恋と深空のんびり考察プレイ録

恋と深空のんびり考察プレイ録 - 空に堕ちる

恋と深空を宗教思想史オタクがのんびり考察しています。

ネタバレを多分に含むうえ、新しく開放されたストを読むたびに考えが変わるため我ながらお門違いなこともたくさん綴ってあるのですが、プレイ記録も兼ねているため敢えてそういうものも全て残したまま書き進めております(土下座

焦土の上

こちらは世界の深層「折り跡」にてDAAの視点でちらり概要が語られた「遠空艦隊改革裏の真相」を今度は内側から、前任の「艦長」が失脚し「謎の新任執艦官」が現れてから艦隊が現在の「まるで深空に畏敬の念を抱かない組織」へと改変されていくその第一幕を描いた物語。わたし前任はきっとチップによってなんかおかしくさせられてその地位を追われてしまったんだろうと勝手に決め付けてきたけども、実際には決してEVERには屈しない確固たる信念を持って最後まで抗い続けた結果その信念を逆手に取られ宇宙の果てで存在ごと抹消されてしまうところだったのだね。残された士官たちが暗殺を企てるほど「その後釜に座るEVER推薦の新任執艦官」をよく思っていない理由もようやく腑に触れた気がする。

短編としては最後のニエの独白で全てがタイトル「焦土の上」へ収束するのが気持ちいいですね。かつてそこにあったはずの理念、信頼、秩序、矜持、そういうものはまるで真っ直ぐに太陽を目指し花を咲かせるヒマワリのようなニエの「自らが灯台となって燃える」愚直でひた向きな尽力によって守られてきたけれど、あるときその灯火はそんな彼自身を、そして彼が照らしてきた艦隊の誇りを、誠実な記録を、深空への畏敬を、もろとも焼き払うための着火剤へと貶められてしまった。ところがその黒く焼けただれた「焦土の上」に、その暗がりよりもさらに深い「夜の果て」のようなものが訪れて、鋭く闇を裂く刃のごとく「鞘から抜かれた一筋の朝日」を走らせる。ニエが守りたかったものは今や焼け跡の中でかろうじてまだ灰になり切っていないもの、焦土の上に昇る朝日が灯台のような陽光ではもう何も照らすことができなくて、隠蔽、偽装、潜伏、権力の利用、そういう闇の中で闇を葬る「刃」のような光を隠し持った「夜の果て」でなければ守り切れないのだと。

マヒルのサイドストーリーとしては前回「陰陽の境」でめちゃくちゃ語ってしまった「犠牲を要求する世界に立ち向かうのではなく自分が犠牲者となって世界を引き受ける」彼の物語をとても短く分かりやすく解説してもらったように思う。いくつかの古きものを守るためEVERという犠牲の論理そのものに正面から宣戦布告するのではなく自分がその犠牲構造の内部に入り込みもっとも汚れた分身を引き受ける、冥主マヒルも陰陽の均衡を保つためその濁った二気の中心に立ち悪鬼たちの恨み憎しみを一身に引き受けていたけども、たぶん彼は「歪んだ秩序を破壊する者」なのではなく「歪んだ秩序の内側でそこから滲み出る膿を自分に集めながらまだ壊されていないものを守る者」なんだよね。

もちろん世界が青とした「豊かな土壌」なら彼は温かな陽光でこれを照らして守る「太陽」になるのだろう。上古の鬼媒師マヒルがそうであったように、あるいは折り紙リンゴがそうであるように、時に仲間たちが真っ直ぐに目指す高い場所でもあり、時に妹の待つ地上へ帰り憩う光でもある。しかし世界が焼け焦げて黒くなった「焦土」であるならば、彼は闇の中で光であることを隠し必要な時だけ刃のように朝日を抜く「夜の果て」を装い焼け残った古きものをその刃のような光が当たらない場所へ逃がし匿うようにして守る。これはマヒルの「二面性」に見えて同時に「一貫性」でもあって、どちらも「世界を維持するための原理」に違いないのではないかな。無罪な世界では「地上の全てを守り慈しむ」役割を担っていたはずがその楽園を守り抜こうとすればするほどいつの間にか罪にいちばん近い場所で罪ある世界を維持する「罪人」になっているという意味ではやはりめちゃくちゃアダムなんだなって思うよ。

