明晰夢
こちらはマヒルの遠空思念をペアで揃えて読むことができる伝説ストになりますが、いやぁこのタイミングで偶然お迎えできたの正直めちゃくちゃ助かった。これ未読のまま本編次章へ進んでいたらマヒルのこと艦隊のことまるで理解できてない状態でこの先をプレイすることになってたし、何より「チューリングチップ」についてだいぶ盛大に勘違いかましてたの改めて履修し直せて本当に良かったよ。
4部2章てっきりチップは「身体にコアを埋め込まれた人」の思考を制御し異化を抑止するための器機なのだと思ってた。チップ自体が「まだ自分のものになっていない意識の欠片」だったんやな。どうしてこんな頭の悪い読み間違えをしてたのか←
そして願わくば過去に戻って新キャラ実装時には「どうせ恒常落ちするんだから」なんて悠長なことぬかしてないでとにかくピックアップを回せ死ぬ気で日位思念を引けそして今すぐストを読めと自分の尻を叩きたい。今回はたまたま奇跡が起きたけど、今更ながら心奪う思念未所持のわたしはきっとシンのこと暗点のこと半分も理解できずのままVer2.0を終えてしまったのだろうな。
組織改編
掃討作戦の完遂から2ヶ月後、遠空艦隊は大規模な組織改編のため「トム艦隊」なる小艦隊と統合運用の体制が敷かれる運びとなり、単一指揮官には遠空執艦官であるマヒルが擁立されるも所管される隊からは反発の声が大きく、内部対立の対策として組織合一化に向けたあらゆる雑務を第三者である「深空ハンター」に外注する手筈が組まれていた。
協会側には「秘密任務」としてハンター1名の人材派遣要請が入り、近日マヒルとは「新しい付き合い方」を見出しつつもあるが「見慣れない執艦官の制服の下にどんな秘密が隠されているのか」やはり考えずにはいられないという主人公は迷わずこれを志願、ふたりは2ヶ月ぶりに天行市で再会し再び同じ職場でそれぞれの任に当たることとなる。
初日の会議では統合に際し「休養」の名目で「アッテリ浮遊島」なる衛星島に転属させられることが決まっていたトム執艦官の「カーツ」が早速マヒルに不服を申し立てる様子を目の当たりにするんやが、どうやらこの老練今回の統合が「ルイが艦隊を支配するため」のものであり「マヒルがルイの捨て駒のひとつに過ぎない」ことをあまねく心得ているうえ、一年前には「自分が今のマヒルのポジションに就いていた」ことからこうして彼に害意を抱き敵愾心を剥き出しにするもよう。
なるほど4部1章でマヒル失脚を目論み爆発事故を起こしたりトンネル内の乱流に彼を葬り去ろうと画策してたのはEVERではなくEVERに使い捨てられた捨て駒勢力の方だったのね。
これを「自分の艦隊がマヒルの艦隊に吸収されること」に対する苦い顔であると解釈した彼女は殺伐とした派閥争いの渦中にいるであろうマヒルの「自分だけは味方でいよう」と思い至り、彼から与えられた職務「トム艦隊関係者全員の異化耐性測定」や「個人データの収集整理」に熱心に取り組んでいるのだが、案の定士官の大半がそれに応じることを拒否、彼らは遠空艦隊による「機体検査」の実態が「身体にチップを埋め込まれること」であり「怪物」へ「改造」されることの「始まり」であると訴える。
すると「艦隊」と名の付く部隊はそのうちルイの管轄下に置かれ「改造」されることに怯えている人間かすでにそれをされてしまった人間、あるいは「名誉ある数々の勲章」と引き換えに自らそれを受け入れたカーツのような人間のいずれかで構成されているわけだな。
「改造」が分からないことには職務を全うすることが難しいと判断した彼女はこれに関する資料がマヒルの執務室に隠されているのではないかと思い立ち、「自由に出入りしていい」と渡されていた鍵でこっそりオフィスへ踏み入ると、思い付きでロックを解除できてしまった「When U Come Back」と「自分の誕生日」を組み合わせた端末のパスコードに一驚を喫しつつ、恐らく彼の権限がなければ開けないであろうファイルを順番に閲覧し始める。
