空に堕ちる
空に堕ちる

恋と深空を宗教思想史オタクがのんびり考察しています。

ネタバレを多分に含むうえ、新しく開放されたストを読むたびに考えが変わるため我ながらお門違いなこともたくさん綴ってあるのですが、プレイ記録も兼ねているため敢えてそういうものも全て残したまま書き進めております(土下座

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雲の彼方へ

こちらは先日実装されたシンのイベントガチャ竜影の堕つる地でゲットした深淵の思念育成で読むことができる伝説ストになります。
生まれて初めて「数日休んでメンタルを整えてからもう一度スト読みを再開する」ということを繰り返しました。これまでの伝説とは比じゃないくらい泣きました。

過去に読んだ臨空三銃士たちの伝説はぶっちゃけ「フィロス星」への理解が甘いまま「これってどういうことなんだ」と随所に疑問を抱きつつの履修だったためようやく深空の宇宙像がだいぶ見えてきた今このタイミングでの伝説ストはとりわけ解像度が高く「分かりやすかった」というのも理由のひとつではあるんですが、わたしにはそれはそれは若かりし頃キリスト教史の学びの中でたとえば十字軍の司令官や魔女狩りの裁判官、大義を用いて殺人を行ってきた多くの権力者たちが「煉獄で清められれば神の救いに与れる」「結局みんな神の愛に救われる」ことに物凄く苦しんだ過去があるのです(しらん

むちゃくちゃ私事であり誰の共感も得られない話ではあるのですが(じゃあだまれ、大前提わたしにとってサタンとはどうしても巨大な龍、年を経た蛇、悪魔なんですよね。それはわたしたちの中に忍び込んでくる悪いもの。この物語はそもそもそれが卵のパラドックスなんだよって話なのだと感じてしまったの。
人間の目に映る悪魔の姿は人によって違う、見えているのは自分自身の心、人間はその醜さゆえに巨大な龍を悪魔だと思い込んでいるだけで、サタンを悪魔に仕立て上げてしまったのはわたしたち人間だったんだよって。
「どうしてそんなに悪魔が怖いの? 惨いから? 醜いから? そんな風に見えるんだ。それ、あなたの心だよ」って言われているような感覚。

実は「海神伝説」でも同じ感想を綴りました。「不信仰」のために「犠牲」になるのが玉のような「愛」であること。ただし今回はわたしにとってもっとも身近な聖書の歴史をあまりにぴたりなぞるのでそれを痛いほど思い知らされ打ちひしがれてしまった、というあらましです。

くれぐれもお断りなのですが、わたしは決して今回のストがキリスト教批判をしているだとかフェミニズムを掲げているだとかそんな恐ろしいことを考えているわけではありません。世界中のどんな主義宗教思想もその人の心にとってかけがえのない大切なものだと思っているし、この作品はひたすら壮大な愛の物語だと思っています。
ちょっとした言い回しが局部的に切り抜かれるようなことがなければご理解いただけるのではないかと自負しておりますが、ここまでお読みくださった方の中で「なんか嫌な感じがする」という方はどうかこの先へ進まないでください(謝

伝説の悪竜

物語の舞台となるフィロス星はおよそ数万年前まで「竜」の巣窟だった。竜は生まれながらにして邪悪な生き物であり、人間の心のもっとも醜い一面を引き出して殺し合わせることができる。そうして欲望の奴隷と化した人間のまるで貪欲のかたまりとなった「魂」を竜は好んで喰らう。ゆえに彼らは「悪魔の化身」と見なされ、竜が姿を現すことは終焉の到来の象徴となった。

1600年余り前、フィロスを終焉に陥れると言われたこの星の「最後の竜」は、人間と数百年に渡る戦争を繰り広げたすえついに悪魔の巣食う谷「タルタロス城の深淵」に封印された。
この戦いは「タルタロスの戦い」と呼ばれ、竜の胸に大剣を突き刺した「聖裁軍」の指導者は「聖裁の司教」と称されるようになり、最後の竜は「伝説の悪竜」と語られるようになった。

司教の偉業を讃えた石碑は至るところに建てられ、信徒たちは「鏡と見まがうほど澄んだ大理石」で荘厳な大聖堂を築き「純白の華美な聖衣」をまとって「聖裁の司教の名の元に」いまは街の孤児を保護して回ったりしてるけど、これらは一見「奉仕活動」のようでその実「布教」であり、延いては聖裁軍の軍事力拡大を目的とした「示威活動」でもある。

今回のフィロス星は全体的に巨大な龍(サタン)が凄惨な戦乱をもたらす新約聖書の終末や、11世紀から13世紀末西欧のキリスト教勢力が信仰布教の名の元に展開した軍事運動や強制改宗から着想を得た世界観なんじゃないかとわたしには感じられてしまいました。

深淵の谷底にある城市には「タルタロス」と名が付いているけれど、これは古代ギリシャ信仰における冥界の最奥、奈落そのものを擬人化した神の名前です。
タルタロスには「ハデス」という名の支配者が居ますが、もちろん恐ろしい魔力を持ってこそいるが彼らは元来決して「邪悪な存在」ではありません。むしろ不倫が横行するギリシャ神話においてハデスは唯一と言えるほど一途な愛妻家です。

ハデスを邪悪な存在にしてしまったのは、語弊を恐れず偏った端折り方をして言わせていただくとずばりキリスト教なんですね。新約聖書ヨハネによる黙示録第四の封印が解かれ現れる騎士に連れられてくるのが「野獣」を用いて地上の人間を死に至らしめる「ハデス」、ハルマゲドンでサタンが天使に破れたのち三度目の反乱を起こした際にはハデスも永遠の死である炎の海に投げ落とされています。

古代ギリシャ信仰はキリスト教に弾圧された過去があります。宗教としての神事や習慣を奪われ、今は文学や芸術の世界で生きる「神話」になりました。
つまりわたしには「悪魔」の巣食う地に「タルタロス」と名が付いていることがすでに「彼らを邪悪なものにしてしまったのは誰?」という呼び掛けにさえ聞こえてしまうのだ。涙

悪魔との取り引き

今ストに登場する主人公は「魔女」の嫌疑をかけられ「聖裁の司教の名の元に」裁かれて衆人環視の中「悪魔の巣食う深淵」に突き落とされ今ワンダラーに襲われるまさにその瞬間死の間際に「悔しい」と叫び出せるくらい「強い女性」として描かれる。

死に瀕してなお自分を貶めた聖裁の使者たちへの憎しみやまんまと汚名を着せられた不甲斐なさ、そして「生きること」を強く渇望するその「目」に引き寄せられるように、両翼を鎖に巻かれ胸を大剣で貫かれた「悪魔の化身」が目の前に現れ「俺と取り引きをしないか」「この大剣を抜いてみろ」などと声を掛けてくる。