思えば本編4部2章「兄さんは変わってしまった」んじゃないかって言葉に「オレはもともとこうだ」と本人が答えているけれど、確かに彼は「守るため」であれば世話を焼くことも食事を作ることも髪を結ってやることも、あるいは隠すことも欺くことも汚れることも敵の中に入ることも始めからできる人だったのかも知れないね。むしろ「ずっとこうやって守ってきたのにそれを今さら兄ちゃんじゃないみたいに言わないでくれ」って主張はごもっとも。前回カイトが列車で見た「影に隠れた」マヒルは決して「光を失ってしまった」わけではなく「光であることを隠さなければならなくなった」のだと今回言いたいのだろうし、何より黒い戦闘機で乱入してドローンを潰しニエを救い変異コアも回収し後になって静かにその裏側を明かすマヒルは演出としてかなり尖ったかっこよさが強調されていて「EVERを出し抜く完璧な策士だ」「これがマヒルの守り方なんだ」って強く印象付けられるような構成だったんじゃないかと思う。

でもこれって同じだけ痛ましく壊れかけた危うい守り方でもあるよね。まるで腐って崩れ落ちる世界の裂け目に自分自身を押し当てて蓋をするみたいな。確かにまだ傷んでいないものはそれで次の朝を迎えられるのかも知れないが一方で彼自身はいつまでも膿んだ夜に沈んだまま、しかも彼はすでに記憶の93%をチップにスキャンされていてリアムの証言が確かならそれらは「リセット」のたびに消えていくものであり神経も細胞もやがて「錆びついた古い部品」のように鈍っていってしまうもの、いつかその重く暗く乾いた仮面が彼の顔そのものになってしまうかも知れないし、膿に蝕まれて本当に光は消えてしまうかも知れない。

正直わたしには今時点マヒルが始めから「もう二度と太陽として空に昇ることはできないかも知れない」覚悟でこれをしているようにしか見えないんだよなぁ。伝説ストに引っ張られ過ぎてるのかも分からんが、自分の霊力をすべて投じて陰気を鎮めた冥主マヒルのごとく、あるいは今世も最終的には自分の持てる光すべてを刃に込めてその深い夜の中で闇と相殺するつもりなんじゃないかってな。そして冥主マヒルが最後までかつて彼女が歌ってくれた青い上古の世界を恋しがっていたように、本当はきっと誰よりもかつて仲間たちと笑い合い変なあだ名をつけられてオタク模型を組み立てながら料理を研究し晩飯は家で食うと言って地上へ帰っていくことができていたその場所を恋しく想っているのだろうことが何よりしんどい。マヒルの物語はこの先もずっとこんな風にしんどいのかなぁ。涙

ヒマワリ

遠空艦隊創設当初の組織理念は艦長「ニエ」の統率によって長らく厳格に保たれていた。軍用ブーツが床を踏み締める重く規則正しいその足音には誰もが背筋を伸ばし、通りすがりに耳にした若い技術者たちの議論には足を止めることなく瞬時に最適解を与えられるだけの判断力と専門知識を備え、さらには後方支援隊員の家族の年齢や手術の日程まで把握して体調を気遣い休息が必要であれば自分の承認コードを使っての特別休暇申請を促す、ニエは単なる軍人的な上官ではなく艦隊の技術、規律、人事、隊員たちの生活や人生をも背負う組織の顔のような存在である。

一方でたとえ長年付き従ってきた部下やパートナー企業であっても規律違反は断じて許さない厳しさも持っている。取調室には「補給提携先」として「長い間ずっと艦隊のいちばんの支援者だった」という企業団体代表の女がソファに腰掛けており、長机の上座にはその女と手を組んで職権を乱用し検疫未実施の高危険度コアを天行へ密輸していたことが発覚したらしい後方支援部門兵站長が縮こまっているが、どちらも「過去の功績は免罪符にはならない」からと正しい処分を下すニエ、提携先はこれにて契約解除となり、兵站長には管理規定に基づく即時全職務解任が言い渡された。

