恋と深空のんびり考察プレイ録

恋と深空のんびり考察プレイ録 - 空に堕ちる

恋と深空を宗教思想史オタクがのんびり考察しています。

ネタバレを多分に含むうえ、新しく開放されたストを読むたびに考えが変わるため我ながらお門違いなこともたくさん綴ってあるのですが、プレイ記録も兼ねているため敢えてそういうものも全て残したまま書き進めております(土下座

二人の偏向航路

いやめちゃくちゃすっきり理解できた!!!(興奮
チューリングチップの「主人格の意識侵食」ってそういう意味だったんだ? 伝説『明晰夢』を読んで長らく謎のままだった「ダブルコーテーションマーク」の答え合わせを約1年8ヶ月振りにどうもありがとう←

にしても、人間ってつくづく「正しく使えば助けになる技術」を正しく使うことができないのだな。便利で強力な技術であればあるほどすぐに別の誘惑が生まれ一歩ずつその用途がずれていく。正確な判断を補助できるなら「判断そのものを任せた方が効率的」なんじゃないか? 認知機能を拡張できるなら「不都合な記憶や感情も全部スキャンして制御したらいい」んじゃないか? 艦隊を同期できるなら「全員をひとつの意思に従わせた方が強い」んじゃないか? そして「その権限を握った人間が艦隊そのものを支配できる」んじゃないか?

怖いのはその一歩一歩すべてにもっともらしい理由が存在すること。安全のため、全体を守るため、任務成功率を上げるため、どれも完全な嘘じゃない。ある日突然「善い技術が誰かに悪用される」のではなく「善い目的の延長線上に誰も気付かないうちにじわじわと悪用の可能性が組み込まれていく」とでも言うべきか。

今スト印象的なのは遠空艦隊の思想がちゃんと合理的に描かれているところ。チップで統合された艦隊の方がトンネル内部では明らかに強いのだよね。DAAパイロットは精神干渉をまともに受け操縦桿も握れなくなるけれど、艦隊は機械のような連携でなんてことなく切り抜ける。つまり作品は「そんな危険なチップなら最初から作らなければ良かった」とは描いてない。あくまで必要だったことを前提に問いたいのではないかな。人間の肉体と認知だけでは深空へは行けなかった、確かにそのために必要な技術だった、でも「必要だった」と「支配に使っていい」の間にはきっとまだ引き返せる局面が何度も訪れたはずだよねって。

さらに皮肉なのがそうやって技術を支配装置として使えるものにしてしまった結果、今度はその支配装置そのものをトンネルの向こう側の何か未知なる知性に乗っ取られているかも知れないという状況。たぶん「人間を一元管理できるシステムを作ってしまったこと」そのものがあやまちだったというよりか、それが「一ヶ所を乗っ取れば全員を操作できるシステムと同義であることに気付けなかったこと」が本当のあやまちだったんじゃないかなって思うよ。

人間は「正しく使えば助けになる技術」を正しく使えないと言うより、もしかすると「正しく使うために必要な節度」が高慢さによって少しずつ不要に見えてしまうのかも知れないね。

Evol管理連盟

初めて避難所を訪れた日にミズエちゃんの後ろに立ち代わりに近況を説明してくれた避難所の先生と思わしき女性「スージェン」は、始めに接触してきたあの謎の女性とは別人でありながら、後日同じ手段を用いて彼女の通信チャンネルにアクセスし、「ミズエちゃんのお誕生日会」を口実に「直接会って詳しく話したい」ことがあるなどと申し出た。聞けばスージェンは「Evol管理連盟」なる組織の「第九調査署」に属している人間であると言い、連盟については「全てのEvolverの背後に隠れた神出鬼没の管理者機構」と彼女もその存在を認知してるんで完全に未知なる謎組織というわけではないらしい。

スージェンはミズエちゃんの存在を利用して彼女をここへ誘き出したこともミズエちゃんを助けたのが任務を首尾よく完遂させるためであったこともあっさりと認めるが、少しでも笑顔にしようと尽力したのもまた事実とはまさに今ストの倫理的問いを集約したかのような主張である。利用したからと言って善意が全て偽物であるとは限らない、逆に善意があったからと言って利用していないとも限らないという。

スージェンの目的は「天行市でもうすぐ起こる大事」とやらに彼女を参入させ「そこで見たもの全てを細部までしっかりと記憶してそのまま教えてもらいたい」というもの。そもそも彼女がこれまでの人生ガイア研究センター元研究員に引き取られたこと、Evolレベルが計測不能であるにも関わらずハンター協会へは特例で加入できたこと、エーテルコアとの関係を隠すため特別指令任務チームまで作られたこと、それらは全てただの幸運ではなく「連盟の黙認のもとで行われてきたこと」であると言い、さらにこれまでとんでもなく巨大な勢力として描かれ続けてきた「EVER」や「艦隊」も「連盟から見ればままごとに過ぎない」と論を張る。

しかもその渦中で「すでに暴走の瀬戸際に立っているあなたのお兄さん」を引き合いに出せるあたり彼らがマヒルの現状をかなり深いところまで把握していることも確かだね。そして最終的には「私たちならあなたを守れる」ではなく「私たちならマヒルを救えるかも知れない」という誘いになっている。彼女にとってもっとも断りにくいカードを正確に切ることさえできるけど、それでも恐らく空の上で起こるであろう「大事」については全てを把握できる「目」を持ってない。あくまで「地上の権力」であると。

合同作戦

スージェンの誘いにはその場で是否を即答しなかった彼女であるが、接触があった直後にミナミからの呼び出しがあり、協会上層部が今回のトンネル異常を「エーテルコアが関わっている可能性が高い」と見て遠空艦隊や深空宇宙機関など防空組織との「合同作戦」を推し進める意向を固めたらしいこと、さらに「特任担当者」に彼女が抜擢された旨を伝えられる急展開から「恐らく第九調査署が関与しているのだろう」ことを察してる。

タイミングよく航空アカデミーの同窓会へ「亡きマヒルの代わりに」出席を求められていたらしい彼女は、実はこれまでに何度もマヒルに連れられて彼らの酒宴に混ぜてもらってきたことがあるというその見覚えのあるレストランでかつてのマヒルの同僚たちに歓迎され、突然発足した「合同作戦」についても思いがけず情報を共有してもらえることになるのだが、わーちょっと待ってわたしみんながどんな顔してたのか今回の立ち絵で初めて知ったんだけど、えっなんか想像と全然違うw