この辺もまずは中世のキリスト教史における「魔女裁判」が題材になっているんじゃないかと感じてしまったな。拷問や強姦など魔女狩りの全容は正直文字には起こしたくないほど名状しがたい惨劇なんですが、一言で言えば「悪魔」の存在を極度に恐れた人間の同調圧力が生んだ一種の「集団ヒステリー」です。
たとえば感染病が流行り多くの人が命を落とせばその恐怖から逃れたいがために人は「こいつのせいだ」と思い込むことで救われる「攻撃対象」を求め、いわれのない女性ばかりが槍玉に挙がったのは彼女たちが社会的に「弱い立場」にあったため。悪魔裁判を銘打った女性蔑視的な迫害でもありました。

そして、竜に持ち掛けられた取り引きに応じる主人公はやっぱりユダヤ民話におけるサタンの妻「リリス」を思わせる。ニュアンスとしてはリリスはアダムを裏切り悪魔に魂を差し出して乳飲み子の血を吸い青年の活力を奪う魔女に堕ちる、みたいな悪いイメージなんだけど、これを「自由にエデンを飛び出した女性」「男性の支配に屈服しなかった女性」「男性(社会)に怒りを持つ女性」と定義し、逆にアダムの後妻イブが「抑圧された女性」であると理解する思想団体も存在します。

主人公は「たとえどんな代償を払っても生き抜いてみせる」と強い意志で大剣を引き抜き躊躇いなく悪魔を解き放つけれど、竜が終焉の象徴であるこのフィロスにおいて彼女の信念や生き方はそれこそ「抑圧に屈しない女性像」だったりするのではないかな。

竜の胸から引き抜かれた大剣が「光」に変わり「一筋の赤黒い霧」とともに彼女の体内に流れ込んだところで、彼女はその放たれた竜の巨大な翼の羽ばたきによって気を失い、目が覚めると天井が見えないほど高い礼拝堂の講壇に「硬いウロコに覆われた爪」で押さえつけられていた。

竜は何らかの力を使って彼女の身体から「淡い金色の光」を掻き出しているようで、引き裂かれるように痛む胸と「死」を思わせるような感覚に抵抗しようと足掻けば手には突然「大剣」の幻影が現れそれが悪魔の胸を突き刺した、ように見えた。

すると身体を拘束していた力は消え確かに竜の吼えたける声が響いたはずなのだけど、改めて確認すると目の前には竜と同じ「ガーネットのような美しい瞳」を持つ「血の霧」をまとった男が獲物を狙うように自分を見据えていて、彼女は竜の本来の姿が「角と尻尾を除けばまるで人間のよう」であることに気が付く。

竜は「味気ないお前の魂を食うより先にお前のものではない部分を返してもらう」と宣し再び金の光を彼女の中から掻き出し始めるが、どうやらその光には「不気味な黒い霧」が混じってる。

彼が「魂を引き裂かれる感覚はどうか」と尋ねてくることから恐らくこの「金色の光」や「黒い霧」が今回のフィロス星においては「魂」と定義付けられているのだろう。
金色の光が彼女のもの、黒い霧が彼のもの、大剣を引き抜いた拍子に「彼の魂の一部が彼女の中に入り込んでしまった」ためにこうして「返してもらう」ということをしている、と理解していいのかな?
彼女の方は「自分のものではない魂の一部が身体に溶け込んでいくよう」だとも感じているみたいなので今この瞬間「注ぎ込まれている」ようでもあるけども。
本編時間軸シンの「赤黒い霧」は彼のEvolであるが、ここでは「血の霧」と「黒い霧」がそれぞれ別の役割を担っているかのようにも見える。

彼が顔を近付けその「赤い目」に「呑み込まれる」と感じた瞬間彼女の脳裏には「竜の記憶」が流れ込み、掻き出されていた金の光は竜もろとも彼女の身体へと吸い込まれそうになって、彼は「どこでその力を手に入れたのか」と一瞬だけ驚いたような声を上げるのだけど、「お前のものではない部分」を返してもらうことができないならいっそ彼女ごと、とでも言うように、「お前の欲望を言え」「そして魂を捧げろ」「そうすれば苦しむことなく死なせてやる」などと述べ告げる。

何とかして生き延びたい彼女は自分の「欲望」とは魔女の悪名を背負わせた聖裁の使者たちの住む「白城」へ帰り彼らに復讐することであると申し出て、封印されたはずの竜の再来に勇み立ち駆け付けた「聖裁軍」が彼を攻め打たんと開戦すればその隙を見て逃げようと考え至るのだけど、どうやらすべてを見抜いているらしい竜は敢えて彼女を連れ白城を訪れてそれが到底敵わない手段であることを見せ付ける。

隙を伺う彼女をその場から動けなくさせることも兵士たちの「もっとも醜い一面を引き出す」こともできる彼の力により彼女は城の衛兵や聖裁軍が我を失い殺し合う姿を目の当たりにさせられるのだけど、それをさせているのが「すべてを操ることができる彼の目」であることを悟り、「あなたが私の魂を欲しがるように私はあなたの目が欲しい」と訴える。

どうやら「竜は人間から魂を捧げられる」ことなしにこれを食べられないと教えられているらしい彼女、「生かしておいてさえくれれば必ずあなたの役に立つ」なんぞ大風呂敷を広げるが、恐らく今時点ではこうして「欲望」を口にすることで自分の味気ない魂を悪魔好みの「貪欲のかたまり」へ育て上げる算段に服従したふりをして隙あらば彼の目を封じ逃げる策動、なのだよな?

こうして「彼のもの」となった彼女は深淵の谷底に険しくそば立つ絶壁「竜の巣」へと連れ帰られた。

竜の烙印

竜窟の最上階はまるで宝物庫のようになっていて、果ての見えないほどの宝石や金貨、貴金属、絵画、楽器、かつてここに攻め入って返り討ちに遭った人間たちが残した「竜を封じるための武器」なんかで溢れ返ってる。

竜は彼女をまるで「自分が集めた財宝のひとつであるかのように」そこへ運び込み「手を伸ばせ」「もっと貪欲になれ」と彼女の欲を煽るんやが、そうして自分の魂を「育ててから喰らう」ことを彼がすこぶる楽しみにしている様子に見えるらしい彼女は「今のうちに思う存分楽しんで」「次に私がもたらすのは死かも知れないから」、だなんて恐れ知らずな返答。

それを聞いた竜はますます嬉として「死が楽しみでないと誰が言った?」なんて聞き返すのだけど、わたしには「育ててから喰らう」ことよりも余程「彼女に殺される」ことの方を彼は楽しみにしているかのように見える。