ところがその腐敗した旧支援者を排除した結果、そこにはさらなる冷徹な支配者が参入することになる。新たな補給ラインとなったEVERのやり方は表面的に見れば「効率的」かつ「透明」であり、まずは大口支援企業として資源供給から、そして「段階的に」これまで艦隊を支えてきた小規模な専門業者や技術チームを少しずつ自分たちの規格や管理システムの下へ組み込んでいき、たった「半月」で何の混乱もなく設備メンテナンスから港湾インターフェースから専用機材から輸送ルートまで足回りの提携体制「丸ごとEVER化」がさっさと完了してしまうけど、いやはや改めてシンプル大やり手ではあるな。補給支援うちで引き受けます、そしたらその設備もうちの規格に繋げます、その専門資源うちの系列会社と統合できますよ、ていうかその小規模業者うちの審査下に置いた方が透明です、みたいな? 見知った景色の全てがEVERグループのコバルトブルーのロゴに侵食されていくって言うんだけどまじでイヤ過ぎるw

EVERの技術顧問は「最新の受信器とアルゴリズムがあれば既知の自然現象や地上に脅威を与えない微弱信号はフィルタリングにより自動的に除外され業務効率化を図れる」ものと主張、わざわざ古い装置に計算資源を割く必要はないからと旧式機材「アナログアレイアンテナ」の撤去を指示するが、そのアンテナは反射ボードが幾重にも重なる花びらのように配置されていることから乗組員たちに「ヒマワリ」と名付けられ慣れ親しまれているもので、艦隊創設当初の産物であり「天行市の歴史よりも古い」なんて書いてある。

超絶今更なんだけど、そもそも遠空艦隊とはEVERが創設した宇宙ステーションではないんだね。世界の深層「プロファイルVol.13」を読む限り2036年「天行計画」がまずEVERのコアテクノロジー開発の延長にあるもので、わたしは遠空艦隊もさらにその先にあるものなのだとばかり思ってた。今スト艦隊の戦艦はDAAの巡航機みたいな普通の乗り物ではなくて操縦者が「神経」を接続して機体の損傷や空間変化を感覚として受け取りながら動かす半ば「身体拡張」のようなコア技術を備えているのだろう描かれ方をしてるけど、するとこの技術も「天行市の歴史よりも古い」ものなのかな。もしかして兵站長がズブズブだった旧補給提携先の技術資源だったり? いや確かに「明晰夢」でちらり匂わせのあったトム士官の言う「艦隊の本当の権力者」って雰囲気ニエのことではないんよな。となると創設はEVERに対峙するようなまた別の権力がバックについてていいような気するし、そう考えると敢えて代表が女だったのもなんか気になる。口調はどこかEVER幹部のガイリアにも似ていたが、ご親戚か何かで? (いいえ

ついでに当時DAAでエンジニアをしながら天行計画の一端を担っていたヤオが、やっぱりかつて生まれ育った海に浮く環礁州島「汐行島」とは程遠い四季もない渡り鳥もいない「天行市衛星群」に「心」動かず「痛みを伴いながらも地上へ飛び降り空に背を向け大地に目を向けたくなった」その理由について、同じくDAAでパイロットをしていたはずが今は遠空艦隊で「心」を失ってしまったかのようにさえ見える「二年前に離婚した元夫」を見てもらえれば分かる、なんて言うからわたしリアムさんは2046年時点ですでにチップが注入されてるもんだと思い込んでいたけども、じゃあその頃の艦隊にはまだEVERもチップもなかったってことだよね? ふたりはなんで離婚しちゃったんだろう。コア派と回帰派になっちゃったから価値観が合わなくなってしまったのかな。