スズさんという女性パイロットは今ストが初登場なのかな? もちろん主人公とは面識があって、いわく「明るさ満点のお姉さん」だそうだけど、こんな外見で普段ぶんぶんに戦闘機を乗り回しているのかと思うとそのギャップがたまりませんな。ラスト・フレンズでモトクロスをやってた「ルカ」を思い出す(誰が分かるねん

いちばんびっくりしたのがツバサなんだけど、なんだろうずっと細やかな気配り屋のイメージだったからこんなわんぱくなたたずまいだとは微塵も思ってなかったよw
ジンジャエールで乾杯をするも中盤からお酒が進んでしまったか帰りしなに「昔マヒルと同じ部屋で住んでいた」という今は廃墟になってしまったアカデミーの旧寮棟へ立ち寄り「天国のマヒルの霊を呼び出そう」とか言ってひとりで変な儀式を始めようとするおもしろ一幕もあったけど、普段はこんなことしないんだ、もっと落ち着いた人間なんだと必死に言い訳する姿に「分かってるよ」「寂しいんだよね」と声を掛けてあげたくなってしまったわ。しょぼしょぼとした目に哀愁があってとてもかわいい←

カイトもこれまでのいたずらっ子な印象からもっとやんちゃな見た目を想像しちゃってたんだけど、意外とピシッとした好青年だったんだな。学生時代から生粋のムードメーカーだったはずが今は唯一この中で「マヒルの偽装死」を知っているためかこれ以上ないほど慎重に慎重を期して言葉を選んでいると見え、おふざけにもちょっぴり覇気がない。

最後に遅れて登場するカズマに関しては割と想像通りかも知れないw
秘話『道なき地』では「退学届」を持ち歩くほど思い詰めていた様子のカズマに「でも卒業式で再会できたということは思い留まってくれたということ」「これから座学の教官やパイロットを支える整備士なんて目指してみるのはどうだろう」なんて余計な感想を書き殴っていた記憶があるけども、今やDAA最年少のシニアソフトウェアエンジニアだとは何たる出世。元DAAエンジニアであるヤオ氏もびっくりの突出した技術者だったんだね。

スズによれば今回の「合同作戦」を始動させたのは「遠空艦隊」の側であり、トンネル内部の観測データや調査報告書を直接「連盟」に提出するなどこれまでは「ちょっと古い遺恨があって」長らく距離を置いてきたDAAや他組織との連携も積極的に作ろうとしているように見えるとのこと。この辺も全部「連盟の第九調査署が関与して盤面を動かしているから」だと解釈していいのかな?

少し後の場面ではスズがDAAと艦隊の対立関係について「設立時から防衛理念に相違があった」こと、そして「深空探索ルートをめぐる衝突があった」こと、さらにその背景には「古い因縁」と呼ばれる「ある事故」があり、艦隊によって当時はうやむやにされてしまったが後年「事故調査報告書」なるものを調べあさっていたら「チューリングチップ」なる謎の機器装置の名前が浮上して以来なんとなくそれを怪しんできたことなどを彼女に打ち明けてくれる。

するとDAAはただ単に艦隊が「深空に畏敬の心を抱かない地球に愛着を持たないやつらだから」嫌いというわけじゃなく、少なくとも「過去に起こったチューリングチップに関わる何らかの事故が両組織間で問題になるも真相は究明されないまま終わってしまった」っていう何か決定的な確執が存在するということなのね? つまりこの「合同作戦」には「どちらが指揮権を握るか」といった表面的な相剋の裏に「あのとき握り潰されたチップ問題を掘り返すチャンスでもある」というDAA側の思惑もあるものと。

キーラン艦隊

一方その頃トンネル内部では、恐らくマヒルを始めから「外部勢力EVERが送り込んだ異物」であり「権力拡大のため他の艦隊の失敗を待っている男」と見て強烈な敵意や猜疑心を抱いている古参の上官なのだろう「キーラン」率いる艦隊が「人類の認知の限界を超える精神的負荷」に遭遇し壊滅寸前であった。これまで「未知なるワンダラー」だとか「非安全航行区域」みたくふわっと語られてきた「深空トンネルの危険性」だけども、今回ひとつ具体的になったのはここで遭遇するワンダラーとは「目にするだけで空間認知や精神が崩壊する・認識すること自体が危険な怪物」であるらしいこと。トンネル巡航の後遺症に精神異常や記憶解離があるのはそのためだったのかな?

マヒル艦隊はキーラン艦隊が「壊滅的な打撃を受けたこと」を検知して救援通信を送るけど、キーラン執艦官は「お前に救ってもらう筋合いなどない」とこれを拒否。伝説『明晰夢』を読む限り恐らくキーランはカーツやトムのようにマヒルに敗北を認めマヒルに艦隊を奪われるくらいなら彼の救援には応答したくないという立場だね。

するとマヒルはここで「チューリングチップを長期使用することで精神はその影響を受ける」「それに頼って判断すればするほど侵蝕は深くなる」「埋め込むことを選択した以上人間ではいられなくなる覚悟をしなければならなかったはず」だなんて説得を始めるが、つまり本来チューリングチップとは人間の思考能力・演算能力・意思決定能力を拡張する脳内インプラントのようなもので、遠空艦隊は深空トンネルという人間の通常認知では処理しきれない環境下で戦うために「そもそもチップを埋め込んで人工的に脳を拡張している」という前提なのだろうと思う。人間は「認知したもの」を頼りにあらゆる判断を下すけど、その認知が錯覚や情報過多によって狂わされてしまうとき、チップはこれに惑わされず自分の代わりに「今どちらへ飛ぶべきか」「どの対象を攻撃すべきか」常に最適解を高速で算出してくれる「感情や記憶の制御されたもうひとりの自分」みたいな。

本編4部2章ルイは「思考制御チップ」なるものを装着したモリトに「君はまだ自分のものになっていない意識の欠片の制御方法を学べていない」「その記憶や感情は君のものじゃない」などと吹き込んでいたけども、これは「モリトの主人格」に語り掛けていたのではなく正確には「チップの制御プログラムによって維持されている第二の人格層」つまり「チップよって再構成され今表面に出ている人格」に話し掛けていたのだと思う。本来のモリトの主人格には妹との記憶があり、妹への感情があり、妹の死を悲しむことができる過去から現在まで連続した「自己」があるはず。でもチップ制御下の人格は任務に適した状態へ調整されている、不都合な記憶や情動が切除されている、しかもモリトの場合ルイから「こちらこそが君だ」と教育されている、だから主人格の記憶が浮上したとき「知らない記憶が自分の中へ入り込んできた」かのように感じられて混乱する、そこでルイが「それは君の記憶じゃない」と本来の自分を侵入者だと思わせるような洗脳をしていたって話なんじゃないかなって。