そこに記録されていたマヒルの略歴からは彼がDAA航空大学入学3年目に「秘密の特訓」なるものに参加しさまざまな成果を挙げたことで「Dr.L」と略されたルイ教授の推薦を受け艦隊執艦官に抜擢されたことを、また右腕の骨や筋肉の構造が明らかに左腕と異なる全身スキャン画像からは彼らの言う「改造」が文字通り人間の肉体に意図的に変形を施す行為であることを彼女は知ることになるんやが、ぶっちゃけわたしはこの時点マヒルは敢えて彼女に鍵を持たせ隙を見せることで自分がとっくに教授の手中に落ちていることや今彼らにどんな仕打ちを受けているのかを悟ってもらおうと図ったんじゃないかって気がしちゃったよなぁ。
もちろん彼女が引き出しの中まで物色し彼の所持するチューリングチップとその注入装置を靴に隠して持ち出すところまでは完全に想定外だったのだろうが、いいところで突然システムが停止され強制的に閲覧が制限されたというなら当然彼にはこの端末の「遠隔操作」ができたのだろうし、そんな状況下であれこれ盗み見ていた彼女を厳しく問い質さないところを見ると「ある程度目を通すことができる時間」泳がせて「痕跡を消すことができる時間」待ってからここへ来たんじゃないのか、なんてな。
自分の知らない経歴を持ち「チップ」や「改造」が施されているマヒルがそういうものに手足を縛られ操られているだろうことは想像に難くないが、彼が「艦隊の機密」だとこれをひた隠しにする限り真相へは辿り着けるわけもなく、とは言え唯一確かなことと言えば自分にとって彼が「この世界でもっとも近しい人」であり彼を「困らせることはしたくない」という想いであると彼女は考え至り、改めて難航しそうな艦隊統合に係る引き継ぎ業務に尽力することを決意する。
本当の権力者
しかし、予想に反して統合は滞りなく完了し、数日後にはこれを記念する祝賀会が開催されることになる。彼女はマヒルが「店で見付けた時からお前に似合うと思ってた」らしいヘアピンを身に付けその式典に出席しながらも、恐らく「統合に反対していた人たち」が秘密裏に処理されてしまったのだろう裏経緯を思わせる「もうオレたちを邪魔する人はない」「今はみんないるべき場所にいる」なんて言葉を毅然と口にする彼が「灰白色の石膏像」のように感じられたと言い、「あなたが何をしていても私はあなたの味方だと言ったはず」だとの訴えは、きっと「もっとも近しい人」から「もっとも遠い場所」へ追いやられてしまうことが「腹立たしい」のではなく「寂しくて孤独」なのだと伝えたいのだろうと思ったよ。
そんな彼女を想うと本当に胸が痛んでしまうのだけど、実は会場には刺客が紛れており間一髪狙撃弾を掠め取ったマヒルはもちろんそれが自分を襲撃する合図であることは理解しながらも「これは陽動作戦」であり「狙撃者の真の狙いはここから遠く離れた場所にある艦艇基地のはずだ」と小芝居を打ってそちらに彼女を向かわせるのですよね。
「危ないからお前はここで待て」だなんて迫真の演技にはわたしもまんまと騙されてしまったよ。「あなたにとっていちばん信頼できるのは私でしょ」って彼女の言葉に「初めてのためらい」を浮かべ長い沈黙のあと「気を付けろ」と送り出してくれたときにはついにマヒルが共に戦う選択へ一歩踏み出してくれたのだと思ったし、「待ち切れないとばかりに」身を翻して会場を後にする彼女が「本当に私を必要としてくれてるんだよね」と最後に念を押し力強い頷きを返されて「待っててね」と駆けて行く姿にはこちらまで嬉しくなってしまったというのにな。涙
そうして一方的に彼女を避難させたマヒルは直後「引き継いだばかりの艦隊の武器庫」へと向かい、どうやらその場で「原因不明の爆発事故」を起こし彼を暗殺するつもりでいたらしいカーツと対峙する。
カーツのバックには3話序盤で検査を拒否していたトム士官のひとりが「艦隊の本当の権力者さえ戻ればマヒルの思惑通りに事は運ばない」と主張していた恐らくその権力者がついており、「カーツが無策で挑んできたように見えたのはあなたがいたためか」とマヒルが唸っているあたり余程手強い相手であることが伺える。
権力者は開口一番「チューリングチップを破壊することはどれほど難しいのだろうと思っていたが」と切り出し「君の死体を教授への手土産に」なんて言い出してるんだけど、これは自分の身体に埋め込まれたチップを何らかの手段で破壊することができその支配から抜け出したうえでマヒルとルイに宣戦布告を表明してる、みたいな認識でいいのかな?