これを「挑発」と捉えたためか「このまま彼の言いなりになるのは受け身過ぎる」と思い立った彼女はなぜか住まわされることになったその宝蔵の中から「封魔の刃」なる短剣を手に取ると螺旋階段を降り最下階にある「竜の住処」へ奇襲をかけに行ったりもするのだけど、案の定いとも簡単に組み伏せられ、背後を取られ、首筋に「竜の烙印」なる「噛み痕」を残されて、「痕が消えるまであと2回俺を殺すチャンスがある」「強くなった姿を見せてみろ」だなんて言われてる。
彼女は「先に私を飼い猫扱いし始めたのは彼なのだから少しくらい引っ掻かれても責めたりしないはず」だと主張していたがよくぞ言ってくれたまさにそんな感じ。

その後も宝物庫の天井部に空いた穴を目指し壁をよじ登っては転落し身体に傷を増やしていく彼女を竜は頬杖をついて眺めていたりするんやが、なんかめちゃくちゃかわいくないかこの描写。

かつて彼女が城で暮らしていた頃にどうしても塀を越えられない猫を退屈しのぎに観察していたのと同じ気持ちで見ていたのだろう、なんて形容されてるが、本編シンがハンターの彼女を猫にするように愛でるのはこのかわいらしい彼女の姿が強く印象に残っているためだったりするのかな。

終焉の戦争

ついに竜窟の最上階天井部の穴の外へ辿り着くとそこは覗き込めば底が見えないほどの孤立した断崖で遠くに「タルタロス城」が望めるだけ。とは言え「竜の脊椎のような狭い山脈」にはよっぽど上手くいけば飛び移れるかも知れない。

そんな目論見もすべて把握している竜は、もちろん逃げられるはずがないため好きにすればいいし彼女がひとりでどこへ行けるのかちょっぴり興味もあると言うが、万が一「落ちれば死ぬ」ことだけを忠告しにやって来る。

彼女は自分に魔女の濡れ衣を着せた使者に「まだ復讐が済んでない」ため「彼を探しに行く」と言うが、いつの間に彼女の生まれ育った「白城」の視察に出掛けていたらしい竜、彼女の故郷はまるで煉獄のような戦場と化し、多くの人が死に、彼女を貶めた使者もまた荒野で息絶えて「カラスに目玉をくり抜かれていた」と言うのだ。

そして連なった山の上に赤い雲を巻き上げ自分が見たものを彼女にも見せてやると言う竜。それはまるで「自分が翼を広げ空を飛んでいる」かのようなリアルな視覚の共有であり、剣と剣のぶつかり合う音や兵士たちの怒号、流れた血の生臭さや戦火に血肉が焦がされるような匂いまで漂ってくる生しいものだった。

彼女はひどくうろたえ断崖で足を滑らせてしまうのだけど、竜は「顔色を変えて」翼を広げ彼女を抱き留めると安全な「まゆ」に包み、それから3日間気を滅入らせて竜窟の外に出られなくなってしまった彼女に「キラキラした小物」を届けたり「山猫」を拾ってきたりする。

彼女の魂はきっと比較できるものがないくらい美しいのだろう。わたしはもちろん「竜が再び現れた」ことで聖裁軍はいきり立ち終焉を恐れるあまり不服従が許せなくなって弾圧し、陥れ、争い、殺戮は殺戮で報復され、血で血を洗い、最終的には自分たちで終焉を招くのだろうと当然のことのように思っていたよ。竜も思ってたと思う。

彼女にはそれが信じられなかったんだね。1600年以上も続いた「平和」がこんな風に終わりを迎えるだなんて思ってもみなかったんだ。その心があまりに曇りなく透き通っていて泣けてしまったよ。涙
ここに来て突然彼女を手放し難くなってしまったかのように見える竜も、宝蔵のどんな財宝さえくすんで見えてしまうほど彼女がただ美しいことにはたと気が付いたのかも知れないな。

レクイエム

キラキラした小物や山猫に慰められたのかある夜彼女は再び竜窟を出て断崖の頂上に座り込むと、無秩序で邪悪なものたちが寄り集まる黒い城「タルタロス城」が、日没を迎えればまるで正反対であるはずの「白城」とよく似ていることに気が付き、終焉の戦争による死者たちのために「レクイエム」を口ずさみ始める。

悪魔の手前「使者に復讐するため」だなんて自分自身まで騙していたけれど、こんな風に死者を悼み故郷に想い馳せている姿を見ると本当は白城を心から愛しそこに住まう犬も猫も小鳥たちも引き取られた孤児やきっと不自然なほど清潔で汚れのない人たちのためにも本来の彼女は祈ってて、こうして追放されてなお「帰りたい」願いは実はどこかに残っていたのではないかな。涙

いつの間にそばに座り尻尾を彼女の背に回した竜が「なぜ魔女扱いを受けることになったのか」尋ねてくるのだけど、あまりに節制的な聖堂の生活に「手足を見えない純白の糸で縛られている」かのような抑圧を感じていた彼女は「悪魔を象徴するものを所持してはならない」という信徒の決まりを破り「竜の彫刻」を隠し持つことで自分というものを保っていた過去を打ち明けてくれる。

そして偶然これを目撃した使者にただちにそれを叩き壊すよう命じられるもどういうわけか「あの日ばかりはどうしてもそれをしたくなかった」と振り返るんやが、そうか彼女は始めからこうなると分かっていながら「正しいと思えない暗黙の強制」ではなくその美しい「心」に従ったのだな、って思ったらなんか涙止まらなくなってしまってね。
「ちょっと今日はこれ以上読めない」と最初にスト読みを中断してしまったのがここでございます。メンタル持ち直すのに物凄く時間が掛かりました。涙

そう口にすることで彼女は自分を縛っていたその見えない糸が一本ずつ切られ、ようやく中に包まれた欲がはっきりと見て取れたと言い、「聖衣をまとった人たちもみな胸を切り裂かれ自分の本当の姿を知るべきだ」「あなたが叶えてくれるなら私の魂はあなたにあげる」とついに郷愁を断ち揺るぎない覚悟を決めたかのように断言する。

そんな彼女が「角を生やしたばかりの小さな竜」に見えると言う彼は、「角が生えるのは第二の人生が始まったということ」だと付け加え、本気で叶えたいなら「白城の人間を生き返らせる」のも悪くない、生きてるだけで苦しみを感じ続けられるこの星より地獄らしい場所は他にないなんて目を輝かせながらあれこれ提案したりして、彼女の欲を甘やかすと言うよりもう喜ばせたい、分かち合いたい、魂を喰らうことなんざすっかり忘れてしまっているかのように見える。

こうして誓いを立て直した竜に彼女は名前を尋ねてみるのだけど、1600年以上前に生まれた竜の名は「古代フィロス語」なる言語であることから発音することが難しく、主人公は馴染みある言葉の音から雰囲気を寄せて「シン」と呼ばせてもらうことにする。暗点の彼が同じく「シン」を名乗り本編では誰もがそれを発音できてるが「古代フィロス語」とはこのフィロス星だけにかつて存在した古語ってことになるのかな?