そう考えるとチップに「完成度」があるのも納得で、ニュアンスとしてはその人間の記憶・感情・判断傾向・反応パターンを読み取りそれを制御システム側で再構成できる範囲をそう呼ぶのではないかな。あの時点モリトには「まだ制御人格のものになっていない主人格の意識の欠片」があったけど、ここが100%になれば理論上「主人格と制御人格が統合されたこと」になるよね。制御人格が主人格を演じるのではなくもはや主人格として決断することができるようになる。たぶん「それに頼って判断すればするほど侵蝕が深くなる」のもこのためで、もちろん始めは「これはワンダラーによって認知が歪んでいるだけだから構わず前進すべきかも知れない」という本人の判断に対する「前進が最適です」という補助に留まるのかも知れないが、そのうち「どうすべきだろう」「前進が最適です」「なら前進しよう」とチップに判断を委ねるようになり、最終的には「前進」そのものが代替されるようになるという。

そうして本来なら意思決定の根拠になるはずの認知や愛着や恐怖や罪悪感など人間的な感覚や感情と判断の結びつきが弱くなる、自分の直感よりシステムを信じるようになる、最終的に自分の判断とチップが出した判断の境界がなくなる、精神が壊れるというより精神の主語が消えてしまう、そんな段階を経て『明晰夢』リアム副官のように「主人格の意識がプログラムを攻撃し感情が制御不能に陥ることもなくなる」という状態に到達するのではないかな。

思い返せば「感情の浮き沈みを緩和し認知機能を向上させる」なんて触れ込みの「セベシング」なる処方薬も「主人格が自我の連続性を回復させたいからと飲む薬」なのではなく、むしろ主人格の表出を異常だと感じるようにさえなった「制御人格がすでに本人として定着している人のための安定剤」だったんじゃないかな。自分という人間はこの人になんの想い入れもないしなんの思い出もないはずなのにどうしてこんなに懐かしいんだろう、どうして普段とは違う合理的でない判断衝動が出るんだろう、よく分からない記憶に邪魔されて最近情緒が不安定だ、よしセベシングを飲もう、みたいな。

それで言うと93%という数字はマヒルの制御人格がもちろん高度には完成されているけれど主人格として完全に統合されるには決定的に足りないことを示しているのかも知れない。日常生活や操縦における合理的な判断はそもそもマヒルの判断とチップの判断に差がないから制御プログラムが作動してないのかも知れないし、とは言え「どうすればお前を守れるのかもう分からない」なんて彼の人間的ノイズがある判断の妨げになるような場面では「リセット」や「切除」が起こるんで、これまでにも「制御人格が表に出て判断している場面」というのもままあったのかも知れないが、仮にそうであっても93%モデル化されたマヒルなら外から見ればいつものマヒルと変わりなく見えるくらいではあると思う。でもそういう普段のマヒルではなく彼の価値観の最深部から答えを出すような本当に鬼気迫る場面ではチップが主人格の決定を制御することができないってことだよね。なぜならその答えを生み出す領域をまだ読み取れていないから。

伝説『明晰夢』でチップの完成度を計測されているマヒルの意識の中で「マヒル」が「“マヒル”」を俯瞰しているかのような意味深な描出があったけど、恐らくあれはチップの制御下で再構成された人格「マヒル」が主人格「“マヒル”」の記憶や感情をスキャンしている場面だったんじゃないかなって。だから制御人格「マヒル」は「どうしていつもあなたが先に私を見付けるのか」という問いに「兄ちゃんだから」と返答することはできる。でも黒い渦の中から「本当の彼女」が姿を見せたとき、制御人格マヒルは「愛しているからだ」っていう主人格マヒルの最終決定を制御することができてない。それは予期できないタイミングで突として表出し、さらにブラックホールのような裂け目に吸い込まれどうやら鍵までかかってる。恐らくこれがマヒルという人格をマヒルたらしめる核の部分なのだろう。だからもっとも肝心な局面で「彼女を愛しているから」だと言い出し思惑通りに動かなくなるかも分からない唯一制御下にない7%のマヒルをルイは一刻も早くどうにかしておきたいのだろうね。

だいぶと話が逸れてしまったが、恐らくそうしてチップを埋め込んだキーランはその時点で人間ではいられなくなる覚悟をしているのだから今さら人間のように非合理なプライドや感情で死を選ぶべきではない、というのがマヒルの説得だよね? ところがキーランはそれでも意固地に応じず救援用牽引チャンネルを全て切断し接舷を拒否、もちろんマヒルは「拒否プロトコルを無視」して「メイン制御室のテイクオーバーシステムを起動」し操縦権そのものを奪って強制救援を強行するけれど、牽引が目標を定める寸でのところでキーラン艦はエネルギー中枢をオーバーロードさせ怪物へと突進、まばゆい閃光の中で怪物もろとも崩壊し、艦艇は無数の冷たい装甲の破片と化して宙に散らばったと。

確かに表面的にはいかにもキーラン本人が自分の意思で決行したかのように思われた特攻であるが、マヒルはどうも腑に落ちないといった様子ですぐに船外ロボットを派遣し生存者を捜索、帰還後は「お前はこの件をどう見るか」なんてリアムにまで意見を求め、どうせ落ちるならいちばん派手な落ち方を選んだまででしょう、それよりもあなたがこんなことを聞くとは珍しい、心理カウンセリングの予約をお取りしましょうかなどと訝しがられている。

主脳

個人的にはこの辺が今ストいちばんの情報開示ポイントなのではないかと踏んでるが、まるで全員消滅したかのような描かれ方をしていた特攻シーンの直後なんと「重傷を負ったキーラン執艦官は緊急治療の名目で艦から移送されていた」なんて話になっている。マヒルの派遣した船外ロボットが生存者として救出したのはキーラン本人だったってことだよね。で、主治医が言うにはキーランはすでにチューリングチップがもたらす精神侵蝕に耐えられなくなっており艦隊全体の「主脳」にはもはや適さないなんて診断であったものと。