引力制御で無双状態のマヒルを「青筋が立ち目を血走らせる」ほどに力ませ「指を軽く曲げる」だけで地面に跪かせることもできるみたいやが、これはEvolによる力なのだろうか。だとすれば「ブラックホールに匹敵する」らしいマヒルの力と渡り合うことができるEvolverってことになるが、もしかして誰かさんの元でEvol改造とかされてます? あなたがMr.Rなんですか? (いいえ
マヒルは窮地に立たされながらも「ただしあなたがいたところで結末は変わらない」と最終的に彼らが策を弄したその武器庫に爆発音を轟かせているが、カーツの方は再起不能でも権力者の方は恐らく仕留めそびれているのだろうと思わせる描写ではあったかな。
リアム副官
掃討作戦の間彼女が隠れ蓑にしていた遠空艦隊の副官に恐らくその後正式に任官したであろう「リアム」は、今ストに登場する艦隊関係者の中で唯一マヒルに忠実な彼の右腕であり、言うまでもなくすでに身体にはチューリングチップが内在する人間のひとりでもある。
リアムのバックボーンについては8話終盤辺りに詳しく綴られているがこれがなかなかに悲しくて、彼はチップを埋め込まれてからもう随分と経つがいよいよ「主人格の意識」が「プログラムを攻撃」し「感情が制御不能に陥る」こともなくなったため「まだ自分のものになっていない意識」がどれだけ自分のものになってしまったのかその進捗状況さえ把握できておらず、最初の「リセット」で大半が消されてしまったという「妻と過ごした記憶」のうち唯一想起できるのは「最後に会ったときに妻が溢した涙」であると言い、彼は自分も同じように涙を流すべきだと確かに感じてはいるのだけど神経が「錆びついた古い部品」のように鈍っていてついに手を差し伸ばすことさえできなかった、なんて語られるのですよね。涙
始めはあくまで「秘密任務」に派遣されてきた「ハンター」に対する接し方で彼女が引き受けた業務を粛々とサポートするような場面も描かれるが、祝賀会で狙撃を受けたマヒルが「彼女に悟られないやり方で彼女を避難させること」を「視線による合図」だけで彼に一任し、これを暗黙のうちに承知している辺りあらかたの事情は把握している立ち位置なのだろうな。
そうして護送され到着した艦艇基地は襲撃や乗っ取りに遭っているどころか静まり返ったもぬけの殻、逆にマヒルが留まった祝賀会の会場へは恐らく応援に何隻もの船が向かっていくのが見え、彼女は「あなたにとっていちばん信頼できるのは私」に対する彼の応えがまたも「退場を割り当てること」であったのだと気が付きやりきれない想いに駆られてしまうのだけど、「あなたはもちろん執艦官が唯一信頼できる人に違いない」「ただし今回はこれが最善の策だった」「彼を責めないで欲しい」なんて声を掛けてくるリアムは本来とっても情緒的で感情に敏感な人なんだろうと思ったよ。

ただし「副官として彼に信頼されていると感じるか」と尋ねられれば「私に必要なのは信頼ではなく命令」だなんて切り返し、その命令が「もっとも近しい人の傍を離れろ」であっても従うかと問われれば「それができるからこそ副官として彼の傍に立つことができる」のだと返答するリアム。今思えばこれって奥様のことをよぎらせたりしてたのかな。涙
もちろん「私たちはあなたとは違う」ためだとリアムは付け加えるのだけど、彼女の方はそう諭されながらも「どこか空虚な目」をしているらしい彼の様子に「一体何が違うのか」「自分はチップの改造を受けていないためか」「自分にチップが埋め込まれたらマヒルはどう対処するだろう」と良からぬ考えを巡らせ始める。