わたしも昔オーストラリア人の男の子に「発音するのが難しいから」と「ユリコ」ではなく「ユニカ」と呼ばれていたんやが(しらん、正直「誰やねんそいつ」と思いながら返事していたな(最低
そっちを自分の本当の名前にしちゃうなんてシンは彼女に名付けてもらったこと名前を呼ばれたことがどれほど嬉しかったのだろうな。

ちなみにこの場面シンは彼女にもたれながらしきりに同じレクイエムを「もう一度歌って欲しい」とせつくんやが、これは本編のふたりにとっても何か特別な意味を持つやり取りだったりするのかな?
それに対し彼女の方は「パイプオルガンの伴奏」をご所望なのだが、なんかこうパイプオルガンみたいなものをバックにシンがまどろんでいるようなスチルに見覚えがあるような気もするし、今ストでもあの天井の高い礼拝堂にはパイプオルガンが置かれているように見えるんでこれもどこかに敷かれていた伏線の回収だったりするんだろうか。
シンの思念ストを一切履修してこなかったことがめちゃくちゃ悔やまれるな(倒

略奪

ふたりはまるで「仲間」のように竜の巣で共に暮らし、黄昏時になれば恐らく無主の地「星間指名手配犯」がしていたように、終焉に打ち勝つ大義を掲げ「聖裁」の権力を笠に着る「迫害者」や「搾取者」たちへ次と「略奪」を働いていく。

「本物の悪竜」と「蘇った魔女」がひとたび襲来すれば、地位に守られながら威勢よく振る舞っていたその「聖裁軍」はまるで黒い結晶のかたまりのようなあの惑星の領主たちのように簡単に手のひらを返しひざまずいてひれ伏す。それはまさに彼女が望んでいた「聖衣をまとった人間が胸を切り裂かれ自分の本当の姿を知る」瞬間であった。

夜がくるとふたりは竜窟の頂上に並んで腰掛けて、彼女は彼に「昔読んだ物語」を話して聞かせたり、ごくたまに彼も「竜殺しの武器の由来」なんかを教えてくれたりもするのだが、多くの場合シンはただ彼女と「月を眺めていたいだけなのではないか」と思えるほど口数は少なかった。

夜の闇の中では角や尻尾を覆うウロコが鋭く光ることがないためか「本来の彼がさらけ出されているように見えた」と彼女は言うんやが、すると本編シンが「月を眺めるのにいい場所」へやたら主人公ちゃんを連れて行きたがるのは「たくさん話を聞かせて欲しい」「ただそれに聞き入っていたい」そんな素の自分をさらけ出せる場所が月明かりの元だからってことなのかも知れないね。

そうして「本来の姿」が露呈されたシンはやっぱりあの「レクイエム」を聴きたがり、「どうしてもパイプオルガンがないと駄目なのか」「この前買った骨笛ではどうか」と身体を寄せながら何度もねだるので、彼女はある夜「歌い方を教えてあげる」と持ち掛けてみるのだけど、「竜が生きるには必要がないもの」だとこれを一蹴するシン。
「あなたって歌のメロディーも綺麗な模様も食べ物の味も分からないんじゃない?」なんていたずらにからかわれ、どうやら図星を突かれたような彼はささやかな抵抗に彼女の腰へ尻尾を巻き付けぐっと自分の胸に押し当ててみたりする。

彼女にとってそれは人間が親愛の情を持ってする「抱擁」なのだけど、シンは互いに魂や目を欲しがり殺し合うふたりがしても「それは抱擁なのか」と尋ねてくる。
いつからか「彼の目が欲しい」という想いより「彼を傷付けたくない」想いが余程大きくなってしまったらしい彼女はこれに返答せず、代わりにシンの世界にも彼が「生きるには必要がない」と感じている歌のメロディーや綺麗な模様、食べ物の味、あるいはパイプオルガンの演奏や「愛」による抱擁が存在してもいいのではないかと思い立ち、次に自分が「略奪」するのは宝石でも金貨でもない「竜の愛」だと告げてみる。

シンはそれが「存在しないもの」であること、そもそも自分にはそれが何かさえ分からないと言うのだけど、彼女が「こういうことをしたくなるような気持ち」だと彼の「額」にキスをすると、一瞬面食らったように固まって、「竜に愛されたものがどんな末路を辿るのか教えておくべきなのかも知れない」と独り言ちた。

竜の呪い

タルタロス城の酒場は飲食をしながらパフォーマーによる歌や演技のショーが楽しめるちょっとした催しの場でもありいつもにぎわう場所だった。
本物の竜が隣にいるのになぜ竜に扮した知らない役者の舞台を見に連れて来られたのか分からないと言う彼女は早に退屈し、思い出したかのように「あなたが好き」だなんて告白をして彼が口元に浮かべた笑みをさっと隠すのを見て満足げにしてみたり、彼の尻尾にくるまってもたれ今度はうとうとし始めてみたりとやりたい放題である。

結局途中で寝てしまった彼女は「演劇の内容がよく分からなかった」「あなたに話して聞かせて欲しい」と言い出すのだけど、言いながら再び眠りに落ちそうな彼女を抱きかかえ帰路に就くシンは、もちろん竜窟にはすぐにでも飛んで帰れるが今夜はもう少しそうして彼女と歩いていたくなって、「そういう話は俺にはできない」なんて言っていた「物語」を、ぽつりぽつりと言葉少なに話し始めてる。

それは「ある一匹の竜の物語」でありシン自身の物語でもあった。
多くの竜と共に谷で暮らしていたその竜は、どういうわけかひとりだけ「人の姿」をしており、自分が「人間」であると思い込んだまま育ったために、ある日突然生えてきた「角」や「尻尾」をひどく恐れ、それらを斧で切り落とそうと試みた。
何度そうしても血まみれになったところからまた角は生えてきて、彼はようやく自分が「怪物」であることを受け入れる。

やがて愛する人に出会い愛を与えられ彼は「やっぱり自分も人間として生きていけるかも知れない」とさえ思えるようにもなるのだが、どんなに受け入れ難くとも竜は生まれながらにして邪悪であり、人間の欲を弄び、そうしているうちに最後は自分も欲望に呑まれ、「完全な怪物」となる。

だから舞台のラストシーンでは竜の演者が相手役の女性に鮮血に濡れた爪を深く突き刺していたのだと言い、またこうして「怪物」になるまでの束の間竜に愛されたものは必ずその末路を辿るこれが「竜の呪い」であると語るシン。

それを聞いて「あなたは人間が嫌い?」と尋ねる彼女はひょっとしたら竜の世界にはやっぱり「愛」による抱擁は存在し得ないのかも知れないと感じたのかも分からんが、シンはそう話しながら自分がいつから彼女の魂を食べたいと思わなくなったのか、彼女の中に小さな角が芽生えたあの瞬間か、あるいは初めて洞窟の天井穴に到達しその擦り傷だらけの顔が朝日を浴びた瞬間か、いずれにしろ彼女をとうに「愛して」いるし、すべての抱擁が「愛」によるものだったことさえ自覚している様子。

いやめちゃくちゃに悲しい。だからシンは彼女にはもっと強くなって欲しかったし自分がついに「怪物」になってしまうより先に自分を殺して欲しいのか。涙
待て、それなら「痕が消えるまであと2回俺を殺すチャンスがある」という「竜の烙印」を残した時点ですでに彼女を愛しているし、下手したら「育ててから喰らうため」なんてのも始めから口実だったんじゃないのか…?

