流星の降る夜
改めて、わたしは何も理解していませんでした(倒
恋と深空は2048年臨空市を舞台として繰り広げられる深空ハンターのとある女の子の奮闘記であって、先端分野のテクノロジーと科学の解によって海洋や宇宙が解き明かされていく数理の世界が根幹をなすファンタジーなのだ、と思い込んでここまで読み進めてきました。
ところがどっこい今回の秘話を読んで解釈は180度ひっくり返り、全体を捉えたら科学とはむしろ真逆、世界を彩る生命や事象、反応、誕生、消滅、そういった「うねり」のようなものはきっと人間や人間が生み出した物質だけで成立し得るわけないよね、我々を遥か超越した何者かの力によるものだよねっていう神学に基づく物語なんじゃないかと考え至りました。
恐らくたとえば星の寿命のような自然エネルギーによって定められた摂理や生態系は、決して人間の知力による支配が及んでいい領域ではない、みたいな、あわや禁忌に触れるところまで進歩してしまった先進医療や科学技術へのある意味アンチテーゼであり、本編ではこの訴えを担うスポークスパーソンに当たるのがセイヤなんじゃないかと。
厳密に言えばだいぶ異なるが「風の谷のナウシカ」の原作で言うと巨大文明シュワの主が「エーテルコアを好き勝手できると思ってるやから」、その代償として生まれた腐海の毒「ワンダラー」と共に生きることを定められたユパやクシャナのような戦士が「ハンター」、そしてシュワの思惑を見抜いて世界を本来の姿に「ロールバック」しようと奮励するナウシカが「セイヤ」なんだと思うんだよ(つたわれ
ただしこの秘話では核心に迫るようなところはちゃんと濁されていて、とは言えこれを「神学」だと捉えていいなら個人的にはもう答えはひとつしかないと思っている。
フィロス星の定義
この秘話は地球という惑星の地核が解体したまさにその年に誕生した「フィロス星」という星に住まうある少女の目線で描かれる。
フィロス星は誕生から214年目の若い星であり、また214年前は同時に地球が惑星としての一生を終えた年でもある、ということになる。
学校には「地球時代に生まれた先生」というのが居て、彼らによれば「消滅した地核」の代わりに「強大なエネルギーを持つ人工星核」を用い、バラバラになった陸のプレートを繋ぎとめたことで「この星は宇宙に飛び散らずに済んだ」ということらしい。
ニュアンスとしては恐らくこの先生は地球の地核が消滅するまさにその瞬間まで地球上にいて、それが人工的に一命をとりとめたその時、つまり地球がフィロス星として生まれ変わったタイミングで「地球人からフィロス星人となった」、ということなのだろうと思う。
すると2048年から数えて数百年後のどうやら臨空市らしいまだ見ぬ黎明の時代にはすでに地核消滅は予見されていて、人工星核の実用プロジェクトなんてものもとっくに始まっていたのかも知れん。
なるほどこの辺は妙にリアルですねぇ。
実際地球で化石燃料を搾り取ったらいつか人類はここから脱出しなきゃならない、なんて言われてたりもするし、再生可能エネルギーさえ完全なものになれば「宇宙文明は200年間で到達できる」なんて話はホントにあるもんな。
また、フィロス星に住まう人類は人工星核が消滅しない限り星と共に「永遠に生きる」ことができる。
どういう原理なのかは分からないが、人間は有機物と水分と「エネルギー」で生かされていることを考えると、恐らくフィロス星の人工的な星核が住人の寿命にも影響するくらいまじ強大ってことなんじゃなかろうか。
ただし、その少女は「コア介入症」という「心臓が徐々に衰弱していく先天性の病」に冒されており、彼らのような永遠の命どころか100年も生きられない運命にある。
少女は「共鳴」のEvolを使うことができることから恐らく主人公の「転生後」あるいはそれに限りなく近い存在なのだろうことが伺える。