彼女はリアムと別れた後ひとり街路のベンチへ腰掛けると、マヒルのデスクから持ち出し靴底のくぼみに隠し持っていた彼の「チューリングチップ」と「注入装置」を取り出し「マヒルとの間に残された最後の距離が消されていく」ような感覚で「腕の内側」に一押しでこれを埋め込んでしまうのだが、まるで「ひそかに自分を傷付け世界に代償を払わせようとする子ども」のようだとその行為を顧みて「万が一マヒルがこの注入痕を見付けたらどんな顔をするのか」想像するとついに「やり返してやった」ような気持ちになるだなんて表現されてるの、個人的にはめちゃくちゃ見事だなと感服してしまったよ。
つまり「マヒルの傍に居られるのはチップを埋め込んだ人だけなんだ」としおらしく取り違えてのそれではなく、勝気な彼女らしい「返報性の原理」から「同じように秘密を作ってやった」ってニュアンスなのだよね。加えて「大人げなさへの自覚」みたいな心理も感じられるたった一節でとっても納得感のある表現だと思いました(深頷
罪
なかなか家に戻らない彼女を「心配」して迎えに来たというマヒルだが「帰る気にはなれない」という彼女にどんな手段でそれを示すのかと求められれば「ずっと一緒にいてさえくれれば必ずお前が気に入る方法を見付ける」「別の誰かが迎えに来るならお前の葬式をして死んだと思わせる」なんて相も変わらずな返答、ただしそんな「心配」はもちろん「ちょっと嫌い」だが「本当に嫌いなのはそういうマヒルにいつも心が揺れ動かされてしまう自分」なのだと彼女が苦しげに告白すると、その貼り付けられた仮面のような表情をはっとさせたマヒルはまるで全てを理解したかのように「ごめん」「でもどうすればお前を守れるのかもう分からない」のだと初めて本当の胸の内を打ち明ける。

すると程なくして彼の「耳の裏」には「赤黒い血管」が浮かび上がり、4部2章モリトの身に「リセット」が起きたときと同じ「感情の波動が基準値を超えています」なんて機械音声案内が流れ始めるのだけど、これはマヒルがモリト同様「主人格の意識が制御プラグラムを攻撃している」状態なのだと理解していていいのかな?
モリトの場合は実の妹であるミズエの死を「悲しい」と感じる「主人格の意識」が表出したことでそれが起こったが、するとマヒルも「お前の葬式をして死んだと思わせる」なんて思考に至るのは本当にチップがそうさせていて、本来の彼の意識は「実はどうすればいいか分からない」のだとまだ「抗う側」にあるということになるな。
機械音声が「チップを起動します」「ニューロンを切除します」と告げれば彼の耳の裏の赤黒い血管は「皮膚の下に隠れる赤い電流」のように首筋から肩へ、そして「右腕」に到達し、マヒルは悪夢にうなされるように「彼女を連れて行くな」とうわごとを口走りながら額に汗をにじませ襟元を引っ掴んで身悶える。
彼女は「私はここにいる」と必死に呼び掛けるも成す術なく、間もなく「プログラムが完了」すればマヒルはようやく苦しみから解放されたか「無機質な機械」のような手で彼女を押さえ付け「どうして抵抗するんだ」「オレが怖いか」とそれまでの抑圧的な彼に戻ってしまったように見え、とは言えその「右腕」だけはしばらく規則的に痙攣しており「お前にオレの罪が分かるものか」などと意味ありげなことを呟いたりもする。