運命の宿敵

シンが彼女との日を振り返る場面では、実は「大剣を引き抜かれた」ときから彼は彼女が唯一自分を殺すことができる「運命の宿敵」であることを察していたらしいことも語られる。
現象としては「互いの臓器にあるエーテルコアが引力によって集まろうとしている」状態をここではそう呼ぶのだろう。仮に他にも「同じエネルギー磁線を持つコアを臓器に宿しているふたり」が居ればその人たちも互いに「運命の宿敵」だったのではないかな?
彼の目の力どころか彼が一体何者なのかもよく分かっていなかった礼拝堂ですでに「彼の目が欲しい」「この目は私のもの」というもうひとりの自分の声を聞いていた彼女と同じように、恐らくシンも折に触れ彼女の魂(=金色の光=彼女の心臓のエーテルコアエネルギー)を「喰らえ喰らえ」と終始煽られまくっているのだと思われる。
であれば彼女が「竜の記憶」を見て彼が「その力をどこで手に入れた」と尋ねたそれは「共鳴」Evolのことだったのだろうな。

伝説の悪竜に運命の宿敵がいるらしいことは序盤から明示的に繰り返されており、彼女の方は「聖裁の司教」こそがそれだと教わってきたようなのだが「司教はたまたま大剣を手にして刺してみただけの人」であり竜を「封じる」ことこそできても本当に殺すことはできない、それができるのはその大剣の「本当の持ち主だけ」であるとシンに教わってよりこちら、じゃあ大剣が「光」となり「身体の一部」となった自分こそがそうなのかと考えあぐねてみたり、確かに自分は「竜を殺せる力がある」と言われ竜のことをあれこれ教わって来た、なんてことを思い起こしてみたりする。

宿敵と言うからには「かねてからの敵」のニュアンスなのだろうが、たとえば「古代フィロス時代」転生前の姿で彼女はシンに出会っていたりするのかな? 彼女の一部である「大剣」だけが後世まで残っているあたりふたりは互いに刺し違えたのか、とは言え「大剣が戻ってきたこと」は「散逸したエーテルコアが元に戻ったこと」のようにも見えるんで、彼女のコアで暗点シンの暗殺を画策していた「EVER」然り、今ストにおいては「聖裁軍」が作為的に「彼女の一部」を摘出して打ち鍛えた大剣(本編の言い方で言うコア武器)の製造元だったりするのかも知れませんな。

めちゃくちゃ余談なのですが、この「光」になった「大剣」が彼女の「身体の一部」になるとはまるで「光の剣が王子の一部になる」あちらのフィロス星の「受剣式」のようで、セイヤとかイズミの身体の中にも実はエーテルコア的なものがありその一部が剣になってたりしてるのか? とか一瞬だけよぎってしまったのだけど、あまりにいろいろぶっ飛んでるし忘れた方がいいよな? (はい

完全な怪物

「聖裁軍」はそれこそ「死か改宗か」の厳しい弾圧を行った十字軍のごとく勢力を拡大し、不従順なものは次に「罪人」として「裁きの庭」なる場所へ送り込まれたと言うが、いよいよ「大義名分」の仮面が剥がれかけ殺戮者の顔が見え隠れし始めたか「聖裁の司教の権威は風前の灯火のようになる」とも書かれてる。

シンと彼女は変わらず略奪に精を出し夜になればぼんやり月を眺めるような日を送ってはいるのだが、彼女の方はシンが首に残した「竜の烙印」がまるで「発作」でも起こしたかのように痛んだり、疼いたり、熱を持ったりするのを度感じるようになり、それが一体「なんの前兆なのか」気に掛かり始めてる。

スミマセンここから物凄く感傷的になりますが、シン本人は「自分がいつか完全な怪物になること」について「これが竜の本来の姿」であり「呪い」であると理解していたようだけど、わたしにはそれが決して「運命」のように「あらかじめ定められている」ようなものじゃない、こうしてたくさんの「人の醜さ」に触れるたびに彼の中に何か「抗えないもの」が湧き上がり、人知れず乱され苦しみながら「変化」「成長」してしまうもののようにしか見えなかったの。涙

最近特に烙印に疼きを感じたのはとにかく敬虔ぶったある使者を彼が締め上げたときだったと彼女は振り返るが、内に秘めた「邪悪さ」をひたすら表面的な「白さ」で覆い隠してる、その面積が広い人間ほどシンの「何か」を刺激するのだとわたしには思えてしまった。

彼女は初めて彼の「赤い目」に呑まれそうになりうっかり「竜の記憶」を見てしまったあの日から事あるごとに同じ場面を何度も夢に見てるけど、聖裁軍に胸を貫かれ赤い谷へ転がり落ち死にかけたその小さな竜はどう見ても「人間の少年」だった。そして彼女は何度もシンに「あなたは人間なのか」と尋ねる。タルタロス城の酒場から家路を辿るシンは道行く人からも「人間」に見えていた。

シンは本来「人間」なんだな?
と言うか、およそ数万年前からフィロスを巣食っていた竜たちもみな人間だったんじゃなかろうか。
「純白」を纏い「黒」を上手に隠してる真に邪悪なものにいわれない罪を被せられ、理不尽なこと、あってはならないこと、間違っていることをたくさん浴びながら苦しみ抜いて死に瀕し「ひとり残らず胸を切り裂かれ自分の本当の姿を知るべきだ」と念じた瞬間「角」や「尻尾」が生えてくる。それが「竜」なんじゃないのか。
そして偽善者は自分たちがそうやって彼らを「邪悪なもの」に仕立て上げていることを自覚しながら「それに打ち勝つこと」を声高に宣し「正義」や「権力」を手放さない。これが竜を「完全な怪物」にしてしまう「呪い」なんじゃないのか。