早速「ヒマワリ」の撤去作業に着手しようと話を進める技術顧問の前に毅然と立ち「決して譲らない」という目で相手を見つめるニエ、深空探索とは「既知のものだけを効率よく処理すること」ではなく「未知と向き合うこと」であり、その新たなシステムが「ノイズ」と断定し刈り取ってしまうものの中には「未記録の新たな信号」が含まれているかも知れないし漂流ポッドからの「救難信号」だってあるかも分からない、一見非効率的でもヒマワリは「見たもの聞いたものをありのままに記録してくれる誠実な装置」なのだ、と強く意見したことでEVERは一旦引き下がるが、つまり少なくともニエが艦長を務める遠空艦隊はDAAと同じ「畏敬の心をもって深空に臨み守護の責をもって地球を顧みる」組織だったってことだよね。

一方EVERは決して露骨に横暴でも威圧的でもなく常に低姿勢で礼儀正しく愛想笑いも交えながら「最大効率」「透明性」「意思決定の向上」と組織運営においてもっともらしい言葉を並べ立て歴史や倫理や「救難信号」という人の命まで価値を数値化し「リソース」として扱う合理主義と利益勘定の化け物である。彼らが立ち去るとニエはひとりでアンテナのメインブレーカーの前に立ちヒマワリが拾う信号をEVERの新システムを通さず直接自分の端末へ届くよう設定し直して「最高優先度のロック」なるものをかけて指揮センターへと戻るけど、これは艦長権限で「ヒマワリを誰も勝手に撤去も停止も改変もできない状態にした」って理解でいいのかな? ニエがEVERからこの装置を守ることは「遠空艦隊の存在理由を守ること」と同義でもあるのだろう。

指揮センターはたぶん作戦や航行を統括するだけでなく艦隊の最高意思決定に関わる重要な資料が管理されている中枢で、恐らく高位ポストに関わる重要人事としてニエのところに上がってきていたのだろう新任候補者のファイルを展開してみると、ホログラムスクリーンには「明るく整った顔立ちをした唇の端に非の打ち所のない微笑みを湛える青年」の顔写真と「S級パイロット」「長距離航行記録保持者」「単機突破のスペシャリスト」なぞ「幾度となく死神を素通りしてきた」と見えるトップレベルの才能を物語る華しい経歴が映し出され思わず目を見張るニエ、しかし最下部にはっきりと「EVER推薦」と記されているのが目に留まり、これだけ有能な人材がEVERの道具となる選択を下してしまったのだろうことは「無能であることよりもなお哀しい」と感じずにはいられなかった。

救難信号

この辺なんか久し振りにEVERってつくづく卑劣だなと虫酸が走るような気持ちになってしまったが、あるとき受信した波長データを解析したEVERの技術代表はこれを作戦会議室で地形模型と照らし合わせながらまずはどこぞの空域に感知された「変異コア」なるものが「まるで肉挽き機」のような磁気嵐を発生させ物凄い速度でその範囲を拡大させていて最悪の場合天行市のインフラにも波及する恐れがあるものと説明、さらに「ニエ艦長は本当に先見の明をお持ち」でありなんとこのたび危険区域内に「我の新たなアルゴリズムでは遮断されてしまっていたであろうDAA巡航機チームの生命維持信号」をヒマワリが感知した、艦長がこの「非効率的な」周波数帯を保留するよう意見しなければ彼らが挽き肉になって漂い出てくるまで艦隊は磁気嵐の中に誰かが取り残されていることにさえ気付けなかったはずだと手を叩いて笑ってる(引

そして幸いこの磁気嵐はEVERが緊急開発した「エネルギー抑制器」なる黒い菱形の装置を中心部で起動させれば波動を中和することができる計算で、もちろん普通の航空機は近付いただけで粉であるが艦長の優れた操縦技術と主艦の装甲強度があればそれができるはず、DAA巡航機の救出も天行の空域防衛も、さらに「変異コア」まで回収できれば「極めて高い研究価値」も手に入れられると力説してくるが、なるほど艦隊の戦艦の少なくとも主艦は「肉挽き機」の中も飛べる強度なのだな。