マヒルの物語は旧約聖書創世記がモチーフなのではないかとあれだけ語ってしまったわたしとしてはさしずめ「アダムの罪」に該当する「愛による支配を抑圧による支配に変えてしまったこと」や「ひとりによりもたらされた死」なんかがこの「オレの罪」として描かれるような今後の展開を妄想せずにはいられないんやが、彼女がその夜「久々に夢に見た」というマヒルの姿が「深緑の森の中で蛇のような蔓に巻かれ木に吊るし上げられている」「やがて泥の中に落ち朽ちた枯れ葉の中に埋もれてしまう」ってまるで「吊された男(反逆者ユダ)」を思わせるような描出だったりもして、そうなると彼の罪は「裏切り」のニュアンスでもおかしくないのかな、とも思い始めてる(ブレブレ
避難所
翌朝目覚めるとふたりの世界はまるで様変わりしていた。と言うのも、マヒルは昨夜の「プログラム完了」により「彼女との記憶」の大半を失ってしまったようで、辛うじて「このネックレスを贈ってくれたのがお前なのだろう」ことは薄ぼんやりと感じられるも「彼女が彼に親しげにキスをして彼が怪訝がりながらも嬉しそうにしている」らしい「航空アカデミーの卒業式で撮られた記念写真」と目の前の彼女とを不思議そうに見比べ「お前は誰なんだ」「何も思い出せない」と不安げに訴えてくる。
そして彼女はと言うと、衝動的に注入してしまったあのマヒルのチューリングチップに早速意識を侵食され始めたか「思い出せなくても大丈夫」「私たちはこれからもずっと一緒」「あなたがそうしてくれたように」とまるで「お前の葬式をする」だなんて言い放つあの「ちょっと嫌い」なマヒルが丸ごと乗り移ってしまったかのような人格に変貌し、記憶を失った彼の「空白のページ」を「子どもの頃初めて出会った避難所の庭」に戻ったかのような無垢で至純な記憶へ「書き直す」ことに「手足に痺れが走るような快感」を覚えていたりする。
なんとなく釈然としないのは、生命形態がしばらく不安定で「記憶が乱れた電気信号のように断続的だった」ために秘炎の滾る地災変後に出会ったホムラくんとの指切りでさえまるで思い出せなかったはずの彼女が、逆に「彼女の意識を制御して別の意識を注入してくるチップ」を埋め込んだ途端なぜさらにさかのぼった「避難所の記憶」だけをこんなにも鮮明に思い出せるようになるのか、しかも本当に彼女がそう認識していたのか疑わしい「ふたりだけの楽園のような世界」としてよみがえるのかってところだよな。少なくとも4部2章超新星爆発観測時点彼女の想起するそれは「外の世界の方が余程魅力的」だったはず。
実は今スト最終話でも今度は一見マヒルの回想シーンとしてこの避難所におけるある一幕が描かれていたりするのだが、幼い彼女にやたら「兄ちゃん」ぶってるマヒルは彼女と出会ったその避難所で「初めて木に登った」のが「11歳」だったと言っていて、しかしよくよく考えてみるとこれも本当に混じり気のない「マヒルの記憶」なのかちょっぴり怪しかったりする。
だって、本編1部5章「実験記録」に記された「ガイア研究センター」にいた頃の彼女の年齢は推定7歳から8歳、仮にマヒルも同時期同じ場所にいたなら道なき地002提供者の推定年齢より当時9歳から10歳、埃の中スエが彼女を避難所から自宅に迎え入れたのは「災変がようやく終息する頃」で、星の来処キノアが言うには災変が正式に終息したのは2035年1月1日のこと、1部1章レイとは彼女が8歳の頃から家族ぐるみで交流があったと言うのだからこの年に彼女が8歳じゃないとたぶん辻褄合わないし、するとマヒルが11歳の時分少なくとも彼女はもう花浦区でスエの孫として暮らしていることになり、「一緒に引き取られた」のが事実なら彼も避難所でなく共にあの家に住んでる頃だと思うのだけど…
どことなく違和感のあるこの避難所での回想シーン、実は全部「チップの記憶」だったりするのだろうか?