これって人間はチップがもたらす精神侵蝕にいずれは「耐えられなくなる」と読んでいいのかな? すると「主人格の意識がプログラムを攻撃し感情が制御不能に陥ることもなくなる」という状態が必ずしも「制御人格のまま安定する」ことを意味してはいないということになりそうな。むしろ長期間に及ぶ混乱・認知狭窄・錯乱・リセットの繰り返しでそうなっているわけだから、最終的に主人格・感情・記憶・制御プログラム間の矛盾を脳が統合できなくなってしまうのかも知れないね。結局チップを使っても人間が感情や記憶を全て削除してAIになることはできなくて、最後はただ人間本来の統合能力が壊れて「飛べない鳥」になってしまうのかも。だからルイは彼らを「捨て駒」と定義付けているのかな。

そして気になるのはわざわざ強調されている艦隊全体の「主脳」という彼の役割。もしかすると「執艦官」という役職は単なる艦長ではなく「自分の脳を艦隊全体の指揮システムへ接続する」という中央管理系統のような権限者なのかも知れない? これについてはルイが後からそういうマザーボードのようなチップを追加で開発してるのかも分からんが、とは言え今回ルイの存在って一切匂わされてないんで仮に元より艦隊とはそういう仕組みで動いているものだったとして、するとマヒルを「駒」として手に入れたことがルイの中で「艦隊を手に入れたこと」とイコールになっているのもかなり腑に落ちるような気がする。

だって本編4部2章ルイの構想は始めから「脆過ぎる」という人間の身体を「強固な機械へ変える」ことであり「マヒルが利用価値を失う前に一振りの扱いやすい武器に変える」ことだった。既存の執艦官は「脆過ぎて」順番に脱落していくし、そこへ深空環境への耐久性が高くDAAお墨付きの操縦技術と「義体改造」まで施されているマヒルを放り込めばきっと彼はそのうち複数艦隊を統合する連合執艦官のような位置まで自然に上がっていくのだろうから、ルイは何をせずとも「一振りの扱いやすい武器」もとい「膨大な戦艦を好きに操作できる支配装置」を所有することになる。4部1章再会したばかりのマヒルが「執艦官に着任しなければ自分は廃棄されていた」し「そういうルールなんだ」と溢していたが、ルイはもちろんマヒルに想い入れてはいたが仮に同じ条件が揃う人間がいれば極論誰でも良かったし、もしかしてそういう人間を育てるために「教授の子ども」を量産してたのかな? いやこの辺全部妄想なんだけど←

前後の文脈から次の場面の病室でマヒルが面会する「病床の男」は「重傷を負って救出されたキーラン執艦官」本人で間違いないと思うけど、ここ本文は頑なに「男」と表記しているの何か意味があるのかな(悩
男の状態はとても危うく主治医が脳波モニターを診察したところ「いつもの意識混濁」とは明確に異なる「ある瞬間に意識が突然遠隔操作によって削除されたかのような」痕跡が見られると言い、ふたりきりになったタイミングでマヒルが声を掛けてみるとその目にはもう「敵意」はなくとても穏やかになっていると。

マヒルは男に「キーラン艦隊はなぜ全艦壊滅したのか」と尋ねるが、これも彼が「主脳」という全艦艇の操縦システムもしくは操縦士のチップを一元管理できるような上位権限の持ち主だったならひとりの意思で「全艦壊滅」という結末も決して不思議ではないよね。ただしマヒルはどうやら始めからここに「第三者の介入」を疑っていたようで、確信めいた口調で今度は「誰が彼らを壊滅させたのか」言い方を変えて聞き直せば、案の定キーランの身体を介して話し始めたのだろう何者かが「あなたは予測よりも早く私を見つけました」なんて語り出す。

これは意識の乗っ取りなのか、遠隔操作か、それとも一種の深層催眠かとマヒルが尋ねれば、それは「あなた方の意識現象を限定的な分類で表現したに過ぎない」し「私はそのどれにも属さない」という返答。相手は人類の既存科学では説明できないような方法でキーランの意識に干渉しているし、マヒルがいつ自分を見付けるだろうかと「予測」も立てていた。そして「お前が直接キーランに特攻命令を出したのか」といよいよ核心に迫られれば、真実が自らあなたの手に舞い降りることはない、あなたはそれに向かって飛んでいくしかない、私たちはまた深空で再会するでしょう、などと「知りたくば深空へ来い」とでも言いたげな挑発。正直これだけではまだ何も分からないけども、今回はトンネル異常でとにかくあらゆる世界が入り乱れまくっているという前提で、個人的にはトンネルの向こう側に存在するかも知れないあのフィロス文明の「オータン研究管理局」からの干渉なのかなと考えたくもなるんだがどうだろう(怪

いずれにせよ最後の言葉が終わると同時に声の主は消え、男のうなじからは「まぶしい白い光」が抜け出ていくかのように見えた直後、バイタルモニターは「鋭く長い警告音」を鳴らし、慌てて駆け込んできた医療スタッフは「驚きと疑念の混じった視線」をマヒルに差し向けるが、まあ確かにさっきまで生きてた患者の心電図が突然「ピーッ」になって真横に人が立ってればそりゃ怪しいわな…

直前リアムが病室の周囲をうろうろする人影に気が付きつつマヒルが気にしてないならいいかと職務に戻るような場面があったけど、これが今回の事故を「キーラン艦隊はマヒルによって静かに排除された」と決めつけて嗅ぎ回っている一部の人間だったってことなのかな? 医師らに「あなたは彼に何をしたのですか」と迫られたマヒルは「調査に協力する必要があるか?」なんて言い返すけど、たぶんマヒルは今それどころじゃないし一旦「そう見えるだろうな」「調べたいなら調べればいい」くらいの態度ってことだよね。そして恐らくこれらが「審議会」とやらで追及される流れとなり、もちろん病室での一件は調べれば潔白が証明されるのだろうけど、それでもしつこいやからがいるのかマヒルは「十分な救援活動を行わなかった」という理由で「停職」処分を喰らった状態で帰宅することになる。

