空に堕ちる
空に堕ちる

恋と深空を宗教思想史オタクがのんびり考察しています。

ネタバレを多分に含むうえ、新しく開放されたストを読むたびに考えが変わるため我ながらお門違いなこともたくさん綴ってあるのですが、プレイ記録も兼ねているため敢えてそういうものも全て残したまま書き進めております(土下座

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至高の楽園

めちゃくちゃ面白かった。めちゃくちゃ鳥肌立った。ありがとう。あっぱれ。いやさ、わたし「電子書籍」ってどうにも肌に合わなくて、その最たる所以が「伏線に気が付いたタイミングで改めて該当ページを確認してもう一度先頭に戻る」ということが紙媒体ほど気軽にできないところにあったりするのだけど、もちろん深空のサイストも例に漏れず戻るボタンや進むボタンをもたもたタップして迷子になるのが嫌でいっそ「確認しないまま」読み終えてしまうことが多かったりもして、でも今回ばかりはまったく苦にならずそれができてしまったのよ。上手く言えんが「いや絶対そうだよな…? そういうことだよな…? ちょっと待ってくれ確認させてくれ」っていう「興奮」がその「億劫さ」を上回ってしまった。

そして改めてシンってやっぱなんか「かっこいい」よな。強大なEvolと悪魔らしく「取り引き」という成否が確実でない冒険的なものですべてを思い通りに動かし欲しいものを手に入れ弱きものを救い頂点に君臨する覇者が誰ひとり握れない自分の魂の半分を一生ただひとりの女性に「食べさせたい」のがかっこいいしそれを隠さないのもかっこいい。あるいは返答を聞くまでもなく得意満面自信たっぷりに彼女もまたそれをしたくて当然だと思っているところがかっこいい。たぶんもっとしっくりくる形容詞があるはずなんだけど語彙力が足りず毎回感想が「かっこいい」になってしまうのがもどかしいw

Elysium

本編2部2章読了時点では「雀荘のような酒場」だと認識していたあのお店。実際はもっと小洒落たバーのニュアンスだったようで、提供される「絶品メニュー」はそれぞれ選べる「サイドメニュー」が「暗殺」や「スパイ潜入」といった危険な取り引きを申し出るための隠語となっており、Elysiumは裏社会におけるさまざまな内部事情に精通する貴重な「情報提供の場」としてこの地区で「揺るぎない地位」を築いているらしい。

世界の深層悪ふざけでは2046年「コウジ」が頻繁に出入りしているような描写もあったけど、Elysiumも臨空市「蟻の巣」同様バーの看板を出す「情報屋と買い手の仲介役」って理解でいいのかな?

今ストはここElysiumを切り盛りする「エシュリーン」という栗色の髪を巻いた女性がなぜN109区に定住しどのようにして覇権抗争を勝ち残ってきたのか、すべての料理が「N109区の有名な事件や人物にちなんだもの」になっているという「絶品メニュー」を「何者かとの約束」を果たすために注文しにやってきたらしい客「P氏」に振る舞いながら順に振り返っていく形式で展開する。

エシュリーン

絶えず酒ばかり飲んで暮らしている暴力的な父親のもと被虐待児として苦痛に満ちた日をなんとか生き延びていた当時12歳のエシュリーンはその日も酷い暴行を受け、幼い頃から「耳にタコができるほど聞かされてきた」という「いいからやれ」なる暴言と共に足を引きずり鼻血を垂らしながら「酒を買ってくるように」と家を追い出されていた。

近所のバーで「用心棒」をしている「ジーナ」という女性が以前酒場で暴れるチンピラ連中を次に叩き倒しひとりで制圧してしまうのを目撃したことがあったエシュリーンはついに思い立ち「父さんなんかよりずっと強い」ジーナの元を尋ねると「父さんが二度と私を殴れないよう戦い方を教えて欲しい」と願い出て、対価には「お金を払う」と言い父親のための酒代をジーナの手に押し込んだ。

オレンジ色のショートへアにタンクトップを着ているらしいジーナは外見や言葉遣いからだいぶ荒しい印象を受けるが「栄養不足のため12歳にしてはだいぶ小柄に見える」というその少女の事情を察し引き取ってやることにしたようで、エシュリーンにとってはこれが人生最初の転機となった。

現在Elysium絶品メニューを注文した客がワンドリンクサービスで始めに無料提供される「Do itコーヒー」は恐らくこの出来事をモチーフにエシュリーンが考案したもので、特製コーヒーにウイスキーやクリーム2さじ黒砂糖1粒そして「運命を少」ブレンドするというとんでもカクテルになっている。

メニュー紹介の欄には「Do itは命令か激励か」だなんて書かれているが、かつて「いいからやれ」だったそれを「やるしかない」に変えたことで好転した自分自身の来し方を表現する「酒浸りな父親との壮絶な毎日」や「思い切ってジーナを訪ねたあの日の決意」なんかが割りものになっているようなイメージなのかな?

