうとするのだが、同じ痛みによって身体を仰け反らせるアキラの気配に躊躇し、自ら命を絶つことを諦めて次は目を覆う結晶を力尽くで抉り落とし始める。
すると今度は懲罰房では「こっちの身にもなれ」だなんて喚いていたアキラが彼のものとは思えないような落ち着き払った声で「オレのことは気にするな」「手伝うからオレが」、なんぞ声を掛けナイフの向きを定めるのだが、うわぁぁんもうやめたってくれぇぇ(嗚咽
悠然と歩み寄るシンが「それをすればお前も死ぬぜ」とアキラに声を掛けるのだが、おどけたような表情で「オレはコイツと一緒に死ぬ」「生死なんてどうでもいい」とアキラ。
すると赤黒い霧がナイフの代わりとなってカゲトの心臓を貫かんとその胸に侵入していくのだが、この時点ではシンも黎明レイと同じように「彼らが望むならせめて人の姿のまま」の気持ちなんだろうか。
それとも彼らがまだ未熟で「死」というものを理解できないままそれを口にしていることを悟り「本心はどうなのか」自覚させるために敢えての荒療治なのかな。
仮に後者ならシンの思惑通り、双子は初めて迫る死を目前に辛うじて怯えを隠すことさえできなくなり、まるで獲物を弄ぶ獣のように見えるシンを見上げながら、心の底から「死にたくない」「やめてくれ」と途切れ途切れに懇願するのだった。
抗いようのない力
彼らの命乞いに微かな笑い声を漏らしたシンがぱっと手を開くと、赤黒い霧は散り、同時に明るかった部屋は突として暗くなり、「抗いようのない力」が双子を包み込んだかと思えば結晶は粉々に砕かれて、全身に走る痛みが嘘のように消え去ったアキラとカゲトの頭の中にはただ耳鳴りだけが響いていた。
これってEvolなのかコアなのかなんしかシンの力が及んで「結晶化」が食い止められた、って理解していいのだよな?
長恒山でのトオヤの最期を思い返してみてもああなってしまったら最後何をしても抗うことはできないもののように見えていたけれど、見たところシンは2046年初春時点でこの現象に対応策を持っている…?
実は今スト2話終盤コウジを尾行してどこぞのビルの屋上から隠れ家のような部屋で何やら取り引きをするシンの様子を双子が盗み見ていた際、ちらりその姿を捉えたかのように見えたシンは実は始めからすべてを把握していて最終的にこうして彼らを救ってやることを目的としていたのかも知れない、ってのはさすがに買いかぶり過ぎだろうか。
2週間後、今度は「奇襲の心得」ではなく「本心」でボスに雇われることを望み再びシンの元を訪れたアキラとカゲトが、その真意が「実は誰がボスを殺せるのか興味がある」ためだと口にするのを「見たことのない期待がこもった冷たい笑み」で快諾するシン、これはどうやら唯一それができるらしい彼女に想い馳せた表情なのかも分からんが、こうして双子は暗点の従者となった。
サンプルナンバー303
最後にちょっぴり疑問なのだけど、アキラとカゲトは自身の実験記録より変異までの推測期間が3ヶ月以内であることを知るも「実際にそれ以上長生きしたヤツが居た」として「サンプルナンバー303」の「ジェフ」を思い起こしてる。
ジェフは2部1章N109区の謎の工房の店主として登場し「エーテルコアのモニタリングをしていた」「スエの知り合いだった」との背景より1部5章Unicorn実験の直後失踪し暗点に転身したらしい元研究員がそれなのだとばかり思っていたんやが、少なくともアキラやカゲトと同時期に同じ研究施設で対照実験のサンプルとしてそこに居たんなら2034年スエと同じガイア研究センターで研究員をしてたの絶妙に変だよな?
もちろん対照実験のサンプルなんだから彼にも双子の兄弟が居り恐らくは変異して何らかの手段で一致する感覚を絶ち死別してるからこその「長生き」なんだとは思うんやが…
アキラとカゲトならではの想いをある意味いちばん理解できるのがこのジェフなのかも分からんな。揃いの仮面をあつらえてやったのもそういう意図なのかな?
以前は長い髪を短くまとめて部屋を出るカゲトを見て同じように髪を括り直していたアキラが、今は仮面を被ることで結晶を抉り落とした2度と消えない目元の傷をすっぽり覆ったカゲトを見て「これでオレたちはまた同じ顔になれる」と満足そうに独り言つの、わたしは涙止まらなくなってしまったよ。
同じ顔は生き残るための武器でもあるが、アキラにとっては彼らを彼らたらしめるアイデンティティのひとつでもあったのだな。