新たな派閥

同窓会の後、誰もいないマヒル宅を訪れた彼女はまるで生活の痕跡がないその部屋になんだか呆れてしまうもここをちゃんと彼の生活が根付く場所にしようと思い立ち、デリバリーアプリで空っぽの冷蔵庫を満たせるほど大量の食材と、さらに長く家に留まらない彼が枯らせてしまった植物の代わりにもっと乾燥に強く多少世話を忘れても長く生きられそうな「サボテンの鉢植え」まで注文し配達を待っている。

程なくしてデリバリーロボットの商品お届けと同時に帰宅したマヒルは、それとなく「合同作戦」について探りを入れてくるような彼女の質問をのらりくらりとかわしながら、食事を摂り、シャワーを浴びてパジャマに着替え「貴重な休暇を楽しむ」だなんて言っている。彼女に「もし私が合同作戦に参加するなら止めるか」と尋ねられ「お前はもう大人だし何でも口を出すわけにはいかない」なんて返答ができる辺り「自分が合同作戦の中心へ戻される可能性」をこの時点すでに見積もっていたとも読めるけど、あるいは本当に艦隊の勢力図がこの後どう動くのか見極めるチャンスくらいに思ってたのかも知れないし、とは言えその後も一週間「まるで休養する執艦官を真面目に演じているかのように」本を読んだり模型を組み立てたりサボテンの鉢を移し替えたりしてるのは、もしかしたらこの数日くらい休暇らしい休暇を過ごしたいと本気で思っていたのかも分からんね。

そうやって過ごしていたある日の深夜、一日の仕事を終え帰宅した彼女がソファにもたれうたた寝をしているマヒルに声を掛けようとした瞬間、マヒル宅には突然何者かが奇襲を仕掛け押し入ってくるのだが、どうやら閃光弾のようなフラッシュバンで一時的に視覚が麻痺してしまったのだろう彼女は本能的に彼に飛びつこうと手を伸ばすも何も探り当てることができずどう動くべきか何が起こっているのかさえ分からないという状況下で、頬に誰かの血を思わせる「温かいしずく」が跳ねたように思われて一瞬肝を冷やすも直ぐに「馴染みのある力」が身体を支え起こし、彼がつかんでくれた手を懸命に握り返しながらこれを「静寂と虚無の中で唯一つかむことができる引力のアンカーポイントだ」なんて感じてる。

マヒルはキャビネットの中へ彼女の身体を預けると「ここに隠れてじっとして10まで数えろ」などと言い添えて扉を閉め、本当に10秒と経たない間に戻って来て「機器の低い稼働音」と共にどこか「医療用ベッド」やタオルが氷が常備されているような別の場所へ彼女を運び込むけども、これは世界の深層『焦土の上』ニエの運ばれた同じ「マヒルの秘密医療ステーション」だったのかな?

襲ってきた人間は何やら「新たな派閥」とやらに忠誠を示し立場を明確にしたい一部の連中であると言い、後始末はやり方を心得ているリアムにお任せしたとマヒル。危うく寝首を掻かれるところだったのか襟元には鋭利な刃物で切り裂かれた跡があり血も滲んでいるようだけど、彼女が手を伸ばせば大人しく傷を見せ、心配され叱られることが嬉しいというように「マヒルはお前がいないと駄目だ」などと浸るように呟いている。

なかなか視力の回復しない彼女はそれがまるで以前マヒルに教わった飛行用語「目視物標の喪失」のようであると言い、あなたも航行中そんな状況を経験したことがあるのかと尋ねるが、マヒルは少し考えて確かに「卒業飛行試験の時」そんな場面に直面したが幸い少しヒヤッとしただけで無事に合格できた、視覚的な参照物がなくなると脳は内耳に頼りたくなるが実は前庭神経とは思ったほど当てにならない、そういうときは「自分の直感を捨ててシステムが提供する参照物を全て信じないといけない」のだと語る。

これはマヒル自身がいちばんよく知っている「システムの限界」を隠すための嘘だったのかな。思えば卒業飛行試験の時マヒルはむしろ「システムを全て遮断して自分の直感だけを頼りに」しかも「帰路とは真逆の方向へ」トンネルの奥へ奥へと進み「まるで別世の彼女が手をつかんで引き戻してくれたかのような」不思議な夢を見て帰還したのにね。

ヒートデス

翌朝目覚めると彼女はいつの間にかマヒル宅のベッドの上に戻されており、そばに寄りかかっているマヒルは珍しくとてもぐっすり眠っている様子。たまらず指を伸ばして彼の伏せられたまつげにそっと触れてみると、そうしていつまでも穏やかに暮らしていて欲しいその人が改めて「すでに暴走の瀬戸際に立っている」ことを痛感させられたか、彼を起こさないよう静かにベッドを下り部屋を移動して、ついに意を決しスージェンに「あなた方の計画に加入することを決めた」ことを告げる。

電話の向こうのスージェンは「すでにあなたがハンターとして提出した申請は3度差し戻されたけど私が少し手を回しておいた」なんて言ってるが、するとEvol管理連盟だからってなんでもかんでも介入して強行できるわけじゃなしに、スージェンが第九調査員という立場を利用して個人的に裏工作をしているようなニュアンスなのかな。なんかそもそもEvol管理連盟に第九調査署なんて部署が本当に存在しているのかさえ疑わしくなってきたんだが←

そして「とっくにこの光景を予想していたというように」穏やかに目覚め、彼女の残した置手紙を折りたたんでポケットにしまうマヒルの元へも頃合いを見計らったかのようにリアムがやって来て、審議会がキーラン艦隊の全資料を封印したこと、昨夜の襲撃については不問に付す意向であること、協議の結果やはりマヒルが合同作戦の指揮官に招聘されることになった旨を淡々と報告してくる。うーんこれは襲撃があったことで「新たな派閥」が炙り出されて粛清されたからなのか、あるいは艦隊の審議会にもスージェンが手を回して「ままごとに過ぎない」彼らの派閥争いを一時的に収束させたのか、どちらにしてもマヒルは彼女が「普通なら参加申請が通らないはずの合同作戦に参加できるようになること」について「とっくに予想していた」みたいだし、なんやかんやとあって結局自分が作戦の指揮官になることも「事態は依然として予想通りに進展している」認識なのだね。これスージェンはマヒルとも個人的に接触してる可能性ある? (疑

リアムが言うには艦隊は「ただし指揮官にはDAAとハンター協会の干渉を受けずコードネーム『ヒートデス』の任務を完遂すること」を条件にしているそうなのだが、なんなんだろうヒートデスの任務って。マヒルはそれを聞いて「こちら側の譲歩が艦隊の予想する最低ラインのすぐ上で見事に合致した」と感じているようだけど、すると艦隊の審議会にもチップがトンネルの向こうから何者かに乗っ取られていることに気付いてる人間がいるってことなのかな? コードネーム「ヒートデス」とはその干渉元である何者かを秘密裏にヒートデスさせる極秘任務、みたいな?