焼酎なら「コーヒー割り」ってあるし「飲めないことないのでは」なんてよぎってしまったが「新しいお客様がこのメニューを名指しするのは久しぶりだから特別に大きいサイズにしておいた」と言って運ばれてきた湯気の立つそれをホットコーヒーのつもりで口にしたP氏はむせ込んで涙を流していたのでだいぶ強烈なテイストではあるらしいw

ジーナ

12歳のエシュリーンを引き取りふたりが共同生活を始めて11年目を迎える頃、2年前に裂空災変が起こってると言うんでこれが2036年になるのかな? ジーナは恐らく何か目的があってN109区へと移り住みバーElysiumを開店する。

日の光もなく生活環境も劣悪であるこんな場所へどうして突然引っ越すことを決めたのか不服だったエシュリーンは「臨空に店を出したい」と訴えてみるもジーナは「ここならもっと稼げるから」と聞き入れず、ふたりは治安の悪いやからがみかじめ料の支払いを求めしょっちゅう店を荒らしに来るのを警戒し撃退しながらその「無法者達の楽園」たるN109区で酒を商っていた。

Elysiumを開店して以来ジーナを訪ねてくるのは見るからに「怪しい連中」ばかりであり、彼らと接触した後ジーナは決まって「仕入れがある」と出掛け「傷だらけ」で帰宅する。

ある日エシュリーンは顔に刀傷のある「デックス」という男とジーナが厨房に隠れこそこそと話し合うのを盗み聞こうと試みるのだけど、辛うじて聞き取れたのは「Evolverの失踪」「実験モルモット」「拠点」などという断片的な会話の一部だけ。とは言えデックスが去り際に「あいつらの両親に必ずあいつらを家まで送り届けると約束した」「俺達がやらなきゃ誰がやる」「俺達は弱虫にはならない」なんぞジーナに語る場面には居合わせており、どうやら彼がこれから「覚悟を決めておかなければならない任務」に挑もうとしてること、ジーナがそれを案じているらしいこと、ただし彼らはもともと殉職の覚悟がなければ務まらないような仕事をしてること、以前ジーナが寝室のベッドサイドテーブルに「特殊部隊」の身分証を隠し持っていたことも知っていたエシュリーンは「ジーナ」や「デックス」という名が恐らくは偽名であり2人は「いい人」としていいことをしているのだろうことだけは「絶対」であると確信していた。

ここからは明記されてるわけではないのでだいぶ個人的解釈を交えてしまうのだが、N109区に「拠点」を持ち「Evolver」である主人公を「実験モルモット」と形容しジェフの工房へ連れ込んで「お前は大丈夫だ」とか言って強引にEvolチェーン回路改造を施すつもりだった2部1章シンを思い返してみると、恐らくジーナやデックスが追っていたのはEVERではなく「暗点」なのだろうと思う。

何の目的があってどういう手筈でシンがEvolverを集めていたのかは分からんが、少なくともEvolverらの両親たちは「何者かに連れ去られ失踪している」と考え公機関たる「特殊部隊」に捜索を依頼していたんじゃないかなぁ。

かつてレストランに現れた異端者達を記念して作られたという絶品メニュー「殻の中の弱虫」はP氏にオーダーこそされないがエシュリーンが特におすすめの一品としてレシピを紹介しており、そこには「確固たる庇護を失えば弱虫は永遠に弱虫でしかない」なんて文言が綴られていたりするのだが、こじつけるならジーナやデックスは「確固たる庇護」である特殊部隊から危険過ぎるため手を引けと命じられた任務を「被害者家族と約束したから」と独断で続行し「庇護を失っても弱虫にはならない」固い意志でそれを強行したって話になるんじゃないかと思ったりもする。いずれにせよ「死地へと辿り着いた極悪人ばかり」の中で「いい人」が異端者なのは辻褄が合うよな。

サイドメニューに「暗殺」や「スパイ潜入」「情報収集」を選ぶと「最高の味わいになる」と言うので当初の彼らの任務内容が「暗点にスパイとして潜入し情報を集めること」だったのかも知れないし、デックスは事によってはシンの暗殺も止む無しの覚悟で最後の任務に挑んだのかも知れない?