シンと彼女が最後に「略奪」を働いたのは、自分を取り巻く衛兵たちを裏切り彼らを「ひとばしら」にしても自分だけは守られたい、衛兵がどれだけ命懸けで聖堂を守り抜こうと戦ったのかそれを知ってなお竜に媚びてひとり助かろうとする、そういう聖裁の使者だった。

シンは突としてまるで悪魔のようになり、目尻から「赤黒いエネルギーの粒子」が零れ出す「真っ赤に染まった右目」を苦しそうに押さえながらも彼女を「黒い霧」で拘束し、本気で首を絞めてくる。
息ができない彼女は肩まで広がった烙印から「イバラ」のようなものが生えてきてさらに身体中を締め付けられ、引き裂かれるように痛む胸、死を思わせる感覚、もちろん彼女は様子のおかしいシンを案じ彼を正気に戻そうと必死になるのだけど、頭の中には「彼を喰らえ」「呑み込め」と声がこだまして、何かに操られるかのように手は動き、いつの間に現れた大剣がシンの胸に突き立てられていた。

ふたりがはっと我に返ると幻のようだったすべてが実像となり、ずぶりと彼の胸に差し込まれた大剣を握る彼女と貫かれたシンは互いに目の前の光景が信じられないまま血を浴びて見つめ合う。

わたしが再びスト読みを断念したのがここで、大袈裟でなく「思い出し泣き」と「自己嫌悪感」が何日も何日も続きこれはもう一生この先を読めないかも知れないとさえ思いました。
シンを邪悪たらしめるのは「弱い」「卑しい」「利己的な」「身勝手な」まるで「わたし」のような人間たちだ。
彼は「生まれながらにして邪悪」なわけじゃない。わたしたちがそうだからそう見えていただけ。
この星が彼の愛した彼女のように強く美しい人ばかりなら、きっと彼は迫害者を成敗する正義だっただろう。あるいは願いを叶えてくれる魔法使いだったかも知れない。欲しいものを届けに来てくれるサンタクロースだったかも。
白城で竜の彫刻を叩き割れと命じられたのが彼女でなくわたしだったら、それは醜いわたしの保身のために砕かれていたに違いない。
角も尾も忘れ「愛」に生きることを求めた彼のたったひとつの小さな願いはそうやって砕かれた。
自分の身を守ることしか頭にない醜いわたしたちが、ついに彼を戦乱と死をもたらす「完全な怪物」に仕立て上げてしまった。
彼と彼女の築いた玉のような「愛」は、わたしたちの弱さ、卑しさ、自分可愛さ、身勝手さの「犠牲」になったのだ。

同類

大剣による深手を負ったシンはかろうじて残された理性で「いよいよ彼女を殺してしまうところだった」ことを反芻し、ついに「呪い」が現実になろうとしていることを悟る。
そうして再度沸き返る「正気を失うほどの殺意」を彼は今度こそ抑えることができず、「巨竜の姿」となって荒れ狂い、よろめく身体と巻き起こす旋風で多くの街や建物を破壊しながら「タルタロス城」めがけ黒雲の中へ飛び去ってしまった。

こうなると彼女の目にも彼が再び「巨竜」に見えるけど、たとえば「ワンダラーのコアよりも酷い臭いのする魂」を持つ人間にはシンが始めからずっとその姿で見えている、あるいはもっと恐ろしい姿で見えているってことなのだよな?
今更ながら唯一「天神斬魔の図」に描かれた「醜い悪竜」の姿しか知らない聖裁の人間たちが「少女を抱っこした翼の生えた青年(いけめん)」に疑いもなく「竜だ」「悪魔だ」と慌てふためくはずないもんな。

各地大小さまざまな規模の聖裁軍、竜の討伐により利益を得ようとする多くの人間が我先にとタルタロス城へ攻め入ると、彼女が軍人から鎧や馬を強奪してようやく駆け付けた頃には竜窟は「廃墟」のように荒らされて、シンはあの天井の高い「黒い礼拝堂」の中で巨竜の姿のまま傷だらけで横たえていた。

かつて「仲間」のように暮らしていた頃、彼女がナイフを振るって付けた彼の傷は瞬く間に消えてなくなったが、「大剣による深手」の影響か胸の傷はもちろん恐らく人間の来襲に応戦してできた身体中の傷口が癒えることなく絶えず鮮血と「黒い霧」を垂れ流し、まるで「生命が流れ出ている」ようにさえ見える。

巨竜は突然目を剥いて彼女に襲い掛かるが、その牙があと少しで骨を噛み砕くところで彼女があの「レクイエム」を口ずさむと、「何かに呼び覚まされたかのように」激しく足掻き始め、やがて「見慣れた姿」となって目を伏せ倒れ込むシン。今にも死んでしまいそうなこんな状態で彼はまだ「正気を失うほどの殺意」と戦っているのか。涙

ここは本編2部1章にとても見覚えがあるのだけど、シンは「どこを刺せばいいか分からないのか」と彼女の手首を掴み「ここだ」と言うように自分の胸へ充てがうと改めて運命の宿敵である「彼女だけが自分を殺すことができること」を口にして強い力で彼女にそれを促す。

抵抗する彼女の肌にかじり付きその噛み痕に舌を這わせ、また甘噛みをしては舐める、ということをしばらく繰り返してみたり、解けないほど固く指を絡めたり、最後は彼女の「まつげ」にキスをしたりもするんやが、これらは彼女が本能的に彼のコアを引き寄せ「喰らう」衝動に駆られることを促すための行為だったのかな? それとも自分の衝動を抑制する行動? あるいは「愛による抱擁」と同じもの? なんかいろいろ察してあげられなくてごめんシン(殴

「心のままに生きること」さえ「罪」として裁かれるこの星において、その罪を犯し裁きに抗いそれでも「愛に自由に生きる欲を抑えられない自分」は「こうして正気を失うほどの破壊欲を抑えられなくなってしまうあなた」とは唯一にして最後の「同類」であると結論し、混ざり合うことは怖くない、傷付いた彼を救いたいと主人公。
それは「魂の半分を捧げる」行為でありふたりは永遠に断ち切れない繋がりのもと「生死を共にし続ける」ことになるとシンは忠告するが彼女の意思は堅く、これはたぶん本編彼女が外伝でみんなにしていた「Evolもエーテルコアエネルギーもめちゃ放つ」的なやつを傷だらけのシンに施している、って思っていいんだよな?