ここで彼女が「緊急の人道支援」を施したという「昨夜の奇襲でふたつに割られてしまったサボテン」がテーブルの上で今は「ふたつの湯呑みに移植されている」というのも何か言いたげだよね。元は暮らしや生活の象徴として同じ鉢に植えられていたはずのひとつのサボテン。彼女は第九調査署を信用してはいないけどその情報網を利用してマヒルの見ている真実へ近付くため、マヒルは艦隊を信用してはいないけど合同作戦の指揮権とヒートデスの任務を利用してチップの干渉元へ近付くため、分岐したふたりの航路は今はそれぞれ別の器に植え替えられ自分の目で自分の求める真実を確かめに行く者同士になったけど、やってることは完全に同じでいずれは合流することになる「偏向航路」だってこと? (いいえ

連合指揮センター

合同作戦はEvol管理連盟の統括のもとめちゃくちゃお役所仕事的な形式ばった雰囲気で始動する。作戦の背景については遠空艦隊が「中枢エリア第三象限内部」でエーテルコアを探知したが磁場波動の影響を受けキーラン艦隊は壊滅、組織が単独で処置できる水準を超えているとの判断で、ここ10年において初めて外部へ向けて合同作戦の申請を発起したものと概要説明があり、各組織の作戦参加人員には指定された時間に「連合指揮センター」にて身元確認や作戦配備の把握を済ませておくようにと事前通達が届く。

そうして最初の打ち合わせ会場に到着したDAAメンバーは、正式文書を読み上げるばかりの名目的な任務ブリーフィングを受けながらまるで校長先生の長いお話を聞かされている高校生のようなゆるんだ態度であるが、いざ「作戦連合指揮官」として遠空艦隊執艦官マヒルが会議ホールの中央へ現れると一瞬で空気は凍りつき、彼がごく事務的に身分を名乗り外部人員へ向けて「遠空艦隊が全権を引き継ぐことに対する同意書」なるものに署名を求め「合同訓練プラン」について詳細を述べる間も「昼間に幽霊を見たかのような衝撃」の中でただ唖然とし、会議が終わっても依然として「酸欠になりそうな静寂」に包まれていた。

カイトは居た堪れなくなってついに「嵐のような質間を迎え撃つ覚悟」を決め事の顛末を簡単に説明し始めるけど、ここそれぞれの反応がちゃんと全員違うのとても好きw
ツバサはとにかく個人的な感情が最優先で「生きててよかった」が先にくる。スズはもちろん嬉しい、でもなぜ隠していたの? という戸惑い。カズマは感情より記録や情報と照合し昔のマヒルを信じるべきか今のマヒルの行動を見極めるべきかまだ分からないという慎重な姿勢だね。

三者三様たる彼らの意見が無事「機会を見つけて直接本人に聞いてみよう」で揃う頃、打ち合わせ会場に「協会の空席」を作っていたらしい彼女はどうやら特例辞令の承認が明け方ぎりぎりまで下りなかったことでこうして遅れてやって来ざるを得なかったようで、到着するなり直接「指揮エリア」へ案内されることになるけれど、いよいよ「Evol管理連盟」組織単位で見れば特例辞令なんて「簡単には承認しない立場」ってことだよね。それでもスージェンは何らかの方法でその決定を覆すことができるんや。

エレベーターを待つ間、彼女はふとDAAの愉快な仲間たちから鬼のように不在着信が入っていたことに気が付くが、こちらはこちらで「兄さんは言いがかりで停職処分を喰らうも思いがけない休暇を楽しむことにして今は部屋でサボテンの世話をしているはず」だと思い込んでここに来てるんだもんね。待っていたエレベーターから「指揮官」と呼ばれるその人が降りてきた瞬間こそ驚くも、一言二言やり取りするうちに確かに三日前あの闇の中で固く握り合った手や密接に重なる鼓動まで身近に感じた「無防備な兄さん」を「絶対に手の内を明かさない最高指揮官」へ変えてしまうのにこの期間は充分過ぎるほどだったかも知れない、などと諦めの境地である。

彼女はいっそ最高指揮官に機密事項を尋ねることは辞め、マヒル兄さんに「カイトさんやスズさんたちに会ったのか」と尋ねるも、マヒルは「ああ」と短く返答しながら彼女の予想していたような再会の喜び、懐かしさ、心残り、あるいは少し遅れてくる感慨のような、いかなる感情も感じさせない声と表情で至って冷静に「今回の作戦において彼らは適材と言えるのか」普段の任務を分析する時と同じようにひとりひとりの能力とリスクを機械的に評価してるだけ。

彼女はきっと「ただ彼の後ろに立って何も知らないまま彼が答えをくれるのを待ってるだけではいられない」そして「彼のいる場所へ行き彼が見ている嵐を見たい」と決めてここへ来たからには自分も彼に倣ってそう振る舞うべきだと腹を括ったのだろう。ゆっくりと息を吸い感情を心の底に押し込めてから、なんのことはない自分も今はハンター協会の代表者としてここにいるのだから作戦中はお互い個人的な感情を交えず兄妹ではない普通の同僚として立場をわきまえるべきだと宣言すると、会った時は「兄さん」だったのにもう「同僚」になったのかと心なしか寂しげなマヒルに構うことなく「艦隊が協会の調査権限には干渉しないこと」に同意する書面にサインを求め、自分のことは「特任担当者」と呼んで欲しいと主張する。

マヒルはもちろん指揮官然としてこれを受け入れるけども、なんだろうこれまでの彼のやり方から今回も「彼女があたかも自分で選んでいるように見える範囲を設計し直した」というだけで恐らくすでにあれこれ探りを入れられようとも自分ひとりの犠牲を止められないところまですでに段取りは整え終えているのではないかと疑ってしまうわたしがいるよ(殴