コアの地図

2036年末頃、にわかに広まった「莫大な価値を持つコアがそこに隠されている」との噂に釣られ食欲な投機家たちが次と参入してきたことでN109区は殺気立ち覇権争いは激化、うーん正直これが「災変で彼女の心臓から散逸したエーテルコアの欠片」を指しているのか「彼女の実験データ」を指しているのかはたまた何か別のものを暗喩する言葉なのかは分からんが「コアの地図」なるものを巡る「全勢力を巻き込む混戦」が勃発しこの地は戦場となって荒れ果てた。

孤高で強大なEvolverとして名を馳せていたシンのバックにはすでに「暗点」と呼ばれるものが組織化されており、また「Evolverの失踪」は暗点の編制とともに始まったことから「シンが人を食っている」との噂も広範に伝播し「コアの地図争奪戦」の勝敗は「どの勢力がシンを味方につけるか」により決着するものと目論んだ各勢力の揉み合いもいたるところで表面化していたような雰囲気。

最後の任務に出てから姿を見せなくなったというデックスは「張り込んでいた内通者の失踪」から「あっちに身元を察知されているかも知れない」状況の中「もし俺が帰ってこなかったら年末年始くらいは花を供えてくれ」だなんて軽口を叩いてから前線へと立っており、「花が咲かないN109区」にどこからか持ち帰ってきた「銀の蓮の花束」をジーナが年末を待たずして店のカウンターに飾ったり「デタラメかも分からない情報」の中には「特殊部隊の連中までコアの地図を狙っているらしい」だなんて話もあったりする辺り、もしかしたら彼は暗点に辿り着く前に無秩序に頻発していたどこかの組み討ちに巻き込まれてしまったパターンもあるのかも知れないと思うなどした。

そしてついにジーナも長らく店を空けその行方が分からなくなってしまうのだけれど、エシュリーンの元には最後に一度彼女から連絡があり、街の外で轟く巨大な爆発音にかき消され通話が途切れてしまう直前、銃声や野獣の咆哮のような声が混じり合う活劇のさなかから届けられた「何があろうとElysiumを離れるな」という言い付けを守り続けたエシュリーンは、数ヶ月にも及んだという混戦状態が現在のシンを頂点とした新たな勢力図へ完全に塗り替えられるまで、どういうわけか戦場の中心で敵襲を免れ続け、数少ない「ラッキードッグ」としてこれを生き延びた。

同程度の勢力同士が小競り合い膿を溜めていたN109区から姑息な弱者が徹底的に淘汰されすべての資源が強者によって分配されるようになってからも「どうしてElysiumが無事でいられたのか」はしばらく分からなかったのだけれど、ある日突然「1羽の黒いカラス」が「地図は確かに受け取った」「取り引きは完了」だとの伝言を運んできたことにより、ようやくジーナとシンとの間で取り交わされていたらしい「コアの地図を提供する代わりに暴動が収まるまでElysiumを保護する」という「取り引き」を知ることになるエシュリーン。

そうして「ジーナがどうやってコアの地図を手に入れたのか」見当もつかないその答えを「いつか本人に直接聞こう」という想いからエシュリーンはここN109区の底なしの泥沼に身を投じることを決意した、らしい。

とは言えこの「コアの地図争奪戦」を象徴した「イチゴ乱闘ラッキードッグ」なる料理を運ぶ彼女の髪が肩から滑り落ちた瞬間「彼女の耳たぶで揺れる銀色の蓮の花の耳飾りがP氏の目に映った」と言うんでもしかしたらこれはデックスに手向けられた花なのか、あるいはもうジーナには会えないかも知れないことをなんとなく悟っていてのそれなのかなって思ったよ。

本日のスペシャル

食事を終えたP氏は「絶品メニュー」の最後に記載されている「本日のスペシャル」に目を留め「こいつの裏にはどんな物語が隠されているのか」とエシュリーンに尋ねてみるのだが、エシュリーンは苦い笑みを浮かべながらそれが「とある女性のために特別に作られた非売品」であることを説明し始める。

この時点そのメニューがなんとなく他とは違う雰囲気でそういえばサイドメニューが「?」になってたり「あなたを待っている」だなんて文言が添えられてたりしてたっけ、くらいの認識だったんできっと注文されることはなくとも載せておきたい「エシュリーンがジーナを想って考案した料理なのだろう」なんて思いながら読み進めていたんやが、「せめて合わせるサイドメニューが何なのかだけでも教えて欲しい」と言うP氏にエシュリーンは「お客様のプライバシーだから教えられない」と前置きしながらも「店のスポンサー様」を「サイドメニュー」にする勇気はないだなんて言って匂わせる。