本編のふたりはこれでちょっと手首が繋がる程度だが、なるほどこうして本意気ですれば「永遠に断ち切れない繋がり」になるのか(驚

と言うか、「正真正銘の同類」とはふたりが同じエーテルコアを持つことを意味する言葉ではなくこうして彼と「生死を共にし続けること」を決意した彼女からの逆プロポーズの言葉だったんだね。涙

「だったら永遠に俺のそばにいろ」と今度は「腕の内側」に「忠誠」を感じさせるキスをしてそれに応えるシン。なんかこれ、彼女が彼にキスの何たるかを教えてから互いに「いろんな部位」にし合ってるの全部にちゃんと深い意味ありそうな気がしてきた。わたしほとんど読み過ごしてる気がする(怯

混沌とした長い悪夢

黒い礼拝堂で互いの「魂」を捧げ合ったふたりはそのまま抱き合って眠る。ただし彼女はそれ以降の記憶がまるで何かに引き裂かれたかのように断片的で、あらゆることをはっきりと思い出せなかった。

ある時は自分は彼とその礼拝堂を離れることなく人目を避けながら寄り添い合って幸せに暮らしていたのではないかと思えた。
一緒に森で狩りをしたり変装して市場に出掛けたりして過ごすうちに彼の傷は癒え、彼によく似合う花冠を編んで頭にかぶせてやればお返しにマンダラゲの咲く谷を見せてもらい、その「深淵の花畑」と同じようにかつて「存在しないもの」だと思っていた「竜の愛」が本当は抱え切れないほど存在することや、その力で彼はたった一人のためにタルタロス城を花で埋め尽くすことさえできると教えてくれた、ような気がする。

またある時は、あの夜すでに礼拝堂は聖裁軍に包囲されていて、重傷を負った竜は彼らに捕えられ、「竜の烙印」を押された自分も「罪人」として聖堂に連れ戻されて来たのではないか、とも思えた。
程なくして「竜は討たれた」と噂されたが彼は月夜にこっそりと深淵から自分に会いに飛んできて、ふたりは逢瀬を重ね、鼻先を擦りつけられたり髪を拭いてもらったり、たとえこの聖堂の外で世界が終焉を迎え大地が揺れ山が震えても「永遠に裏切らない」と指切りをしてもらったりした、ような気もする。

それらはすっと遠のいてしまう幻や錯覚のようにあいまいで不完全な「混沌とした長い悪夢」のようだったと言うが、つまり醒めなければ永遠に受け入れ難い現実から解放される幸福な絵空事、目覚めれば絶望のあまり命さえ投げ出してしまいそうになる虚像、そういう意味での「悪夢」なのだろう。

現象としては本編で言うコア接触により視覚や聴覚が一致してしまったアキラとカゲトの「副作用」に近い症状なんじゃないかって気がしちゃったな。
本意気の共鳴によって潜在意識や無意識の領域までチェーン回路で繋がれてしまっているかのようにも見える。つまりこれらは「彼が彼女にしてやりたかったこと」を垣間見てしまっているってことなのではないかと。

するとあの黒い礼拝堂でふたりが夜を迎えて以降「現実に起こっていた」であろうことは、恐らく「罪人」として囚われた彼女が聖堂の裏庭で「審判」の時を待つ間、シンも一度は捕えられたがあの衝動が再び沸き返り制御不能となって拘束から逃れ深淵へ、彼女は自分の中にある彼の魂の一部が徐に破壊欲に呑まれていくのを感じながら時に自分も同じように呑まれ暴れ回り、シンもまた「荒れ狂う巨竜」となって今はフィロス星をすっかり壊滅状態にしてしまった、そうしてまもなく終焉がもたらされるその時だって大略なんじゃないかな。

終焉の審判

この星の「最高位」にある「裁決の庭」に連れて来られた彼女は証言台に立つことも許されずただ中央に鎖で繋がれ長と罪状が読み上げられたのち、頭上を旋回する「裁きのハヤブサ」に下される雷撃に無抵抗のまま打たれ続けついに冷たい地面へと倒れ込んだ。
裁決の庭は「空に浮いてる」らしいが本編でも「天行市」こそが「地球の最高位」であり「邪悪を純白で隠すもの」や「いわれない罪で裁かれるもの」の象徴だったりするのかな。
空には月がめちゃくちゃ近くに見えるけど、本編ワンダラーたちが展開する星の磁場の多くは「地上から浮いてる場所」の設定だったりするんだろうか。

ちなみに裁きのハヤブサとは「特異エネルギーに侵入された巨大な彫像」だと言うが、恐らくこの両サイドの雕像がそれなのだろう。

特異エネルギーはついに無生物をもワンダラーに変えてしまったかと頭を抱えかけたが、これについてはワンチャン「コア武器」のようなものも隠し立てていそうな「聖裁軍」や「白城」が反逆者を囚えておくための庭の門番ということで、たとえば特異エネルギーを呼び寄せるような特別なコアやその欠片が像に仕込まれていた、なんてこともあっていいんじゃないかと思えてしまったよ。

彼女は倒れ込んだまま、かつて竜窟の頂上でシンと初めて互いのことを打ち明け合ったあの夜を思い起こし、何度「歌って欲しい」とねだられても一度も最後まで歌ってやれなかった「レクイエム」を彼のために歌い上げるのだけど、これに応えるかのように巨竜の吼えたける声がこだますと「聖裁軍」は手際よく空に18の大砲槍を構え、雲の中から姿を現した竜に無数の「電流を帯びた矢」を放っていく。
「終焉の審判」とは彼女への裁きではなく彼女をおとりに竜を誘き寄せ罠に掛ける計略だったらしい。

槍に貫かれほとんど千切れた翼にもまるで痛みを感じていないかのように激しく荒ぶり急降下してくるその巨竜は、獣特有の混沌とした狂気を孕む目をしており、もちろん「もう私のことも分からなくなってしまった」のだろうことは理解しながらも、最後にもう一度だけ「私の竜」に「愛による抱擁」をしたくなった彼女は、目を閉じて風上に大きく両腕を広げてみる。

しかし、ふと大きな手に手首をつかまれたような気がして目を開けると、どういうわけか彼女は再び彼の胸に「大剣」を突き刺していた。

全体的に涙でびしゃびしゃながらもこの「全部繋がった感」は鳥肌立ったなぁ。
状況を理解した状態で改めて見るとこれは彼のアシストで彼を突いている彼女の手、以外の何ものでもない。どこがどうなって「彼の差し伸べた手を握ってる」ように見えたのか2部2章初見時の自分が分からない←

「ここで倒れるな」「お前が倒れたら後戻りできない」とはそういう意味だったのね。
彼女の方が先に倒れたら自分は完全な巨竜となってこの星に終焉を到来させてしまう。
でも自分が先に彼女の手に掛かればこの星を守ることができる。そして唯一自分にそれができる彼女の手によってついに「死」がもたらされたとき、切っても切っても生えてきた竜の角はようやく切り落とされる。パイプオルガンの伴奏で歌い彼女を「愛」で抱擁できる「人間」に戻ることができる。
後戻りができなくなってしまうのは彼自身だったんだね。涙