4部2章「まだ自分のものになっていない意識の欠片の制御方法を学べていない」らしいモリトが「その記憶や感情は君のものじゃない」なんて言われてたことからあらかた「人工的な記憶や感情」が「改造」によって徐々に自分のものになるものと仮定して、卒業飛行試験で非安全航行区域に踏み入ってしまったマヒルが見たあの「なぜか彼女をある女の子として認識してる夢」が他と比べて一際他人行儀だったのは、あの卒業年彼には「チップ」こそ入っていたが「改造」が未了だったために記憶として不完全だったから、ってことなのかも知れん。
夢
それから3日もの間、彼女はひたすら「ふたりだけの楽園」に執着し、マヒルを夢から目覚めさせてしまうかも知れない「スマホ」や「通信機」など「外の世界と繋がりのあるもの」をすべて隠して彼と過ごした。その閉じ込めっぷりはさながら「彼の葬式を開いた」かのようである。
そしてふたりはどうやら避難所時代に約束を交わしたことがあるらしい「遊園地」に遊びに行くことになるのだが、恐らく「避難所でのふたり」を連日刷り込まれているであろうマヒルは「もこもこのリンゴのバッグ」なんぞ腹に抱え「犬耳のカチューシャ」まで被せられなすがままされるがままに彼女に連れ回されるのをとても心地良さそうに受け入れているように見える。
彼も彼女もそれによりチップが「主人格の意識」によるプログラムへの攻撃を受け再起動だのなんだのが起こらないところを見ると、あるいは本来の彼らにとってもこうして互いに盲目的になることそれ自体は「許容範囲」と言うか、むしろ本音では望んでいるところなのかも知れないなって思ったよ。
それを証するように、彼女がずっと「人差し指同士」を絡めていた彼の手を握り締めるとそれまで「昔のオレはお前に散々いじめられていたんだろう」なんて「彼女に刷り込まれた情報」から過去を想像することしかできなかったはずのマヒルが「彼女が遊ぶに任せていた」その手をぱっと開き、ぎゅっと握り、「昔射撃を教えたときはお前の手を完全に包み込めるほどじゃなかったのに」だなんて、明らかに「自分自身の記憶」を語り始めてる。
つまり大半失われていたはずの「彼女との記憶」の少なくともある程度は「重なり合う手の平の線」「凧揚げのような飛行機の糸」によって恐らく取り戻されており、そうして「彼女が誰なのか」理解したうえで彼女に渇求されるなら男としてキスができるし「好きだ」と告げることもできる、ふたりは互いに互いが許すならいつでも「兄妹」から「恋人」になれるってことなのだろうと個人的には読めました。

とは言え彼女の方はハンター協会から探査機に任務の報告を求める連絡が入ったり遠空執艦官の組織する艦隊が恐らく彼の捜索のため航行する空を眺めれば「夢が終わってしまう」のだと焦燥に駆られ、忽然と頭がぼんやりとしたりチップの注入部位が痛んだり神経が痙攣したりとその都度「主人格の意識」と「自分でない意識」は反目し合っているようにも見える。本来の彼女はマヒルと互いに「恋い慕う間柄になること」には抵抗がなくとも彼を「閉じ込めること」については無論是認できないのだろう。
だけど、わたしはこう「楽園」や「夢の中」から「永遠に出たくない」「出るのが怖い」という思考感情にはなんだかとても心動かされるものがあると言うか、彼女は遊園地で遊び倒した帰りの「雲中列車」の中でいよいよ夢が終わろうとしてることを嘆き「どうせ明日が世界の終わり」ならいっそ「あなたのEvolでどこへでも」逃げ出してしまおうと思い立ち「一面の雲海」へ身を投げようとさえするのですよね。上手く言えんが漠然と共感を呼ぶ凄くリアルで複雑な「人間の」情緒って言うかさ。
もしかしてこういう切実な想いを抱えた「11歳で初めて木登りをしたあの避難所が恋しくて帰りたくて出たくなくてたまらないある人」というのが実在するのかなぁ。チップの記憶や感情は人工的に無から生成されたのでなく抽出元になる人間がちゃんといてその人から吸い出され複製されてるのか?