考案者はElysiumの「客」でありサイドメニューが「スポンサー」とはもしや…? と思い慌てて「本日のスペシャル」までページを戻ってきましたよ。

甘く邪悪な罠、レシピに「10.5グラムの魂」を見付けて思わず目を見開いた。人間が死んだ直後に体重が謎に減ってるそれが「魂の重さなんじゃないか」って通説が元ネタになっている「21g」って映画が昔あってさ、2倍にしたら21gじゃんって気付いた瞬間わっと鳥肌が立ってしまったよ。つまりレシピ考案者とスポンサーは同一人物で、とある女性に「自分の」魂の半分を召し上がって欲しいのだ。

しかもよく見ると「赤ワイン」や「ザクロ」なんてものも入ってる。やっぱりシンには「ハデス」の要素も多分に盛り込まれているのだな。

伝説雲の彼方へは「魔女裁判」が題材だったためサタンとリリスに大きく解釈を寄せ感想を綴ってしまったが、実は新約聖書における「死の従者ハデス(黄泉)」は「地上の野獣で人を滅ぼす」ということをするし、ギリシャ神話における「冥界の支配者ハデス」はまるで星間刑事たちに裁くことができない「真の悪を裁く者」であるシンそのものだったりする。
特に神話のハデスは気が多くあちこちで子をこさえる古代ギリシャの神の中で唯一「一目見て好きになった女神を生涯愛し続けることができる一途さ」も特徴的で、ハデスはある女神に「一目惚れ」をして彼女を冥界へ「強引に連れ帰り丁重に扱う」のだけどなかなか振り向いてはもらえず、冥界の食べ物を口にしたものは冥界に住まなければならないという掟を利用して彼女にザクロの実を「食べるように促し」て、一方女神はハデスの惜しみない愛を受け彼の妻となることを「次第に受け入れ」て、冥界に降りた女神には「目も眩むような光」を意味するペルセポネと名が付けられた、みたいなお話があるのです。伝説ストにもふたりが「ザクロの実」を口にするシーンがあったよな? しかも「タルタロス」の深淵で…

厳密に言えばいろいろと不備はあるがエリュシオン(≒天国)もタルタロス(≒地獄)も一応冥府ハデスの支配下にはありますからね。恐らく彼はこのメニューを非売品としてここに載せる代わりに暴動が収束してなおElysium(エリュシオン)をスポンサーとしてバックアップし続ける、という今度はエシュリーンとの「取り引き」により手に入れた領地「至高の楽園」で最愛の人を待つことにしたのでしょう。

こんなにいろいろ盛り込まれてるなら他のメニューにも何かあるだろと決め込んで目を皿にして捜索してきたが他は「血に染まったあの夜の街」を再現しているらしい「イチゴ乱闘ラッキードッグ」が赤いイチゴたっぷりのデザートに「デビルスパイス」なるものが混せられているくらいしかピンと来なかったなぁ。あとは「Do itは命令か激励か」に続く「ある人はこう言う」「気にするな」「自分がやりたいことをやれ」が彼の言葉なのかなって思うくらい。

カロンとかエリュシオンとか基本N109区はギリシャ神話をもじったようなエピソードが多かったりするのだろうな。詳しい方はきっと随所にもっといろんな気付きがあるのだろう。圧倒的知識不足が無念である。でもハデスの神話ってゼウスやポセイドンに比べてめちゃくちゃマイナーじゃないか? ペルセポネとの話を除けばティタン神族との最終決戦で「兜」を授かる話しか知らんが正直ゼウスの「稲妻を操る杖」やポセイドンの「トライデント」に並ぶと武具としてなんか一人だけイマイチだしオリュンポス軍のトップ3だったのになぜか十二神に入れてもらえてないしなんでハデスってこんな扱いなんだろうって印象だったりする。ハデスを主人公として展開する有名な神話って存在するんだろうか←

それにしてもエシュリーンはシンが「とある女性のために」特別に非売品を作って彼女を待っているらしいことをよっぽど前から知っていたんだね。初めて彼女に会ったときエシュリーンってどんな反応してたっけ? 「あなた面白い」とか言って気に入ってもらえてたような記憶はあるんやが、注意して聞いてなかったなぁ…

N109区を混戦によってまるで新しいものへと塗り替えた「コアの地図争奪戦」について「あるいはその地図は始めからカードをシャッフルするための理由に過ぎなかったかも」などと「誠実な笑み」を浮かべるP氏にエシュリーンは「探るような視線」を目を伏せて隠しながら「そうかも知れません」だなんて曖昧な回答をしていたけれど、恐らく彼らはシンが「取り引き」という結末が不確かなものを実はすべて思い通りに操れることを知っていて、エシュリーンの方はこのP氏が自分と同じ「シンの手の平の上を転がっていた者同士」だったかも知れないことを察し探りを入れようとするも思い留まっているかのように見え、逆にP氏は悟って欲しそうにしているようにも見えましたな。