転入生セイヤ
今ストに登場するセイヤは、このフィロス星の小さな陸地にあるという少女の通う「学園」に、ある日突然やって来た「謎めいたクラスメイト」である。
どうやらEvolを覚醒させた生徒が入学対象であり、「木剣」を用いた「剣術」の授業があることから、この学園は一般的な教養に加え戦闘や体術を習得するカリキュラムが履修できる訓練施設のような学校なんだろうと思われる。
1日中イヤホンで音楽を聴いていたり、どこで練習したのか類稀なる剣術の腕前を会得していたり、授業をほとんど聞いていないのにいつもテストで満点を取れたりするセイヤ。
噂によると複雑な家庭環境が原因で学生寮には住んでいないらしく、登下校時はボディーガードたちに厳重に警備されているため放課後は言葉を交わすこともままならなかったりするのだけど、主人公は転入当初から彼に惹かれており、またセイヤも同じように彼女に惹かれてる。
この辺の描写は本当に可愛らしくて、特にセイヤが彼女の背中をつんつんと小突いたり、イヤホンを片方だけ貸してくれたり、手を強く握り返したりするところなんてもうたまらない←
セイヤを護衛するボディーガードたちの目を盗んでは礼拝堂に隠れたり、暗くなった教室で過ごしたり、軒下で一緒にパンを食べたり、そうやって互いに芽生えたての感情を大切に育んでいくふたり(癒
ある日主人公は天文学の授業で「来月は100年に1度の流星雨が見られる」という話を耳にし、これを好きな人と一緒に見れたら「もう思い残すことはない」と感じて彼を誘ってみるのだけど、何かを言いかけては口をつぐみ、暗い顔をするセイヤ。
きっと護衛たちによって夜の外出が許されないためだろうと察した主人公はこれを諦め、代わりにセイヤがEvolで生み出した小さな流れ星に向かい「セイヤが永遠に自由でいられますように」と声に出して祈った。
特別なコア
心臓の病状は無情にも悪化していき、ついに授業中に倒れてしまう主人公。保健室を訪れたセイヤはその時初めて彼女の病気について詳しく知り、「治療法はないのか」と深刻な声で尋ねる。
あるにはあるらしいが、なんでもこの世界にたったひとつだけ存在する「どんな病気も治せる特別なコア」なるものが必要で、まるで雲をつかむような話であることから「不治の病」だとも言われている、と主人公は努めて明るく説明するのだけど、「特別なコア」と聞いた瞬間セイヤの瞳には「何らかの感情」が浮かんだように見えた。
セイヤはそれからしばらく黙ったあと、「やっぱり流れ星を見に行こう」と主人公に提案する。
流星雨
約束の夜、学園の寮から終点まで列車に乗ってさらに少し歩いたところにある「天鏡塩湖」を訪れ、湖に飛び出した桟橋に並んで腰を下ろし空を見上げるふたり。
周囲を気にする様子の主人公に「探さなくていい」「彼らはついて来てない」「どうして俺以外の奴のことを考えてるんだ?」ってセイヤ。
「やっとあの人たちから逃げ出せたの?」って聞き返す主人公に「ああ」と答えるセイヤは一瞬目を伏せたように見えるのだけど、ひとつまたひとつと墨色の夜空を横切る流れ星が降り始めるとすぐに明るさを取り戻した。
シンプル文字だけの描写なんだけど、雨のように降る流れ星とこれを下から映した鏡のような水面に囲まれて真ん中にふたりきりって、巨大プラネタリウムの中心で流星観測をするような本当に感動的な景色なんだろうなって思う。
フィロス星は地球とよく似た自然環境ではあるが砂埃が多く空は滅多に晴れないって話だったんで、セイヤにとっても主人公ちゃんにとってもまさに忘れられない景色だっただろうな…
やがて空が暗み淡い紫色に染まり始めると、主人公はふと思い出して「手作りのプレゼント」をセイヤに手渡す。
セイヤはとっても喜んで「木剣に結んで欲しい」とお願いしてるので、恐らくスチルにある「星型のチャーム」がそれなんじゃないかな?