自分の胸に力いっぱい剣を押し込みながらまるで「竜の呪い」を打ち破ったことに高笑いをするかのようなシンが、ああきっと彼女が囚われている間も彼は独り「湧き上がる欲」と戦って、戦い抜いて、今こうして成し遂げた自分が誇らしいのだと思ったら、正直めちゃくちゃ悲しいんだけど、涙止まらないんだけど、なんて言ったらいいか本当にかっこいい(語彙力

魂を捧げてから「大剣は現れなくなった」と彼女は見解していたが、これはシンの方からコアに働きかけて起こしたことなのかな? 彼女の一部を内包しているためなのかも分からんが、思い返せば「終焉の戦争」について「音や臭いもそのままに」見たものを彼女に共有できる彼のEvolもまた「共鳴」に近い働きをするのかも知れないな。

赤い谷

シンは最後の力を振り絞り彼女を抱きかかえ飛び上がると、裁決の庭を離れ、黒曜石の尖塔を越え、その向こうにある「赤いマンダラゲの咲き誇る谷」に倒れ込むように着地した。
これは恐らくおぼろげな夢の中でふたりが幸せに過ごしていたあの花畑なのだろう。マンダラゲの花言葉は「陶酔」、葉や花を煮込んで飲むと「幻覚で天国をさまよえる」と言われているらしいです。涙

彼女は「漆黒の礼拝堂」で彼と抱き合って眠ったところから「赤い谷」で頭に二本角を生やした巨大な生き物が首を垂れ息も絶え絶えに自分の胸の中で伏せているところまでの間に当たる記憶がうんとあいまいだ、と言ってたような気がするんで、このタイミングで「魂の契約による思考や視覚の共有(エーテルコアエネルギー共鳴によるチェーン回路あるいは副作用)」は絶たれてる、まさに彼が死に臨むところなのだろうと思われる。
竜は静かに花の茂みの中に身体を横たえ「ガーネットのような瞳」に彼女の姿を焼き付けながら息絶えた。

そしてここからはだいぶわたし解釈なんやが、息絶えた竜は突然身体中を「黒い結晶」に覆われてまるで何かに吸い取られるように中の肉や骨が崩れると表の結晶が一枚ずつ剥がれ黒い花びらのように舞う、焼け焦げたようなほろ苦い匂いがするって言うんだよね。

「黒い結晶」と言えば人為的なコア介入症患者の症状のひとつとして思い起こされるが、仮にもここが「人間の生命エネルギーが星核エネルギーに転換される」ことで生まれる「特異エネルギー」の集合体「ワンダラー」のいる「フィロス星」なら、この「結晶化」は「エネルギー転換」によって起こっているものなんじゃないかなって気がするよ。要はシンの身体の持つ熱エネルギーが今「セイヤの物語で言う星の餌」になっているような状態というか。

彼女は彼の身体が花びらのように散っていく中に佇んで、最後の花びらを一枚手に取ると「あなたの魂が永遠に消えないように」「永遠に私と繋がって離れないように」「私だけがあなたに本当の死を与えられるように」と言葉を手向けるのだが、すると散った花びらは風によって一所へ運ばれて、雲の彼方からは「竜の咆哮が響いた」かのような描写が入る。

ここは深空時代のインタビュー内容が蘇り「肉体が死滅すると宇宙に飛散する意識エネルギー」が集結して「ワンダラーが生まれてしまう流れなのか」と一瞬冷や汗をかいたがどうもそうではなく、めちゃくちゃびっくりしたんだけど代わりに彼女の頭やお尻に角や尻尾が生えてくるのですよね(驚愕

彼女はかつて翼を生やしたばかりの幼いシンを受け入れた同じ谷に受け入れられ「ついに彼と同じ命になった」って言うてるんだけど、え、同じ命ってそゆこと? シンの意識エネルギーは一所には集結したが特異エネルギーにはならず彼女の中に入り込んでるってこと? ひとりの中にふたりいるってこと? (ちがう

これが仮に意識の共有の隠喩であり「あなたの魂が永遠に消えないように」って彼女の言葉による超自然現象とかじゃなく同じコアを持つもの同士「共鳴」による「永遠に断ち切れない繋がり」が死別してなお続いてる状態なのだとすれば、たとえばコアの引力を使ってどちらかの身体を器にしながら交互に生死を繰り返すことでEVERがやろうとしてるっぽい「生まれ変わるたびに宇宙にある自分の意識エネルギーを全て得ることができる人」って実現できるんか? だからシンは「命を貸す」とか「返す」なんて言い回しをするの? すると一卵性双生児対照実験の目指すところとはそういう…?

事実、恐らく「転生」しているであろう星間指名手配犯のシンは星を股にかける大空賊とスケールはドデカくなってるが今スト彼女の欲しがった「鉱石」や「星艦」まったく同じものをまったく同じように「迫害者」や「搾取者」から略奪して回るという一生同じことを今もまだ続けているし、「歌のメロディーも綺麗な模様も食べ物の味も分からない」なんて図星突かれたことをいまだ根に持ってとにかく最高峰の食材や美術品や音楽に触れせっせと舌や目や耳を肥やしているし、ハンターの彼女には随所においてまるで前世の記憶を現世の記憶と隔たりのない地続きの記憶として持っているかのような接し方をする。そんなのシンだけである。

念のため、今スト竜シン「実は死んでない」なんてことはないよな…? (錯乱
いや「白城から竜について特別詳しく教えられてきた」らしい彼女がシンを「見た目は大人だけどあなたまだ子どもなんでしょ?」「翼を隠すことは覚えたけど角と尻尾は隠せない」なんてからかうシーンがあるもんで、実はどこかでずっと生きていたシンはついに成年を迎え角や尻尾も「赤黒い霧」に変え身体の中へ隠せるようになっての今のあの見た目、みたいなこと匂わせてるのか? ってなんか見るものすべてが各方面に疑わしくもなってきたんやが…

欲を引き出す赤い目や傷付いても治癒する身体は今回最後の最後でようやく「竜由来」だったことが分かったが、それこそ「見る人によって姿が変わる」のも前世の名残りみたいなもんで、「暗点のボスには角がある」だの「翼がある」だのと噂されるのは周りに「根っから邪悪なやつ」が居るからなんだよな? 別にシンが出したりしまったりしてるわけじゃないよな?←

たぶん、ラストいまいち結末に確信が持てないのはわたしの読解力のなさと加えて「シンのストーリーをあまりに読んでいないこと」も原因のひとつなのだと思ってる。いろいろ履修したらきっといろいろ変わりそう。少しずつでも読んでいこう(決意

しかし、この駄記事文字数2万だって…(引
いよいよ最後まで読んでくださる方がいらっしゃるとは思えない掃き溜めのようになってるこの長さ、もはや自分で読み返すこともないのだろうなw