怪盗ピピ

最後の客を見送り店を閉めたエシュリーンはカウンターの隅に置かれた「一体のカエルのぬいぐるみ」が今夜「絶品メニュー」を注文した客の忘れ物であることに気が付き預かるつもりで手に取るのだけど、中に仕込まれていたらしい「ワインレッドのメッセージカード」が挟まれた「小さなギフトボックス」が滑り落ちてきてはたと目に留まる。

かつて自分の持つ「地図」とこのギフトボックスをある人と交換したが今夜美味しいメニューと引き換えにこれを元の持ち主に返す、という旨が綴られたそれは「親愛なるエシュリーン」へ充てられたメッセージであり差出人は「怪盗ピピ」、慌ててギフトボックスの中身を確認してみるとそこには確かに12歳のエシュリーンがジーナの手に押し込んだ古びた紙幣、そして「妹の保護料」と書かれた黄ばんだメモが1枚添えられていた。

P氏が怪盗ピピであることについてはスト冒頭「Solonホテルのオークションで落札直前怪盗ピピが奇跡のトリックを披露して盗み去った100万のブラッド・ダイヤモンドの腕時計」とこの「カエルのぬいぐるみ」とをP氏が店主の目を盗みすり替えることで入手し何やら小細工を加えているような描写が入るためぶっちゃけ始めからそのつもりで読んでたみたいなとこあるが、途中「あの地図は誰かに盗まれたのかも知れない」「怪盗ピピの仕業だとおっしゃるの?」「さあな」なんてエシュリーンとの会話がまさか本当に彼の「自白」だったとは思わなんだ。ジーナもまたピピとの「取り引き」によって地図を手に入れていたんですな。

ピピは今夜「何者かとの約束」を果たすために「絶品メニュー」を注文しにバーへやって来たみたいやが結局彼が持ち帰ったのは「イチゴ乱闘ラッキードッグ」の「サイドメニュー」である「コアオークションへの招待状」、となると恐らくその「何者か」はピピの所持する「妹の保護料」と「招待状」の引き換えを予め約束していたってあらましなのでしょう。

これ、すごい話ですよ←
シンは登場人物全員を「仲介取り引き」にすることで自分がもっとも欲しい「コアの地図」とN109区を牛耳るうえで欠かせない「内部事情」に精通するElysiumを手中に収めながら、ジーナには「妹を守ってもらうこと」が、エシュリーンには時を経て「知りたかった真実」が、ピピには「新たなお楽しみ」が分配されるようにおもんばかっていたわけです。

こうなると気になるのはジーナとピピの取り引き、N109区が戦場と化すほど誰もが欲していた「コアの地図」と「妹の保護料」とが当時本当にこの「コアオークションへの招待状」を約束されたピピにとって利がある取り引きだったのかってとこになると思うんやが、「怪盗ピピ」にちなんだ絶品メニューであるらしい「24K交換アーティスト」をよく読むとピピは「等価交換」のアーティスト、彼に捧ぐ万物には「同等の苦痛」「同等の快楽」が返ってくるなんて書いてあり、レシピには少の「ユーモア」が混ぜられていたりする。

アンティークショップの非売品である古臭いカエルのぬいぐるみと100万の腕時計とをすり替えている辺りピピにとって本当に価値があるのは少なくとも一般的金銭的なものではなく、たとえば物品に込められたユーモアやストーリーみたいなところにあったりするのかも?
「妹の保護料」はジーナとエシュリーンふたりの間では「そのお金で付き人として雇ってる」って話になってたんで、ジーナにとってこれを他人に託すことは「妹の保護者を代わってもらうこと」つまり「妹のように愛し大切に守ってきたエシュリーンの元へ自分はもう帰れないかも知れないこと」への彼女の「覚悟」であるとも言える。怪盗ピピはその覚悟に「コアの地図」と同等の価値があると感じたのかも知れません。
仮にそうなら怪盗ピピにもシンと似たような義賊的な義侠心が見え隠れしていそうだが、ワンチャンふたりは元より浅からぬ仲、だったりするんだろうか?

拠点で実験モルモットになっていたEvolverについては判然としませんが、いずれにしろ全話通してこれはシンが「欲」を引き出す赤い右目を使うまでもなく人間のもっとも「欲しいもの」を見抜く力を持っているって話なのだと思ったよ。かっこいいですねぇ(しつこい

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