もちろんニエも副官もこれが「深空の危険を利用してニエを排除する」もしくは「任務失敗の責任をニエに負わせ指揮権を奪取する」ためのヨイショなのだろうことは分かってて、副官は「いったん時機を待ち磁気嵐が弱まってから補助艦や無人機など別の手段でより安全に救援や回収をしてもいい」だろうことをひそひそ耳打ちするも、そんな形式的な救援では生命維持信号を無視したも同然であり「ヒマワリを残した意味がない」とニエ、EVERに提示された選択は「従順な刃となる」か「排除されるべき障害となる」か、つまりEVERに使われるかEVERに潰されるかの二択であるが、彼には「自身の技術と艦隊への忠誠心に絶対の自信がある」ためもちろんEVERの刃にはならないしただ黙って排除される障害にもならない、これ以降もう二度とこの二択を迫れなくなるくらいここで「誤解の余地など一切ない答え」を突きつけてやるまでだと考え至る。

間もなく主艦は出航し、磁気嵐の渦のいよいよ中心に接近しても操作パネルに置かれたニエの手の動きはまるで彫刻刀を操るかのごとく一寸の乱れもなく、戦艦は本能のまま動いているかのような鋭敏さで乱流を巧みに利用して「装甲を引き裂くほどの重力」をぎりぎりで回避、目標座標に到達しついに「エネルギー抑制器」が異変の中核へ送り込まれるが、波動数値は沈静化しないどころか操作パネルには「中和プロセスを起動するには外部エネルギーの接続が必要」と警告の文字、つまりEVERは始めから「ヒマワリが拾った救難信号をニエが無視できないこと」を分かってて、必ず主艦を出し救援に向かう彼がいざ磁気嵐の中心で周囲は乱流に閉ざされ選べるエネルギー源は「自分の主艦のエンジン」もしくは「DAA巡航機チームの生命維持システム」の実質ふたつだけという逃げ場のない緊迫した状況下で初めて「抑制器はそのどちらかのエネルギーを使わないと起動できないものであること」に気が付くという盤面を準備していたということ。

危険な任務を押し付け自分を失脚させる程度の陰謀なら覚悟できていたものの、EVERがこの突発的な変異コアそのものを「利用価値のある機会」と見なしていたとは予想だにしなかった、本当の罠はここで待ち受けていたのだと静かに理解するニエ。彼らは資産と命を天秤にかけ「ニエにその皿をどちらかに傾けさせる」シチュエーションを作るために、あるいはそこで「あなたも結局は我と同じになるんですよね?」と問うために「変異コア」も「救難信号」もただ「利用価値」があると判断したまでだった、そしてニエは今回の任務が「自分ばかりかコアや巡航機チームの命さえ始めから盤上の駒である」ここまで悪辣な罠だとは予想できていなかったと。

通信チャンネルから響いてくるEVERの技術代表の声は実に柔らかく澄んでいて、回収できる変異コアには「同規模の艦隊を10隊編成できるほど」の物凄い価値がある、利を得るためには「必要なリソースの損耗」がある、なんて敢えて血の通わない言葉で「人命を資源として消費して大局を取れ」と指示を出してくるけれどこれもめちゃくちゃ嫌なやり口で、恐らく自分たちの合理主義と利益勘定の論理に「完全敗北しろ」と言っているのだよね。人間の呼吸や体温や助けを求めるその声を「リソース」と認識して抑制器の燃料にしなさい、人命を損益比で処理する艦長になりなさい、そしてそれをすればヒマワリは不必要なものであることが証明されニエは「EVERの従順な刃」になってしまう。

かと言ってここで「主艦のエンジン」を選んだからとてニエが「排除されるべき障害」として「残り続けること」はもうできない。恐らく彼は無事ではいられず「技術指導無視」や「操縦士の判断ミス」といったもっともらしい言葉で排除され、ヒマワリは撤去され、遠空艦隊は「存在理由」を失い合理主義と利益勘定の化け物になり果てる。EVERは始めから選択肢など提示してなくて、ニエの信念が「救難信号を無視できない」時点でもうその先何を選ぼうともそれ自体が彼の守ってきた艦隊の誇りを、誠実な記録を、深空への畏敬を「非効率」なものとして焼き払うための着火剤だったわけである。