同じようにチップや改造が施されているであろうリアム副官なんかはそうは見えなかったんで全部が全部ではないのかも知れないが、少なくとも今マヒルの中にあるチップや彼のデスクから持ち出したチップには同じ人の意識が宿っているように見える。
マヒル同様「妹想いの兄ちゃん」であるモリトのチップも限りなくこれに近いものだったりするのかな。教授はそうして「兄弟」をたくさん作り「家族」として集めているようだけど、同じ「夢の中を出たがらない人間」を量産し最終的に「あの避難所」のような「楽園」を再現することも目的のひとつなんだろうか。
痕跡
彼女が列車の窓から飛び降りようというまさにその時、彼女の腕を強く掴んで車内に引き戻したマヒルはその腕の内側に「チップの注入痕」を発見し、これにより自分の記憶のすべてを清明に取り戻したかのように見えた。
そして彼女の方は突如「身体が自分のものでなくなってしまった」かのような感覚に襲われて、神経からは灼熱の痛みが「切除」「整理」という「メスのような冷酷非情な指令」となって駆け巡り、激痛の中で溺れ死にそうになりながらも口元に触れた何かを強く噛むことで混濁状態から僅かに覚醒し、自分が「見覚えのある艦隊の病室」のベッドで「見慣れない執艦官の制服を着たマヒル」の左手を噛んでいたことに気が付く。
これも「左手」ってのがぐっとくるよな。「エーテルコア」の介入部位が「心臓」に加え「目」でもあることが判明し無主の地では「神の心に次ぎ神の目とくれば最後は神の手もあるはずだがダサ過ぎて却下されたんだろう」なんて言っちゃったが、生身の左手が罪の右手の贖いに差し出されたという暗喩ならこの描出は「神ってる」と思う←
間もなく「チップ溶解手術」の準備が整い施術を受ければ「病気が治る」ようにその痛みは消える、今は落ち着いて自分の感情をコントロールしなければならない、とマヒルは言うのだけど、そもそもこの「切除」や「整理」が始まってるタイミングで制御できないほどに暴れているのは「主人格の意識」の方なのかチップの方なのかが判然としませんな。とにかく身体中の精神系が興奮している、みたいなイメージなんだろうか。
彼女は錯乱しながらも「あなたは私のものなのに」「誰にもあなたを奪わせない」「あなたを連れて誰にも見付からない場所に行く」だなんてまるで4部2章庭園で見たマヒルそのもののような言葉を口に出してるが、彼に対する「あなたは私のマヒルを殺した」という訴えには本来の彼女の記憶や感情が乗っているような気もするし、するとチップの思考制御とはふたつの意識が「確執する」というより「ないまぜになっていく」ようなニュアンスなのかも知れません。そう言えば3日前のマヒルも「切除」の最中は「彼女を連れて行くな」だなんて訴えていたもんな。
そんな彼女の様子に「まるで罪を告白する罪人」のような顔をするマヒルはそれでも宥めるように「目が覚めれば痕跡は消える」「どんな痛みも覚えていない」「子どもの頃と同じ」だと彼女が「頭痛」に気を失ってしまうまで声を掛け続けるのだが、これも正直含みがあり過ぎて何を示唆しているのか計り兼ねますねぇ(苦悩
子どもの頃にあった「同じこと」とは埃の中でスエが「この子にとって忘れることは悪いことばかりではない」と結論した「災変にひとりで遭遇してる間に起こったかも知れない苦痛や悲しみ」を指しているのか、まさか彼女が幼少期すでにチップに「切除」や「整理」をされたことがあるとは思い難いけど、こうして「頭が痛む」ことを強調されると卒業飛行試験より余程以前から「こめこみを揉んでいたマヒル」や終末期に「頭痛で通院していたスエ」についてはいよいよ無関係とは思えないよな。
ちなみに「チップ溶解手術」は「埋め込まれていた間の記憶が全て失われることになる可能性が高い」何らかの処置ってことみたいなのだけど、ぶっちゃけ意外とローリスクで手堅いものなんじゃないかと感じてしまったな←
いや「艦隊の本当の権力者」が「チップを破壊することはどれほど難しいのだろうと思っていた」なんて言うんでまじでどれほど難しいのだろうと思っていたんやが…
術前検査で彼女の侵食された神経は「10%にも満たない」って言ってたんで「その程度だったから」こそ施せるものってことだったのかな? あるいは「破壊」すれば神経もろとも影響を受けた何もかもが復元されるが「溶解」ではその侵食された10%は元には戻らないってことなのか?