帰り際に「抱き締めさせて欲しい」と言ってふいにぎゅっとするセイヤに主人公はびっくりするんだけど、「ありがとう」「願いが叶った」っていう彼の声を聞いて同じ気持ちになり、「100年後の流星雨もまた一緒に見よう」と叶わない約束を交わした後、このまま永遠に時が止まってしまえばいいのになって思ってる。
そうしてこの夜から「山崩れのように悪化してしまった」病によりついに入院することとなった主人公は、あれから姿を見せなくなってしまったセイヤが「星を見に行く」という許されない願いを強行してしまったせいで完全に自由を失ってしまったのだろうと申し訳なさを感じていた。
赤い首輪
流れ星の夜からちょうど1ヶ月後、余命を悟った主人公は残された力を振り絞って病院を抜け出しもう2度と訪れることのない「天鏡塩湖」を「最期の景色」に選んだ。
思い出の桟橋にひとり腰掛けぼんやりしていると、顔や手に深い傷を負ったセイヤがこちらに向かって駆けてくるのが見える。
セイヤの首には痛々しいほどに赤く光る首輪が巻かれており、懇願するような表情で手の平のコアを見せながら、これが心臓の病を治すためのコアだ、とだけ告げた。
主人公はこうして衰弱し切ったすでに手遅れな自分の心臓なんかのためにセイヤが完全に自身の自由を手放してしまったのではないかと推断し、「コアを返してその首輪を外してもらって欲しい」と訴える。
セイヤは潰れるほど強くコアを握り締め「また一緒に星を見ることを約束したはずだ」と必死になるのだけど、「もしも私が病気じゃなかったら、」と穏やかな調子で実現できない未来の話を始める彼女に何かを諦めたように、「星だけじゃない」「山も川も太陽も月も全部一緒に見に行く」「あんたが疲れたら俺がおぶってやる」と肩を抱きながら語り続けるセイヤ。
彼の腕に抱かれながら息を引き取る寸前、「来世でもまたセイヤに会えますように」と儚げに呟く主人公の目には、セイヤのEvolがまるであの日の流星雨のように眩く輝いているのが見えた。
一方セイヤは息のない彼女をいつまでも抱き締めながら、「何度でも、どこにいても、俺は必ずあんたを見付ける」と独り言ちた。
エーテルコアとは
記事冒頭で深空は「神学的物語なんじゃないか」ってなことを語らせていただきましたが、元ネタは十中八九ユダヤ神秘思想における旧約聖書「生命の樹」なんじゃないかと踏んでます。
神秘思想的に解釈される生命の樹はむちゃくちゃ平たく言うと10個の球体がそれぞれ線で繋がれた「化学構造式」みたいな図式になっていて、図の中でもいちばん位の低いところにある球体が地風水火の四大元素によって形成されるマルクトという「王国」であり、司るものとして王冠をかぶるのは女性、つまり女王なんですね。
一方で図の上の方に描かれている球体たちには元素のような実体がなく「霊」という一括りになっている。
王国の球体はアッシャーと呼ばれる「物質界」であり、また霊の球体たちはアツィルトやイェツィラーと呼ばれる「神界」や「天使界」に該当する、みたいなのがめちゃくちゃ大雑把なカバラの宇宙観だったと思うが、まず神界や天使界には物質的概念がないためそちらに住まう者たちはみな「永遠の命」なるものを持っているのですよ。
新興宗教の中でもキリスト教系の団体から勧誘を受けたことある方であれば聞いたことあるかもですが、信者たちの言う「永遠の命を得ることができます」って怪しげなセリフは「教えを信仰すれば物質界での命を終えたあと神界に入れるかも知れないよ」っていう意味での決まり文句だったりする。
みんな聞いたことのない団体から勧誘に来る人には気を付けてね。一般的なキリスト教徒は訪問伝道なんてしませんから。
ごめんなさい話逸れました(殴