これエネルギー抑制器そのものが最初から偽物だった方がまだいくらかマシだったと思うよ。EVERが嘘の装置でニエを危険地帯へ誘導し彼はまんまと騙されたって話なら悪いのはEVERでニエはただ罠にかけられた被害者になるからね。でもEVERはニエを排除するより先に「思想の破壊」をしようとしているわけで、自分たちの論理に参加するかどうかをニエ自身に決断させようとしている、それもニエの倫理や正義を逆手に取って「EVERの悪意」ではなく「大局のために必要な犠牲」という理屈と戦わせている、かつ最終的に「確認キー」を押すのは現場の指揮官ニエなので自分たちの手は何も汚れない「高みの見物」っていう(吐

そしてニエの決断は「確認キー」ではなく「抑制器のケーブルを断ち切りEVER専用の連絡パネルをシャットダウンする」ための操作ボタンに下される。艦隊の内部チャンネルには「最後の命令」として全部隊へ「ただちに撤退せよ」と告げる艦長の声が響き渡り、また自身は「脆くも堅固な堤防」のごとく主艦を「今にも爆発せんとするエネルギーの濁流」とDAA巡航機チームとの間へ立ちはだかせ、警報が鳴り響き限界まで震える戦艦の装甲が一枚また一枚と裂けるたびにそれらと高度にリンクした神経系から身体に直接襲いかかるような激しい痛みをスクリーン上すべての巡航機が無事安全域の外へ消えていくまで歯を食いしばり耐え抜いた。彼は最終的にコアの研究価値も自分の地位も安全も捨てて「命を救うこと」だけを選び取ることにしたのだね。もちろんそれは命だけでなく「命を冷たい損益比に換算しない」という倫理、ヒマワリを残した意味、艦隊への忠誠心を守る選択であったとも言える。

ただし代償として主艦はその原形を失うほどに大破し接続された身体もほぼ瀕死の状態、意識が息苦しい寒さに包まれていくのを感じながら舷窓の外に目をやるとそこにはEVERのロゴを掲げた十数機の監視ドローンが無数の底知れぬ深淵のようなレンズでこちらを見下ろし「孤高の艦長の最後の幕引き」を淡と記録し続けていて、ニエは最後まで正しい自分であり続けたことに「後悔」こそないが、この灯火が消えたあと遠空艦隊という船は未来の暗闇の中でどこへ向かうのかその行く末を想うと少しばかり「無念」だったという。なぜなら最後まで正しい自分であり続けたそこはもう英雄的殉職の後に花が咲くような綺麗な場所ではなく「正しいことをした人が正しく記録されない場所」になっているからね。タイトル「焦土」とは単に物理的な焼け跡や瀕死の戦艦だけでなくこの「ヒマワリのような誠実な記録や真実が燃やされてしまった跡」を指してるんじゃないかなって思うよ。

完璧なシナリオ

そうして意識を失う直前、焦点を失いぼやけたニエの視界に突如凄まじいスピードで「混沌としたエネルギーの力場」を引き裂き矢のように戦場に射られた「漆黒の戦闘機」が掠め飛んでくる。ニエはもうその機体の軌跡すら捉えることができないが、どうやら銀色のビーコンでエネルギーの流れを誘導しEVERの監視ドローンの送信リンクを遮断、巨大な衝撃の余波でニエの主艦を深空の彼方へと押し流しつつそのうえで「変異コア」も回収するという何かとんでもなく複雑で精密な神業をやってのけているものと見える。まあマヒルは引力制御のEvolとルイお墨付きの機械との高い親和性を備えてますからね。普通の人間では有り得ない領域で機械も重力場もまとめて制御して自分の手足のように扱えることでしょう(だれ

再び意識を取り戻したニエはどういうわけか「秘密医療ステーション」の白い壁の中で無数のチューブに繋がれており、深空で半生を戦ってきた艦長として神経接続システムのフィードバックの精確さを誰よりも知る彼は確かに戦艦と一体化していた空間感覚が静かに遠ざかっていくのを感じた瞬間「自分がもはや高度な執艦任務には戻れないこと」を直感したものの、なぜ自分が生きているのかここがどこなのかまだ何も状況を掴めずにいる様子。