チップの何たるかを理解できた今こういうマヒルは制御プログラム下にある主人格とは異なる意識や判断が表出している状態なんじゃないかと読みたくもなるしそう思わせるような筆致になっているとも感じるが、伝説『陰陽の境』なんか思い返してみると改めて「無防備な兄さん」も「最高指揮官マヒル」もどちらも彼の本当の姿なのだろうと個人的には感じてしまうかな。彼女を守るため自己犠牲のためには闇の中で光であることを隠し必要な時だけ刃のように朝日を抜く「夜の果て」を装うことができる、それがマヒルの本来なんじゃないかと。

合同訓練

各組織の作戦参加人員は深空トンネルに入る前に全員が一週間の「合同訓練」に参加する必要がある。訓練内容には深空ナビゲーション・編隊連携・トンネル内部特殊環境に慣れるための適応訓練などが含まれており、パイロット任務に就かない彼女には艦艇の操縦訓練こそ必須ではないものの「多くを知っておいて損はない」と思い立ち操縦訓練エリアへも足を運んでみることに。

見慣れた顔ぶれと合流した彼女は、恐らく「機会を見つけて直接本人に聞いてみよう」を決行した結果「かつての同級生」ではなく「最高指揮官」たるマヒルに返り討ちにされたであろう彼らが「あいつが艦隊の制服を着た途端まさか身内にまで容赦なくなるだなんて思っていなかった」などとやるせなさに打ち震えているところへ「私はもう慣れちゃいました」なんて泰然自若とした返答。こうなるとやはりカイトが誰よりも愛憎半ばする怒りと傷心とを包み隠すことなく感情的になるのだね。

訓練場にはシミュレーター艦が数十台と並んでおり、操縦席には複雑な操作パネルが存在しない代わりに「艦載共鳴システム」という神経ポートに接続するための銀色のリングバンドがあるのだというが、確かに『焦土の上』にて艦隊の戦艦とは操縦者が「神経」を接続して機体の損傷や空間変化を感覚として受け取りながら動かす決してDAA戦闘機のような普通の乗り物ではないことがすでに明かされていたね。艦載共鳴システムとはリングバンドからパイロットの意図を読み取りそれを航行パラメータに変換する仕組みなのだそう。記憶が定かでないが本編4部2章モリトが腕に巻いてたのってあれ「銀色のリングバンド」だったっけ? 関係ない? (錯乱

訓練責任者マヒルは特に彼らに視線を留めることもなく、率先してコックピットに入るも接続が始まるとまるで「頭蓋骨の中を何かが暴れ回っている」かのような感覚に苦悶しハッチが開いた瞬間よろめきながら外に出て荒い息を吐くカイトには「同期率31%」「精神フィードバックに遅延発生」「データ上は不合格」の考課。艦隊の士官たちは「DAAの連中は名ばかりだ」などと嘲笑するが、カイトは自分たちDAAが訓練しているのは「人間の意図をどれだけ正確にシステムと同期させるか」ではない、それらが全て頼れなくなったときにパイロット自身が最適解を導き出し決断する「人間自身の判断力」であると反論。

そして「揃いも揃って上から下まで判で押したようにそっくり誰かに多額の借金でも踏み倒されたみたいな仏頂面をしている」その人たちへ「もしも君たちが無敵になれると言うあのチップに不具合が起きたらその時は何を頼るんだ」とカイトは啖呵を切るが、マヒルはただ冷静に「その時はオレの指揮に従えばいい」とこれをばっさり。合同作戦におけるあらゆる規則には存在する理由があり、従えないなら「辞退しろ」なんぞ辛辣な苦言を呈するが、「深空トンネルで死ぬよりはマシ」だなんて言い添えているあたりきっと彼らを危険な目に遭わせたくない方が本音なのだろうね。

オレの指揮に従えばいいという主張も一見「個々の判断を統合しひとつの巨大なシステムとして動く」艦隊側の思想を代表した暴論のようで実は「最後に頼るのは人間の判断力」というDAA側の思想の肯定にもなっている。本当に染まり切った艦隊の人間ならここで「チップには不具合なんて起こらない」という主張になると思うよ。なんなら彼は今チップに不具合が起こる事態に直面しているし、システムを信頼するよう人間を訓練し過ぎた結果そのシステムを失った人間自身には判断能力が残されていないことも知っている、一方で深空トンネル内部という異常な環境下ではシステムを頼らなければ生き残れないこともよく知っているってことなのだろう。目視物標喪失のくだりで「そういうときは自分の直感を捨ててシステムが提供する参照物を全て信じないといけない」と彼女に教えたのもそういう意図だったのかも知れないね。

マヒルが執艦官としてこれだけトンネルを飛んでいるのにチップの侵蝕を受けにくいのはかつてDAAパイロットとして長く鍛えてきた人間主体の判断様式が身体に染みついているからなんじゃないかとちょっと思った。たぶんこの中でマヒルだけが「未知の状況では人間が自分で考える能力を捨ててはいけない」という正しさと「深空で各人が独断すれば艦隊が全滅することになる」という正しさを対立させるのではなく両立させてるし、もしもトンネルの向こうから何か未知なる知性が侵入してくるなら「ひとりひとりが判断可能な独立ノード」よりも「全員を同期させる巨大ネットワーク」の方が圧倒的に危険であることも今まさに痛感してるはず。

『オレの妹』

初日の訓練を終えベッドでひとり休んでいた彼女は、個室を訪ねてきたマヒルが昼間の「訓練責任者」から今はすっかり「兄さん」の顔になり、まだ完治していないまぶたの傷を心配して冷却シートを当ててくれる気遣いに少しだけ安堵するけれど、お前は「協力すべきでない相手」と協力しているし目的がエーテルコアならあれは存在しないダミーでありお前が危険を冒す価値はない、などと忠告されたことでマヒルはまた自分の身辺を調べ上げ第九調査署に辿り着き「彼のいる場所へ行き彼が見ている嵐を見たい」自分にそれをさせまいと裏で動いているのか、と抑えていた感情が込み上げてきて、あなたの最大の問題はいつも自分がなんでも知ってると思うこと、なんでも自分の手でコントロールしようとすること、私がここへ来たのはエーテルコアのためなんかじゃないと反論したくなる。これ返答が選択肢になってるのめちゃくちゃニクイよねぇ。

こうなったら今ほんの少しだけ垣間見せてくれているマヒルの深層部へ届くよう切実な想いをありのまま訴え感情で殴るべきなのか、むしろ徹底的に特任担当者に徹してあなたを出し抜いてやろうと思ってるくらいの気概を見せるべきなのか、どちらがマヒルの心を揺さぶれるだろうかとこの画面のまま1分は悩んだわ←