何が言いたいのかって、この「物質界」というのが深空における「地球」であり、またこの惑星の核エネルギーというのは本来物質的概念を持つマルクトの伺い知るところではない、四大元素を司る「エーテル」によって維持されている、彼女を介して「神界」や「天使界」からの霊的なエネルギーを受け取ってる、っていう神秘主義思想における宇宙論をモチーフにした世界観なんだと思うの。
たとえば主人公がエーテルコアを体内に宿した状態で地球上を転生する限り地球は決して滅びないのだけど、彼女とエーテルコアを切り離してしまった時点で地球は消滅し、彼女は「心臓に疾患を負った物質的生命」として生まれ変わり続けるようになる、そうして女王の本体とは切り離された場所でエーテルコアを核とした人工的な惑星が生み出されれば人類は不自然に永遠の命を得て摂理に背いた生態系が生まれ、まるで理想郷のようにも見える「人間の知力が支配する世界」は一度は完成するのだけどいつかは機能しなくなる、結果真綿で首を絞められるように終末に向かっているだけ、ってのがこの秘話延いてはセイヤを主軸とした物語のおおよそなんじゃないかなって。
前回の秘話でキノアが言ってた「ワープポイントにミスがあったせいで深空トンネルの波動が船の許容範囲を超えてしまったためにエーテルコアも彼女も行方不明になってしまった」というのは「エーテルコアを持つ少女を船で輸送していた」わけじゃなく、ワープ先であるはずの「エーテルコアが散逸する以前の主人公の居る時空が分からなくなってしまった」って意味だったんだと思う。
今回の秘話でも上手に濁されてるのは「エーテルコアの出どころ」であり、このストだけだとコアはもともと「フィロス星の星核として生成されたものだったんじゃないか」って視点になってもいいはずなんだけど、神学に基くならそもそも「エーテル」が「人間が生み出したものであるはずがない」ため、わたしの中では元より彼女の一部であるという結論一択かなと。
セイヤのボディーガードたちが何者だったのかは分からないけど、恐らくセイヤは「地球時代にある少女から摘出されたコアを用いてこの星が生きている」「これが非常に不自然である」ことをなんとなく知れるような立場だったとかじゃないかな。
とは言えこの「セイヤナウシカ説」には矛盾点もあって、もし本当に「不自然さを正す」ことが彼のロールバックの目的なんだとしたら正された未来には「フィロス星は誕生していない」ことになっているはずだし、すると本編8章セイヤはキノアたちを元の場所に「必ず送り返す」って言ってるの、絶妙に変だよな?
だってセイヤ個人は「不自然な寿命ではなく本来の人間の一生をどこかの時代で好きな人と全うする」ことができれば万々歳なはずだし、もっと言えば今現在「摂理に背いている自分たちは消えてしまうことが自然」なわけだもの。
ま、そもそもこれ全部妄想なんだけどな(しろめ
ちなみに…
本編ではセイヤの首輪は赤かったり青かったりするんやがこれはどういうわけなのかむっちゃ気になる。どのタイミングでどんな条件で色が変わるのか時間があったらちゃんと見返してみよう…


今ストのセイヤは若さもあってか本当に少年らしい感情がたくさん表に出てて、彼女のことが心から大好きだったんだなぁってのも痛いほど伝わってきました。
暖かい夜の章「星は自分から落ちてきてあんたの傍に来てくれる」がリフレインしてだいぶ泣いてしまったな。
月影ハンターも恐らくは主人公ちゃん目掛けて来てくれてたんだと思うし、もしかして2章ラストでミナミに言ってた「俺たちは初対面じゃありません」ってのもそういう意味やったん? 涙
ホーム画面のセイヤとは「今日はやけに俺を気にしてないか?」「私のことを気にしてるからそう思うんじゃない?」「バレてたか、じゃあ堂々と見てていいな」みたいなやり取りができたりするんだけど、授業中にこっそりとお互いを盗み見て指摘し合ってドキドキしてただけの、ただひたすらに幸せだったあの頃の彼女との思い出を今もひとりなぞったりしてるんだよね。
誰よりも最後に出会ったが、結果誰よりも長く恋をしているのがセイヤなんだな。