すると「遠空艦隊の人員を余すことなく記憶している」という彼にとってそのうちのひとりであるらしい「リアム」が静かに部屋を訪れて、艦隊はEVERへ提出する報告書に「元艦長ニエは殉職した」と記したこと、さらに緊急で任を受けた「マヒル執艦官」が高危険度の変異コアを無事回収し天行のエネルギー危機を回避したことで「着任早満点に等しい成果を上げた」こと、加えてEVERのドローンについては「戦況を近距離で記録しようとした結果予期せぬアクシデントに巻き込まれた」ものと報告済みであり「他に原因は存在しない」のだと念を押してくるのだが、これにてニエはようやくあの黒い戦闘機の操縦士がマヒルであったこと、そして瀕死の主艦を救出しながらも公式には死なせ、EVERには都合のいい新秩序の成功譚を与え、自分はその功績によって新任執艦官の地位を固めたのだろうことを理解する。

ニエの診断書を片手に遅れて部屋にへ入ってきたマヒルは黒地に金の縁取りが映えるシワのない制服、塵ひとつない革手袋、かつてニエが人事資料で目にした通り「冷徹で整った顔」をしているも、ふと枕元の花瓶に生けられたヒマワリに目をやるその眼差しの奥には「不思議と心を和らげる自然な親しみ」が見て取れる、なんて言うんで、きっとEVERに潜伏するため同じ合理主義と利益勘定の化け物を装う「仮面」を上手くかぶってこそいるが「本当はそうじゃない」のだろうことをニエは見抜いたのだろうね。

自分の殉職、マヒルの着任、コアの回収、ドローンの消失、そして生存の秘匿という矛盾した事実をそれぞれ別の相手に別の筋書きで提示できるよう組み替えたマヒルの政治的工作を「完璧なシナリオを書き上げたものだ」と評価しながらも「お前の道は私よりもずっと困難だ」と確信めいた口調で言い添えるニエ、ふわりと目を細めたマヒルに「ゲームのルールを知り尽くした者の静かな落ち着き」が宿って見えることからきっと今の艦隊に必要なのは自分のように正面から照らす「灯台」のような光ではなく闇の内部に入り闇の言葉を使い闇の構造を逆用してそこから切り裂くことができるマヒルの「刃」のような光なのだろうことを痛感したところでストーリーは締め括られるけど、いーや違うんだよニエさんこの人この後「もうどうすれば守ってやれるのか分からない」って泣き崩れたりしてるんだよって全力で伝えたくなってしまったよわたしは(やめて

むしろ「お前の道は私よりもずっと困難だ」って言葉がどれくらいの重みでマヒルの耳に届いただろうか。無論ニエの道も苛烈には違いないが少なくとも自分の倫理を真っ直ぐに信じ真っ直ぐに行動することができたはず。確認キーを押さない、救難信号を見捨てない、自分が盾となって誰かの命を救う、選択はどれも苦しいが方向は明確である。でもマヒルの道はもっと濁っていて、汚れていて、敵には味方の顔をして仲間には裏切者の顔をして真実を隠さなければ守りたいものを守れない、もっとも恐ろしい化け物のフリをして化け物の物語をまとわなければならない、それは「正しさを保つために正しく見えない場所へ行く」誰からも理解されない孤独な道である。

しかもEVERから見れば彼は単なる兵器ではなく深空環境、コア、機械、情報戦、政治的演出をまとめて操作できる極めて希少な駒、手放したくない存在であると同時に「完全には信用できない」存在でもあるはずで、今回もEVERのドローンは表向きは事故になっていてもどこまで疑われているかは分からないよね? EVERにとってマヒルは最高価値の資産でありながら潜在的にはいちばん危険な不確定要素でもある。

うーん直近で読んだマヒルのサイストが「陰陽の境」だったせいでちょっとシビアに受け止め過ぎてるのかなぁ。最近のわたしはどうも兄さんに脳を焼かれがちらしいw

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