マヒルがあまりに険しい顔で律儀に返答を待っているので結局「あなたのため」を選んでしまったんだけど、もし「兄」という立場がお前の判断を鈍らせるなら作戦中はオレを「上官」としてだけ見てろ、という彼の反応に、もちろんどちらを選んでも同じ流れになるのだろうことは理解していながらも、くそー余計に頑なにさせてしまったかと本気で後悔したりして。いやわたし今めちゃめちゃ恋愛シミュレーションしているやんと思わず自覚した瞬間だったw

そうして彼が部屋を去ったあと、彼女は昔のマヒルを夢に見ては目覚めを一晩中繰り返していた。夢は絆『驟雨の章』にて解説のあった「近所のガキ大将から守るため幼い彼女をマヒルがうっかり屋根裏部屋に閉じ込めてしまった」その同じ出来事になるのかな? 外で雷が鳴り、彼女が部屋で泣き叫んでいると、彼は慌てふためいて鍵をこじ開けようとあれこれ試みながら「10数えて」「いや100秒」なんて必死に呼びかけ続けるけど、実は細いドアの隙間から彼の焦った顔が見えてから彼女はもうすっかり安心し切っていて、汗だくのマヒルが飛び込んできたときには床の上で丸くなり眠っていたと。

それから彼女はたびたびその屋根裏でマヒルの秘密を発見し、『オレの妹』と題して綴られた作文がたった3点の評価を付けられていることに気が付いて「私の悪口を書いたんだ」と詰め寄るが、むしろ「お前を褒めることばかり書かれている」から見せたくないと少年マヒル。

こんな夢ばかり見るのはまるでマヒルの欠点や過去を想像することでかつての彼と今の彼が確かにまだ繋がっていると自分に言い聞かせているみたいだと彼女は思い至るけど、とは言えそれらが本当に今も彼と自分を繋ぐものになり得るのか、だとしてもそれはまだ見えないどこかに残されているのかとうの昔に消え去ってしまったのかさえ分からない、と何もない天井を見つめ夜をやり過ごしてる。

大丈夫まだ全部残ってるよ。特に『オレの妹』に込められた感情はチップの制御プログラムさえ及ばないところに彼が隠してるはずなんで、確かめたいときはぜひ「どんな気持ちで書いたのか」尋ねてみてね。兄ちゃんではなく男マヒルとしてはぐらかさず真剣に正確に答えることができたら恐らくそれが彼の主人格です(だまれよ

交差する航路

そして出航の時、深空トンネル入口は「縁は幽玄な青い光を放ち両側に探測ブイが内側に向かって並んでいる」っていうんだけど、なんかさ『天空の城ラピュタ』の「竜の巣の中」みたいだね(ちがう

何やら主艦の腹部からDAAの操縦する高速偵察機が射出され編隊を展開し終えると、マヒルが航路をロックし30秒のカウントダウンで一斉にその暗闇の中へ急進、するとトンネル内部とはどうやらローズピンクと薄紫の混ざり合う幻想的な星雲であったり超新星爆発の現場、さらには死にゆく恒星に至るまで幻なのか現実なのか見分けがつかないような無数の光景が目の前に浮かび上がっては消えていくような空間になっている。

カズマはそれらが「本来存在するはずのない光景」でありながら過去の飛行物の残像なのか異なる宇宙が一時的に重なる現象なのか誰にも証明できないなんてことを解説してくれるけど、なんと窓の外にはまるで幽霊のように現れた小さな宇宙船が並走しており操縦席には「黒いメカスーツを着た体格差のあるふたりのパイロットの姿」が見て取れると言うのよね。つまり『デコヒーレンス』さえ「コヒーレント」になっているまさにその瞬間ってこと…? (混乱
小さな宇宙船の幻影は程なく進路を変え再び暗間の中へ消えてしまうけど、機体が戦艦と航路を交差させた瞬間彼女は胸の奥に「見知らぬ存在ではない何か」と視線を交わしたかのような不思議な感覚を覚えてる。

その直後「異常なエネルギー領域」に接触すると機体は暗闇の中で激しく反転し、上下左右が崩れ、重力方向が変化し、無事離脱した後もしばらく平衡感覚が戻らないどころか心臓は恐怖で高鳴り続けていると言うが、まず深空トンネルそのものが人間主体の航行を壊す環境になっているのだね。そこへ巨大な怪物が音もなく姿を現せばさらに精神へ直接ノイズが侵入してくるようになる。泣き声、笑い声、幼少期の記憶、死者の声、これらは情報妨害ではなく判断主体そのものへの攻撃と言える。

人間の自律性を最後まで保持する訓練を積んできたカイトでさえ、そうして認知機能を破壊され偽の記憶や恐怖や幻覚を流し込まれれば思わず操縦桿から手を離し、耳を塞ぎ、航路を外れ、制御不能な状態でワンダラーの中心へと滑り込んでいってしまうけど、ここでいよいよ遠空艦隊の神経接続型航行が「なぜ必要なのか」物語が改めて実戦で見せてくれる展開に。

遠空艦隊の真価は全体の連携にあるとマヒルは言っていたけども、編隊を「精神波源の排除」に構え直した艦隊は、まるで全体が最初から答えを知っていたかのように、同じ機械の中で精密に噛み合う歯車のように、寸分違わず指揮官の判断に統合されていると見えるけど、恐らくこれが「主脳」の意味するところなのだろうと思う。

今ストはそうして「精神波源の排除」を完遂し「硝煙が晴れ戦闘は終わった」という文言で締め括られているけれど、その流れでもう一度「戦闘」を改めて実演する並びは敢えてだったのかな? いや終わったって言ったやんと駄々こねたくなってしまったがw

後編は「宇宙、応答なし」なんてなんとも不穏なタイトルで「チューリングチップの秘密を解き明かす」んだそうです。もう充分解き明かされたと感じていたが何やらまだ秘密があるらしい…

扉絵をちらり確認してみた結果、全然「竜の巣の中」みたいではなかったね(殴

読了後ひっそりと更新された深空情報によると、ミズエちゃんは「謎の女性の導き」で「マヒルが」避難所に送ってたんだって。なんだ普通に接触あるんじゃん。しかも避難所はふたりが過ごした同じ避難所の「移転後」だったんだ。すると所長は今もシェインだったりするのかなぁ。

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