いずれにせよ彼女は運良く「プログラムが完了」する前に溶解が完遂したためか「あの3日間自分が彼に語った数々の馬鹿げた話」や「キスをしたこと」「体温を感じたこと」すべてを記憶に残したまま目覚めることになるのだが、「朦朧とした中でだけ許される」と感じていた通り「記憶を失ったマヒル」とだからできたそれらは「絶対に言えない秘密」であり「夢の中にしか残らない夢」の出来事と位置付けて「忘れてしまったふり」を貫くつもりでいるみたい。
なるほどこのストのタイトル「明晰夢」とはそういう意味なのね。意識の混濁したふたりがついに起こしてしまった現実をあくまで「意識だけが覚醒した夢の中で起こしたこと」だと彼女は結論することにしたと。
もちろん事実それらは互いにはっきりと自分の行動を理解しながら起こした現実であり、乙女ゲーなので「恋」に寄せればきっともっと甘く切ない解釈になるのだろうが、個人的にはこれもある意味彼女の「返報」なのだと感じてしまったな。
鍵
ラストはめちゃくちゃ難解なんやがどうやら「無重力宇宙実験カプセル」の中「原始的な姿」で浮遊するマヒルがルイ教授立ち合いのもと「チップの完成度」を計測されているらしいワンシーンで締め括られている。なんだろう、裸である描写は必要だったのかな。あけすけに裸だと言われるより原始的な姿と濁される方がよりイケナイ気持ちになってしまうのだけど(殴
測定の執行者とルイ教授の会話からなんとなしに読み取れることは、彼に施された「改造」は「局部的」ではあるが今時点「チップの制御下にある」ということ、チップには「マヒルの記憶」が「記録」される機能があり93%は「完成」しているが残りは彼が「脳を閉ざしている」ため何度侵入しても「ブラックホールのように」忽然と吸い込まれてしまうこと、ただし特別な「鍵」によってその「暗号」を解けば「改造」は「完了」するはずで、「もっとも完璧な対象」ではないが手に入れるために多大な犠牲を払ってきたマヒルをついに彼らのものにするため何より優先してこの「鍵」を模索しよう、みたいなことらしい。
脳とか神経とか生理学の話をデジタルデータに置き換えたかのように解説されると逆にどんどん分からなくなるんだが(アホ、まず大前提マヒルの記憶を記録するのはチップ側がこれを「改編するため」だって思っていていいのかな。別の目的で記録してるなら結構話変わってくるが…
恐らくこの原始的な姿のマヒルが見ている夢として例の「避難所」での一幕がカットインするのだが、まるで小さな公園のようにも見えるそこには幼少期のマヒルと幼少期の彼女、そして艦隊の制服を着た現在のマヒルの3人が混在しており、建物の窓まで伸びた木の枝に座る幼いマヒルが窓際に引き寄せた「部屋の中」の彼女に「外へ出よう」と「手を差し出す」場面を現在のマヒルが傍で眺めていたりする。
幼いマヒルは引力のEvolを使っているように見えるし「お前が初めてオレの手を取った日」については別の場面でも語られるんでもちろん「重なり合う手の平さえあればふたりは外の世界を恐れてなどいなかった」ことを示唆する「ただの回想」だと言われれば間違いなくそうなんやが、最後に黒い渦の中から「本当の彼女が姿を見せる」ってのもなんか引っかかるんだよな。幼少期の彼女は「本当」じゃないのかっていう(深読み
そして「本当の彼女」は「どうしていつもあなたが先に私を見付けるの」かと尋ねてくるのだが、4部1章同じ質問をされたときには「兄ちゃんだから」と返答していたその問いにこちらのマヒルは「愛しているから」だと答えてる。
恐らくマヒルもこちらが「本当」でスキャンできない残りの7%に該当するって話なのだろうが、ここだけ見ると「リセット」されて同じやり取りをもう一度繰り返そうとするあのモリトにもどこか通ずるものがあるような。


「子供の頃のマヒル」ではなく「“マヒル”」って表記が違うのもなんか意味があるんじゃないかなぁ。重複するが個人的にはこの少年「93%記録されている本来のマヒルの記憶」と「自分のものではない意識の欠片」とが「ないまぜ」になることで「マヒルの中でマヒルの名が割り当てられてしまった実は別の誰か」って意味でのダブルコーテーションマーク(引用符)なんじゃないのか? って気がするんだが飛躍し過ぎだろうか。


いずれにしろ彼の脳内の「ブラックホールのように吸い込まれてしまう暗号化されたエリア」へチップの制御が及ぶ「鍵」となるのが「本当の彼女」そのものなのだと言いたいのだろう。
いやぁ勝手に「兄ちゃんこじらせてる」だなんてヤンデレ呼ばわりして本当にごめんね(ないてる
あなたはむしろたった7%残された自分で恐らくバイパーやリアムでさえ抗い切れなかったそれにこうして抗い続けているのだねぇ。涙